第24話 招待チケット
俺は母さんの監視を逃れるため、放課後は高校の自習室で勉強していることにして廃工場に通っていた。
勿論、不審がられないよう空いた時間や移動中は必死で勉強し成績上位をキープしていたので、意外とバレなかった。
廃工場の事務所では、お互い食べ盛りなので何か食べ物を買ってきては、一緒に食べながら取り留めのない話をしたり、事務所の埃っぽい壁にIDリングで画面を投影して、スポーツ中継や流行りの映画を観た。
たまにくだらないことで言い合ったりすることはあったが、よくある友達同士の小競り合いみたいなもので、そういう経験があまりない俺にとってはそんなことすら楽しかった。
しばらくそんな生活をしているうちに、2123年が終わりに近づき、冬休みがやってきた。
俺は年末年始は帰省や親父の挨拶回りに付き合わされるので、しばらく廃工場に来られなかった。
やっと面倒な正月休みが終わって、始業式の後に廃工場に行くと、新年の挨拶もそこそこに
「エアクラフトベース?」
「知らない? 戦闘機で飛びながら対戦するやつ。無料の招待チケット2人分もらったから行こうよ」
孤児ゆえに誕生日の分からない柊は、彼が拾われたクリスマスが誕生日扱いになっている。
例年施設全体のクリスマスパーティーと誕生日祝いを一緒くたにされている柊を気の毒に思ったのか、施設のボランティアさんが無料チケットをくれたのだそうだ。
「行こうよ、理人。週末には出て来れない?」
「週末か……」
俺はいつも平日にしか柊と会っていなかった。
高校の自習室は土日は空いていないので言い訳には使えない。週末の外出であれば、別の言い訳を考える必要があった。
「まあ……頑張ってみるよ」
その日は母さんを誤魔化して家を出る良い言い訳がないか、あれこれ考えながら帰宅した。
土曜日。
朝の冷たい空気に
「理人! よかった、来れて。何て言って出てきたの?」
「ん。うちに来てる個別指導の講師、大学生なんだけど、その人とアリバイ作りで結託した」
「結託?」
「今日その人と大学見学に行ったことにしてもらう代わりに、個別指導の時給アップ交渉を俺がアシストする」
「なにそれ、すごいな!」
柊はケラケラ笑っている。
「来られるように頑張ったんだよ。家を出る時、ものすごく緊張した……」
それから2人は人目につかないよう素早くフローライドに乗り込み、エアクラフトベースに向かった。
「それでは皆様、準備はよろしいでしょうか?」
ゲームマスターの女性アバターが空中でくるりと回る。
エアクラフトベースはドーム状の屋根を持った巨大なアミューズメント施設で、今そこに戦闘機のような機体が12機浮いている。
流線形のフォルムを持つ機体は人1人が乗れるくらいの小型なもので、コックピットは透明なシールドで覆われており、下部には機関砲がついている。
12機のうち2機に、俺と柊がそれぞれ搭乗していた。コックピットのシールド越しに見下ろすと、屋内とは思えないリアルな森や岩場が広がっている。
これは2人1組の6チーム対戦形式で、空中を飛び回りながら自機の機関砲で敵チームの機体を撃ち落とすアトラクション搭乗型のゲームだ。もちろん弾は本物ではないが、撃ち落とすと狙撃ポイントが貰え、制限時間内に一番ポイントを稼いだペアが優勝となる。
ちなみに自機が被弾してもゲームオーバーにはならないが、被弾した瞬間に機体がきりもみ回転しながら派手に下の森まで落下するという、非常にダイナミックな仕様になっている。(これが人気の理由でもある)
下の地面は特殊素材でできており、衝撃を吸収するので落ちても安全だが、落下の際に機体からバッテリー部分が吹き飛ばされてしまう。プレイヤーは落ちた機体から出て森の中から飛ばされたバッテリーを探し出し、自力でセットして再度離陸することになる。これがかなりのタイムロスになるので、いかに上手く砲撃を避けるかも重要な要素になってくる。
俺と柊は味方同士なので、2人ともダークブルーの機体だ。
「うわー、これやってみたかったんだよね! めっちゃワクワクする。理人、絶対勝つぞ!」
柊の弾んだ声がコックピットのスピーカーから聞こえてくる。
俺だってこんな楽しそうな場所に来たのは生まれて初めてだ。高揚する感情と共に機体の舵を強く握りながら、柊の言葉に応じる。
「おう、望むところだ!」
――――――――――――――――――――
理人の回想はあと2回更新分続き、柊との別れまでを描いて元の時間軸に戻ります。よろしくお願いします。
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