その美少女アンドロイドは転移装置で移動した異世界でやりたい放題の愉悦配信をする
猫月九日
第0話 【雑談】ナナの過去
「これはもう廃棄だな」
かすかに聞こえる声に身体がピクリと反応した。
いや、反応した気がした、というのが正解か。
僕はもう身体の感覚がない。
手も足も体も顔も、僕の脳は僕の身体からの信号をもうほとんど感じ取ってくれない。
ひょっとしたら、もうとっくになくなっているのかもしれない。
「この実験体もついに廃棄か。随分と保ったな」
「10年だったか? 俺だったら耐えられねぇな」
「生命維持装置があるとはいえ、多少の意識が残ってるのがやべぇよな」
「ああ、でも反応も薄くなってきたしな。上の判断も納得だぜ」
「生命維持装置を外したら即死とか勘弁してくれよ?」
「ははっ、もう死んでるようなもんだろ」
死んで……
「うん? 今動いたか?」
「気の所為だろ、さて、さっさと捨てて仕事戻ろうぜ」
「ああ、さっさと戻らねぇとボスがうるせえしな」
「おっと、通信だ。はい……はい……今、7号を廃棄したところで……はい。今戻ります」
7号というのがここでの僕の名前だ。もちろん、本当の名前じゃない。元の名前は……なんだっけ……
もう記憶も曖昧になっている。
幸せだったはずの10年前の記憶も遥か遠くの出来事みたいで。
どうしてこんなことになったのか、この10年という日々は地獄のようで、何度も自殺を考えた。
けれど……
『生きて……』
「おお! これはこれは! 久しぶりに当たりを見つけたぞ」
声がした。
「身体としての状態はあまり良くはないか? しかし、脳さえ残っていればまだ使い所はあるというもの」
女の子の声だ。研究所には女の子なんかいなかったからきっと外の人かな?
ああ、そうか。僕は捨てられたんだっけ。夢にまでみた研究所の外に出たのに身体が全く動かない。
「さて、何の実験に……おや? おやおや?」
あっ……
「ひょっとしてまだ生きているのかい?」
生きて……そう、僕はまだ生きている。
「ははっ! おもしろい! こんな状態になって、まだ生きているだなんて!」
珍しいものを見たというように高笑いをする。
「さて、生きているとわかれば、話は別だ。君に選択肢をあげよう」
選択肢……?
「そう、気になるよね? 気になるだろ? その選択肢とはだ……1、生きたまま実験体になるか、2、死んで実験体になるかだ!」
実験体……
「どうする? 選ぶのは君だぞ」
実験体ってことは、生きていたとしても、きっとこれまでと同じような日々。
地獄のような、生きているだけで罪を感じてしまうような、そんな日々。
そんな日々に価値はきっとない。
「答えは……そうか。もう手も足もないんだったな。じゃあ、答えは、1がまばたき2回、2がまばたき4回だ」
まぶたは……多分ある。感触はないし、もう何も見えないけど。
「さぁ、答えを聞かせてくれ。吾輩からのおすすめは2だぞ」
僕は悩むことなく答えを出すことができた。
「ふむふむ……なんと、本当にそれでいいのか?」
僕は生きる。
「本当にいいのかな? どんな実験になるかも言っていない、どこの誰かもわからないそんな人間にその身を委ねて」
構わない。実験体ならこの10年間の日々と何も変わらない。
そんなことよりも。
「そうかそうか。君はそんなに生きていたいのか」
僕は生きたい。生きる必要がある。生きていなきゃいけない。
『生きて……』
それは誰の言葉だったろうか、その言葉は呪いのように僕を縛り付けている。
「そうか! では君は今から吾輩の実験体だ!」
そうして僕は生きることを選んだ。
「成功する確率は10%もある! 10回に1回は成功する確率だぞ!」
なんて高いなんてことは思わない。でも、即死よりはマシだ。
「何? 実験の内容が気になるって? ふむ、では教えてあげようではないか!」
これは全ての始まり。
「人間を異世界へ転送する装置の実験だよ!」
これは、僕があらゆる世界を巡る。そんな物語。
「ってのが僕の始まりかなぁ」
『いきなりエグいって……』
『気軽にナナちゃんの設定ってどうなってるの? って聞いた俺氏、真顔になる』
『実験体で捨てられたのにまた実験体になったってどうなってるのさ?』
『過去設定はわかったけど、どうしてこんな明るい配信してるの?』
「いや、もう正直記憶も曖昧だしね。なんか博士いわく、データとしては残ってるけど、思い出したくないんだろうってさ」
まぁ、今の僕としてもそういうことがあったって事実だけわかってればいいしね。
「まぁ、大事なのは僕がそういう経緯で人間じゃなくなったってことかな」
あの頃の僕のデータを受け継いだだけのアンドロイドって方が正しいかも?
でも、大丈夫。意思はちゃんと続いてるから。
「それに僕は今を生きてるからね」
『エモいこと言ってるけど、背景とんでもないことになってるな』
『あかん毒ガスで皆倒れてる』
『阿鼻叫喚なんですが?』
『コロニー破壊するのは楽しいですか?』
「うん。めっちゃ楽しいよ!」
罪悪感? ないよ?
だってこの異世界が滅ぼうと僕にとってはなんの関係もないんだから。
「皆も気軽にコロニー破壊しようよ!」
『それができるのナナちゃんだけだって……』
あー、アンドロイドとして生まれ変わってよかったぁ!
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