19.幼い女神のゲームの広がり
『ダンジョンワールド』の正式サービス開始から二か月が経ちました。
幸い大きなトラブルもなく今のところ運営は順調そのもの。
プレイヤーによるダンジョンの攻略配信や、ゲーム内グルメの食べ歩き配信、果ては『面白い死に方集』なるネタ動画など。動画サイトには様々なアイデアを凝らした動画が日々アップされ、好評を博していました。
興味はあったものの前例のないゲームの危険性を危惧して、購入を控えて様子見をしていた人々も、先行プレイヤーが楽しむ姿を見るうちに危機感が薄れていったようです。
おかげで売上はずっと右肩上がり。
現在は日本国内限定のサービスですが、『ブイブイゲームス』のユーザー窓口には諸外国からも自国での発売を望む声が多く寄せられています。
『みんな、こんにちは! 今日は山の麓のトフモの村のお蕎麦屋さんに来てるのよ。山の綺麗な水を使ってるって設定だから、他の街で食べるお蕎麦より美味しいの。でね、我のイチオシは……このお出汁が効いた絶品カレー! 天ぷらをトッピングするのもオススメよ』
で、ウルはというと創造神兼ゲームのマスコットとして、ゲーム内の名物や名所を紹介する動画を毎日投稿していました。これがかなり好評なのです。
【設定って言っちゃってる(笑)】
【蕎麦食わないんだ】
【ソバ生える】
【いやまあ蕎麦屋のカレーって旨いけどw】
【相変わらず癒されるわ~】
視聴者数もコメント数もうなぎ上り。最近ではゲームそのものに興味のない非ゲーマー層のファンも増えつつあるようです。
「あっ、ウルちゃん様だ! 可愛い~」
「マジ!? ラッキー! 一緒に写真いいすか?」
「何か奢らせて! 徳を積むとレアドロ率が上がる気がするし」
もちろんゲーム内のプレイヤーからも大人気。
ウルが紹介した店には必ず行列ができるほどです。
また何でも美味しそうにモリモリ食べる姿に小動物的な可愛らしさがあるため、身銭(ゲーム内通貨ですが)を切ってウルに食べ物を与えるプレイヤーも少なくありません。別にそれで内部的に設定されているアイテムドロップ率が変動したりはしませんが。
「美味い! ちゃんとした蕎麦なんて何年ぶりかな。大好物だったのにアレルギーになっちゃって。この身体なら安心して食えるから助かるよ。店員さん、ザル一枚おかわり!」
「分かります分かります。私もリアルだと医者から脂っこいモノとか塩分高いモノを禁止されてまして。こないだ寄った街でラーメン食いまくってきましたわ。いやぁ、最近のゲームは馬鹿にできませんな。おっと、こっちはビールのおかわりと鴨南蛮で」
「知ってる? 街によって出してるラーメンの種類が違うらしいよ」
「酒だっ、好きなだけ酒が飲める! ウヒャヒャヒャヒャ!」
またプレイヤー層は元々ゲームをあまりやらない中高年層にも広がっています。元はビジネスマン向けの経済紙に載った小さな記事がきっかけだったのですが、その影響は爆発的に広がっていきました。
アレルギーや健康上の理由で好きな物を飲み食いできない人でも、ゲーム世界の仮想体であればそうした制限はありません。
開発中の度重なる検証により、「ゲーム内での飲食が現実の肉体へ悪影響を及ぼすことはない」という医学界の有識者のお墨付きを得ていた点もプラスに働きました。今では医学誌や医師も健康のために『ダンジョンワールド』を推奨しているほどです。
料理の味についても開発チームがこだわって、現実の名店の味になるべく近付けられるよう努力を重ねた逸品ばかり。例えば、このウルが紹介した蕎麦屋のメニューは、副社長のタナカ氏推薦の浅草の老舗に開発チームで毎日のように通って忠実に再現したものです。
他にもコスモス社長が出した予算で、あちこちの評判の良い料理屋に行ったりテイクアウトを頼んだり。そのせいで現実世界で開発に携わった『ブイブイゲームス』の面々は、連日連夜の試食によってずいぶんと肉付きが良くなってしまいました。
と、このようにダンジョン攻略以外にも楽しみ方は様々。
飲み食い以外にも超人的な身体能力での野球やサッカー、適した地形を探してマリンスポーツやウィンタースポーツを満喫している者までいます。この自由度の高さこそが『ダンジョンワールド』の良いところなのです。
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