第41話 語られる真実
「……なん、だって?」
陸は声が震えた。
地下都市にいる日本人以外は、既にみな死に絶えている?
意味が分からない。聞き間違いであってほしい。
理人が諭すような口調で語りかける。
「……陸。残念だけど、本当なんだ。日本に住む人はもう、おそらくこの地下都市にいる約6万人しかいない」
「ろ、6万人……?! それだけ……?!」
脳が処理の限界を越えたのだろう。
高い耳鳴りがする。周りの音が遠くなり、地面が揺らいでいるように感じた。立っている足の感覚が無く、なんとかつっかえ棒のように体重を支えている。
「なんで……?! 何があったの?!」
そして理人が苦い表情で「俺から話す」と言った。
「……陸。日本は、『ある国』に、核爆弾を落とされたんだ」
陸は目を見開いて理人を見る。言葉が出ない。
「核は……全部で
「は、8個?!」
思わず声が裏返った。
8個の核爆弾。日本は広島・長崎でも甚大な被害を受けた。8個もの核を落とされると日本がどういう状況になるのか、想像することもできない。
「……去年の話だ。北海道に1つ、本州に4つ、四国に1つ、九州に1つ、そして沖縄に1つ。核は続けて落とされた。核は、広島・長崎の頃よりも威力が増大し、県の境を遥かに越えてその地方をまるごと壊滅させたんだ」
「そ、そんな……それじゃどこも残らないじゃないか……」
「そうだ。……幸か不幸か、核より前に上野、東京、新宿が『ある国』のミサイル攻撃を受け、東京都民は一部、地下都市に避難して生活していた。その後に核を落とされたことで、避難していた6万人が地下に取り残されたんだ」
未来に呼ばれて、ドナーを引き受けて。
でもそんなこと、これまで誰も教えてくれなかった。
今まで出会った人たちは全員、地下に避難していた日本人の生き残りだったのか?
襷も、理人も、美澄さんも、瓜生さんも、病院の人たちも?
「とはいえ、地上とほとんどの人口を失った日本はほぼ滅びたと言っていい状況に陥り、日本が敗戦を認めたことで戦争は終結した。残された資産をはたいて多額の賠償金を支払って、だがな」
理人は吐き捨てるようにそう言った。
「……『ある国』って、どこの国?」
「陸の時代にはまだ無い国だ。80年前に突如建国を宣言した新興国だよ。……陸、とにかく、詳しくは地下で話そう。地上は安全確保ができていない。本来、セーフティマスク無しでこんなところにいちゃいけないんだ」
陸は理人の話を最後まで聞いていなかった。そしてそのまま、ふらつく足で走り出した。
「陸!」
到底信じられなかった。日本の地上が壊滅? 何かの間違いじゃないのか。どこかに建物とか、海とか山とか見えないのか。本当に生きている人はいないのか。1人も。
「陸、行くな! ……うっ……」
陸を追いかけようとした理人の足が、がくんと崩れる。
「理人! 大丈夫か?!」
襷が理人に駆け寄り肩を支えるが、陸はそれに気付かずに周りを見回しながら走り、2人から離れていく。
「何か、ないのか。何か……」
聞こえるのは自分の呼吸音と、耳元を掠めて吹き荒れる風の音だけ。
期待も虚しく、進んでも進んでも瓦礫と砂しかない景色が続く。
その時。
突然空に黄色い光が
「!」
遠くで爆発が起き、時間差で爆風が押し寄せる。
「うわっ!」
陸は強烈な風に吹っ飛ばされて宙を飛び、大きな瓦礫に背中を激しく打ち付けて地面に落ちた。
「ああっ、陸!」
爆発の瞬間に運良く大きな瓦礫の裏にいて爆風を免れた理人と襷が、爆風が過ぎ去った後、舞い上がる砂煙の中で倒れている陸に駆け寄る。
「陸! しっかりしろ! 陸!!」
背中が焼けるように痛い。
かろうじて手をやると、ぬるり、と温かい感触がした。遅れて鼻腔に届く鉄のような匂い。
遠のいていく意識の中で、いつか聞いた師長の言葉が頭の中で響いた。
『下手に未来のことを知って逃げ出したり怪我でもしたら、それこそ未来が変わってしまう。そうしたら、産まれなくなる人も出てきますよ』
叫ぶ2人の声を遠く聞きながら、陸はそのまま意識を失った。
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