43.幼い女神の本格始動


 『似十堂』の新作残り二つ……は一旦置いておくとして、ここは『ブイブイゲームス』の会議室。ライバル社の新作がいずれも記録的な大ヒットを達成し、それに伴って主力タイトルである『ダンジョンワールド』の顧客離れの危機を実感したばかりということもあり、誰も彼もあまり心穏やかではいられない状況です。


 事前に予測できたことではありますが、実際にプレイヤー数が顕著に減った『ダンジョンワールド』世界を眺めてみると、想像以上にショックが大きかったのでしょう。



『――――でね、そんな風なことをカステラのお姉さんに教えてもらったの』



 そんな状況だからこそ、第二作目の開発に関してウルが示した指針は『ブイブイ』スタッフから、大きな注目を集めることになったのです。


 大作に対して大作をぶつけるのが正しいとは限らない。

 あえてライトな作風を目指して差別化を図るのはどうだろうか、と。


 それ自体はゲーム業界においては特に目新しい戦略とは言えません。

 当の『ブイブイゲームス』にしたって、かつて社運を賭けた超大作がコケて苦境に陥り、現社長に救われてからは手堅い小規模タイトルで堅実に稼いでいた時期もあったのです。


 ですが、やはり『ダンジョンワールド』が良くも悪くも衝撃的に過ぎたのでしょう。以前はあったはずの視点や思考の柔軟性がいつの間にやら失われ、かつて築いたノウハウを応用することができなかった。無意識のうちに超大作志向に縛られていたものと思われます。



「なるほど、たしかにそれはアリだ」


「メインに対するサブか。カステラちゃん、鋭いこと言うなぁ」


「スキマ時間にちょっと遊べるような感じかな?」



 そうして思考の取っ掛かりさえ掴めれば、そこから先は流石プロ。

 ウルが『ギンビス』のたべっ子どうぶつをサクサク食べている間にも、どんどん新しいアイデアが出てきました。

 メインに対するサブ・ゲームの座を狙うなら、ワンプレイあたりの拘束時間は短めに。ログインするのは一日に一度か二度、短ければ十分前後、長くとも一時間以内にはプレイを終えて、無理なくメインと共存できるようにするのがよいでしょうか。



「会社の昼休みにゲーセンでワンコインだけ対戦してくる感じとか」


「朝の出勤前にソシャゲのデイリーミッション終わらせるみたいな?」


「面白さって点ではもう一声欲しいけど、お手軽さっていう意味ならそれくらいを目指してもいいかもね。やることがハッキリしてるのは悪くない。ユーザーの習慣に組み込んで毎日ログインするようになればベストかな」



 少し前に『ゲームの世界に入れるゲーム』に適したジャンルがどういったモノかを考えたばかりですが、短時間プレイでも満足感を得られるジャンルというのもそれなりに絞られてきそうです。


 格闘ゲームやレースゲームは一試合や二試合だけなら可。

 ストーリー付きのRPGはあまり向いていなさそうです。

 スポーツゲームは、野球やサッカーの試合を時間いっぱいやろうとすると拘束時間が長引きがちですが、回や時間制限を制限したミニゲームなら短時間でもそれなりに楽しめるかもしれません。



「放置系ソシャゲでよくあるヤツみたいに、プレイヤーが放置してる間もキャラが勝手に戦ってレベルが上がってるのとかは?」


「ログイン時間外でも勝手にってのは悪くないけど、それなら戦う系より街や村が発展してくヤツのほうが向いてないすかね。こう、プレイヤーが出した指示通りに住人のNPCが建物とか畑を増やしたりする感じで」


「それでログイン中は発展した街の中を自由に歩けるようにすれば、体験型である意味もちゃんとあるし悪くないんじゃない?」


「そんなら自分が遊んでない時にも、スマホの連携アプリとかで住民の働きぶりを見れるようにするのはどうかな。いや、ブラック企業の上層部が現場を監視してるみたいでちょっとアレかもだけど」



 実際に採用するかどうかはさておいて、こういう風に新しい意見がどんどん出てくる状況というのは悪くありません。また先日からコツコツやっていた、漫画やライトノベルやアニメを教材としての勉強会の成果も出てきました。



「そういや、ちょっと前に読んだ小説に、ゴーレムだか使い魔だかに指示を出して街作りをやらせるのがあったような。ええと、どれだったかな?」


「あ、それ私も読んだわ。石とか土のゴーレムじゃイマイチ可愛さが足りないし、そこはカワイイ系の妖精とかでもいいかもね。あとは動物系?」


「だとすると、プレイヤーの設定はそういうのを召喚して使役する魔法使い兼領主とか? 領地運営モノって序盤のまだ発展途上のうちが一番楽しいよね。そのワクワク感が長く持続するようにできればベストなんだけど」


「プレイヤーが毎日チェックしたくするなら、街の発展スピードはかなり早くないとダメっすよね。作業するのが妖精とか精霊なんかの不思議存在なら、リアルな人間型だとリアリティ的に不自然になりそうな部分を、上手いこと不思議パワーってことで片付けられそうっす」



 漠然としたアイデアも、話し合いが進むうちに明瞭な輪郭を帯びてきました。

 まだ本格的に決定したわけではないのですが、スタッフ達の意見は街作りをするシミュレーションゲームで固まりつつあるようです。既存ハードでもそれなりに根強い人気があるジャンルですし、自分が作った街を自分で歩き回れるとなれば『ゲームの世界に入れるゲーム』である意義もバッチリ。

 プレイヤーは日に一度か二度ほど部下となるNPCに指示を出して、実際の作業については任せて待つだけ。それならばプレイ時間の短縮という条件も満たしています。メインの片手間でやるサブ・ゲームとしてなら、その「軽さ」がかえってメリットとして働くはずです。



『うんうん、みんな頼もしいの。じゃあ、この方向で明日から本格的にやっていくのよ!』



 と、そんなこんなで『ブイブイゲームス』の第二作目は、いよいよ本格的に制作スタートとなったわけです。




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