48.幼い女神の次なる野望
β環境下でのテストは大きなトラブルなく無事終了。
上がってきた意見の反映やチェックに費やしたのが一週間。
そこから更に一週間後、ようやく『ふぇありぃ
『なんでなんで、あんまり売上が伸びてないのよ!?』
その売れ行きは最初から絶好調……とはいきません。
まだまだ作品数の少ない『ゲームの世界に入れるゲーム』ですから、その新作というだけでそれなりの注目と売上を確保できてはいましたが、いずれも『似十堂』の現行四タイトルに負けています。
遊んでみたら確かに面白いものの派手さに欠ける。
重厚なストーリーも迫力ある戦闘もない、平和的でのんびりとしたゲーム。
ゲームに限った話ではないけれど、そうした作品はどうしても話題性の面で弱くなってしまう傾向があるのでしょう。
動画サイトやSNSでも他の人気タイトルに話題を持っていかれがちに。そしてゲームの話題性と売上本数というのは、基本的に正比例の関係にあるのです。
とはいえ、この結果は『ブイブイゲームス』としても織り込み済み。
なにしろ本作の隠れたコンセプトは、ユーザーがメインで遊ぶ大作の合間に、短時間でちょこっと触ることを想定したサブ・ポジション狙いなのです。メーカー側が想定している一日当たりのプレイ時間は、十分から長くて一時間くらい。その「軽さ」の価値にユーザーが気付いてからが本当の勝負と言えました。
そして案の定。
『ふっふっふ、我は最初からこうなるって分かってたの!』
ウル以外の『ブイブイ』スタッフには最初から予想できた展開ですが、発売後しばらく経ってからジワジワと売上が伸び始めたのです。ゲームショップや家電量販店の棚にあった在庫が少しずつ減り続け、追加発注分もまた同じように少しずつ。
メイン級の大作を三つも四つも並行してやるのに疲れてきたゲーマーや、仕事や学業が忙しくてボリュームたっぷりの大作に手を出す余裕がない人。それから意外にも一番多かったのが、『ゲームの世界に入れるゲーム』に馴染みのないライトゲーマー層。それも小学生以下の低年齢層に大きく当たったのです。
これには、いくつかの要因が考えられます。
まずは『ふぇありぃ王国』世界に戦闘要素が存在しない点。
『似十堂』の恋愛ゲーム『エターナル愛ランド』の時にもあったことですが、ゲームに慣れていない人達にとっては、戦闘要素が存在しないことが大きなアピールになるようなのです。
なにしろ全部本物なので『ゲームの世界に入れるゲーム』は、何から何までリアルになりがち。それは強力なアピールポイントであると同時に、少なくない数の人間を作品から遠ざけてしまう要因にもなり得ます。いくら安全が保証されているとはいえ、誰もが武器を振り回して恐ろしい怪物に立ち向かいたいわけではない。ヘビーゲーマーほど忘れがちな感覚ですが、そう考える人は決して少なくないのでしょう。
次に挙げられる要因は、上記とはまた違う意味での安心感。
単に戦闘がないというだけなら先に例として挙げた『エタ愛』でも良さそうなものですが、恋愛を主軸とした作品を買うのが恥ずかしいと感じる人は決して少なくない。あるいは、親が我が子に買い与える際の抵抗感は少なからずあるのでしょう。
子供向けホビー全般に言えることですけれど、実際にお金を出すのは多くの場合、子供本人ではなくその保護者。それゆえに親に対して与える安心感というのが商品の売れ行きを大きく左右するのです。
その点、可愛い妖精と穏やかに過ごす『ふぇありぃ王国』なら、ゲーム初心者や低年齢層にもぴったり。親御さんも安心です。
当のプレイヤーたる子供側からしても、特に人形遊びやおままごとを好む小学校低学年以下の女児の間では、メーカーの想定を超えるほどのブームが起こりつつありました。
『へー、そっちの通りは全部食べ物屋さんなの?』
「うん、まずクレープ屋さんでしょ。それからお寿司屋さんにケーキ屋さん。今度はピザ屋さんを作るんだ」
『おお、どれも美味しそうなの!』
「うん、美味しいよ。ママやクラスの友達にも評判いいんだから」
ウルが訪ねた一般女児プレイヤーの『王国』などは、まだ国土の八割が初期状態の荒れ地であるにも関わらず、国の中心部付近にだけやたらと食べ物屋が充実しており多くの妖精達で賑わっています。
プレイヤーが作った国は、メニュー画面の操作で発行されたフレンドコードを送ることでリアルの友人や家族を招待することも可能。こうして自慢の国を見せ合えることが、少女達の競争心とプライドを適度に刺激しているのでしょう。
「お寿司屋の妖精さん、せっかくだからウルちゃんに何かご馳走してあげて?」
『我もお寿司は大好きなのよ。何か良いネタは入ってるのかしら?』
『まよこーん』
『たいしょー、よわみひとつ』
『あいあい。よわみをにぎります』
何しろ自分自身が女児なので、ウルは小さな子供と仲良くなるのが大の得意。
元々、様々な形で顔が売れていたおかげもあって、いきなり押しかけても大抵はすぐに仲良くなれます。
大人のスタッフがいきなり押しかけては相手も身構えてしまうので、自然体の意見を聞き出せるウルには運営側もずいぶん助けられていました。
これまでは主に月額課金制のハードルにより『ゲームの世界に入れるゲーム』のユーザー年齢は、既存ハードと比較してもかなり高め。アルバイトや会社勤めをしている十代後半以上のプレイヤーが大半でした。
もちろん低年齢のプレイヤーが『ダンジョンワールド』初期の段階からいなかったわけではないのですが、定期的な収入やクレジットカードの有無を考えると、そこはどうしても仕方がありません。
しかし『ふぇありぃ王国』の登場によって、ジャンルの対象年齢が従来よりも一気に拡大。これが今すぐ何かに影響を与えるということはなくとも、数年後から十数年後には彼女達が同ジャンルの別タイトルに手を伸ばすことだってあるかもしれません。ゲーム業界の将来を鑑みる上では、なかなか有意義な動きだったのではないでしょうか。
◆◆◆
まあ、そんなこんなで『ふぇありぃ王国』はジワ売れし、なかなかの存在感を発揮するようになってきたのです。そうなってくると次にウルが考えるのは……。
『さあ、勝って兜を締め潰すの。グシャって! すかさず第三作目の開発スタートよ!』
「ウルちゃん様、緒!? 締めるのは兜の緒だけ!」
『そうとも言うの』
発想の転換による、従来のヒットタイトルと共存可能なサブ・ゲーム。
それがまずまずの成果を出したとはいえ、本来すごく負けず嫌いなウルが、これだけで良しと考えるはずがありません。
堅実路線の『ふぇありぃ王国』でまず会社の地盤を固めたのも、全てはこの時のため。今度は正反対の大作志向で大ヒットを出して、真正面から『似十堂』と妹達にギャフンと言わせる。そんな野望がとうとう動き出したのです。
『それで、誰か良いアイデアはないかしら?』
例によって、肝心の中身についてはまだまだノープランなわけですが。
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