第21話 再会

「ねえ、これ俺ほんとに未練がましい奴って思われない?」

 

 ベッドテーブルに置かれたたすきのリングが、スマホのメール作成画面のような映像をテーブルに投影している。投影されたキーボードをタップして美澄みすみ宛のメッセージを打ち込みながら、襷が聞いた。 

 陸が襷のベッドに腰掛け、横から画面を覗き込む。

 

「大丈夫だよ。理人さんのことも書いたんでしょ? しゅうさんの友達で、柊さんについて聞きたいんだって」

「書いたよ。書いたけど、他の男をダシにして会いたがってるだけの奴に見えないかなあ……」

 

 これで返事来なかったら俺が傷付くんだけど……と襷がぶつぶつ言っている。『たちばな 美澄みすみ事件』のダメージがまだ尾を引いているようだ。

 

 しかし、美澄からは意外にもすぐに返信があり、明日再び襷への面会のテイで会いに来てくれるという。

  

「橘 美澄ってどんな子?」


 理人が聞き、襷がぶっきらぼうに答える。

 

「顔は可愛いよ。顔だけな」

 


 

 待ち合わせ場所に指定したノンアルコールバーに先に着いていた美澄は、陸たちが店に入ると振り返り、会釈した。


 4人で一通り自己紹介などを済ませた後、この前面会に来た時のことを襷に問われて、美澄が言った。

  

「え。協力してくれたんじゃないんですか?」

 

 あまりに悪気のない顔で言われたので、襷の目が点になる。

  

「確かに私は、陸さんを柊と勘違いしていました。まあ、もう柊は亡くなっているのでそんなはずないんですが、あまりにそっくりだったので、柊が生きていたと思ったら冷静に判断できなくなっちゃって……。柵の向こうで柊――いえ、陸さんと一緒にいた人がゲートから出てきたので、無我夢中で声をかけたんです」

 

 美澄は、大きな瞳を戸惑うように瞬かせながら話す。

 

「本当はその時に、襷さんに『一緒にいたのは川崎 柊ですか』と聞けばよかったんだと思いますけど……『違う』と言われるのが怖くて。自分で直接会って確かめたくて、『面会の仕方を教えてほしい』と襷さんにお願いしたんです。

だけど、その直後に襷さんのフローライドが来てしまって。今からどこかに行くみたいだったので、引き留めても悪いなと思って、私の連絡先を伝えました」

 

 美澄の話によると、彼女はあくまで襷に「会いに行きたい人がいるので、面会の仕方を教えてほしい」と聞いただけらしい。


 しかし、女の子から連絡先を差し出されたことで、襷がそれを「俺に会いたいのだ」と勘違いしたようだ。

 襷が自分の氏名や部屋番号など、面会申込みに必要な情報を伝えたので、美澄は襷のことを「協力してくれた親切な人」と思っていたらしい。


 陸は襷の顔をちらっと見た。目が死んでいる。

 川崎 柊のことで我を失ってここまで取り乱す彼女が、川崎 柊に対して特別な感情を持っていたであろうことは想像にかたくなかった。


 理人も冷めた目で襷を一瞥し、呆れた顔で陸にアイコンタクトしてくる。「何がナンパだよ。コイツの勘違いじゃん」と目が言っている、ような気がする。

 

「そっか、ソウダヨネ」

 

 襷は完全に棒読みだ。


  

 そして今日の本題に入った。

 

「柊の出自について、私が知っていること、ですか……」

 

 美澄は背筋を伸ばしてソファに座っていたが、柊のことを聞かれると俯いた。テーブルを挟んで向かいのソファに座る陸が説明する。

 

「さっきも少し話したけど、僕は過去から来た理人さんの先祖――って言ったらちょっと大げさなんだけど、理人さんの家の家系図を辿たどると僕がいるらしいんだ。その僕と柊さんが生き写しであることと、理人さんの家のジーンツリーに不自然な点があることを知って、理人さんはもしかしたら柊さんが自分の親戚だったんじゃないかと思って、調べてるんだ」

 

 理人が続きを引き継ぐ。

 

「柊の出自について、どんなことでもいいから、何か知ってることない?」

 

 美澄の眉尻が困ったように下がる。

 

「すみません、出自については本当に何も。捨てられた時、ボロボロの毛布にくるまれていていて、親からの手紙も何も持っていなかった、ということぐらいしか……」

「そうか……」

 

 理人の声には落胆が滲み出ていた。

 美澄が問う。

 

「ちなみに理人さんは、柊とどこで出会ったんですか?」


 理人が視線をテーブルに落とした。

 

「俺と柊はーー」

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