第22話 2人はキスをする


「……国府田くん、国府田くん」

 国府田は川屋の呼びかけで目を覚ました。

「国府田くん!! 良かった……」

 川屋は泣いていた。国府田は何かを喋ろうとして、激しく咳き込んだ。

「水を飲んだみたいだね」

 川屋が顔を覗き込む。国府田は川屋の膝を枕にしていることに気付き、慌てて起き上がろうとしたが、無理だった。体中が激しく痛み、動かすことができない。

「大丈夫?」

 更に何度か咳込み、国府田はなんとか話せる状態を取り戻した。

「死ぬかと思いました」

「残念だよ。息が止まってたら人工呼吸をしてあげようと思ってたのに」

 川屋は泣きながら笑う。

「こんな時でも冗談言えるの凄いですよね」

「……やっぱりもう一回溺れてよ」

「せっかく生き延びたのに!?」

 川屋が笑うのにつられて、国府田も笑った。笑うと体が痛むが、そんなことはどうでもよかった。

 ひとしきり笑って、国府田は冷静さを取り戻した。

「牧野さんは?」

「あそこ。見える?」

 国府田は川屋の手を借りて身を起こした。眼の前を濁流が流れている。川の少し先の所に、牧野らしき人影が岩に引っかかって浮いているのが見えた。

「私はなぜ生きてるんですか」

「運が良かったんだよ……!」

 川屋の話によると、国府田も牧野もすぐに浮かんできたらしい。国府田は運良く川屋の手が届く場所に引っかかったので、なんとか引き上げることができたらしかった。

「二度とやらないでよ……寿命が縮んだよ。20年くらい」

「私たちの予想刑期と同じくらいですね」

 國府田と川屋はもう一度、顔を見合わせて笑った。国府田は全身の痛みに耐えかね、再びその場に横になった。

「救急車を呼んだから、もうすぐ来ると思うよ」

「ありがとうございます」

 国府田は目を閉じた。雨が体を冷やしてくれるのが心地よかった。

「走馬灯を見ました。死ぬ寸前に見るやつです」

「へぇ、凄いじゃん」

 川屋が努めて明るい声を出そうとしてくれているのを国府田は感じた。

「このまま死のうと思いましたが、川屋さんに会いたいから戻ってきてしまいました。すみません」

「なにそれ」

「感謝の気持ちです」

「全然ダメ。謝ってるじゃん」

 川屋に満面の笑みが戻った。国府田は満足して目を閉じた。

「確かに。これは不合格ですね」

「ううん」

額に川屋の手が置かれる。

「合格」

唇に何かが触れた。

「川屋さん……?」

 国府田は飛び起きた。川屋はそっぽを向いている。

「人工呼吸だよ」

 救急車のサイレンが聞こえ始めた。

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