→11_step!_Re:「BAD_END_02_セイヴァークエスト!~勇者と魔王と希望への道~」

  長く深く暗い闇のコンティニューロード中、シドの意識は朧気で夢の様な状態だった。

 だが、そんな気体みたいに曖昧な状態で、強制的に脳内に情報セーブデータという確定された超固体死の記憶が流し込まれる。


 未知への恐怖で発狂したいのに声が出ない。

 何故か、自身の意思に反して心の平穏を保たれてしまう。


「ぁッ!?──戻って、来たのか……。ッ──ごめん……ッ!!」


 そしてパッと気が付けば、シドの視界に広がったのは教会の中の様な、だった。

 そこには二人、白と黒。天使と悪魔。シスターが佇んでいた。


 Now Loading…


 Now Loading……



 ◇



 おお マスターよ!

 しんでしまうとは なにごとですか!

 しかたのない ひとですね。

 マスターに もう いちど

 きかいを あたえましょう!

 たたかいで キズついたときは

 すぐに わたしを たよって

 キズをかいふくさせるのです。

 ふたたび このようなことが

 おこらないことを

 シャルドは いのっています!



 あいことば セイバーロード


 ぼうけんを さいかいする?


 YES ←

 YES


 Now Loading…



 ◇



 ──シドの意識が戻ったセーブデータ先は、シスターに殺される前の燃え盛る小屋だった。

 シドは死から覚醒した後、そんなありえない状況に驚く。


「──ぁ、ぇッッ?!……ウグッ、おォえッ!!」


 熱さに加え、異常な気持ち悪さ。シドは死を経験した。常人では一度しか経験出来ないはずの『死』を、シドは経験してしまった。


 ……ありえない。どうして覚えているのか。



「死んだ……シスターに、殺された……はず、なのになんで!?……、生きてる……!? さっきのは夢……? いや違う……確かに経験したはず……!!」



 シドは困惑する。確かに死から来る痛みも寒さも、死ぬ間際の意識が遠のく感覚も全て、この身で感じたはずなのだ。

 そうだと言うのに、まさか死神シェフの手違いだろうか?目の前には食した筈の人生という名の料理フルコースが置かれている。



「ッてて、……あ──……あれ、……この子は……。さっきの……」



 頭痛で頭を抱えた後、目の前の存在に気づいた。

 その存在は、倒れていた。元々白黒モノクロだったであろうメイド服。

 土と泥で茶に薄汚れ、血の赤で染まったボロボログチャグチャな『メイド服』を着た、美しく可愛らしい華奢な体型の少女。



 それは先程体験した夢の様なモノと全く同じシチュエーションだった。



 そして、理由ワケは分からないが、その少女は何かメッセージを示している様だった。

 だが、『何故分かったのか?』に対する根拠は何も無い。それは突然、シドの脳内に語りかけたのだ。


 ──それは一つの意味不明な『単語ワード』。



「……セイバー、ロード」



 ふと、その『単語ワード』が口に出た。シドはそれセイバーロードによって死んだ事実と戻って来たロード事を思い出す。


 それは本当に突然だった。

 どうやって死んだか。という事は分からない。なのに、死ぬ寸前の経験した事の無い記憶が身体に訴えかける感覚は、気味が悪く、気持ち悪い。


 すると目の前に倒れている少女が、シドの言葉に反射反応するかの様に、自然的かつ生物的にビクッと動いた。



「……──はっ、マスター!?……逃げ、ましょう!」

「──うわぁッ!!!? え!? 何!? う、動いた!!?」



 少女がいきなり目覚めて、焦った様にいきなり立ち上がる。灰色がかった黒髪はその勢いで揺れ、灰色の瞳からは真剣さが伝わった。


 いきなりの事だったので思わずシドは驚いて尻餅をつくが、少女はシドに優しく右手を差し伸べる。

 その右手の甲には仄かに黄金に光る、タトゥーとはまた違うと思われる人工的な『痣』があった。


 少女を──またその痣を表現するならば、正に『勇者』。そんな様な聖痕あざ


 シドは未だに困惑している。

 けれど不安の中に、僅かな期待があった。


 ……正直に白状するならば、『ドキドキ』と『ワクワク』である。



「あ、ありがとう……」

