第5話 微睡み
そのあと桜井さんから説明されたのは、センターにいる間は定期的にクリーンアッププログラムや運動プログラム、細胞検査などを受ける必要があること。
食事はセンターで3食出ること。
よほど検査の数値が悪化しない限りは、カフェや売店で購入した物の飲食も問題ないこと等。
まあ要は、センターの敷地から出なければ比較的自由に過ごして構わないということだ。
今日はもうすぐ夕食の時間らしかったが、陸は「色々ありすぎて食欲がないので用意しなくて大丈夫」と断った。
体調が悪いわけではなかったが、たぶんあまりの事態に胃袋が仕事を忘れている気がする。全然食欲がない。
「あ、あとスパに大浴場がありますが、ナースステーションの裏側にもシャワールームがありますのでお好きな方をご利用ください。分からないことがあったら気軽に聞いてくださいね」
そう言って桜井さんはナースステーションに帰っていった。
陸は大部屋には戻らず、教えてもらったシャワールームに向かう。大浴場もあるらしいが、疲れていたので早く済ませたかった。
シャワーを済ませると既に消灯時間が過ぎていて薄暗く、廊下は非常灯や足元灯が点々と灯るのみになっていた。
大部屋のドアを開けると、
もう1人の同室者に挨拶できなかったな、と思いながら淡い水色のカーテンを引き、自分のベッドに横になる。
本当にここが100年後の未来なのだろうかと、最初に疑わしく感じていた気持ちはだんだん小さくなってきてはいた。けれども、もう一度考えを整理したいことが山ほどあって頭がごちゃごちゃしていた。
しかしあまりにも疲れていたせいか、抗いがたい眠気に襲われ、陸はそのまま眠りに落ちた。
微かな話し声が聞こえて、陸は少し目をこすり、寝返りを打った。
「すみません、無理を言ってしまって」
「いや、構わないよ。君の意向を無視してしまったのは僕だからね。少しでも罪滅ぼしになればと思っている」
夢うつつの中で男性の声が2人分、遠く響く。誰の声だろう。眠くて考えられない。
「それで、何か分かったかい?」
「いえ。まだ話せていません」
「そうか」
微かに椅子を動かす音がして、カーテンが揺れた気配がした。
「くれぐれも無理はしないようにね。それじゃあまた顔を見に来るよ」
「はい。おやすみなさい」
コツコツと足音が少しずつ遠ざかり、静寂に満たされると、陸は再び意識を手放した。
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