42.幼い女神の格闘都市


 超体験型格闘ゲーム『フィストシティ』!

 全ての住民が喧嘩ストリートファイトの強さによってランク分けされ、強者には一等地の豪邸と豊かな暮らしが、弱者は荒れ果てたスラム街で明日をも知れぬ日々を過ごす街。

 そんなイカれた街に新しくやってきたプレイヤーはスラムのボロ小屋からスタートして、少しずつ実力と生活のランクを上げながらシティの頂点たるキングの座を目指していく……というのが、『拳シティ』のストーリーモードにおける大まかなあらすじです。



『やはり、ホラー系はなんだかんだと人を選びますからね。プレイ人口は大体あちらの倍くらいといったところですか』


『ちょっと小腹も空いてきた頃合いですし、そこらのお店で一服しながら見学するのがいいと思うのです』



 ホラーに続いて格闘ゲーム世界の視察に来たゴゴとウルは、シティのメインストリート沿いにあるハンバーガーショップの店内から、窓越しにプレイヤー達の様子を観察していました。

 食べているのは分厚いパティとチーズが挟まったチーズバーガーに揚げたて熱々のフライドポテト、キンキンに冷えたコーラという定番の組み合わせ。食事の味がプレイヤーの満足度を大いに高めるというのは『ダンジョンワールド』でも実証されていましたし、『似十堂』の各新作タイトルもそのあたりには非常にこだわっているのです。



『おやおや、皆さん早速やってますね』


『うふふ、創っておいてなんですけど、治安が終わりすぎてて一周回ってウケるのです』



 彼女たちが窓越しに眺めている道路上では、プレイヤーと敵NPCが入り乱れての大乱闘中。基本は一対一タイマンを想定したゲームではありますが、常にそればかりとは限りません。

 ゲームモードによっては不意討ち、騙し討ちもオールOK。一応、素手の縛りはあるので普段から武器を持ち歩くことはできませんが、たまたま近くに落ちていた石ころや割れたビンを有効活用する分には大いに結構。それもまた路上格闘の醍醐味です。


 あくまで一対一の正々堂々とした戦いが好みなら、例によって選択したモードによって別次元での住み分けができるので、そこは各プレイヤーが気分や操作の習熟度に合わせて自由に選ぶのがよいでしょう。



『おや、あの白い道着の方は動きが良いですね。たぶん空手か何かをリアルのほうで嗜んでらっしゃるんでしょう』


『うんうん、あれならストーリーモードのクリアまでは早くて半月くらいだと思うのです』



 まだサービス開始初日とあってか、NPC相手でも苦戦しているプレイヤーが少なくないようですが、例外的に良い動きを見せている者もチラホラと見受けられます。『ダンジョンワールド』で架空の肉体を操作する感覚に習熟しているゲーマーや、ゴゴが注目した人物のような現実での格闘技経験があるであろうプレイヤー。

 そういった人々にはストーリーモード序盤の、あえて弱めに設定してある敵NPCではまるで歯が立たないようです。この調子ならば、早ければ明日か明後日くらいにはゲーム内に自分の持ち家が持てるところまで進めるでしょう。


 都市内での強さランキングが上昇すれば良い場所に拠点となる『屋敷』や『道場ジム』を構えることもできますし、定期的に振り込まれてくるゲーム内資金の額も上がって、買い物の選択肢も増えていくというわけです。



『まあ、ストーリークリアまでが実質的にはチュートリアルみたいなものですが』


『そうそう、やっぱり格ゲーの華といったら対人なのですよ』



 ストーリーの大ボスたるNPCを倒して、見事にキングの座を手に入れる。

 ある意味ではそこからが本当のゲームの始まりです。


 ボスを倒して安心したと思ったのも束の間、クリアと同時に二百階以上もある塔がラスボスの居城跡地にタケノコの如く地面からニョキニョキ生えて出現。正確にはクリア後専用の別次元へと移行し、闘技場を縦にいくつも重ねたような建物で、実質的なチュートリアルたるストーリーモードをクリアしたプレイヤー同士での順位争いが繰り広げられるという仕組みです。


 闘技場の種類は多種多様。

 手や膝を地に着けたら残体力に関係なく即敗北の土俵リング。

 トゲ付きの壁が四方から迫ってくるトラップルーム。

 マグマの海に点在する細い足場を伝って戦う死の空間。

 思うように動けない高重力や無重力の試合場など。


 主に二柱が日本のマンガから着想を得た戦闘空間が選り取り見取り。

 都市内のストリートファイトとはまた違った趣を楽しめるでしょう。


 またプレイヤーが使用可能な必殺技は、特定の敵NPCを倒したり街中の道場に通って設定されたミッションをクリアすると増えていくシステムなのですが、中にはこの塔の高層階に進むことでしか獲得できないレアスキルも存在します。もっとも、レアだからといって必ずしも強いとは限りませんが。



『ふう、ご馳走様でした。ところで、モモ。物は相談なのですが』


『うふふ、モモはちゃんと分かっているのですよ。プレイヤーの人達を見てたら、だんだんウズウズしてきちゃったのですよね?』


『それなら話は早い。どうです、食後の腹ごなしに軽く一戦?』


『うん、付き合うのですよ。この世界を壊さないように手加減しないとですね』



 まだ視察の途中ではありますが、楽しんでいるプレイヤー達を見ていたらゴゴもモモも少々血が騒いできてしまったのでしょう。もちろん彼女たちが本気で戦ったら、せっかく創ったゲーム世界が壊れてしまうので手加減に手加減を重ねる必要はありますが。




「なになに、すごい人集まってるけど何かあんの?」


「ほら、例のウルちゃん様の妹ちゃん達いるじゃん。あのコ達がケンカしてるっぽい」


「ちげーって、ケンカじゃなくて試合だっての! ほら、見てみ、上」



 プレイヤー達が見上げる先には、高層ビルを駆け上がりながら打撃の応酬を繰り返す二神の姿が。壁面を蹴って隣のビルに飛び移り、間合いを詰めたり離したり。接近時にはパンチやキックの応酬で激しく火花が散っています。

 どちらもゲームのプレイヤー準拠の身体能力にまで大幅に力を制限していますが、それでも完璧に使いこなせばこの程度の芸当はできるのです。今日ゲームを始めたばかりの人々には、まだ当分は無理な芸当でしょうが。



『おや、いつの間にか見物の方があんなにも』


『うふふ、これはちょっと負けられないのです』



 食後の腹ごなしで始めた試合はプレイヤー達によって撮影・配信され、各種SNSや動画サイトでそれはそれは大きくバズり散らかしたのでありました。。


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