第40話 壁の外へ
陸を乗せたエレベーターは随分長いこと揺れ続け、もしやこれが永遠に続くのではと思われたが、やがてシュルシュル音が鈍く遅くなっていき、部屋は減速して止まった。
古びたドアが弾けるように自動で開く。
陸は開いたドアに近づいた。
砂ぼこりが舞う外の景色は、なんだか砂色をしている。
「え……?」
陸は壁の上に出るのだと思っていた。
だから壁の手前にはセンターのある街の様子を見下ろせるのだと思ったし、壁の向こうには何か知らない景色が広がっているのを高いところから
そこにあったのはただただ砂色の大地と、荒廃した
振り返ると、陸が出てきたドアがあったのはドーム状の屋根を持つごく小さな鉄色の建物。その後ろには何もない。ただ地続きに砂色の大地と瓦礫があるだけだ。
「そんな……」
陸は足元の地面に視線を落とす。
(僕がいたのは、地下だったのか……?)
巨大な白い壁に囲まれて、似たような黒いビルばかりが整然と並ぶ街。天気は毎日晴れで、雨は降らない。白い壁には水が伝う。
(空が、本物じゃなかったのか? 白い壁は、地下の街と地中を分けていただけ……? じゃあ、あの壁の水は……)
陸はふと、地下鉄駅の壁面を伝う地下水を思い出してハッとした。
(……地下水だ……)
周りを見回すが、瓦礫以外何もない。人の気配もない。
(けどここ、東京なんだよな……?)
ただ砂ぼこりが舞い、物言わぬ瓦礫の山を通り過ぎていく。あまりにも荒れ果てたその光景を前に、胸の中が薄ら寒くなっていくような感覚に襲われる。
陸はゲートの建物を離れ、瓦礫の山に近づく。ボロボロの瓦礫は砂を被っていて、元々どんなものだったのか分からない。
陸は瓦礫にかかった砂を手で払い落としてみた。
「……!」
出てきたのは、ばきりと中央から割れた畳だった。
その畳は瓦礫の山に覆い被さるように飛び出していて、断面がひどくささくれ立っていた。
よく見ると周りには、壊れた蛇口や配管、原型を留めていない家電らしきもの、折れた柱の残骸もあった。
人が暮らしていた生々しい痕跡は、その持ち主の不在を際立たせる。陸は背すじが寒くなるのを感じた。
「……陸!!」
襷と理人がゲートの建物から出てきて、陸の方に走ってくる。理人も息を切らし、膝に手をつきながら言う。
「……陸……っはあ、はあ……ここは危険だ。下に戻るんだ……」
「2人とも、ごめん……。ねえ、今度こそ教えて。僕たちは、地下にいたの? 戦争で、東京は……一体どうなったの?」
襷も理人も苦い顔をして、唇を引き結んだ。襷が眉根を寄せて息を長く吐き、陸の質問に答える。
「東京の人間は……いや、日本にいた人間は。おそらくこの地下都市にいる人間以外、すべて死に絶えた」
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