25.幼い女神のアドバイス
――――と、いうわけで。
『とうちゃ~く、なの!』
思い立ったら即行動。
周囲にソニックブームをまき散らしながら超音速で飛んできたウルは、『ダンジョンワールド』世界の上空に最近現れたばかりの空中都市群へとやってきたのです。
正確には『聖鳥王国』の浮遊首都島『バードピア』。
周囲に浮かぶ他の島々にも細かな名前や設定があったりするのですが、それはまあ置いておくとして。ウルはとりあえず『バードピア』の中央にある宮殿へと向かうことにしました。
この宮殿にいる女王、プレイヤー達にタマゴを託したNPCを、カラス人の『ハシブト帝国』の占領部隊を倒して救出するのが、一連のシナリオの序盤の山場となっているのです。この辺りを適当にうろついていれば、誰かしら攻略中のプレイヤーに出くわすことでしょう。
『うんうん、みんなご苦労さまなの』
占領中という設定の首都には大量のカラス兵が巡回していますが、当然それらがウルに襲い掛かってくることはありません。
仮に向かってきたところで全員まとめて指先一つでダウンさせられるのですが、どうせ世界法則に従って自動的に補充されるモンスターとはいえ、プレイヤー達がレベル上げに使うための資源を無闇に削るのもよろしくないでしょう。
『あっ、いたの! ちょうど戦ってるみたいね』
荒廃した都市内をてくてく歩いていると、ほどなくして剣を交える金属音や魔法のものらしき爆発音が聞こえてきました。タイミング良く、カラス兵の集団と戦闘中のプレイヤー達がいたようです。
『カステラのお姉さん、こんにちは! ちょっとお久しぶりね』
「え? あっ、ウル様! どうもです。今ちょっと忙しいので後でもいいですか!?」
「ちょっ、上見て、上!? また弓持ちが矢を降らせてくるよ!」
「くっそ、速くて魔法も当たんない」
ちょっとばかり話しかけるタイミングが悪かったようです。
以前にウルと洞窟を探検したカステラ侍嬢とその仲間達は、空中を縦横無尽に飛び回るカラス兵にかなりの苦戦を強いられている様子。気を抜いたら、そのまま総崩れになりかねません。
『カァッカッカ! 愚かなる人間共よ、以前は不覚を取ったが空は我らのモノ。手も足も出まい!』
「アイツ、前にタマゴを狙ってきたのと同じヤツね」
「前は秒殺してやったのに、なんでこんな強くなってんのよ!」
先日のイベント開始直後の戦闘で瞬殺したのと同じ相手ですが、今回は敵側の兵数も違いますし、それ以上に戦い方が根本的に違います。
背中の翼で空中を自在に移動できる利を活かした、プレイヤー達の攻撃が届かない高度からの一方的な弓の射撃。剣や槍による急降下突撃からの、速やかな急上昇。
相手の攻撃に合わせたカウンターを狙うにしても、地上のモンスターとは勝手が違ってなかなか上手くいきません。射程の長い魔法攻撃や投石で撃ち落とそうにも、常に動き回っているためなかなか狙いを定められないようです。
レベルそのものはプレイヤー側のほうが高いのですが、これではステータスの有利も活かせません。遠からずHPが尽きての敗北か逃走を強いられることになるでしょう。
が、しかし。
『はーい、注目! 空中の敵と戦う用のヒントが欲しい人、この指止~まれ、なの!』
「ヒント? は、はい、欲しいです!」
今回は運の良いことに、たまたま人助けをしたい気分の創造神が近くを通りかかっていました。むしろウルとしては大いに恩を売って感謝されたいわけで。ここは下手に遠慮せず素直に聞くのが正解です。
『えっとね、まず……元の身体で普通に暮らしてる時の癖というか、発想に縛られてると思うんだけど、どうしてせっかくの足場を使わないのかしら?』
「足場? ……あっ!」
ウルのアドバイスを受けたカステラ侍嬢が、レベル補正によって得た身体能力で跳躍。そのまま建物の壁や屋根を一気に駆け上がり、普通なら攻撃が届くはずのないカラス兵達と同じ高さにまで跳び上がりました。
「はぁっ!」
『カァ!?』
そして飛び掛かり様に大太刀を一閃。
元々レベルでは上回っていたおかげもあり、一撃で弓持ちのカラス兵を倒すことができました。
『あとはね、そのへんのお家とかお店に入って上からの攻撃が当たらないようにするとか、逃げるフリをしながら狭い建物の中まで誘い込んだりとかもいいと思うの』
あまりにリアルなため現実の日本の常識に囚われがちですが、この世界には不法侵入を咎めるルールもないのです。発想をちょっぴり柔軟にすれば、周囲の建物が今すぐ使えるバリケードやトラップに早変わり。
民家もお店も街路樹やその他諸々も、周囲にある全てをいかに上手く活用するかという発想力が今後のゲームプレイの鍵となってくるはずです。
「三階の窓からこんにちは! 組みついたらこっちのもんよ!」
『カァ!?』
「そこの家にあった洗濯ヒモで通りにワイヤートラップを仕掛けてみたぜ! さっきは、よくもやってくれやがったな。往生せいやぁ!」
『カァァ!?』
「カラス殺すべし。慈悲はない」
『カイェェ!?』
ウルの助言によって、今や戦いの形勢は完全に逆転していました。
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