第2話 魔族の姉妹2
僕は人間じゃない。確かに見かけは人間っぽいけど、それだけだ。
「ほ、ほらっ! これ見てくださいよ! 人間ってこんなことできないでしょ?」
僕は指を伸ばし、そこから小型の銃弾を発射する。
『出た! 指マシンガン!』
『五本の指から発射されるマシンガン! 威力は高いけど弾数が5倍早く減るぞ!』
『うぉおお、岩が穴だらけだ』
発射された弾丸が凄い勢いで僕を捕まえていた岩を削っていく。
流石にこれなら人間扱いなんて……
「な、なんという魔法! 人間様はただの人間ではなく賢者様だったのですね!」
駄目みたいですね。
「そ、それなら次はこれです!」
背中から強力なガスを噴射。その結果、僕の身体は空中に浮き上がる。
『出たな! ジェットパック!』
『これは流石に人間にはできんだろ!』
『さて女性の反応は……』
「まぁ空まで! 賢者どころか大賢者様だったのですね!」
駄目みたいですね。
『くそぅ、魔法が手強い……』
『流石ファンタジー空間やな……』
『いや、むしろ、魔法と比べられるナナちゃんの科学力が凄いのでは?』
『十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』
『ナナちゃんところの科学だけ発展しすぎなのよ!』
それは否定しない……が、今はその話じゃない。
「ともかく、立ってください。このままだと話がしづらいですから!」
それに気まずい。なんで助けてくれた人に土下座なんてされてるんだ。
「は、はい。失礼します。ほら、イクも」
「う、うん」
促すとようやく顔を上げてくれた。
これでようやく2人の顔をちゃんと見れた。
『おおっ! 美人さんと可愛い子!』
『こうして見ると牛娘もいいなぁ……』
『お姉さんの身体がえっち過ぎる件について』
どこをどう見てそう言ったのかな? 顔じゃないよね? どう考えてもとある女性的な特徴について今言及したよね?
いや、目がいっちゃう気持ちはわかるけど。そう、顔が見えたということはその体も目に入るわけで……
いやいや、そうじゃなくて……そうだ……
「自己紹介! 僕はナナです! ただの旅人です!」
しっかり宣言だよ。少なくともさっきみたいな反応は御免被る。
「承知いたしました。人間様。私はミヨと申します。そしてこの子は私の妹のイクです」
「イクです」
お姉さんっぽい方がミヨさんで、妹っぽい子がイクちゃんか。
って、全然わかってない!
「いいですね! 僕は人間じゃない! はい、リピートアフターミー! ナナは人間じゃない! はい!」
「「ナナ様は人間じゃない」」
「もう一回! ナナは人間じゃない!」
「「ナナ様は人間じゃない」」
傍から見ると何やっているんだろうと思われても仕方ないけど、これ大事なんだよ!
『ナナくんのアイデンティティだもんね』
そういうこと!
というわけで、2人に教育……もとい、わかってもらったところで、改めて話をすることに。
「この世界ってどういうところなんですか?」
「世界……と言いますと?」
「あー、そっか難しいですよね……」
世界がどうこうとかは比べて初めて分かるやつか。ちょっと単刀直入すぎたね。もうちょっとゆっくり聞いていこう。
「えっと、ミヨさんとイクちゃんは普段はどんな生活をしているんですか?」
「普段……ですか? えっと、村でイクと一緒に暮らしていますが」
「村があるんですね?」
「はい、ここからほど遠くない場所です」
ほうほう……
「そのあたりはミヨさんやイクちゃんみたいな人が暮らしているんですか?」
「人もいますが、我々みたいなカウが多くいますね」
「カウ?」
「我々の種族のことです」
牛娘さんのことをカウって呼ぶ感じか。
「人とは違う感じなんですね?」
「そうですね、我々カウは人間様に守られて日々を生きさせていただいています」
なるほど……この世界ではカウは人間に保護されているのか。それでさっきみたいな反応になったわけね。
『それにしてはちょっと過剰な反応だった気もするね』
『まるで王様や神様にでも会ったみたいな反応だったよね』
『村の守護神みたいな感じなのかな?』
そうかもね。もしくは……いや、変な想像はやめておこう。
「えっと、あ、そうだ。さっき魔法って言ってましたけど、魔法が使えるんですか?」
「いえ、我々カウは使えませんね。魔法を使えるのは人間様だけです」
なるほど、僕が見せたのは逆に人間に近いことを証明しちゃうだけだったのか。
「えっとあとは……」
その他にも色々と聞いて、2人の生活の様子をなんとなく掴めた。
要するに2人は牧歌的な村で暮らしていて、そこの村長を人間がやっているって感じみたい。
「その村に案内してもらってもいいですか?」
「はい。いいですよ?」
