第3話 シカムドゥチ
翌月の前に配られる給食の献立表。
楽しみしていたボクは、献立表を家の冷蔵庫に貼って固まっていた。
シカムドゥチ
ヌンクーグヮー
クーブイリチー
タンナファクルー
フータシヤー
ウムニー
チデークニーンブシー
タマナーチャンプルー
クファジューシー
etc……
ご飯とパンと牛乳以外が見たこともない横文字が並んでいる。
いったいボクは何を食べさせられるんだ?
翌日、悪友となりつつある二人に料理名? をメモした紙を手に質問した。
「イナムドゥチなら知ってるけどシカムドゥチは知らん」
他にはクーブイリチー、タンナファクルー、タマナーチャンプルーはわかるが、他は知らないという。
まず、クーブイリチーの「クーブ」は昆布で、「イリチー」は炒めた後に豚出汁や、鰹出汁を入れ、出汁の旨味を煮含めて行く料理のこと。ということで昆布の炒め煮なのだそうだ。豚肉と昆布、こんにゃくが入っているのは知っているが味付けとかはあまり考えたことがないという。
タンナファクルーというのは、黒糖と小麦粉、卵を使った焼き菓子で、かの有名なちんすこうとかサーターアンダギーと並ぶ沖縄の郷土菓子なんだそう。
タマナーチャンプルーは、タマナー(キャベツ)とチャンプルー(他の野菜や豆腐を混ぜたもの)というらしく、キャベツと豆腐が多く入っていれば後の具材はお好みでいいという主婦には優しいレシピなんだという。
ちなみにチャンプルーにはバリエーションがあって、メインとなる食材により呼び名が変わり、味噌汁に入れる車麩を使ったフーチャンプルー、もやしという意味のマーミナーチャンプルー、あとは未熟な青パパイヤを使うパパヤーチャンプルーなんてものもあるそうだ。ただソーメンチャンプルーだけはチャンプルーという名がついているが、シーチキンで炒めるものを指すという。
そして他のものは沖縄の人でもわからないらしく、いつも給食でなにも考えずに食べているのであまり気にしたこともないという。まあボクも名前のわからない料理なんて結構あるので、お互いさまなのだが。
それより一番気になるのがシカムドゥチという食べ物。
十麻斗と宗善がふたりとも知っているメジャーなイナムドゥチは冬になると家庭や給食で出される汁物だそうだが、シカムドゥチは「シカ」と名前がつくだけあって鹿肉を使った料理なのだろうか。ちょうど今日社会の時間で沖縄には鹿はいないと習ったばかりなので、県外から仕入れているのかもしれない。
──違った。
家に帰ってさっそくネットで検索してみると、昔は鹿肉を使っていたそうだが、今は豚肉で代用しているのだそう。ちなみに十麻斗と宗善が知っていたイナムドゥチも豚肉を使うが、違いはイナムドゥチ用の白みそを使っているか否かだけらしい。使ってないシカムドゥチはすまし汁になっているそうだ。
やっぱり異世界っぽいな、ここ……。
【うちなー辞典】
ヌンクーグヮー:豚肉、大根、にんじん、かまぼこなどを炒め煮したもの
フータシヤー:車麩を使った混ぜ料理。チャンプルーとの違いは炒めた豆腐の有無。
ウムニー:紅芋と砂糖を一緒に煮た芋煮。
チデークニーンブシー:島ニンジンの煮物、冬に食べるイメージ。
クファジューシー:硬めの炊き込みご飯。柔らかいのはヤファラジューシー。
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