「ええ! 構いませんよ!」と少女は優しく微笑んだ。



 シドは少女の手を取った。


 少女の手は温かい。……というかそもそも、この燃え盛る部屋で暖かいも何も無いのだが、とにかく温かった。


 そうしてシドは立ち上がる過程で、もう一度、グレーの瞳を見た。真剣さを放つ瞳の奥にはどこか優しく、何か特別な感情を感じた。


 それはまるで、シドと既に何度も会い、シドと共に苦難や修羅場を既に何度も潜り抜けた様な表情と、妙な説得力を作り上げていた。


「君が誰かなのかは分かんないけどっ!!……確かに、この状況は……!! でも、どうやって?!」


 先程と、ほぼ同じ状況。

 本当にこの窮地を脱する事が出来るのか?

 またあの狂気のシスターと神父に殺される?

 そんな不安が先程の感覚をまた思い出させてしまい、吐き気が再度、シドを襲う。



「マスター!大丈夫ですか?!」

「ぅぅ……あぁ、うん、大丈夫……君は一体……?」

シャルドの名前はシャルドです!そんな事より早く!!」



 シャルドと名乗る少女はどうやら一方的に、シドを知っている様だった。

 だが、追求はしない。何故なら彼女の言う通り、現在の状況は本当にヤバい状況なのだから。


「……──分かった……!」


 焦る少女シャルドに、シドは素直に従う。

 立ち上がった後に、背後のドアから小屋の外に出る。

 するとドアの前に立っていたシスターと鉢合わせ、そして



「あ、!?」

「おいおい何モンだ?このガキ……」



 言葉にならない程の痛みがシドを襲う。そして願った。────「これは夢だ」と。



「っ、マスター!!?」

「お前がゆーしゃ勇者かァ!!……いーぜ導ーてやるよォ……『オーダー』ァァッ!!!!……動くンじゃねー!!」



 失血多量で薄れ行く意識、薄れ行く視界で、狂人シスター


 しかし、何も出来ず無力。視界はそのまま、黒く落ちる。



 ──シドは殺されされてしまった!



 ◇



 Now Loading…


 Now Loading……



「──はぁ、マスター……流石に死に過ぎです、? まるでシャルドを縛る足枷じゃねーですか……」

「──いや3マスターは『文字通り』必死に頑張っているんです!あなたは黙ってて下さい!!」



 シャルド先程の少女と同じ声が二つ、白すぎる空間で響き渡った。

 そして脳内に『前回までのループ』に関する全ての情報が流し込まダウンロードされる。その瞬間、その空間、及び『教会』でシドは全てを思い出した。



「あっ!……ああそうか、僕はまた……無力、だった……!」

「おー、マスターがまた思い出しやがりました!」



 その声の主は、選択を迫られた時に脳内に出現する天使と悪魔の様な2人……。


 少し強気な態度を取り、シドを『マスター』と呼んで『ですます口調』に『』という絶対に相容れない、違和感まみれでいて取って付けた様なバカみたいな語尾。


 そんな彼女は。極めつけはシスター衣装に悪魔らしい典型的な翼と尾。まるでコスプレの様だ。


 普通のシャルドより言動に少しトゲがある為、シドは彼女を『黒シャルド』と呼んでいる。


 ちなみにだが、彼女のその特徴的な語尾は内心大好きなシドに悪態をつきたくてもつけきれない一種のツンデレというコトらしい。(かっこ何十ループ前に判明)かっことじる



「否、マスター!今度の『死罰』はどれにしますか?! 3言って下さい!」



 そしてシドに明るく優しく話しかけるのは、『否』が口癖の


 これまたコスプレの様なシスター衣装に、典型的な純白の翼。そして『天使』のヘイロゥが特徴的な彼女。


 普通のシャルドよりもシドに対して『NO』という選択肢が無いので、シドは『白シャルド』と呼んでいるのが彼女だ。


 ただし、ノーマルシャルドがそもそも全肯定に近いので、あまり大差が無いという事には今回は黙っておく事にする。



「んで、どうするんですかマスター!?行くなら早く行ってくださいよ!そしてもうココには来ねぇでください死なねぇでください!」



 まるで『シャルドの人格を分けた天使と悪魔』の様な2人はこの『白い教会』、シャルドのPSYのうりょくである『転生セーブ&ロード』の管理者兼、能力を使用する人を案内するアシスタントだ。


