P08:傭兵団ワイルド・スカンク【05】
◇◇
「キョウモ、ヒトリハ、サビシイナー。サァ、ドローン、ジュンビー……ッテ、アレ?」
真っ暗なハンガーの中、静かに人影が近付いてくる。オリハは赤外線スコープも勿論装備されているのでコソコソしているのがアリアだということには直ぐに気付いた。昼間着ていた作業着のツナギではなく柔らかそうな生地のワンピース姿だった。
コクピットのキャノピーを開けると何も言わずに操縦席に座った。
「アリア……ドウシタ?」
慌てて無言でキャノピーを閉めるアリアはモジモジして何も喋らない。無音の空間の中、不思議そうなオリハ。
(うぅ、改めてお礼言うのって、なんか照れるわ。えーい!)
観念してポカンとした顔の映るコンソールに目を瞑ってキスをする。
「エッ? アッ……アリア」
「昨晩はありがとっ……」
(しかし……私も画面に映るVチューバーみたいなのにキスして照れるってどうなのかしら)
ドローンに助けてもらったからロボットのAIにキスするという状況。この謎な状況に思わず微笑みが漏れる。
「えへへ……少しならいいよ」
「エッ?」
「んーと……ゴ・ホ・ウ・ビ」
スカートを両手で恥ずかしそうに上げると下着と柔らかそうなお腹が見えた。瞬時にちびオリハの両目がハートに変わる。
「ッ! アリア……ウレシイヨーー!」
バタンとハートの描かれた蓋が開いた。
♡♡♡
こうして、戦闘が終わると『ご褒美』と称して二人でイチャイチャするのが日課になっていった。戦闘が無く訓練だけの日は部屋で寝て、戦闘のあった日は「復習したいからコクピットで寝ます」と周りには説明していた。
もう一ヶ月以上、この暮らしよ。へへへ、ちょっとクセになってきちゃった。
◇◇◇
本日の訓練も終わり、パイロットスーツの上着を脱いで腰に縛りオリハを洗ってやるアリア。
「ホラホラ、ウデノ、ウエノホウ、マダヨゴレテル」
「うるさい! もう少し待ってなさい!」
ムカついてホースから水を頭部に掛けるアリア。
「ヤメテ! メインカメラニ、スイテキ、ツク!」
「あはは! ストレス発散よ!」
傭兵団とはいえ軍事組織の端くれ。作戦や
「アリア、基地内の消火設備と夜戦時の光学機器の操作を復習しておけよ。明日、昼からテストするからな」
「ぎゃーー! 何で異世界くんだりまで来て勉強とかテストしなきゃいけないのー!」
思い出すだけでグッタリするアリア。水の出ているホースを片手にプルプル震えている。
(何が『BMの操縦はピカイチなのに、他は全て不合格だぞ』よ、ムカつく! まぁ、よもや操縦もAI任せとは思うまい)
ニヤリとするアリア。
「はい、終わり! 明日は街にショッピングに行ってくるからお留守番ヨロシクね」
「エェ、イッショニ……」
「ダメよ。ドローンだけで大騒ぎだったじゃない」
「ウゥ、サビシイ……」
こうも寂しがられると、それはそれで嬉しくなる。でも先日ドローンと一緒に買い物していたら街中の子供達が集まってくる勢いだった。落ち着いて買い物するために、明日は一人で行くと決めた。
◇◇◇
という訳で、涙目オリハを置いて一人で近くの街に買い物に来たアリア。基地から街へはバスに揺られて三十分。人口六万人程の中規模な街『サン・クルーズ』に降り立った。
「ふふ、ゴチャゴチャしてて活気があるわ!」
バス停から町の中心に向かって雑踏に紛れてみる。人種的にはアジア人っぽい……かな。いや、欧米っぽい人も多い。
アリアは歴史や文化、地理には興味がない。この街も歴史は古く、遺跡や観光名所もそれなりには有るが、全て無視してカミナから事前に聞いていた服屋とアクセサリーショップに直行する。
――この世界は、
縦横無尽に
「ショッピング楽しいわー。いきなり就職アンド一人暮らしだったけど金銭的にも余裕あるし。本当に……オリハに会えて良かった……」
出会わなかったら、と想像すると涙が出てくる。服を選びながらジーンとしてるアリア。急にオリハの寂しそうな声が思い浮かぶ。
「しょうがない。お土産も買ってやるか」
日常使いする綿の下着数点とシルク製の妖しい下着一点を購入。財布から金貨二枚を出すと銀貨と銅貨が返ってきた。この世界は現金払いが主流だが、電子決済ならカード引き落としでの支払いが存在する。
アリアはまだ不慣れなので現金払いだ。
「やっぱり大体金貨一枚が一万円ね。そうそう、銀行に行かないと……」
街に出たら残高確認は必須よ、とはカミナの忠告。ずっと確認しないでいたら、ネコババされていて残高ゼロの隊員が居たらしい。
下着類の買い物を済ましてからそそくさと銀行に向かう。ATMにキャッシュカードを差して残高確認ボタンを押す。すると残高には二千万ゴールドと表示されていた。
「んげっ! 何で口座に大金が……」
一万ゴールドが金貨一枚だ。つまり二千万円ほどの大金が入っている。通帳記入もしてみると、ここ数週間は毎日大金が振り込まれていた。
(ナニこの金額……給料の何倍ものお金が振り込まれてる! ん、振込人の『EuroTube』……ユーロチューブ? 何これ怖い!)
