14.幼い女神と宣材集め


 ゲームの世界からログアウトできない。

 そんな声を聞いたカステラ侍嬢や周囲のプレイヤー達は、大慌てで胸を連打して各々のメニュー画面を開きました。その結果、判明したのは……。



「あははは、すんませんすんません! いや、まさか、こんなにドッキリが上手くいくとは……うおっ、ちょっ、お姉さん蹴るのやめて!?」



 最初に騒いでいたプレイヤーによる悪趣味なドッキリだったということです。メニュー画面にはきっちりログアウトの項目がありました。心配性のプレイヤーが実際に一度ログアウトしてから、またすぐにログインしてきた点からしてもシステム面の異常ということはなさそうです。


 彼ら彼女らが触れてきたアニメやライトノベルの中には、入り込んだゲーム世界から出られなくなって命懸けで脱出を目指すはめになる……という筋書きの作品も少なからずありますが、どうやら自分達がそれを実際にやることにはならなそうだと分かって一安心。

 騒ぎを起こした軽薄そうな顔つきのプレイヤーは、周囲の人々からボコボコに殴られたり蹴られたりしています。カステラ侍嬢も十発ばかり蹴りを入れておきました。ゲーム世界での仮想体は痛みを感じませんし、プレイヤー間の攻撃ではHPのゲージは1ミリたりとも減少しないのですが。まあ一応。



『こんにちは。みんな楽しんでくれてるかしら?』


「あっ、ウルちゃん様!」



 さて、そんな騒ぎが落ち着いた頃。

 さっきまで生放送に出演していたウルが、カステラ侍嬢達の前に姿を現しました。中には動画サイトでの生放送を観ていなかった者もいましたが、SNSに流れていた写真やイラストなどで顔を知っていたようです。



『あのね、もし良かったらなんだけど、これから我と一緒に近くのダンジョンに行ってくれる人はいるかしら? ゲームの宣伝のために、誰かがダンジョンを攻略するところを配信できないかって会社の人が言ってたの』



 そんなウルの用件はというと、ダンジョン攻略の様子を配信する手伝い募集。これが正式サービス版における目玉の一つでもあります。

 β版の時に出た希望を反映し、メニュー画面から専用の項目を選択することで動画サイトのアカウントと連携しての生放送や、あとで編集するための録画・録音ができるようにしたのです。収益化についても、いくつかの禁止事項に抵触しない限りは全面オーケーという大盤振る舞いです。



『我が戦ったら宣伝にならないから手は出さないけど、あんまり強いモンスターはいない所だから練習にはちょうどいいと思うの。手伝ってくれる人は手を挙げてくれるかしら? あっ、ゲーム内のお金だけどちゃんとお礼もするのよ』



 ウルが説明を終えると、途端に周囲から「はい!」と元気の良い声が次々と。先程のドッキリ青年のような目立ちたがり屋やウルの熱心なファンだけでなく、他の人がいるところでなるべく安全に戦闘の練習をしたい者も手を挙げているようです。

 さっきまで歩くのも覚束なかったのに戦うのは時期尚早ではないかという気持ちもなくはなかったのですが、どうせ負けても街に戻されるだけなのです。カステラ侍嬢も思い切って手を挙げました。



「じゃ、じゃあ……はい、私も!」


『うん、それじゃあこのお姉さんで最後みたいね。あれ、この名前? カステラ侍って、もしかしてさっき我のFAくれた人? カステラのお姉さん、ありがとなの! ちゃんとSNSもフォローしておいたから、これからよろしくね!』


「あはは、恐縮です……」



 集まったのは、たまたま近くにいた中で募集に応じた二十名ほど。ウルに連れられた彼ら彼女らは、最初の街から徒歩で十分ほどの距離にある小さな洞窟へと向かうことになりました。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る