36.幼い女神の大きな手土産
そして最後の最後に少しだけ回想のオマケをば。
二柱の神が『似十堂』への協力を約束した直後のことです。
ある日、ゴゴが手土産を持って都内にあるウルのマンションを訪ねました。
『あれ、どうしたのゴゴ? 何か御用かしら?』
『いえいえ、大した用事ではありません。ところで、こちらをどうぞ』
『お土産? こ、これは……!』
ゴゴが手土産として持参したのは竹皮に包まれた『虎屋』の羊羹。
それも一本で三千円以上もする最高級品です。
『姉さん、いつだったか一本そのまま丸かじりしてみたいと言ってましたよね?』
『そ、そうだけどっ……ほ、本当にいいのね? 食べちゃってから返せって言われても困るのよ?』
『はは、言いませんから安心してください。姉さんには普段からお世話になっていますから、ほんのお礼みたいなものですよ』
『そういうことなら遠慮なくいただくの! うーん、この上品な小豆のお味……』
早速、ウルは包装を剥いて豪快に羊羹を丸かじり。
電気ポットで淹れた緑茶と一緒に、実に幸せそうな顔で満喫していました。
『ところで特に深い意味はないのですが、ちょっと姉さんの権能を貸してもらえます?』
『うん、別にいいのよ。そんなことより、やっぱり高級な羊羹は風味が違うの!』
そうして生命の創造に向いたウルの権能を借り受けて、ゴゴとモモは『似十堂』の新作ゲーム開発に当たって使用していた……というわけです。
◆◆◆
さて、ここは『ブイブイゲームス』の会議室。
これでようやく三柱の幼女神の事情についての説明が一段落しました。
「ウルちゃん様、安い!? 羊羹で買収されるのは安上がりすぎるよ!」
『だ、だってだって、仕方なかったの! だって……「虎屋」なのよ?』
「うーん、まあ、たしかに『虎屋』なら仕方がないか」
「仕方ないかなぁっ!?」
高級羊羹で買収されてしまったウルのことはさておいて、二柱の神が『似十堂』に協力しているのは今や疑いようもありません。
単にゲーム世界を創造するのみならず、モモが司る『強弱』の権能で開発スタッフの発想力を強めたり心身の疲労を弱めたりといったサポートもしていたようです。さぞや快適な環境で開発に集中できたことでしょう。
先日発表された『似十堂』の新作ラインナップは全部で四作品。
派手なアクションと簡単に繰り出せる必殺技が売りの格闘ゲーム。
ゾンビや殺人鬼から逃げながら古城を探索するホラーゲーム。
魅力的な美少女・美少年NPCとの甘酸っぱい関係を楽しめる恋愛ゲーム。
広大な大地を駆け巡って戦闘や冒険を楽しむファンタジーゲーム。
中には以前からアイデアを温めていたモノもあるかもしれませんが、二柱の神が合流してから約半年という短期間で四作品も仕上げてくるのは驚異的な開発スピードです。神の加護があるというだけでは流石にこうはいきません。
恐らくは『ダンジョンワールド』に対する強烈なライバル意識や、煮え湯を飲まされていた時期に積もり積もったフラストレーション。そういったアレコレが、そっくりそのまま創作意欲へと昇華された結果なのでしょう。
『そうそう、本日こちらにご挨拶に伺うと「似十堂」のスタッフにお伝えしたら、是非「ブイブイゲームス」の皆さんにと手土産を持たされまして。ああ、残念ですが今回は羊羹ではありませんよ』
『まだ社外の人は誰も遊んでない新作四本のα版なのです。最終調整が残ってるので、実際の製品版はまたちょっと違う感じになると思うのですけど』
ゴゴとモモがお土産として取り出してきた、本来は社外秘として厳重に秘されるべきα版ソフトからも、『似十堂』一同の強烈な対抗心が窺えます。
これらの新作で『ダンジョンワールド』一強時代を終わらせる。
今のうちから首を洗って待っていろ、といったところでしょうか。
手土産とは言っていますが、これはもう事実上の果たし状です。
『では、今日はそろそろお暇させていただきましょうか。また近いうちにお会いする機会もあるかと思いますので、その時はよろしくお願いします』
『うふふ、それじゃあバイバイなのです』
窓の外を見れば、いつの間にやら日が落ちかけていました。
ゴゴとモモを見送ったのは、もう定時まであまり時間も残っていない頃でしたが、誰もこのまま帰宅する気にはなれません。
「……とりあえず、やってみる?」
『似十堂』の新作が果たしてどれほどのものなのか。それを確かめるべく、会議室の『ダンジョンワールド』メンバーは手土産として置いていかれたα版ソフトを起動してみました。
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