41.幼い女神と恐怖の古城
ちょうど、ウルがお汁粉で飲んだくれていた頃。
当然ですが『似十堂』の新作ゲーム世界は大変な賑わいを見せていました。
『おや、また悲鳴が。それに笑い声も』
『うふふ、やっぱり新モードの追加は正解だったのです』
ウルの妹であるゴゴとモモが現在いるのは、ホラーゲーム『キャッスル・オブ・ザ・テラー』の舞台である古城。もちろん古城といっても見た目がそれっぽいだけで、実際には築数ヵ月の新築なわけですが。
ゲームの舞台となる城の大きさは、ほぼ東京二十三区と同じくらいの面積。
単一の建物としては異常な規模ではありますが、かの『ダンジョンワールド』のサービス開始当初の総面積が北海道ほどもあったことを考えたら(何回かのアップデートを重ねて、現在は北海道に四国と九州を合わせたくらいに拡大しています)、相対的に常識的なサイズと言えましょう。
「ヒィッ!? また敵……って、子供? あっ、神様か!」
『はい、神様です。わざわざ発売日から遊んでくれてありがとうございます。楽しんでもらえているといいんですけど』
「めっちゃ楽しいっす! でも、めっちゃ怖いっす!」
ゴゴ達がこうしてゲーム内を歩いているのは、プレイヤーの生の意見を聞くため。プレイの邪魔をしないよう敵に追われているような緊急性が高い場面では姿を隠し、比較的安全そうな状況ではこうして直接顔を合わせて話を聞いているのです。
『反応は概ね良好、と。いやはや、自分達の創ったゲームを楽しんでもらうというのは、存外に嬉しいものですね。姉さんがあれだけ夢中になるわけです』
『とはいえ、まだ表側のヒトからしか話を聞いてないですからね。そろそろ裏側に足を運んでみるのです』
モモがそう言うと、二柱の神はその場から忽然と姿を消した……ように見えました。ウルも『ダンジョンワールド』でやっていたように、この城にはいくつかの別次元が重なり合っており、プレイヤーの状況次第で見えている景色が様変わりするのです。
「グオォォォ、待てやテメェゴラァ!」
「おんどれ、いてまうどワレェ! ……って、あら? そこにいらっしゃるのは配信に出ていらっしゃった神様ではありませんこと?」
「あら、本当だわ。ごきげんよう、ゴゴ様、モモ様」
「ごきげんよう。いやだわ、わたくしったら神様の前ではしたない言葉遣いを」
『やあ、どもども。そんな気にする必要はないのですよ。ゾンビになって人を襲うの、楽しんでもらえてるのです?』
「「ええっ、もう最高ですわ!」」
α版の段階では入っていなかった『キャッスル・オブ・ザ・テラー』の目玉要素が、このモンスター・モード。まずは人間の生存者としてある程度ゲームを進めると解放される要素で、読んで字の如くゾンビや殺人鬼となって他の人間プレイヤーを襲うことができるのです。
力いっぱい嚙みついたり引っ掻いたり。凶器になりそうなレンガやガラス片、火かき棒などを使うのも当然アリ。一旦死んだフリをして油断させたところで背後からブン殴るのもいいでしょう。
こちらの次元では普通に仲間と話していても、別次元にいるプレイヤーにはワケの分からない呻き声としか聞こえませんし、姿も恐ろしげなモノに見えています。パッと見は敵NPCとの見分けも付かないので、どうせ中身が人間だからと見透かされて興を削がれることもありません。
現にモモが聞いたところによると、目の前の屈強なゾンビ達の中身は名門お嬢様学校に通う花の女子高生二人組。日々の習い事や勉強で溜まったストレスを解消するのに最高だと、大いに気に入っている様子でした。
『人間モードでゲームを進めれば選べるモンスターの選択肢がどんどん増えてくので、気に入ったなら両方のモードをバランスよく進めていくのがオススメなのです』
「はい、モモ様。お気遣い感謝いたしますわ」
「あら、あんなところに生存者の方が。では、これにてごきげんよう……テメェ、待てやコラァ! ブチ殺してさしあげますわぁぁ!」
『うんうん、とっても楽しそうで何よりなのです』
あえて発売前には隠していた情報ですが、モンスター・モードの情報はもう今日中にはネットに出回ることでしょう。様々なモンスターの種類やその解放条件の考察など、プレイヤー間で大いに盛り上がることが予想されました。
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