38.幼い女神の研究会


 『ゲームの世界に入れるゲーム』の第二作目、制作決定!

 ……とは言ったものの、本当に大変なのはここからでした。

 なにしろ具体的に何を作るべきか完全に白紙の状態なのです。



『うーん、意外と決まらないの』



 ハードな食感と独特の酸味が後を引く『カバヤ食品』のタフグミを食べながら、ウルは『ブイブイゲームス』の会議室で頭をひねっていましたが、これといったアイデアは出てこないようです。ついつい物理的に三回転ほど首をひねっていたせいで、何も知らず会議室に入ってきた社員が悲鳴を上げたくらいの出来事しかありませんでした。



「リアルにして面白いゲームジャンルって意外と限られるよねぇ」


『うん、とりあえず落ちモノ系のパズルはオススメしないの』


「既存ハードだと囲碁将棋みたいなテーブルゲーム系は根強い人気があるし、あと勉強に役立つ学習系ソフトなんかもあるけど、そのへんをリアルにしても全然意味ないからね」



 ウルも以前に『テトリス』をリアル化したことがありますが、無駄にリスキーなだけで面白さの向上にはまるで寄与していませんでした。『ブイブイ』スタッフが例として挙げたようなジャンルも、恐らくは似たような結果になると予想されます。何を作るにしても、まずはリアルにして面白いジャンルに絞り込む必要があるでしょう。



「じゃあ、とりあえず思いつくゲームのジャンルを片っ端から書き出していくから、そこから見込みがあるやつを探っていこうか」



 副社長のタナカ氏が代表して、ホワイトボードに思いつく限りのジャンルを書き出していきました。真っ先に出てきたのは『ダンジョンワールド』も該当するRPG。それらに続くのは格闘、ホラー、恋愛。このあたりは『似十堂』のラインナップを意識してのものでしょう。



「スポーツはどうすか? 野球、ゴルフ、サッカーあたりは、大体どのハードでもあるっすよね」


「アスレチックみたいなステージを駆け抜けるアクションもね。シューティングは手に銃を持ってやるガンシューはいいけど、敵弾が視界を埋め尽くす弾幕系なんかはリアル視点だと流石に厳しいかな?」


「まあまあ、厳しい厳しくないは一旦忘れて、今はとにかく思いついたのを片っ端から挙げていきましょ」



 ホワイトボードには、どんどんジャンルが記されていきました。

 RPG。格闘。ホラー。恋愛。スポーツ。シューティング。テーブルゲーム。パズル。戦略シミュレーション。国家運営シミュレーション。料理。店舗経営。制作ツクール系。推理アドベンチャー。バトルロイヤル。スローライフ。レース。釣り。音楽リズムゲーム。カードゲーム。放置系。お散歩ゲーム。睡眠ゲーム。


 一部、重複していそうなジャンルもありますが、細かい部分を詰めていくのは後回し。各人、これまで遊んできたモノを思い出しながら、とにかく片っ端からジャンルを挙げていきました。



「軍師になって大軍を動かすのとか楽しそうかも?」


「戦闘機を飛ばすのは興味あるけど、いちいちリアル準拠の操縦方法を覚えるのは面倒だよなぁ」


「いっそ人気のアニメや漫画とコラボして、その作品の世界を再現する版権モノとかどうよ?」



 不思議なもので、色々言っているうちに自然とアイデアが湧き出てきます。

 操作性や権利関係などの問題から実現に難がありそうなネタであっても、こうして検討の俎上に上るだけでも意味はある。クリエイティブの分野では一回ボツ案となったアイデアが他の場面で日の目を見るなんてこともありますし、どの意見も決して無駄ではありません。



『そうだ、我ってば良いこと思いついたの! あのね、ゲームの世界に入るお話っていっぱいあるでしょ? そういう漫画とか小説が参考になると思うのよ』


「なるほど、ウルちゃん様天才!」


「いっそ私物を持ち寄って勉強会でもやります? それだけじゃ足りなければ、社長にお願いして参考資料として経費から出してもらう方向で」



 そもそもウルがゲーム世界の創造に興味を持ったのも、その手のフィクション作品の影響です。著作権の問題などもありますし、アイデアをそっくりそのまま拝借するのは難しくとも、何らかのインスピレーションを得られる可能性は十分にあるでしょう。


 基本的にリモートワークで滅多に顔を見せないコスモス社長にも話を通し、『ブイブイゲームス』一同は『ダンジョンワールド』運営の合間を縫うようにして、漫画やライトノベルやweb小説や同人誌を読み込んでいきました。



『あははは、おっかしいの! ねえ、誰か次の巻取ってくれる?』


「ウルちゃん様、一応コレお仕事なの忘れないでね」



 そんな日々がしばらく続いたある日。

 まだ『ブイブイ』側が新作の開発に本腰を入れる前でしたが、いよいよ『似十堂』の新作四本の発売日がやってきたのです。



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