37.幼い女神の反省会
ゴゴとモモが手土産として置いていった『似十堂』の新作ソフト。
それらが『ブイブイゲームス』に与えた衝撃は想像以上のものがありました。
まずはゾンビや殺人鬼が徘徊する古城を探索して脱出を目指すホラー。
「ギャアァァ、怖い怖い怖いって!」
まるで映画の世界の登場人物になったかのようですが、ゾンビが漂わせる腐臭や流れる血のヌメりは到底映画では味わえません(一応、プレイヤーが本気で気分を悪くしないよう、臭気やグロテスクな描写は現実の人体より控えめにしてあるようですが)。
『ダンジョンワールド』と同じように仮想の肉体を操る方式でなかったら、敵キャラに襲われるよりも先に恐怖で心臓が止まっていたかもしれません。それだけに上手く敵を出し抜いてステージをクリアした時の快感と開放感は格別なものがありました。
お次は、派手な必殺技が売りの格闘ゲーム。
「うおっ、技のエフェクト気持ち良いなコレ」
「キャラの身体能力は、デフォで『ダンジョンワールド』のレベル80相当ってところかな。ステージによっては拳で壁をブチ抜いたり、高所からの空中殺法なんかもいけそうだし、リアル格闘ってよりはバトル漫画みたいなノリっぽい」
一口に格闘ゲームといっても、現実の格闘技をリアルに再現したようなモノもあれば、バトル系少年漫画のように目にも止まらぬ速さで動いて『気』や『魔法』による遠距離攻撃が当たり前に存在するフィクション色の強いモノもあるわけですが、『似十堂』の新作はハッキリと後者寄り。
カラフルなオーラを纏ったパンチが敵の顔面に突き刺されば、そのままコンクリートの壁を何枚も突き破って建物の外まで吹っ飛んでいくような具合です。デフォルトでも空中での二段ジャンプは可能ですが、壁や天井を足場とすれば三段や四段以上の連続跳躍も可能。もちろん攻撃を受けた感触はあっても痛みはないので、失敗を恐れずに大胆なアクションにチャレンジするプレイヤーが多々出てくることでしょう。
更に強烈だったのが恋愛ゲーム。
ジャンルの性質上、恐怖や流血表現とは無縁の穏やかな内容かと思われましたが、ある意味でこれが一番危険だったかもしれません。
「ヤダーッ!? 俺、もうあっちの世界に住む! このままアキちゃんと一生イチャイチャして過ごすんだい!」
「落ち着け。アンタ既婚者、オーケー?」
恋愛相手はゲーム内NPCとはいえ、その魅力は並大抵の実在ヒューマンの及ぶところではありません。どうやらプレイヤーがゲーム内で選択した行動によって、お相手となる美少女・美少年NPCの言動がより好みに寄った方向へと変化していくらしいのです。
全年齢タイトルゆえに、いわゆる成人向けPCゲームのような行為には及べませんが、見た目も中身も最高に自分好みの相手と延々イチャイチャできるというだけでも需要は十分にあるでしょう。
必ずしも恋愛対象としてだけでなく、同性異性を問わず気の合う友人としての関係性を築くのもアリ。ハマりすぎてゲーム外の実生活に悪影響が出るプレイヤーが出ないかが今から懸念されます。
そして最後の一作はファンタジーRPG。
恐らくは最も強く『ダンジョンワールド』を意識した同ジャンルの作品です。
「まあ当然だけど、ウチの『DW』に似てるっすね」
「つっても、単なる猿真似や後追いで終わらせる気は全然なさそうだな。いきなりの村焼きといい、よりストーリー重視って感じで……ああ、クソッ、ゲームだからって割り切れるか! よくも村のみんなを、帝国の奴ら絶対許さねぇ……!」
野球だろうが食べ歩きだろうが、プレイヤーが自由に好きなことができるのが売りの『ダンジョンワールド』に対し、『似十堂』のファンタジーRPGは基本的に決まったストーリーに沿って進んでいく内容のようです。
ゲーム開始直後、主人公たるプレイヤーは平和な村でしばらく過ごし、隣人や友人や幼馴染への愛着が湧いてきた頃合いで、たまたま用事で村を離れた主人公が不在のタイミングで悪の帝国が村を侵略。
仲良くなった人々は死亡か行方不明となり、焼け跡の中で復讐を誓った主人公は旅の途中で出会った仲間と絆を深めたり、敵側にもやむを得ない事情があったのを知って葛藤しながら世界の真相に近付いていく……という、ぶっちゃけ割とありがちな感じのシナリオです。
が、それを当事者として味わう没入感は格別。同ジャンルでありながら見事に先発の『ダンジョンワールド』との差別化を果たしてきたと見るべきでしょう。
『うーん、困ったの。全部すっごく面白そうなのよ……』
まだゲームの序盤だけとはいえ『似十堂』の新作に触れた感想は、四本全てが大傑作。ウル以外の皆も同じ意見です。終電の時間が迫っていなければ、このまま明日の朝まで会議室で遊び続けていたかもしれません。
発売すれば、まず間違いなく四作とも大ヒットするでしょう。
そうなれば、いかに「元祖」の『ダンジョンワールド』とはいえ苦戦は必至。少なからずユーザー離れは避けられません。即座に『ブイブイゲームス』が傾くほどの打撃とはならないでしょうが、早急に何かしらの対策を打ち出す必要がありました。
思えば、自分達は『ダンジョンワールド』の人気に酔ってはいなかったか。
他社は絶対に真似できないだろうからと油断して、このまま永遠に自社の一強時代が続くのだという気の緩みがどこかにあったのではないか。
本来、熾烈な争いが常のはずのゲーム業界の中にあって、これでもう何がどうなっても一生安泰だと、業界内の競争から解放されたような気持ちで過ごしてはいなかっただろうか。
どれも否定はできません。
スタッフ達の心の中には確かにそんな気持ちがありました。
事の始まりとなったウルの協力からして、そもそもは「偶然」に「運良く」掴んだ幸運だったということを忘れてしまっていたのです。本質的には宝くじに当たって後先考えずに豪遊していたのと何も変わりません。
それを自覚して、その上で何をすべきか。
「とりあえず、『DW』を今よりもっと面白くするのはマストとして」
「アプデの頻度を高めるのと、予定してた新要素の内容も見直さないと」
まず考え付くのは『ダンジョンワールド』の更なる改良。
これまでもベストを尽くしていたつもりではありますが、これから他のメーカーと比較されるようになるのなら、どれだけ良くしても決して十分ということはありません。すでに実装の準備が整っていたイベントやシステム面も、予定を変更して全面的にブラッシュアップしていくべきでしょう。
「でも、『DW』一本で四本とやり合うのは正直キツいすよね」
「向こうだって更に新作を出してくるだろうし、『似十堂』がやってきた以上は他のメーカーだっていつ参入してきてもおかしくないもんな」
しかし、どれだけ改良を重ねて既存作の『ダンジョンワールド』が面白さを増しても、一作品だけで他社の複数タイトルと渡り合うのは分が悪い。ならば、取るべき手段は自然と決まってくるというもので。
『こっちもすっごい新作を創って勝負なの!』
まだ具体的なところは何も決まっていませんが。そんなこんなで『ブイブイゲームス』発の『ゲームの世界に入れるゲーム』第二作の開発が決定したのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます