サイド・バイ+シャドウ! 〜劣等生は異世界で無限の旅路を歩み行く~

‪†‬らみえる‪†‬

天空学園都市NOAH:日常編

??→00_step!_DREAMS∞.「夢現、New days!」

「嘘、でしょ?ベルが?そんな訳……ッッルシファッ──」


 ──完全に言い切る前に少年は転移した。

 『ルシファー』と名乗る男から告げられた真実は、少年の心を折り、そして何が起こっているのかも分からないまま、転移したのだ。


「ぁ?……ぁぁ……あっ、?」


 転移した先は灼熱、見渡す限り燃え盛るどこか見覚えのある小屋の中。少年は炎に囲まれてただ呆然と立ち尽くす。


 ──熱い。身体に熱風と燃え盛る炎が気まぐれに触れ、そして燃え移り、少しずつ少年の身を焼き焦がして行くが、少年は度重なる出来事に思考が停止している為、今起きている状況を脳が危険と察知出来ない。


「ぁ?」


 血塗ちまみれの謎の少女が、少年の正面に倒れていた。その少女をなにかが守護しているが如く、炎は少女に触れる寸前で奇跡的に消える。


「ま、すたあ、にげて……!」


 ここでようやく、少年の思考が追いつき振り向こうとするが──


「──ほーら! ほいグサッとー!」


 振り向く直前。狂気に満ちた愉快そうな声と共に、何者かに背中から心臓を貫かれる。


「ぁぁあ、熱っ!……は、え? 痛い、」


 少年は自身を貫いた凶器レイピアの様なモノが胸辺りから突き出ているのを視認──そして理解。その瞬間、身体を焼く炎の熱さが、胸の痛みが本格的にシドを襲う。


「ぁあ、ぁ!──あああ熱ッ!?……ッぁ、い、痛い……!! ッいだい……!!!!  痛い痛い痛い痛い痛い……!!!!」


 痛みは加速し、耐えられず倒れ、少年は顔面を地面に強打する。それは平和ボケした都会暮らしの中学生にはとても耐え難く、想像を絶する痛み。

 口からは見たことも無い量の鮮血が水風船が割れた様に吹き出し、鮮血に炎の光が反射して、より鮮やかに少年の死に際を彩る。


「──お、いーねいーねェ!その調子ィ! ほら、そら次!次ィ!どー鳴いてくれンだよォ!?」


 身体を渡り、頭に燃え移った炎の音と共に背後から微かに聞こえる狂人の声。狂人は倒れた少年の背中を何度もリズムカルに突き刺して少年の反応を楽しむ。

 ──抵抗は出来なかった。少年の身体に力はもちろん、感覚すら入らず、熱さと痛みに悶え苦しみただ発狂するだけのに成り下がる。


「…………あっが、熱っ、あっ、ああっ!!いだい!!あづい、あづい!!いだいっ いだいっ いだいっ いだいっ いだいっ いだいっ!!!! 誰かぁっ!!助け──ゴボッゴボッ、ぁ?……!!」


 瞼が焼け、発狂しようとして咳をする度に、熱された血が喉を焼き、何度も大量に吐き出てくる。その異様な光景、肉が焼ける熱さ、明るすぎる視界、出血多量の寒さ、眠気、段々と弱くなる痛み、狂人の快楽に狂う笑い声、その全てが少年の恐怖心を煽る。


「あづいっ……あがっ……」


 たった今、視界が焼け切れた──だが、それでも記憶はまだ、ある。存在している。

 暗黒の視界の中で、唯一の記憶を頼りに少年は全て焼け死んだと思っていた筋肉で、目の前に居る少女に向かって1cmずつ這い出す。


「ケヒッ!いーねェ!……おォい!『ゆーしゃ勇者』様ァ!?早く、たァーてェーよォ!!『たすける』それが使命なんだろォ!?なァ!?」

「ま、すたぁ……! つぎは、かならず、しあわ──」

「チッ、もォ終わりかよ、ヒーローらしく立ち上がって哀れな子羊コイツ救う展開ハッピーエンドは、もーねーのかよ……んか妙にあっけねーな、『ゆーしゃ勇者』っつー割にはよォ……あーつまんね。──んじゃ、バットエンドの時間だぜェ!!?」


 銃声と共に少女のライフラインが途切れた。それを聴いた少年はパニックを発作する。


(はぁッ、はぁッ……!!  女の子が……死んだ……?! 僕も……?!いつ、死ぬ!?……いやだ、怖い……! でもなんで僕が……?なんで僕だけ……? 助けて……!!)