ユーロチューブがこの辺りの経済圏ユーロで流行っている動画サイトであることは知っていた。しかし大金が振り込まれる理由は何も思いつかない。
意味の分からない大金が自分の口座にあると知った瞬間から、周りの街の人々が全員強盗に見えてきた。普通に声をかけられるだけで小さく悲鳴が出る。
(ダメだ、気になって怖くなってきた。オリハに相談しよう!)
急ぎバスで基地に戻ることにした。
◇◇
バスの中も基地の中も無駄に怯えているアリア。
(うひーっ、大金持ってると思うとなんか無性に怖いわー!)
最短ルート、かつ人目の多いルートを選んで無事に基地に戻ってくることができた。丁度カミナが昨晩の痛飲からやっと起きてきたところに鉢合わせた。
「あれ? アリアちゃん、街に行ったんじゃないの?」
「カミナさん……気になることがあって……」
「あら……」
折角のオフが無駄になっちゃったわね、と笑うカミナを見ていると少し落ち着いてきた。すると、初日の夜にドローンと争っていた一人がニヤニヤしながらアリア達に声を掛けてきた。
「あ、アリアちゃーん! このセクシー女優、アリアちゃんにそっくりじゃねー? うへへー」
男のスマホには裸の女性がアダルトな行為をしている動画が映っていた。アリアも健全な高校生。興味はあるが、建前もあるので拒否しておいた。
「ミックさん、変なモノ見せないでください!」
「そうよ、アリアちゃんに変なモン見せないでよ。スマホ叩き割るわよ!」
――因みにこの世界にもインターネットに近いものはあったが、衛星や海底ケーブルは維持できない為、一部の街と街を結ぶだけの狭い世界のネットワークだった。それでも何百万もの閲覧者がいるので、それなりに生き残っていた。エンタメに於いては低予算ながら閲覧者を掻き集めるドル箱コンテンツ『アダルトもの』の盛況ぶりは何処の世界も変わらない。
「うら若き乙女にそんなモノ見せる? 本当に……って――」
(これも
「――
じっと画面を見つめて固まるアリア。そっとカバンの中の通帳を確認。振込元に記載されているのも『
「おっ、興味あるの?」
「エロチューブ? 何で私の口座に……って、げっ!」
変な甘ったるいBGMの中、画面には見覚えのあるヒビ割れタイルのシャワールームが映っている。
(その中でシャワーを浴びているのはもちろん裸のワタシ)
お気に入りのぬいぐるみが置かれたベッドに場面が変わる。
(そしてベッドの上には一人エッチするワタシ)
そして、お馴染みのコックピットが映し出された。
(マジックハンドにイタズラされているのはもちろんワタシ)
髪の毛が完全なブロンドになり、背景にはモザイクが掛かり、目元には黒線が引かれていた。しかし、本人には間違えようがない。
「これは、何ですか?」
「ん、興味あるの? エッチだなぁ、最近出てきたエロい新人だよ」
「ふーーーーーん…………」
「どうしたの? アリアちゃん、すっごく怒ってるみたいだけど?」
◇◇◇
コクピットでコンソールを睨みつけるアリアの目は血走っていた。震える両手にはトンカチと手斧が握られている。
対して目の前のコンソールに映るちびキャラは高速で土下座しており、震えるマジックハンドは両手を合わせて全力で謝罪中だ。
「ア、アリア……オ、オチツイテ……カオバレ、シテナイヨ」
「このエロAI、天が許しても私が許さん。覚悟ーっ!」
「ワーー! アブナイ、ユ、ユルシテーー!」
「天誅、天誅、てんちゅーー!」
――オリハとアリア、最終回のピンチ勃発
――代償はアリアお気に入りの曲の新曲を毎月提供すること。AIを使っても面倒らしく散々断っていた案件だ
――イケ、オリハ。毎日二十万人がアリアの痴態を見ていたことは、まだバレてないから
Sector:02 End
二人の絆の回数:三十二回
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