→02_step!_UNDER.「依頼完遂の連絡と反逆」

シドの能力が覚醒?したのと同じ頃。

 路地裏、月の光が刺すアウトキャストの寂れたアジトにて着信音が鳴り響く。


「チッ……終わったぞ、カス女」


 白髪ロンゲの少年は不満そうに暴言を吐き、通話相手に怒りを漏らす。


「──さすがにカス女は……傷つくな……」

「黙りヤガレッッ!!こちとら前居たとこのかわいいバカ共ぶっ殺して!気ィ立ってンだ!!金は倍じゃなくて10倍にしとけやクソッ!」

「!? ちょっと待て、数人は生かしておいたか?! 実験に使──」

「死ねッッ!!!!クソがッッ!!!!」


 通話相手に茶化され少年は逆上。

 そうして少年はスマホを地面に叩きつけ破壊し独特な方法で電話を切る。


「──マジで殺す。あんのクソカス女ァ!」


 少年の怒りはそれでも収まらない。


「ンだよ!ガキいじめられているからオレに慕ってくれたバカ共ぶっ殺せッて?!理由がしょうもなすぎンだろ!バカにしてンのか!?」

「チッ、……いいぜ決めた。ガキもぶっ殺す。そうだよなァ!バカ共!!」


 少年の問いかけには、当然誰も答えず再びの静寂。


「……つまンねえ、が後はタダ殺すだけ。そう殺すだけ……そうだ冷静になれよJ.J……ッァアアアッ!イラつくぜぇ!!!殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すううううううアアアアアアアアッッッッッッ!!!!」


 止まらない殺意は無尽蔵に増幅し、周囲の物体を浮かせ、高速で壁に叩きつけ破壊八つ当たりする。



「アァ!ガチでゼッテー殺してやる。クソがッ!」



 ◇



 少年は暗い夜道を歩く。ただ理由無く歩いている訳ではなかった。


「アァ!クソ!カス女はどこにいんだよォ!?」


 暗殺を依頼して来た女性。その居場所を探していた。その目的とは?──。

 自身のスマホを壊してしまった為に、依頼主の電話番号を、少年は忘れてしまっていた。

 その少年は復讐心を滾らせ、歩いていく。

 情報も何も無いまま。


 そして、少年が向かったのは、無法地帯であるAREA.XIエリア:11の路地裏、とあるマンホール下の違法隠れ酒場だった。ここでは年齢関係なく、不良やの人々が集まる。その為、情報を探るのにはうってつけの場所だ。


「──ようこそ!アンダーグラウンドへ!コレであなたも☆  レッツゴー!アンダーグラウンド☆」


「チッ、だりィ」


 薄暗い秘密の地下道にはあまりにも似つかわしくない程に明るい機械音声が響き渡る。


「あいことばを教えてね☆」


 そしてその直後に先程とは違う意味で響く、低い声が下水道を鳴らした。


「……合言葉は?」

「マジ、うっせェンだよ」


 少年は手馴れた手つきで能力を使い、ドアのロックを破る。


「よよよううこソそ?アあンン!ダー@ググララ??ン!ドド、?へへへへへ」


 壊れた機械音声は不気味に響く。ようやく薄暗い雰囲気に相応しくなった様だ。


「おめェサンよぉ!毎度毎度、ドアぶっ壊すんじゃねぇよ!!私の大好きな『魔法少女プリズム☆ライト』ちゃんの声をわざわざ加工して作ってんだよ!!」


 低い声の主。髭面のハードボイルドな風貌のマスターが少年に向かってキレる。


「黙れよォ!?あれウゼェし趣味わりぃンだよ!毎回毎回!!ああムカつくゼェ!!」


 それに歯向かう様に、少年もマスターに向かってキレる。


「……チッ、もういい、何飲む?」

「アァ!?いつものォ!」


 少年は不満ながらにいつものバーボンのロックを注文する。

 一方、マスターは注文を受け取り、少年がいつも飲んでいる飲み方を提供する為に気怠けだるそうにグラスに氷をそのまま入れ、棚から炭酸水を探す。


「ジャック、おめェサン……アウトキャスト、辞めたんだってな?」

「ああ、半年前にな。バカバカしいが喧嘩別れだ……けど解散はしてねェ、無理矢理継いでもらったオルガには流石にわりィと思ってる……どうなってンだろうな、今のアウトキャスト」

