第1話 魔族の姉妹1
「どうも! ナナです! 今日も異世界配信やってくよ!」
えっ? 唐突すぎて、説明がないって? そんなのは概要欄でも読めばいいんだよ。
『ナナちゃんキタコレ!』
『ナナくんやぞ!』
『こんな可愛い子が女の子なわけないだろ! いい加減にしろ!』
『何年前のネタだよwww』
『い、異世界配信!?』
『異世界という建前のVRMMOねw』
いや、ほんとに異世界なんだけど、それはいいや。
「今日はコテコテのファンタジー世界に転移して来てるよ」
うちの博士曰く、剣と魔法のファンタジー。まぁ、魔法なんぞ吾輩の技術に比べれば子どものおもちゃも同然だがな! って言ってたけど。
まぁ、中世ファンタジーと科学の発展した僕の世界比べちゃ駄目だよね。
『ファンタジーかぁ、定番だね』
『硬い肉と糞みたいなスープしかない世界で食無双をするのだ!』
『それよりも魔力無限で俺つえーしたほうが楽しい』
『ここはやっぱりスローライフでしょ』
うんうん、やっぱりファンタジーで冒険は憧れだよね。僕も子どもの頃は憧れたものだよ。今も子供だけどね。2歳未満だし。
『ところで、ナナちゃんの放送画面に触れたほうがいいのでは?』
あ、やっぱり皆からはちゃんと見えてるわけね。
どうにかならないかと勢いで誤魔化してたんだけど、なんか流石に無理そうなんだよね。
「えー、はい。今の僕の状況を端的に説明しますとですね。視界が真っ暗なんですよ、そして身体がなんかに固定されているっていう」
唯一、なんかお尻だけがちょっとだけ動く。
ひょっとしてこれは伝説の状況なのでは?
『えー、ナナちゃん、カメラから見えるあなたの状況を端的に説明しましょう』
『ナナちゃんは今……石の中にいます!』
『正確にはお尻だけが岩の中から出ている状態』
『それってぇ! つまりぃ!』
『壁尻ならぬ岩尻ってこと!?』
『まずいですよ! この配信は全年齢向けです!』
『ついでに言うと、ナナちゃんが何を言ってるかめちゃくちゃ聞き取りづらいw』
転移してきて壁の中にいるってのは定番ではあるけど、こういう感覚なんだね。これはこれで新鮮かも。
でも、放送的にはまずいよね。色々な意味で。まぁ、アカウントBANとかはないけれどさ。
『ナナちゃん、むしろそれで何で生きてるんだ?』
『普通は呼吸できんくならね?』
『そりゃ、ナナちゃんは完全無敵の超絶公式美少女アンドロイドだからさ!』
『公式美少女アンドロイド!?』
『まぁ、美少女なことは認める』
『美少年だぞ!』
『つ、つまりTSってこと!?』
説明ありがとう。僕がこの状況じゃなかったら今頃むせび泣いて感謝してるよ。
それでこの状況どうしたもんかなぁ。なんか、もう、どうにもならない感じがしてるんだけど。
「しょうがない、こうなったら必殺を……」
『つ、使うのか今アレを!』
『そ、そんなアレを使ったらこの世界が……!』
『誇張とかじゃなくて、一つの星くらいはぶっ壊してるからなw』
『ありがとう世界。さようなら世界』
『伝説の破壊神ナナちゃん再来か!』
いや、僕だって世界を滅ぼしたくなんかないんだよ? でも、こう望まれたらやらざるを得ないよね? 配信者として。
「それじゃあ……!」
『待って! 誰か来たぞ!』
「えっ?」
えーと、サーチ機能を起動っと……おっ? ほんとだ。熱源反応が近づいてきてる。
人間にしてはちょっと温度が高めなのが2つ?
一応形は人ではあるけど……いや、やっぱりちょっと変?
『女の子……が2人?』
『あれは女の子なのか?』
『あれ服じゃないよね? 肌?』
『おーっ! こういう感じで来たか!』
ちょっと視聴者さん、情報はもっと詳細にって小学校で習わなかった!?
