第23話 内緒の友人

 しゅうは、その境遇に似合わないほど明るく、賢い男だった。

 

 児童養護施設育ちの孤児であることで、柊は小学生の時にいじめられていた。

 そのことに気付いていた施設長の提案で、少し遠くの中学に進学した。中学では施設から通っていることを隠して、一般家庭の生まれのふりをして上手く友人を作り、結構楽しくやっていたらしい。

 

 しかし高校に進学すると、高1の夏に三者面談があり、柊が施設長と一緒に面談に来ているのをクラスメイトに見られてしまった。施設長は初老の女性で、母親だと嘘をついて誤魔化すにはさすがに不自然だった。


 同じ中学出身の同級生たちは、あいつは嘘をついていたのではないかと噂をし、その噂は瞬く間に広まった。

 同情的な気持ちを持っている者もいたようだが、それでもどこか腫れ物に触るような扱いとなり、居心地は悪かったそうだ。

 

 それから柊は徐々に休みがちになり、やがて不登校になった。

 施設にも心配を掛けない為、学校に行くふりをしてこの廃工場で時間を潰していたらしい。施設側はおそらく柊の不登校に気付いていたようだが、柊が帰ると何も聞かずに迎え入れた。


 そんな身の上を、柊は同情を誘うでも怒るでもなく、特に何でもないことのようにあっけらかんと話し、「まあいつかは学校に行かなきゃいけないんだけどね。それは自分でも分かってるんだ」と話した。


 親がおらず、学校の居心地が悪い柊と、

 親に苦労し、学校で友達を作れない俺。

 

 似ても似つかぬ環境で育ったにも関わらず、そんな互いの境遇に共感することができたせいか、俺と柊はその日、すぐに意気投合し友人になった。母さんが関与できない内緒の友人ができて嬉しかった。


 俺は言った。

 

「俺も柊と似たようなものだよ。親父は俺に興味が無いし、母さんは俺に固執しすぎる。あんな親ならいないようなものだし」

 

 しかし、それまで笑いながら話していた柊は、急に真剣な顔をして言った。

 

「いないようなものなのと、本当にいないのは違う。理人には帰る場所がある。理人は、ちゃんと帰らないとだめだよ」

 

 その時の柊の目には強い光が宿っていて、大人に説教されるよりも何か響くものがあった。



 結局その日、俺は自分で家に帰った。

 母さんにはとんでもなく叱られてしまったが、家を出る前の俺とは違ったから、我慢できた。

 

 俺には友人ができた。

 それからは、高校の授業が終わると急いで廃工場に向かい、柊と会うようになった。

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