「それじゃあお願いします」
あとは実際に見てみないとわからないね。
「こちらが我々の村、第六村になります」
村は本当にすぐ近くにあった。
柵に囲まれた敷地の中に、木で立てられた家が何件もある。
『ザ、ファンタジーの村って感じね』
『あー、こういう牧歌的な雰囲気の村好きだわぁ』
『第六村?』
のどかな感じで悪くないね。
「えっと、まずは人間様のところにご挨拶をしに行かなければですよね」
「はい、お願いします」
ミヨさんの案内で、村にある中でも一際大きな家へ向かう。
「……ん?」
何か視線を感じてちらっとそちらを見ると、
「ジー……」
イクちゃんがこっちを見ていた。
「えっと……」
「……っ!」
声をかけようとしたらミヨさんの影に隠れてしまった。
『あら、可愛い』
『人見知りなのかな?』
『でも、気になるのかチラチラしてるね』
『わかる。興味はあるけど、けど……って感じだね』
まぁ、話を聞いた限りだと人間が珍しいみたいだからね。僕は人間じゃないけど。
この子とも仲良くなれたらいいなぁ。
「こちらになります。人間様、いらっしゃいますか」
たどり着いた家をノックする。
「なんだ? ミヨか? 何が……おっと、そちらは……」
出てきたのはちょっと小太りの人が良さそうな男性だった。
「これはこれはお客様ですかな?」
僕を確認するや否や柔和な笑顔で僕を迎えてくれた。
『おう、どんなのかと思ったら普通に優しそうで草』
『人間様呼びだったから、てっきり虐待みたいな扱いなのかと思って内心ドキドキしてたわ』
『それな、今回は暗い話にならなそうで良かったわ』
視聴者さんたちも僕と同じ不安を抱えていたみたいだ。
「突然すみません。僕はナナ。旅人です」
「それはそれは。こんなところまではるばるお越しくださって、大変だったでしょう。ささ、お入りください。あ、ミヨ、イクもありがとうな」
「いえ、とんでもございません。お役に立てたようで何よりです」
あっ、ここで2人とはさよならなのかな?
「……ミヨ姉」
去っていこうとするミヨさんだったけど、それをイクちゃんが呼び止めた。
「……一緒……駄目?」
なんとイクちゃんがまだ僕と一緒にいたいと!?
「まぁ、そんなの人間様の迷惑に……」
「ははっ、かまわんよ。そうだ、今日は一緒に夕食を食べようか」
「まぁ、いいのですか!」
「かまわんよ。ちょうど2人の成長具合も見たかったところだしな」
「ありがとうございます。ほら、イクも」
「人間様。ありがとうございます!」
「ははっ、元気で何よりだ。おっと、お客人もおまたせしましたな。どうぞこちらへ」
良かった。まだ一緒にいれるみたいだ。今回は2人を観察対象にしたから、できる限り一緒にいたいんだよね。
「ほう、それでお客人を助けたのか。よくやったな」
「うん!」
家に迎え入れられて程なくして夕食をいただくことに。
ミヨさんがキッチンへ行き夕食を作っている間に、さっきの話をすることになった。
イクちゃんが撫でられて嬉しそうにしている。
『ほんと優しい人間だなぁ』
『ね、なんか娘を扱う親みたいな感じだね』
ほんと仲が良さそうでほっこりするよ。
「夕食ができました」
「ほう、今日はミルクのシチューか」
「はい。精一杯出させていただきました」
出されたのは何やら肉と野菜が入ったシチュー。牛乳の香りがして美味しそうだ。
「うむ、悪くない。ふむ、これはそろそろ……かなぁ、おっとお客人もどうぞ」
「……はい。失礼します」
僕もそれを口に運ぶ。
「美味しいですね」
とりあえず、それっぽいことを言っておく。
「この村では新鮮なミルクが自慢ですからね。そう言ってもらえて嬉しいです」
「お出しした甲斐がありましたわ」
うん、思っていたよりはまともそうな食事だ。
この手の世界だし、正直もっと酷いものを想像してた。
「そうだ、今日はこちらの2階へ泊まってください。ご遠慮なく」
まさかの泊まる場所まで貸してくれることに。
野宿よりはちゃんとした屋根の下なのは凄いありがたい。
「ほんといい村だなぁ」
1人ベットに横になって呟く。
『ねっ、久しぶりにまともそうな世界だ』
『今までもまともだったやろがい!』
『最近はスライムしかいない世界とか滅びた後の世界とかそういうのばっかりだったから……』
『普通のファンタジー世界って感じよね』
うん、そんな感じ。
『人も良さそうだし、特にトラブルとかも起きずに過ごせそうね』
「だね。あ、でも……」
ちょっと気になっていることが1つだけ。
夕食を食べた時のあの人間が言った言葉……
「ふむ、これはそろそろ出荷かなぁ」
その言葉がずっと引っかかっていた。
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