P07:傭兵団ワイルド・スカンク【04】

◇◇


(と、いう訳で、ピンチを乗り切ることができたわ。私のパンツのピンチはダメだったけどね!)


 続々と帰還してくるBM達。パイロット達のテンションが高い。大きな被害無く、しっかり敵の本拠地を壊滅できたらしい。

 後方部隊も全員でお出迎え。アリアはキャノピーを開けてお出迎えする為に足を揃えて姿勢良く座ることにした。


「ニオイ、トカ、シミ、ナンテ、ダレモキニシナイヨ」

「うるさい!」


 オリハが要らないことを言わないように牽制しながら愛想を振り撒く。すると一際テンションの高いカミナが近づいてきた。アリアに気付くと大声で声を掛けてくれた。


「アリアちゃーん! 大事なタンカーを守ってくれたらしいね。ライナスから聞いたよー」

「えへへー、ありがとうございまーす! カミナさんも大活躍だったそうで!」

「おうよっ! BMごと本拠地を焼いてやったぜ!」


 満面の笑顔で自慢の筋肉を見せつけながら去っていった。


「カッコいいわねー、アレぞ女戦士。私も見習うわよ!」

「エーッ……ムキムキ、イヤダナ……」

「何でよ? カッコいいじゃない!」

「ホドホドデ、オネガイシマス」


 通り過ぎる皆に声を掛けると、アリアの活躍を皆が知っていてくれた。鼻高々のアリア。


「アリア、俺たちもそろそろ帰還しよう。またよろしくな」

「はい、ライナスさん! 今日は本当にありがとうございました!」


 機嫌良く手を振っているとオリハがボソッと呟いた。


「シート、モ、カワイテキタシ、カエルカ」

「ねぇ、皆さんに絶対に言わないでよ。お願いね」

「ヘイヘイ」

「……全く……華の女子高生がお漏らしなんて……」


 小声でぶつぶつ呟くアリア。基地に替えの下着が売ってるか、売っているとしてバレずに買えるか、カワイイのが売っているか、気になることが山盛りだ。


「じゃあ帰りましょ。基地までお願いね」

「ハイ、アンゼンウンテン、ガンバリマース」


◇◇


 基地のハンガーに到着してもハッチを開けないアリア。中では困り顔で少し思案中。


「んー……体操服に着替えた方が良いかなぁ……」

「ホラホラ、アキラメテ、キガエヨウヨ」


 三頭身ちびキャラのくせしてエロい視線を向けてくる。ジト目で睨むと目を逸らした。


「そうよねぇ……やっぱり着替えようかな」


 ちびオリハは期待に満ち溢れてかぶりつき状態でソワソワしている。再度睨みつけると口笛を吹いて誤魔化している。


「デ、ツイデニ、ゴホウビ……」

「するかっ! このエロ鬼、エロ悪魔、エロ鬼畜!」


 体操服をカバンから出して暫し眺める。

 制服から体操服に変えちゃって『汗かいたから着替えたの』なら不自然じゃないよね。ノーパンでも、まぁ、ジャージ生地ならバレないよね。直接履いても不快じゃないし……と諦めた。ワクワク顔の映るコンソールを体操服の上着で目隠してからパンツを両手で太ももまで下げた、まさにその時、外からアリアを呼ぶ声が聞こえてきた。


「アリア! 今いいか?」


 横を見るとナッシュが直ぐ横のモニター越しに居る。ビクッとして慌ててパンツを元に戻すと残念そうな顔になるオリハ。


「わわわ、見えないとはいえ恥ず過ぎる! オリハ、見えないのよね? あ、声は聞こえるの?」

「タイミング、ワルイナァ……マッタク。ソトカラハ、ミエナイ、キコエナイ、ニオワナイヨ」

「ぶっ! 絶対黙っててよ!」

「ヘイヨー。スピーカー、ツカッテ、ハナスカ?」

「……いえ、失礼のないように直接挨拶したいわ」


 深呼吸してから制服の乱れを直してキャノピー開ける。ニコニコのナッシュに不自然な笑顔を晒すアリア。


「ナッシュさん、お、お疲れ様でした!」

「おぅっ! お疲れ!」


 ハンガーに収まっているオリハ。コクピットは地面から三メートルくらいの高さがあるが、楽々乗り降りできる。ナッシュの前に飛び出ると、オドオドした機械音声マシンボイスが聞こえてきた。


「ゴボウビ……」

「うるさい! あ、後で!」

「ハイ……」


 ナッシュが『ゴホウビ』の意味を質問する前に再度挨拶するアリア。


「お、お疲れ様でした! ナッシュさん」

「あぁ、今回は本当に助かったよ! 後方部隊が全滅するところだった。もちろん正式入団オッケーだ。という訳で、褒美……じゃなくて報酬だ。割引無しの報酬を受け取ってくれ。あと前の六体分も入れてある。色付けといたから、また頼むぞ」

「はい! やったー、ありがとうございます!」


 受け取った重たい麻の袋には金貨が沢山入っていた。


「BM一体で十万ゴールド、小金貨十枚が今の相場だ。護衛任務の報酬が四十枚、例の砲台分は大型目標換算で百枚出してる。オマケを入れて合計二百二十万ゴールド。不服はあるか?」

「……いえ、相場とか分かんないのでオッケーです」


 後で分かったことだが、現代の相場で換算すると小金貨一枚が一万円程度だ。タグを持ち込んだBM六体分を合わせて二百万円以上の稼ぎとなった。


「そこから月末に拠点使用料と補給で二、三十万差っ引かれることを忘れるな。調子に乗って豪遊するなよ!」


 相場は分からないが豪遊できるらしい。

 ブティックで高級ブランドを買い漁るのを想像してニヤニヤしているアリア。ナッシュはナッシュでオリハを眺めながら『良い拾いモンだった』と自分の直感を誉めてニヤニヤしていた。


