2-2
「何かあるねこれは」
と小吉が言った。
目をキラキラさせながら。
「入学以来、名門美奈岸高校新聞部として第一線でやってきたこの俺の勘が、これは間違いないと囁いている。勘が囁くところ記事ネタあり! 渡部が姿を消す直前に恐れていたという女の声、これにはきっと何かある! 看板のおばさんも言ってたじゃん。覚えてるだろ? 海には〈魔女〉がいる、若い男を歌で誘って海に引きずりこむ、その歌は〈罪を犯した男〉にしか聞こえない、って……わー! 学校の中と外、まったく関連なさそうなふたつの事柄に、この共通点の多さ、ただごとじゃないよね、無関係とは思えないよね、何かあるよね!」
よくそんなに盛り上がれるな。
上島は古文の授業ノートをめくりながらフッと軽く息を吐いた。
「そんなことよりおまえ試験のほうは大丈夫だったの」
「いや、まるでダメだ!」
「おまえマジで留年するよ」
「留年って制度まだ残ってんの?」
そういや、残ってないか。
上島は口を噤んだ。
三年生の榊が「何、看板のおばさんって」と尋ねてきた。上島のルームメイトである彼は、今の今まで、やかましい小吉に文句も言わず、上島よりも集中して英語の予習に取り組んでいるようだったのだが。
よくぞ訊いてくれましたとばかりに小吉は「看板ってのはっすね」と説明しだした。
もちろん、日曜に、上島と共に歩んだ無駄な探索のことも含めて。
すると榊は「へえ、アレってそんななんだ」と頷いた。
小吉は、ぐっと身を乗りだした。
「知ってるんすか、看板のこと」
小吉が驚いたのと同じくらい上島も驚いて、榊のほうを見た。
ここは一号棟の1210号室。上島と榊が入っている光生寮の一室だ。
「1」号棟の「2」階の「10」番目の部屋だから、1210号室。
アマランサスが終了したあと、まっすぐ1210号室に戻った上島に、小吉もなぜかくっついてきた。そして今、上島のものでもなく榊のものでもない、今は誰のものでもない三つ目の椅子の上であぐらをかいている。
ちなみに小吉の居室は、三号棟の3103号室。「3」号棟の「1」階の「03」番目の部屋だから、1210号室とは結構離れている。
「知ってるよ。外周走るとき、ウキタ屋の裏のあの道、通るから」
「ああ、そっか。たしかにロードワークのルートっすね、あそこ」
そうだったのか。
上島にまた要らぬ知識が増えた。
今はそんなことより古文の頻出単語をひとつでも多く覚えたいところなのだが。
「と言ってもあのルート使ってるの今はもう陸上部くらいだろうけど」
榊は、陸上部に所属している。
今日はテスト直後で、イレギュラー日程だからたまたまこの時間でもこうして自室にいるが、榊は、大抵いつも夕食時間締め切りギリギリまで部活動に励み、朝はものすごく早起きして朝練に行く。食事風呂就寝以外で寮にいることはほとんどない、陸上に高校生活の大半を捧げているような男なのだった。
それでいて、そこそこの成績をキープしているそうだから、えらいもんだ。
「しかし、物好きだな、おまえら。得体の知れない看板に書いてあること額面どおりに受け取って、わざわざ辿っていくなんて」
「いやいや、おまえらって。ひとくくりにしないでくださいよ。僕は小吉に誑かされただけです」
聞き捨てならず、思わず口を挟んだが、小吉にも榊にもスルーされた。
小吉はさらに、くだんの看板のオチ、突然現れた看板おばさんの様子と言動、その主張のことまで、詳細に語って聞かせた。
すべてを聞いた榊は「へー、面白いな」と、ごく簡単な感想を述べた。
上島はちょっとむくれた。
「全っ然、面白くないですから。マジすげー怖かったんですから。そのおばさん、見るからにトんじゃってて、なんかの拍子にこっちに飛びかかってきそうなヤバさだったのに、それなのに小吉は対話しようとするし、背後は海で逃げ場ないし」
「いや、ホントに面白いと思ってるよ」
シャープペンを置き、榊は軽くのびをしながら椅子の背もたれに寄りかかった。
「海面が上がり始めてからさ、なんか、いろんな噂が立つようになったよな。昔だったら、こんな噂、広がる前に消えちゃってただろうな、っていう、しょーもないものも、よく聞くようになった」
まあ、そうかも。
なったなった、と小吉も頷く。
「俺たちの頭や感覚では理解できない現象も、起こるときは起こってしまうんだって、身をもってわかっちゃいましたもんね」
かもな、と榊が頷く。
「それまでの常識では計り知れないこともあるって知っちゃった、というか。下手に否定できなくなった、というか。もしかしたらそういうことも起こりうるのかもしれない、って、どっかで思っちゃうんだよな」
