→01_step!_HOPE.「Shadow By Light!」
12月26日、雲一つもな……、くもない晴天ではない青空の朝。今日もまた
しかし今の時期、NOAHの季節設定は冬。晴れているが、マフラーと長袖のブレザーでも少し肌寒いくらいの気温だ。
「寒い……!」「うぅ、寒……」
暖かい部屋から寒い外への
ラトとシドの2人の
乗車ドア上のモニターには、『来年で
これはどこかのフィクションなどではなく、数千に及ぶ教育機関が存在し、魔術などの様々な分野の教育や研究が日々行われている。それと同時にこのNOAHには様々な都市伝説が存在する。
「7人の科学者……」
特にシドがボソッと呟いた『7人の科学者』がNOAHで噂される都市伝説の代表的な例だ。
7人の科学者とは一体何者なのか。そしてNOAHを初めとする世界中に散らばる数々のコロニーは何故、宇宙に浮遊しているのか?そんなロマンある数々の都市伝説を、シドのような厨二病患者はそれに思いを馳せて、今日も通学していくのだ。
そんなことをニュースを見て突然思い出したシドは脳内で、『もし自分が7人の科学者だったら』という妄想を数分繰り広げる。
「ああ……。一体本当に誰がこんなとあるフィクションみたいな街、作れって言ったのかなぁ……あぁ呪いたい……」
車外に辺り一面に広がる
「…………ぇ、?!」
シドは外を眺めながらそんな妄想をしていると、これまた何故なのか。突然にベルの今までに見た事の無い
そんな自分だけの出来事に驚いていると、いつの間にか目的地に到着していることに気づいた。
『次は、
車内に到着を報せる機械音声のアナウンスが響き渡る。
「シド!着いたよ〜☆って、なんで泣いてるの?!」
シドは「──ぇ?……。ぁ、ああ!……ううん、何でもない!」と誤魔化し、ラトに今日の授業の事を話す。
「……そ、そうだラト姉!今日は
「ははは☆!! シドったら!本当に
微笑んで応えた彼女は高等部の生徒であり、人類を導く才能の発掘を目的とした制度『
NOAHの人口、約500万人の内101人しか居ないと言われるSTAGE4。彼女はそのまたさらに上澄み、『
光の粒子を操る『
──まさに才色兼備。オマケに幸運体質、運動神経抜群というドジな性格以外ほぼマイナスが無い、むしろそのマイナスすら人によってはプラスになるほどの属性モリモリで完璧で最高の自慢の姉だ。(ここまで"なんと"16行)
「比べて僕は、はぁ……」
……そんな姉とは対照的……いや、対極的にシドはなんの能力も持たない、世界でただ一人の無能力者だ。
──つまり雑魚、能力者ではない者などいないNOAHにおいて最弱を意味する。そして学力も平均より少し下ぐらいで170cmのラトより低身長、運動神経は絶望的……までとは言わないが雑魚体力なのも悲惨だ。だが運良く姉と顔がそっくりなのが唯一の救いだった。(ここまで"たった"8行)
「──またねシド!頑張るんだぞ☆」
「あ、うん!またねラト姉!」
そんな落ちこぼれのシドは、姉からの最高のエールを受け取り、今日の生きる活力にするのだった。
STAGE4の姉とは教室が違う為、一旦分かれ、シドは中等部の
「あれ?教科書……また、無い……」
溜息をつき、何故無いのか分かりきっているが、自分が忘れただけだったかもしれないという淡い希望を抱き、バックとロッカーを探しながら考える。
──しかし、無情にもヒントは揃っている。
壊れたロッカーと消えた教科書。この目の前にある事実はシドの心を抉る。
「……、よし!ラト姉みたいにポジティブに行こう。そうポジティブに!」
シドは他に何が消えたか確認するため、ロッカーの奥の方に手を突っ込んで探し、ある手紙を見つけた。
なんともまぁ、
ポジティブに行くと「ラブレターだ!」と喜ぶべき所だろう。
だが手紙には……
『シドくん!放課後、遊ぼうぜ!いつもの場所な!』
とだけ書かれていた。明らかに
「………………ぁ」
これがシドにとっての日常だ。
チャイムが鳴り、昼休み。いつも授業を寝ているシドは目を覚ましてはすぐに小走りで食堂へと向かった。そこにはラトが待っていた。高等部のラトは生徒会で忙しい中でも、シドとの昼食の時間を大切にしていた。
またシドにとっても大切な時間で、希望だった。そんなラトの純粋過ぎる笑顔がシドがここに存在する理由だった。
「シド、こっちこっち!」ラトが笑顔で手を振る。
シドは少し気まずそうにラトの隣に座る。
「……ありがとう、ラト姉」
「どうしたの?元気ないね。」
ラトは心配そうにシドの顔を覗き込む。
「うん、ただちょっと...…」
シドは姉に心配をさせまいと言葉を濁した。そんな暗い様子のシドに不思議そうな顔をするラト。しばらくしてそして何か感ずいた様な表情を浮かべる。
(あなたの大好きな弟が困ってますよ〜!!ラト姉助けて〜!!)
シドは励まして欲しいと期待する──。
「ん?……あー!なるほど☆大丈夫だよ!シド!!焦らずに自分のペースで頑張ればいいんだよ☆もし分かんなかったら私が教えてあげるからさ!元気だして!」
ラトは優しくシドの肩を叩いた。
「──あ、え?」
「……え?違うの?勉強が分かんないじゃないの??」
「あ、ああ!全然!何でもないよ!ま、まあ勉強は全然分かんないんだけど……」
シドの思いはドジで天然なラトには届かず、期待は見事に空振った。
◇
「──魔術は未だ分からない事が多く、まだ全体の3%しか分かっていないとされておりますが、『魔術と超能力の関係はかなり近いモノ』だと言われていますわ!」
「……ふぁぁ、眠」
シドの意識は催眠授業によってギリギリで、首をガクンガクンさせながら何とか担任であるサラ先生に食らいつく。
「──と、このように、"誰でも使用できる"『魔術』とは別の力である、"個人が一人一人持つ能力"。
いわゆる『
「すぴー、……っダメだ、起きろシド!これ以上はテストがあぶ……すぴー、──ハッ!寝てた!?」
一瞬だけ気を失い、その夢で行ったテストの0点という数字を思い出してシドは慌てて目を覚ます。
「──能力は第1次成長期時点での各々の思考パターンによって3つのカテゴリー別に、異なる能力が授けられますの」
「……ッ、あともうすこし……」
堪える。
「──しかし自身の欲する能力を強く望んでいれば、ある程度それに近いカテゴリーの能力が授けられますのよ。そしてその能力は進化する場合があり──と、あらチャイムが……ん?あらまあシド。珍しく起きていたんですわね」
耐えきった。気づけばチャイムが鳴り、シドが珍しく起きていたのに気付いたテイラー先生が皮肉混じりに言う。
「はは……テイラー先生、それほどで──」
「褒めては!いませんわ!……あ、ちなみに貴方は、明日の朝9時から補習ですので。数学から魔術学までたっぷりご馳走させてあげますわ!是非、覚悟して下さいまし?」
「あ……あぁ、呪いたい……」
シドと同じSTAGE1の何人かがクスクスと笑った。その内の何人かは明らかに悪意を含んでいた。「能力すら持っていないのに何故授業を受けているのか」と言うように、そして「姉はあんなに優秀なのに」と言うように。
◇
先程の授業とホームルームが終わり下校時間、普段はラトと一緒にいるはずのシドは
シドとアウトキャストの関係は兎と狼。
「よぉ!シドくん〜、遊びに来てくれてありがとおな!」
一人の不良がそう言うと周りの半グレ達も一斉に笑う。シドはお馴染みすぎるいじめのシチュエーションに呆れる。
しかし、いつもとは少し違うのが、奥に見えるモノ──。
恐らく
"それ"はピクリとも動いていなかった。
──恐らく、死んでいる。
「きっ、……はぁ……」
──シドがいじめの標的にされている原因。
それは、単にシドが
「で、目的は何?どうせラト姉にボコされた負け犬共でしょ?」
シドは不良達に負けず、内心ビビりながら不良を煽る。
「言ってくれるじゃねぇかよ!オラアッッ!!」
「はぁ……ッ、グアッッ!!」
不良の図星のような反応に
そして不良が放った渾身の右ストレートはシドの顔面にクリーンヒット。1発食らっただけでよろけるシドにはあまりにも無慈悲に、間髪入れず他の不良から2発目を貰う。
「テメェんとこのバケモンに、仲間5人やられてんだよ!テメェが死んだら、バケモンはどうゆう顔すんのかなァーっ!?」
まるでスタンプラリーのように一方的に1人ずつから暴力を貰い、シドが倒れてもなお追い討ちを掛けようとする不良は寸前、光り輝くような圧倒的な気配に気付く。
シドも霞んだ視界を広げ、眩しい光と痛みを堪えながら、見た。
「──何をしているの?」
光の声は冷たく、不良たちの心臓を、その場の空気をも凍りつかせ、一瞬で
──そして光臨したのは
ラトは冷徹な表情で不良に向かって一歩ずつ歩み寄った。一歩ずつ強くなるその光のオーラは彼女の
「チッ、クソ!バケモンがァッ!!」
リーダー格の不良が
「シド!目瞑って!」
ラトは手を挙げると、その手のひらから眩い光が放たれた後、リーダー格の不良の頬を掠めるようにビームが放たれた。後ろのビルはビームによって貫通し、それに恐怖した不良たちは一斉に後退した。
「もう二度と!!私とシドの前に、顔を出さないで……!!」
ラトの一言で、不良たちは蜘蛛の子を散らすように先程の勢いは嘘かのように情けなく逃げ出す。
シドは地面に倒れ込んだまま、姉の光を見上げる。
「ラト姉、ありがとう……」
ラトは涙を浮かべ優しくシドを抱き起こし、その顔を覗き込む。
「……ごめんね、シド。シドがいじめられてるの知らなくて……私のせいでっ……!」
「違うッ!! 僕がっ……。僕がっ……。僕が悪いんだ!!僕が無能なのがいけないんだ!! ……ラト姉は、悪くない……!!」
お互いを擁護し合い、ほんの静寂が流れた。
「──もう、帰ろっか……」
ラトは倒れているクローンの為に救急車を呼んだ。幸いシドは顔のキズだけで済んでいた為、応急処置を施し、姉弟は家へ帰宅した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ラトは生徒会という立場や、自身の優秀な実力と純粋な正義感を持つ性格が故に、嫉妬する者は少なく無かった。
そして、その妬みや恨みの矛先は、弟であり最弱であるシドに向かう。しかしそれでも
なんとも形容し難い、行き場の無い感情は"確実"に
姉と常に比較され続け、蔑まれ続けても、ラトが原因であっても、思う事あれど、シドは姉の笑顔が見れるのであれば、それでも良いと思っていた。
──しかし、今はほんの少し状況が異なる。
姉のせいにしたくないシドにとって、自分が弱いから大好きな姉の笑顔が消えてしまうのを恐れた。
そしてその恐怖心はどれだけ頑張っても一向に成長が見込めず、半ば諦めていたシドに火をつけた。
シドはその夜、部屋でひとり考えた。窓から差し込む月明かりが希望の光のごとく、優しく彼の顔を照らしていた。
「ラト姉みたいに……、僕も……! でもどうやって……?あっ!そういえば!」
授業で学んだ事を思い出した。
未知
そしていつものように、イレギュラーがあるかもしれないという希望の光に縋るように、ラトのようにかっこよく手を振りかざす──
「今宵は『夜』……光は影に喰われる
やはり結果は目に見えていた。何も起こらない。これで何も起こらなかったのなら、それはもうただの厨二病だ。これは無能は無能らしく生きろという神からの啓示だろうか。
それでもどこかの神はシドの火を消しきれてはいなかった。忠告を無視して「……まだだ!」と厨二病は再び手を振りかざす。
どこかの神曰く『それはもう本当に神が存在するのなら僕や運命をそのまま呪い殺す勢いだった』と言う。
「ラト姉が『光』ならッ!僕の第一希望はッ!『影』でッ!よろしくお願いしまぁぁぁぁすっ!」
違和感を見逃すまいと感覚を研ぎ澄ませていたシドは一瞬、確かに『何か』を感じた。違和感を頼りにもう一度軽く腕を振り、瞬きをせず自分の影を見た。
──そして運命は訪れる。
「──動いた……!」
影が動いた。そう彼は第一希望で通過する事に成功したのだ。
「強くなれる……大事なモノを護れる……!」
そんな奇跡に喜びそして驚くと同時、少年は安堵した。
──また大好きな姉の笑顔が見れると。
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