第二章『幼い女神の新たな世界』
31.幼い女神の一周年
祝、『ダンジョンワールド』一周年!
正式サービスから丸一年を迎えるこの日、世界初の『ゲームの世界に入れるゲーム』の熱烈なファン達は、ゲームの内外を問わず大いに盛り上がっていました。
【一周年おめ】
【生放送で新情報出るかな?】
【ハーフアニバの時は新ジョブと新マップの追加だったね】
公式生放送のコメント欄もこの通り。
世のソーシャルゲームなどでも、半年や一年の節目というのは運営にとってもユーザーにとっても一種のお祭りみたいなもの。注目が集まるタイミングで近い将来に実装予定の新キャラや新システムの情報を初公開したり、一定のキャンペーン期間内にログインすることで特別なアイテムを受け取ることができたり。
いわゆるガチャ要素がある作品であれば、高レアキャラの排出率アップや無料でガチャを回せる大盤振る舞いをしたりなど、非常に美味しい時期なのです。
もちろん運営側も単なる親切でそうしているわけではありません。
元々そのタイトルに興味はあったけれど、なかなか手を出すタイミングがなかった新規層に様々な特典を見せつけることで今が始め時だとアピールしたり、一度はゲームを遊んでいたけれど様々な理由から離れてしまった元プレイヤーのカムバックを促したり。そういった具体的なメリットが見込めるからこそ、各社各タイトルは必死に力を入れているというわけです。
『いえ~い、みんな盛り上がってるかしら!』
もちろん『ダンジョンワールド』を運営する『ブイブイゲームス』もその例に漏れず、今回の一周年イベントには非常に力を入れていました。
現在は都内某所のスタジオで、『ダンジョンワールド』の創造神にしてゲームのマスコット的立場でもある幼女神ウルが、制作スタッフや招待したゲストを交えて生放送の真っ最中。
ゲーム内NPCの声を提供してもらっている人気声優だとか、つい先日に連載を開始した『ダンジョンワールド』世界を題材にした公式コミカライズ企画の担当漫画家だとか、何人もの関係者とのトークは大いに盛り上がっています。
【ウルちゃん様、相変わらずよく食べるな~】
【今日は『まい泉』のカツサンドか。いいなぁ】
一般的には収録機材に食べカスが飛んだりなどを懸念してあまり歓迎されないのかもしれませんが、この『ダンジョンワールド』の公式放送では、ウルがゲストからのお土産を食べながら喋るのはもはや恒例。
いくら神様とはいえ見た目小学生くらいの愛らしい女の子が、大食い選手もかくやというほどのペースで大量の食べ物を飲み食いする様は、今ではそれ自体が人気コーナーとなっています。
『ふぅ、ご馳走様でしたの。それじゃあ、お腹も膨れたところで、そろそろみんなお待ちかねの「ダンジョンワールド」新情報にいってみるのよ!』
とはいえ、今日の本番はここからです。
まだ未公開のゲーム最新情報に触れるとあってか、ここから一気に生放送の接続者数も伸び始めました。各種SNSにおいても『ダンジョンワールド』の新要素に関する予想や考察、ウルや人気のゲーム内NPCを描いたイラストなどが盛んに投稿されており、トレンド欄の順位をどんどんと上げています。
『それじゃあ、まずは新しい職業からなの。これまでは戦う系のジョブばっかりだったけど、新しく料理人とか鍛冶屋さんとかが追加されるの。勘の良い人はもう分かったと思うけど、いわゆるクラフト要素の解禁ね』
このあたりは事前に考察サイトなどで予想がされていた範囲ではありますが、それでも実際こうして発表されると大いに盛り上がりました。
自分で集めたり他プレイヤーから購入した素材を元に、まったく新しいアイテムを作成する。戦闘要素を排してそれだけに特化したタイトルも存在するほど、ゲーム界隈では人気のジャンルです。
市販品より性能が高いアイテムを作れたり、プレイヤーによるクラフト以外では入手不可能な品を作成できたり。その手のプレイングが好きな人には堪らないものがあるはずです。
生放送の画面に表示されている各種新職業のイメージイラストや、運営チームによるテスト段階での映像などが流れると、コメント欄の勢いもますます加速していきました。
『もちろん戦う系の新職業もちゃんと追加されるのよ。ここで全部は言わないけど目玉の一つはガンマンね。新しい武器種に銃が増えるから使ってみて欲しいの』
ファンタジー風の世界にはややミスマッチ感もありますが、モンスターを相手に思いっきり銃火器をブッ放してみたいと考えるプレイヤーは決して少なくないはずです。
わざわざウルと開発チームがハワイの射撃場まで取材に赴いたり、海外の銃器メーカーと交渉してゲーム内使用の許可をもらったりと、相当に気合を入れた部分でもあります。
【へー、わざわざ使用許可とったんだ】
【ガトリングガンみたいのもあるかな】
【二丁拳銃とかやってみたいかも】
コメント欄の反応も上々です。
それ以外にも新マップや新規イベントの追加、レベルキャップの上限解放。キャンペーン期間中にログインすることで、特別なアイテムや称号がもらえたり等々。いずれも定番といえば定番、さほどの意外性はありませんが、プレイヤーからしたら嬉しい内容が盛り沢山でした……が。
【おい、お前ら『似十堂』の生放送見てみろ!】
生放送も終盤に差し掛かったところで書き込まれた、こんなコメントをきっかけに流れが怪しくなってきました。
ちなみに『似十堂』とは『ブイブイゲームス』の同業他社。
ただしソフト開発専門の『ブイブイ』に対して、あちらはハード面も幅広く手掛けている上に、両手両足の数では足りないほどの大ヒットシリーズを抱える超大手。
ここ一年に限っては業界初の『ゲームの世界に入れるゲーム』で空前のブームとなった『ダンジョンワールド』にすっかり話題を奪われた格好になりますが、ゲーム会社としての格は『ブイブイ』より遥かに格上と言っても差し支えないでしょう。
【おいおい、こういうトコで他社の名前出すとか……】
【なんだ荒らしか? 通報しとく?】
【いいから、早く見ろって! 公式サイトでも発表されてるから!】
件のコメント主ですが、『似十堂』の生放送なり公式サイトなりを見ろと繰り返すばかりで要領を得ません。他の視聴者が指摘するように、下手をすれば悪質なコメント荒らしとして通報されてもおかしくない状況です。
『まあまあ、みんな落ち着くの。どれどれ、我がちょっと見てみるから』
【ウルちゃん様が言うなら仕方ない】
【生放送で堂々とスマホ開いてもいいんだ】
【ていうか、ちゃん様スマホ持ってんのな。神様が普通にショップ行って契約したの?】
ウルの仕切りで空気が悪くならなかったのは幸いでしたが、それも束の間。
『えっ!? ちょ、ちょっと、みんな「似十堂」の公式サイトを見てみるの! え、な、なんで?』
自らのスマホを開いて確認していたウルが明らかに狼狽しています。
その様子を目の当たりにした共演者や視聴者も、それで慌てて各々のスマホやPCで言われた通りに確認して……そして、ウルがあれほど動揺した理由が分かりました。
『似十堂』が『ゲームの世界に入れるゲーム』の開発に参入する。
新規複数タイトルを近日発表予定。
そんな文言が堂々と掲載されていたのです。
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