第14話 謎の少女
「でな? 陸と別れて、ゲート出て俺んちのフローライドが来るの待ってたら、急に女の子に声かけられて。連絡先交換したんだよ!」
陸と
病室から出ると、陸の淡いグリーンの患者衣がやはり人目を引いてしまうので、いつも他に客がいないこの店の方が2人とも落ち着けた。
「やっぱ俺、結構カッコいい方? そんなことない?」
初めて逆ナンされたらしい襷はだいぶ舞い上がっているようだ。
「その子って、どんな感じの子?」
「えっとね。名前は
「そうなんだ」
「今度俺に会いに面会にも来てくれるって!」
浮かれる襷と対称的に、陸は少し引っ掛かりを感じて難しい顔をしていた。昨日ゲートの前で陸と目が合った少女――なぜか陸を見て驚いた様子だったあの子も、それくらいの長さの黒髪だったからだ。
「てか陸って彼女いたことある?」
「ない」
「俺もない! けどついにできるかな? 彼女」
気にはなったが、せっかく喜んでいる襷に不確かな情報で水を差すのもどうかと思ったので、陸はひとまずあの少女のことは黙っていることにした。
午後のプログラムも終わって、襷と2人で広場の近くを通ると、先日とは違う屋台が出ていた。
「なんか新しいの出てるな。陸もいる?」
「僕まだお腹すいてないからいいや」
「そうか? 俺は腹減ってきたから買ってくるわ」
「じゃあ先にベンチ行ってるね」
「おう」
襷と別れ、陸がしばらく広場を1人で歩いていると、
「……シュウ!!」
後ろから女性の声が聞こえた。
驚いて振り返る。
「あ……」
見覚えのある黒髪の女の子が、足早にこちらに向かってくる。
この前柵越しに目が合ったあの子だ。
「シュウ! どうしてここにいるの?!」
なぜか少女は陸にそう話し掛けてきた。
「え、シュウ? あの……」
陸は戸惑いを隠せない。
少女は陸に近付いて立ち止まり、陸の顔をじっと見上げる。
「……あなた、シュウじゃないね」
少女は落ち込んだ様子で呟く。
「そうだよね。生きてるはずないね……ごめんなさい」
そう言ったきり、少女はそのままその場で立ち尽くし、下を向いたまま動かなくなってしまった。
どうやら人違いだったようだが、そのまま立ち去って彼女を置いていくのも冷たい気がしたので、陸は困ってしまった。少女は、既に亡くなっている誰かと陸を間違えた様子だったからだ。
「ええと……その、シュウって人と、僕が似ていたの?」
「はい……すみません」
少女は、ふうー、と深いため息をついた。
「シュウは、施設の友人なんです」
「施設?」
「児童養護施設です。私も彼も孤児なので」
少女はハンカチを目に押し当て、「すみませんでした。もう帰ります」と言って頭を下げると、ゲートの方に歩いて行ってしまった。
「陸ー! お待たせ」
何もできないまま、遠ざかる少女の背中を見送っていると、襷が串に刺さった何かの肉を持って帰ってきた。
「ねえこれめっちゃ旨そうな匂いしない? 陸も一口食う? ……あれ、なんかあった?」
襷が陸の視線を追って振り返る頃には、既に少女はゲートの建物に消えていた。
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