49.幼い女神と大いなる流れ
『ふぇありぃ王国』は次なる一手のための布石。
堅実な作品で会社としての足場を固め、第三作目の超大作で妹達をギャフンと言わせることこそが、ウル神の恐るべき企みであったのです。
『ははは、それはそれはギャフン』
『うんうん、是非とも頑張って欲しいのですよギャフン。これで満足なのです?』
『そんなのじゃ全然すっきりしないの! まったくもう、今に見ているのよ!』
そんな野望を当の妹達に向かって直に言ってしまうあたり、なんだかんだと仲良し姉妹ではあるのでしょうが。ちなみに、ここは都内某所にある回転寿司チェーン店。この日は日曜日とあってか店内の子供客も数多く、ウル達の姿も周囲からあまり浮いていません。
『へえ、タッチパネルで注文するんですね。では、我はこの炙りトロサーモンを』
『モモはサイドメニューから攻めてみるのです。ラーメンだけでも結構あるのですね』
『ふっふっふ、
とはいえ、目立っていなかったのは最初だけ。
小さな身体でモリモリと、一柱当たり三ケタ枚数もの空き皿を積み上げていれば、自然と注目を集めてしまいます。客の中には彼女達が神様だと知っている人もいたようで、大胆にも彼女達に握手や写真撮影まで求めていました。
『やれやれ、しょうがないの。プライベートで食べてる時に』
口ではそんなことを言っているウルも、チヤホヤされて内心では悪い気はしていないのでしょう。丁寧に一人一人と握手をし、サインを描き、ツーショット写真の撮影に応じていきました。ウルはこう見えてファンサに熱心なタイプの神様なのです。
『でもね、超大作といってもなかなか難しいの』
『それはそうでしょうね。我々もこちらに来てから半端に齧った程度ですけど』
ようやく話題がゲームに戻ってきたのは、サイン待ちの行列が落ち着いて、彼女達がデザートのケーキやアイスを食べ始めた頃。
『最初は普通にファンタジーRPGでいいかなって思ったんだけど、それだと「ダンジョンワールド」と方向性がモロに被っちゃうというか』
『ああ、自社タイトル同士で利益を喰い合うような状況はちょっとマズそうなのです』
『そうそう、会社の人達もそんな風に言ってたの』
第三作目の制作自体は『ブイブイゲームス』社内でもあっさりゴーサインが出たのですが、その方針については前作以上に混迷を極めていました。
大作路線は大いに結構。しかし、それが既存の自社タイトルと被ってしまっては、結果的に自分達の首を絞めることにも繋がりかねません。
『似十堂』に幾らかユーザーを奪われたとはいえ、『ダンジョンワールド』は依然として『ブイブイ』の収益の柱。それが揺らぐような方針は避けたいというのが社内の総意でした。
『まあ我だって絶対にRPGがやりたいってわけじゃないから、そこは別にいいんだけど、じゃあ代わりに何をすればいいかっていうと悩んじゃうの』
チョコレートケーキの合間にしめ鯖の握りを摘まみながら、ウルは悩ましい表情を浮かべています。普通は何か具体的に作りたいゲームがあって、それが結果的に超大作になるワケですが、ウルの場合は超大作を作るという目標が先にあって、後から肝心の中身を考えているのです。これではスムーズに決まらないのも当然でしょう。
『その食べ合わせはどうなんですかね? まあ物は試しで』
『モモはもう一杯ラーメン頼むのです』
ゴゴ達の頭の中には『似十堂』で開発中の未公開タイトルに関する情報もありますが、ウルだって別にそれを教えてもらいたいわけではないのでしょう。
必要となるのは、ちょっとした発想のキッカケ。
ブレイクスルーは、いつだってすぐ目の前に眠っているのです。
『……あれ、お寿司が流れてこなくなっちゃったのよ?』
三柱がハイペースで食べ過ぎてしまったせいでしょうか。
恐らくは一時的なものでしょうが、回転寿司のレーンに新しいお皿が流れてこなくなってしまいました。ベルトコンベアが回っているのに肝心のお寿司が流れて来ない光景には、なんとも物寂しいものがありました。
まだまだ食べ足りないウルは、仕方なくお茶とガリで間を繋ぎながら空のレーンが流れていく様を何とはなしに眺めていたのですが……。
『はっ、閃いたの!』
まるでガンジス川の流れを眺めて悟りの境地に至った高僧のように、ウルは回転寿司のベルトコンベアの流れから何かのヒントを得たようです。
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