「あっ、そうだ。アリア、部屋使うか? BM乗りはシャワー付き個室が与えられるぜ」

「えっ、それは嬉しいわ……」


 丸二日、お風呂に入っていない。クンクンと自分の腕の匂いを嗅いでみるがよく分からない。下半身の事情も思い出したので慌てて半歩ほど下がった。


「はい、使います。ありがとうございます!」

「家賃は月十万、三食付きだ。じゃあ本部二階のPX売店で鍵を渡せるよう手筈しておく。今日はゆっくり休んでくれ。またな」


 ナッシュは去っていった。


(お風呂かぁ。これは嬉しいわね。あっ! うししっ、ということは――)


「オリハ、じゃーねー!」


(――着替えを覗かれる心配も無いわ!)


「クッソーーーッ、オ、オ、オレ、ノ、アリアー!」

「また明日ー。あっ、忘れてた……」


 コクピットにもう一度座り直す。今晩、どうゴホウビを貰うか頭を悩ましていたオリハ。突然の展開に不機嫌そうだ。


「ナンダヨッ!」

「ありがと。これからも頼りにしてるわ。チュッ、チュッ、チュッ!」


 コンソールに映るオリハへ熱烈投げキッス。


「アッ、アッ、ハイー!」


 コンソールには投げキッスも3Dで表現されており、キスマークがオリハに当たる度にデレデレしていた。


「戸締りよろしく。じゃあねー」


 デレデレのオリハを見ると、満足そうにカバンを持ってスキップしながら去っていった。

 ポツンとハンガーに残されるオリハ。


「ググゥーッ! ヒトリハ、サビシイ……」


◇◇


 売店に行く途中の壁に人だかりが出来ていた。本日の作戦成績が張り出しているらしい。大型拠点の破壊三件、BM撃破二体、計三百二十枚の稼ぎでカミナがトップだった。

 そこを通り過ぎると、それなりに賑わうコンビニくらいの大きさの売店があった。どうやら一通り何でも売っているようだ。皆が着ているパイロットスーツと寝心地の良さそうな部屋着、適当な普段着と下着類も。あとアメニティを一通り購入して両手に抱えていると、カミナが様子を伺いに来てくれた。やはり同性の新人パイロットは大事にしたいらしい。


「アリアちゃんの部屋はここね」


 女性の利用が多いフロアらしい。整備員や事務などにも多くの女性が働いており、大体二十名ほどの女性が住んでいた。カミナは街の繁華街に部屋を借りているらしく、そちらで寝泊まりすることが多いらしい。


「私は酒場が近くにないと死んじゃうから」とのこと。


 部屋に二人で入ってみる。

 まぁギリギリ小綺麗かな。長いこと使われてなかった部屋らしい。トイレ、冷蔵庫、クーラーはどの部屋にもあるけど、シャワールームのある部屋はBM乗りの特権らしいのよ!


「じゃあ、またね、アリアちゃん」

「はい、カミナさん! ありがとうございます」

「鍵、気をつけてね。ここの野郎ども、性欲の塊みたいのも多いから」

「うひーっ、気をつけます、ありがどうございます!」


 カミナは早速酒場に繰り出すらしい。そそくさと部屋から出ていった。しっかりと鍵がかかっていることを確認すると、ひとまずベッドに飛び込む。瞬時に寝落ちしそうになるが気合いを入れて起き上がる。


「さぁ、シャワー浴びてゆーっくり寝ましょう! 憧れの一人暮らし! しかも襲われないってサイコーよ」


 共同の洗濯機があるらしいが、洗濯は明日することにしてシャワーを浴びることにした。汚れた制服をカゴに入れて下着姿で少し思案中。


(制服……クリーニングあるかな? 最悪手洗い日陰干しで何とかなるかな?)


 一応結論付けて、部屋に備え付けのシャワールームに入っていく。暫くすると水音と共にアリアの喜びの声が部屋に響いていた。


「サイコーよ!」


◇◇


『ちゅんちゅん……』


 昨日はシャワーを浴びて売店に売っていた新しい下着と部屋着に着替えると、夕食を取る間もなくベッドに倒れ込んだ。近くの林の木々に止まる鳥達の鳴き声で目が覚めるアリア。


「鳥の鳴き声で起きちゃった……ふぁー、良い朝!」


 流石に空腹なので起きるや否や食事に出掛けることにした。昨日適当に見繕った作業着に着替えて食堂に向かう。


「ご飯は食堂で食べ放題らしいわ! これもサイコーって、うわっ! な、何してるんですか!」


 意気揚々と扉を開けると男の人が四、五人部屋の前に倒れていた。どの顔も昨日の作戦で一緒に戦ったパイロットや整備員だ。


「うーん……あっ、もう朝か! ちっ、あのクソドローンめ!」

「今日は撤退だ。またね、アリアちゃん!」

「今晩また来るよ」


 状況が分からず怯えるアリア。するとドローンが一台スーッと飛んできた。


「キョウ、トビラノ、カギヲ、アト3コ、フヤセ」


 ドローンからはオリハの声がした。


「えっ? オリハなの?」

「アイカギ、ガ、デマワッテイタゾ。マッタク……キヲツケロヨ」

「えーーっ!」

「ヒルマ、ハ、オソウツモリハ、ナイラシイ。カギ、フヤセヨ」

「あ、あありがとう!」

「フンッ!」


『ビューーン』


(あっ、行っちゃった……でも……エロAIのヤツ、一晩中守ってくれたのね)


 暫しの間、ドローンの飛んでいった先を見つめて立ち尽くすアリア。


「お礼……しなきゃダメよね」

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