第3話

「……それも、本当ですか?」

「本当ですよ(笑)。嫌なことに本当に死ぬんです、」


 どうして、俺はこうもと隣り合わせなんだろう。なぜこうも知らない人から直接余命を告げられなければいけないんだろう。


 背筋に冷たい水を垂らされるような感覚に陥った。一方で彼女は平然と呆れたように返答した。


「どうして、俺なんですか。簡単にホイホイと協力してくれそうだからですか」

「違います、! さっき言ったことと同じで、松村さんと残りの人生一緒に過ごしたいって思ったんです!!」

「ほぼ初対面やのにそんなこと、あるわけない、」


「あなたに、わかるんですか私の気持ち」


 一瞬で声色が変わった。怒っただろうか。俺のひねくれさに、弱虫さに減滅しただろうか。

 

「私があなたを選んだんです。もうすぐ死ぬのに、私に選ぶ権利もないんですか? 一目惚れって言葉、何のためにあるんですか。私には、一目惚れしたからって距離を頑張って縮めるために努力する時間なんてないんです」


「でも、だからってっ……俺にそんな重要な役割できないし、」


「――そう、ですよね。ごめんなさい、急に」


 少しの沈黙を機に諦めがついたのか、ぼそっと呟いた。これが嘘ではないのなら。これが他の人だったら。本当なら、少しの命くらい救ってあげてもいいだろうと願いに乗っただろう。

 でも、こんな俺は願いなんて受け入れられるほど強くはない。



「他の人をあたってください。失礼します」



 先ほどまで感動していた彩った食べ物の陽気さは差し置いて、真反対の俺らの空気感はそのまま引っ張ったままその場を去った。


 後ろが気になりつつも、振り向くことさえできない俺はずっと過去の人だ。



✳︎



「それでお前はその女性を置いてきたってわけか」


 お酒が飲めるようになって1年目の友人、大橋千華おおはしちかは飲めないはずなのにソフトドリンクをまるでお酒のようにグラスを揺らしていた。


「やって仕方ないやろ。ほぼ初対面の俺に残りの生命預けるって言ってんだよ? そっちの方がよっぽど恐ろしいやろ」


 「それもそうだな」と内心納得していない様子で残りのオレンジジュースを飲み干す。最近染め直した茶髪の根元が居酒屋の照明でより明るく光っている。


「いいよな大橋は。モテるからそういうきっかけもきっと実にするんやろうな」

「なぁに駿だって。顔いいくせに拒否ってんのはお前だろ」


「中身はどうなんだよ……」

「いやだって。駿は恋から逃げてるからだろ? ずっと」


「逃げてるっていうか、愛して損するのはもう嫌なんだよ」

「損って言い方悪くないか?(笑) もしそんな言い方するなら、損したのはお前が原因だろ」


 ……そんなことは俺が一番わかっていた。あの時、俺がもっと勇気を持っていれば。あの時、もっと彼女に思い出を作ってあげられていたら。


「お前がきちんと告白しなかったから実らなかったわけで、別にそれが死のうと生きてまいと関係ないだろ」

「う、うるさいな……」


「もう大学生だぞ? もうすぐで7年経つんだろ、そろそろ次行かないと」

「大橋って可愛い面と名前してるくせに結構言うよな」


「うるさいわ(笑)失礼な。このくらい言わないと駿、動かないだろ」


 でも、そう言ってくれることには内心感謝はしてるんだけどな。 

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