「珍しいじゃねぇか、おめェサンがそんなこと言うの」

「アイツらも……オレと同じなんだ、だから、情が出ちまう。まァ、ジジイのおかげってやつだ。感謝してる」


 マスターは少し俯いて、深呼吸をしてから顔を上げた。


「──オルガは、もう辞めたらしいぞ」

「…………そうかぁ、良かったなぁ」


 J.Jは両手で顔を隠す様にカウンターにうつ伏せになる。


「はァ、あいよ」


 マスターはグラスに注文されたブランデーを適当に注ぎ、棚から見つけた炭酸水もまた適当に注ぎ、少年に提供する。


「オイ!ジジイ!さっきから何だよ!もうちょいやる気出せよ!?殺すぞ!?」

「黙れガキ!こっちは命賭けて、この店営業してんだよ!!だいたい今日はもう営業時間過ぎてんだよ!閉業ギリギリに来やがって、ボケ! 前の『借金』とドア代の『倍額』!キッチリ払えよテメェ!?」


 少年によって、見事にぶっ壊されたドアは無防備に開いている。これでは風紀委員の目を掻い潜れない為に、しばらく営業出来なそうな様子だった。そしてその事にキレるマスター。


「あ、それは払えそうだわ(笑)」


 少年はマスターの怒りを受け止めた。そして突然、場は静寂に戻る。


「……依頼か?」

「ああ、過去最高額だ。ンでもなぁ!」

「でも……何だ?」


「依頼内容が!!『自分の子供の中坊のガキいじめたアウトキャストのグループを殺せ』ンだとよ!!こんな大金カネはたいてまで!?狂ってるだろ!?舐めやがって!!」


 長年、NOAHの闇社会に居たマスターでも、あまり聞いた事の無い依頼内容だった。

 その為マスターは興味津々で聞いた。


「それで……受けたのか?」

「そりゃ取ンだろ?当然。思い出かカネなら、オレはギリ僅差でカネを取る。ていうかやんなきゃ、消されンだろ」

「それでは私も近頃、義理の息子のお前に殺されるのかな?」


『カネは思い出よりも大事』と答えたJ.Jに対し、少しショックを受けたマスターは質問する。


「まァ……ねェとも言いきれねェな」

「てめェ、しばらく出禁な?」


 借金とドアの弁償代を約束したとはいえ、必ずしも返すとは言い切れない。実際に高額の借金を未だ返済されない事がそれを物語っている。

 その恨みと言わんばかりの出禁という罰。


「チッ……んで依頼主のカス女。ジジイ知らねェ?ヒントは女教師、ンあとSTAGE1の息子が居る。そんなサイコヤンデレ女」

「私が毎日のように情報が集うバーのマスターで元教師とはいえ!無理があるだろ!ふざけんな!」


 情報が少なすぎる為、マスターは一度断る。


「ガチで使えねェな?……殺すぞ?」

「さっき『殺すかも』つってから、早すぎるんだよ!ちょっと待ってろガキ、今思い出すから」


 マスターは棚からノートパソコンを取り出し、広げてダークウェブで人物の検索を行う。

 しばらくしてマスターの手が止まる。検索は終わった様だ。


「おっと……こりゃ大物じゃねぇか?」


 マスターは少年に画像しゃしんを見せる。


「コイツか?本当なんだな?!嘘だったらマジで殺す」

「チッ!ああ、もう行け!もうどうにでもなれってんだ!────あ、オイ!待ちやがれガキ!」


 代金は置かずに無言で少年はバーを出る。未だに不気味な音を発するマンホールを背に、朝日を浴びる少年の表情は、どこか少しだけ、ほんの少しだけ、嬉しそうだった。


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