「ちょっ、ちょっと待って!一旦整理したい!」


 だが思い出したとは言え、まだ心の整理が着いていない。そして一体どうすればこの『死のループ』から抜け出せるのかが分からない。



「セーブポイントは、何故か前回で変更されたから……、クソっ! 僕の記憶が……ラト姉とベルとの大切な記憶が……どうして……っ!!」

「可哀想なマスター……、しかもその『事実』を死ぬ度に言い渡されるなんて……シャルド、見てられません……!!」



 白シャルドはトラウマを思い出したシドを優しく共感し、労る。しかし黒シャルドは不機嫌そうな顔をした。



「まぁ、マスターも可哀想ですが、シャルドも充分可哀想です、? なマスターのせいで、どんなに助けようとしても殺されるんです、。 しかもマスターと違って『死罰』のペナルティがねぇです。つまり



 黒シャルドがシドを『無能』と言った瞬間、白シャルドの表情の雰囲気が変わる。

 シドはいつも優しい白シャルドが初めて見せた怒り、威圧的かつ圧倒的に強い魔素マナを纏った魔力オーラに驚いた。


「否、今すぐ、撤回して下さい……!! マスターは必死に頑張っているんです!! 『死のループ』を完全に記憶しているシャルド達を救おうとして!!」


 白シャルドがシドを擁護した。そしてシドはしばらく俯き、沈黙した。


「……いいんだ白シャルド、僕は確かに『無能』だ……。でも!そうだったとしても!! 理由は分からないけど、自分の命を犠牲にしてでも、僕を必死に助けようとしてくれているシャルドを!! 僕は……助けたいんだ!!」



 何度目かのループを重ね、シドが決意した思いはとても強かった。


 ──しかし、この『転生セイバーロード』には『死罰』という『3』というデメリットがある為、次のループではこの決意すら忘れてしまうだろう。



「マスター、その決意は認めてやります、。しかし、どうやってループ直後のリスポーンキルの詰みセーブ。初っ端から窮地ってのにあの状況を打開するんです? もう『策』なんてどうせねぇですよね? ……だってもう"10186回"も死んでんだ



「……──え?10186……って、言った?」



 黒シャルドから告げられたのは、シドの『死亡回数』。それはシドが。その背景で、『自身が見知らぬ死を遂げている』という事実を意味していた。


 その事実は『シド』という存在の全てを否定しており、彼の二つに折れた心を、四つに折った。


「……ぁあ、僕の記憶は偽りで……! 僕が生きてきた1週間さえも……死ぬ為に生きてきた……!?」


 辛い。悲しい。絶望に満ちている。だが、この状況に向き合わなければ、希望は見えない。

 そして、シャルドを助ける為には、それは必要な事。



「……策はもう尽きてる。逃げようとしても、村に放たれた炎が邪魔をして、どうしてもアイツらシスターと神父に遭遇してしまう。シャルドと一緒に戦おうとしても、勝てなかった……あのシスターが強すぎる」



 思い返せば様々な死に方をした。シャルドを守ろうとして刺され、炎に焼かれ、心臓を貫かれ、首は吹っ飛び、逃げても見つかり、炎が逃げ道を阻み、追いつかれ、そして殺される。



「というか、あの状況で『策』なんて思い浮かぶ訳が無い。。今『策』を考えたとしても『どうやって死んだか』『殺された相手』『自分に影の様な謎のPSYのうりょくがある』この3つの重要な死罰にリソースを割いているから、上手くいくか分からない『策』なんていう不確定要素にリソースを今更割けない……!」