 意味不明に襲ってきた理不尽と恐怖に苦悶する少年に、安息を与える暇も無く──第2フェーズ。熱さや痛みは去り、今度は本格的な寒気と眠気が襲ってくる。


「なーガキ……遠くに見え…か!?天…が!苦……か?辛いか?楽にな…たい…?」


 快楽。


 意識が段々と遠のいてくる。その感覚は少年を天国に誘うかの様に心地よかった。

 しかし同時に少年は、それとは全く逆の、様な不快な感覚も感じていた。


「気持ちい…い…ろ?大丈夫。ほら…国ま…後…う少し!頑…れ頑張…!グサッ!グサ…!ケヒヒッ、ヒャハハハハハハ!!!!」


「さむい、っ……いや、だ……しにたく、ない、っ……あがっ……こわい……たすっ、けて……あがっ……らとねぇ、っ……べる、っ……」


 ──死にたい。だが思考から放たれた言葉は、穴だらけの身体は嘘を付く。

 今もなお、背中を刺され続けるこの地獄から、いち早く抜け出したいと思っているのに、身体は生存本能剥き出しで生きようとする。


「──ぁ、ぁぁっ!……ころ、す」


 ──殺意と記憶。


「ケヒッ!あー!いーィジャン!!いーィジャン!!って……は?殺す?何言ってんだテメェ?」


 ──思い出した。


 途切れ途切れになっている意識が覚醒する度に少年の中で溢れ出る、怒りを超えた虚無ヴォイド。そして『殺意』

 それは自身への"度重なる理不尽"によるものなのか?不幸?不遇?燃えながら少年は自身の力不足を強く恨んだ。そして自分自身を"産んだモノ"を──


「ぁ、あ。しゃるど──」

「ッ!?コイツッ!?──」


 少女の名前を思い出し、口にする。そして虚無の炎影ほかげを燃やしながら少年は──


「……せいばーろーど」


 ---


 〖‪新規セーブデータ作成中…‪〗


 Loading…‪ ‪


 Loading…


 〖セーブデータ作成完了。〗


 ---


「マスター、私は貴方を必ず──」


「──救ってみせる」


 死んだ筈の少女が何かを呟き、同時に少年は死亡した。



 ◇



「?……ッ!? ゴボッゴボッ!!」


 ──少年は泡を吐きながら死から覚醒した。

 そして覚醒した瞬間、シドは何も思い出せず、記憶も身体と心の状態も何もかもが"リセット"された事に気づく。


「……これは夢の中?」


 浮遊感。少年はまるで水の中を漂うかのような感覚に包まれていため、すぐに夢だと確信した。そして少年が夢と確信した根拠はそれだけではなかった。


「女性の……声?」


 少年には先ほどから、厚いガラス越しに話しかけられているようなこもった女性の声が聞こえていた。

 耳を澄ましてもなんて言っているのは分からない。しかし、雰囲気だけは感じ取れた。それはまるで、また誰かに会えたような……そんな……


「面倒くさいし……やっぱり、わかんない……」


 少年は声の推察を諦めるが、それでも声は続く。


「…ど……」


 声は段々と。少しはっきりと。


「しど、あ…して…るよ」


 声は段々と。また少しはっきりと。


「本当に、おおき…なっ…ね」


 そしてこもったその声は突然はっきり大きくなり……。


「おきてーーーシーーードーーー!!!!!!」

「うわぁッ!!」


 少年、──シドは驚いて目を見開き、ベットから飛び起きた。彼が見た光景はいつも通りの朝、いつも通りの部屋。そしていつも通りのテンションの姉のラト。

 窓から差し込んでくる光と共に、ラトの純白の髪とツノ、それと眩しい笑顔が掛け算される。シドは目を擦り顔をしかめながらも、起こしてくれた姉のラトに挨拶をした。


「ふわぁあ……おはようラト姉」


 ラトは「おっはよーシド!我が弟よー!朝ごはんの準備はもう、できてるからね☆」と伝え、シドの部屋から出て行き、隣の部屋へ向かった。

 するとまた先程のような大きな声が隣の部屋を揺らした。


 シドはしばらくぼんやりと天井を見つめた後、ようやくベッドから起き上がった。

 日付は12月26日。昨日は自身の誕生日だった事をシドは思い出す。

 昨夜の夢の感覚がまだ頭の中に残っているようで、こびりついて離れない。


「うぅ、眠い……あんまり覚えてないけど、それにしても変な夢だったな……」


 ベッドから起き上がったシドは時計を見た。7時32分。いつも通りの日常の始まりだった。だが、その日常の中に漂う微かな違和感が、彼を苛立たせるような不安となっていた。

 ──と、考えているうちに


「……お腹空いたな」


 自分の考えを打ち消すように、シドはお腹を押さえながら軽くシャワーを浴び、制服に着替えた。彼の漆黒の髪とツノは、毎朝手入れをする習慣だった。髪をポニーテールに結び、リビングへ行くと、すでに朝食の香りが漂ってきていた。


「おはよう、シド、ラト」


 彼女の温かい声は、いつもシドに安心感を与えてくれた。シドとラトは朝食の席につき、挨拶を交わす。


 シドとラトの姉弟は元気に「いただきます!」と言い急ぐように朝ごはんへと手をつける一方で、ベルはきちんと手を合わせ、静かに深く食材に感謝し、祈りを済ませてからベーグルを手に取る。


 食卓に並ぶ食事は日常の一部であり、シドにとっては何よりも心安らぐ瞬間だった。ベルはシドにとって母親代わりの存在であり、彼女の微笑みはいつも彼の心を包んでいた。


「……シド、昨夜はよく眠れたかい?」


 好物であるコーヒーを飲みながらのベルの問いかけに、シドは少し考え込みながら答えた。


「うん……まあ。ちょっと悪夢を見たけど、大丈夫だよ」

「──そうか、」


 その言葉にベルの表情が一瞬曇ったように見えたが、すぐに微笑みを取り戻し、シドの手を優しく握った。


「何か困ったことがあったら、必ずいつでも話してくれ! 愛しているよ、2人とも!」


 彼女の温かさに包まれ、シドは安堵感を覚えた。しかし、心の中に残る微かな不安は、彼の思考を縛り続けていた。夢の中で聞いたあの声……まるで何かが始まる予兆のようだった。


 ---



 COUNT_DOWN☻.


『特異点』まで、あと5日。

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