こうしている間にも謎の人は僕の直ぐ側まで来て、僕のお尻を見て立ち止まった。
「~~~~~!?」
「~~~~~~!」
なんか言ってるっぽいけど、言語が全くわからない。
と、とりあえず……言語学習システムと自動翻訳システムを起動して……
「うわっ!」
なんか触られた!? お尻触られたんだけど!?
これ僕がTSじゃなかったらセクハラで訴えられるレベルだよ!? いや、今僕は女の子なんだしそれはそれでやっぱりアウトか!?
「お姉ちゃん!? なんか喋ったよ!?」
「あらあら」
学習と翻訳システムはちゃんと動いているっぽい!
だったら話は早い。
「あのー、そこに誰かいるんですか!? すみませんけどハマってしまったみたいで、抜けるのを手伝ってほしいんですけど」
さっきの声からすると女の子2人組かな? 助けてくれるかな?
「ハマった!? なんでまた!?」
「あらあら、それでは引っ張ったら良いですかね?」
元気そうな女の子とおっとりした感じの大人の女性って感じ。
「はい、思いっきり引っ張っていただければ抜けられると思います」
感覚的にはちょっとパワーが足りない感じなので少しでも動けばいけるはず。
「それではー、ちょっと失礼しますねー」
「あたしもやるよ!」
お尻に感じる手の感触。手にしては指が少ない気がするけど、それは今は置いておく。
「それじゃあ、イク。せーのでいくわよー」
「うん、ミヨ姉! せーの!」
お尻を引っ張られる感触。
「痛っ! くはないんだった!」
僕、感覚ないもんね! それよりもちょっとでも抜けやすいようにお尻を振って……
『動きエロ!』
『ふぅ……』
『今日のおかずありがとうございます!』
『お前らナナくんは男の子やぞ!』
『こんな可愛い男の子がいるわけないだろ!』
そんなこと言われたら配信でどんなの映ってるか気になる! いや、でもちょっと動いたぞ!
「ぬぅうううううう! うっ!」
元々固定されていたってわけじゃなくて、僕の身体と岩が重なった部分がキレイになくなっただけだったから、ちょっとでも動いたことでするすると岩の中から抜けていく。
「きゃっ!」
「わわっ!」
「ぷはっ! 抜けた!」
お尻に感じる地面の感触。ああ、地面って素晴らしい。
それから空を見上げると、青い空に大きな星が2つ浮かんでいた。紛れもなく異世界だ。
「えっ?」
「あら!?」
おっとこうしている場合じゃない。助けてくれた子たちにお礼を……
「に、人間様!?」
「これは失礼いたしました」
「……はぁ?」
助けてくれた女の子……で合ってるんだよね? 2人が僕の前に跪いていた。おかげで顔がみえないんだけど?
それでもわかる、この2人は僕の知っている人間ではない。たしかに、形こそ人の形をしているけど、それだけだ。
まず、肌の色。白い。これは肌が白いとかいう意味じゃなくて本当に真っ白だ。それにところどころ黒が混じっている。パンダとか牛とか言えば通じるかな?
それに耳が人のそれじゃない。やわらかそうな長い耳が横から出ている。
ただ、顔は人のそれだから割と頭がバグりそうになる。
『うーん、これはホルスタイン娘?』
『ホルスタインにしては胸がなさそうだが?』
『まだ子供っぽいからこれからでは?』
『牛娘だ!』
そっか、全体的に牛っぽいのか。牛の女の子で牛娘。なるほど。
そんな2人が今、なぜか僕の前で跪いている。土下座状態って言ってもいい。
「あっ、あの。助けてくれてありがとうございます。顔を上げてください」
むしろ助けてくれてありがとうって土下座するのは僕のほうじゃない!?
「いえ、しかし、わかっていなかったとはいえ、人間様に失礼な口を……」
失礼な口? どこが?
いや、それ以前に……
「僕は人間じゃないですから!」
前提が間違ってるんだよ!
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