 そして出た、シドの結論は──、



「戦う、しか……ない……っ」

「是ッ、正気でいやがりますか!?」

「否ッ、本気ですか!?」



 策も何も無い事に、2人のシャルドは「とうとう死に過ぎて私達のマスターがおかしくなった」と言う様に、同時に驚いた。


 だが2人のシャルドの驚きは間違ってはいない。

 全ての『死』と『記憶』をこの空間セイバーロードに来たことによって思い出したシドは、既に度重なる死と出来事によりイカれていたのだ。



「ちょっ、その本心を聞かせてくれないです、?!」

「まず……僕は、無力だ」



 シドがこの結論に至った要因。1つはシドの頭ではこの空間セイバーロードでどれだけ時間を使っても結局『策』なんて思い付かない。



「……あと、僕の影のサイキックPSY



 そして2つ目は、シドが記憶喪失で忘れていた『謎のPSYシャドウエディタ』。

 『謎の影を操る』という能力という事は幾度かのループで判明したが、まだ沢山の性質がありそうだった。


 なのでこれがどういった能力なのかは、正確には分からない。だが、期待値は高い。



「……僕が弱いなら、シャルドを頼ればいい」



 そして3つ目、『シャルドの戦闘力』。シドがループを繰り返していく中で、思い出した事があった。


 それは『シャルドはものすごく強い』という事。


 シドが見た限りでは、本来は1人1個の筈のPSYのうりょくを、シャルドは複数のPSYのうりょくで、どのループでもシスターと神父に善戦していた。


 しかも一人で、だ。



「あとは試行回数を稼ぐ、だけ……その結果が、『10186回』……か、……ッ!!どうすればいい!! シャルドを助けるには!?」



『あとは試行回数を稼ぐだけ』と思ったシドだったが、ここに来て『10186回』という信じたくない事実が、シドの決意の邪魔をする。





「ぁ──ラト姉だったら、どうしているんだろうか?」





 ふと、自身が目指す『理想憧れの背中』の姿が頭に浮かぶ。の記憶だったとしても、その記憶の中で見た憧れの背中、姉に対するシドの思いは真実だった。


「っ……ラト姉っ……!! 会いたいよぉ……!!」

「子供だけど子供っぽく泣かねぇで下さいマスター、これからマスターは戦うんです、?」

「否、マスター。シャルドが付いてます!どんなに死んでも励ましてあげますよ!」


 その白シャルドのシドへの励ましに黒シャルドは「それはねぇ……」と言った感じで、もうシドには死んで欲しくない様子だった。



「……ラト姉だったら、こんな時は──」



 シドの決意は確固たるモノへ──。



「笑って立ち向かってるハズ!!」

「その意気です、マスター!!」

「否、頑張ってください!」



 現在、シドの心情はグチャグチャだった。突如、トラウマが再度フラッシュバックして、胃液が込み上げるが、飲み込む。



「ッ……はぁ、こんな事言ったけどやっぱり辛いよ…………──でも、生きてる。……まぁいっぱい死んでるんだけどね……。でも『命以外』は大丈夫、精神とかは折れてないし、死んでない。ラト姉のおかげだ!!」



 中学生が背負っている。何故か、背負い切れている、だが本当はもう限界なのかもしれない。

 コレを『セカイを恨んだ最弱の少年が、無限の死を遂げ最強となる。もしくはセカイの美しさを知る』そんな内容の……、タイトルをつけるならば『シャドウ+ワールド』だろう。そんな小説として出版したら、きっとベストセラー間違いなしだろう。


(それはホントにねぇです、是)

(否、同感です。もしかしたら、もあるかもしれませんが同感です)



 マ……ジか……。



「よーし!一か八か!それを『無限』に繰り返せば、どんなに『最弱』でも、『最強』だよね!」



 ぼうけんを さいかいする?


 YES ←

 YES


 Now Loading…



「否、──……」



「「逝ってらっしゃいませ!マスター!」」



「……──です、是!」



 そうして少年は、少女と共に、10186回の『セイバーロードセーブ&ロード』を再度、歩き出した。


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