第15話 仮説と確信

 翌朝。

 目が覚めてリングで時間を確認すると、そろそろ朝食の時間だった。

 陸は伸びをして歯磨きセットとタオルを手に取り、カーテンを開けると、

 

「陸。美澄みすみちゃんと、連絡がつかなくなった……」

 

 たすきが、実写化したゾンビみたいな絶望的な顔でベッドに座っていた。

 

「昨日の夜から返事が来てない。なんか俺、まずいこと言ったのかな……」

 

 嫌な予感がしてきた。

 やっぱり、昨日陸に話しかけてきたあの黒髪ボブの子が、襷とやりとりしている橘美澄と同一人物なのではないのか。

 

「えっと……ちなみに、連絡ついてた時はどんな話したの?」

「えー。なんで入院してるのかとか、どこの病棟の何階かとか、面会にはどうやって行ったらいいかとかぁ……」

 

 予想通りだ。

 陸が今考えている仮説が正しければ、襷はおそらく彼女に利用されただけだ。

 体育座りしたまま爪先とにらめっこしていじけている襷に、なんと声をかけたものかと悩みつつ、

 

「襷。ごめん、もしかしたらだけど……」

 

 陸は自分の仮説を、襷に話した。


 

「つまり。美澄ちゃんは、この前ゲートの近くで見かけた陸をそのシュウって奴だと勘違いして、陸と直前まで一緒にいた俺に声をかけて面会の仕方を聞き出して、俺への面会のふりしてセンターに潜り込んだ、ってこと?」

「違ったらごめん。けど、そうじゃないかって思えてきてる……」

 

 襷は頭を抱えてベッドに突っ伏す。

 

「けど、黒髪ボブで、ぱっちりしたつり目で、色白な子だろ? なんかもう、まさに美澄ちゃんっぽい……」

 

 その時、大部屋のドアがノックされた。

 桜井さんが部屋に入ってくる。

 

「こんにちは。来週のプログラム予定持ってきました」

「あ、桜井さん」

 

 陸はふと思いついた。

 

「桜井さん。昨日、襷宛の面会って誰か来ました?」

「え? ああ、ちょっと待ってください……」

 

 桜井さんが薄いデバイスを胸ポケットから取り出し、指先で操作する。

 

「えーと、はい。お1人来てますね」

「やっぱり!」

 

 襷がガバッと跳ね起きた。

 

「え? あれ、会えてないんですか?」

 

 桜井さんが首を傾げる。

 

「ちなみに、来た人は誰ですか?」

「えっ? あの……」

 

 陸が返答を待ちきれずに立ち上がり、桜井さんのデバイスを横から覗き込むと、そこには「橘たちばな 美澄みすみ」という名前が表示されていた。

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