第12話 ゲート
それから何日かは、検査やプログラム以外の時間は
スパは病棟の最上階にあった。
スパのプールは時間帯によって潮の満ち引きのように水位が変わって、水量が少ない間は軽食の屋台が出るようになっていた。医療機関のスパゆえに、適度に休憩を取らせる仕組みなのかもしれない。
引き潮のたびに様々な軽食の屋台が出るので、次回の屋台をチェックするまではと、泳ぎながらついつい長居してしまった。
また、レイクサイドモールの奥にあるジムには、ロールプレイングゲーム形式のトレーニングマシンがあった。ドーム型の機内に入ると全方位に異世界が広がり、トレーニングした分だけ主人公が強くなってシナリオが進む仕組みだ。2人で結構ハマって連日通った。
しかし、途中からトレーニングの負荷が上がりすぎて襷も陸も
それからは2人とも、なんとなくジムから足が遠のいてしまった。
未来の生活にも徐々に慣れ、それなりに充実した日々を過ごしていた。しかし、陸は内心ではずっと理人のことが気になっていた。
あの日彼が現れて以降、全く姿を見ないが、あれから一体どうしているのだろうか。
そんなある日、襷が祖父の一周忌のため、日帰りで一時帰宅することになった。
朝食後、売店に行きたい陸と、外出のためゲートに向かう襷がフローライドに同乗した。
「見送ってくれんの? 嬉しいねぇ」
「ま、売店行くついでだけどね」
病棟から一番近いゲートの手前で2人ともフローライドを降りる。西洋の洋館にありそうなデザインの金属製の高い柵が、センターの敷地を囲んでいた。
「結構、外の様子も見えるんだね」
陸は柵越しに敷地の外側を窺う。
外も黒い建物ばかりだが、見える範囲に店舗らしき建物は無く、なんとなく住宅街のような雰囲気だ。黄色や緑など色とりどりのフローライドが行き交い、ちらほら通行人もいた。未来人の服装は斬新だが、案外合理的にも見えてなかなか面白い。
外を眺めていると、1台のフローライドから陸と同年代くらいの少女が降りてきた。陸はたまたまその少女と目が合った。
「!」
少女は陸を見て目を見開き、ひどく驚いているようだった。陸は少し狼狽える。やはり未来人から見ると、過去人はひと目見て違和感があったりするのだろうか。
「陸。俺もう行くよー」
「あ、ごめん」
襷に声を掛けられて、慌てて襷が呼ぶ方へ向かう。驚かれてしまって恥ずかしかったのもあって、少女の視界から外れられて少しほっとした。
柵の途中にあるごく小さな建物の前で襷が待っていた。
「これがゲート?」
「そ。顔認証とリングで本人確認して、外に出られる。未来人はね」
襷が建物の扉を開けたので、興味本意で中を覗く。胸の高さほどの認証機は、青い光とともに何も無い空中にディスプレイを投影していて、いかにも未来感たっぷりの出で立ちだ。
「わあ……! 機械カッコいいね、映画みたい」
「昔のSFっぽいよな。陸もこういうメカ好き?」
「好き。僕もやってみたくなっちゃう」
陸が物珍しそうに建物の中を覗いているのを見て、襷が言う。
「あ、やる? いいよ? やっても。 出られんけど、やるだけなら」
「ほんと? じゃちょっとだけ」
陸はゲートの建物に入ると、画面のガイドに従って認証機のポートにリングをかざし、認証機上部の丸い小さなレンズを指差す。
「ここ? カメラ」
「そこ。そのへんは令和の顔認証とあんま変わらんと思うよ」
陸が顔認証カメラの方を向くとすぐさま、ブーッとエラー音が鳴る。
「ちぇ。やっぱだめか」
陸は舌を出し振り返る。
「はは。そりゃな」
すると、予想と異なる文章をディスプレイが空中に投影する。
――――――――――――――――――――
認証不一致エラー : 別人
顔データとIDリング人物データが一致しません。
本人以外のIDリングは利用できません。
IDリングを他人に貸与することは、法律で禁止されています。
――――――――――――――――――――
横から表示内容を覗いた襷が首を傾げる。
「なんだ別人って。仮のリングだとこうなるのか?」
「分かんない……あれかな、僕は顔データがそもそも登録されて無いとか?」
「あー、そうかもな」
その後、襷はゲートで認証を済ませ、自宅へ向かうため外へ出て行った。
陸はゲートの建物から出てセンターの敷地側に戻ると、乗ってきたフローライドで売店へ向かう。
「……さっきの女の子、なんであんなに驚いていたんだろう」
陸はフローライドの内側に薄く反射する自分の姿を確認してみたが、服はそもそもいつもの患者衣で、陸には別におかしなところは無いように思えた。
「うーん、もしかして髪型が古いとか? 未来人の普通が分かんない……」
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