小吉が身を乗り出す。「ですよね!」
上島は鼻で笑った。「でも、だからって、さすがに〈魔女〉はないと思うわ」
小吉は身を乗り出した姿勢のまま「なんでだよ」と口を尖らせた。
「だって、なんかアレじゃん、その話。怪談とかで、よくあるやつ。呪われしナントカカントカに関わった者は必ず死ぬ、みたいな。関わっただけで必ず死ぬなら、一部始終を知ってるやつも死んでるはずなのに、じゃあ、なんで今こうして詳細が語り継がれてるんですかねー? っていう、いろいろツッコミどころがあるカンジ。あれみたい」
「でも実際、歌を耳にして、姿を消してるやつがいるわけで」
「行方不明者なんかいっぱいいる」
町中にぽつねんと立つ尋ね人の掲示板を思い出す。
老若男女の顔が貼りまくられて今にも傾きそうな木の看板。
あそこに掲示された人のうち何割が発見されているのか。
何割が今も生きているのか……
「ていうか、俺も〈魔女〉って部分を真に受けてるわけじゃないっつの」
「ホントかなー」
ホントだっつの、と、座り直した小吉が腰を据えて反論する。
「表面的なところだけ見てバカにしたり否定したりするのは簡単だけどな。その話が何を意味していて、何が真相として隠されているのか、っていうのを考えるのは、意義のあることだと思うし、何より面白そうだと思うんだ」
「はあ」
「姿を消したやつらが耳にした女の声がなんなのか、〈魔女〉がなんなのか、まだわからない。でも、それぞれの話を聞いていくと、なんか共通点めいたものが出てくるのは確かなんだ。この場合、たとえば、海とか」
うみ、と呟いて上島は黙った。
榊は、上島と小吉のやりとりを、口を出さずに面白そうに見ている。
「俺は、海からそういうのを感じるのは、全然おかしいことではないと思う。だって、海って、俺たちみんなに一番身近なもので、一番気になるのに、一番よくわからなくて、一番怖いものじゃない? そこからおかしな噂が出てくるのって、ある意味、必然だと思うんだ」
小吉は何気なく言ったのだろう。けれど、なんだか妙な説得力のある言葉だった。
小吉って、いつも何も考えてないような顔してるくせして、実はいろいろ考えてるっぽいんだよなあ……
「なんにしても、僕を巻きこまないでくれるなら、なんでもいいわ」
小吉は「ひでえ」と喚き、榊は笑った。
・
二十二時、寮も、町も、闇に包まれる。
この地域に住んでいる以上は逃れられない、強制的な暗闇だ。
代わりに、起きている者と同じ数だけ、蝋燭の小さな火が点々と灯る。
上島は燭台を手に1210号室を出た。
この燭台は、計画停電が毎日のことになり蝋燭が日用品になった頃、寮生有志で大量生産したものだ。安価な灰皿や空き缶にてきとうな端材をくっつけただけの手作り感溢れる代物だが、一応、寮生ひとりにつきひとつ所持することができる。
光生寮の就寝時間は二十三時。それまでは何をするも自由。
就寝時間までに、一応、綾彦の様子を見ておこうと思った。
さっき、あんなことがあったし……
しかし、1111号室に綾彦の姿はなかった。
一瞬不安になるが、トイレか風呂にでも行ったのだろう、と思い直してドアを閉める。
たしかに二十三時までは自由時間だが、電気がつかない夜の建物内を歩き回るやつは、あまりいない。蝋燭を節約したいし、火の扱いには気を遣うし……あと、やっぱり、怖いし。
具体的に何が、ということはないが、怖いのだ。
だから、停電時間になってしまえば、大抵、寮内は静かになった。
今も、暗い廊下を歩いているのは上島だけだ。
1210号室に戻る前に、図書室に寄った。
綾彦はときどきここにいることがあるのだ……けれど、今は誰もいなかった。
図書室と名はついているが、そんなに立派なものじゃない。本棚と肘掛け椅子がいくつか並べられているだけ。蔵書だって大したものはない。大半は、寮生が置いていった漫画やらハウツー本やらだ。文学全集みたいなものもあるにはあるが、読まれているところは見かけたことがない。
実を言うと、本棚の脇にある戸棚の中には古い成人本が隠されているのだが、本当に洒落にならないくらい古いので、感性が現在とかけ離れていてあまり実用的ではなかったし、それに、誰がどんな手で触ったか知れたものではないから、ほとんど見向きされなかった。
ふと思いつき、鳥類図鑑を引っ張り出してみる。
これはなかなか立派なものが置かれていた。
先日拾って綾彦にやったあの羽根を、じっくりさがしてみる。
どこかで鳥の羽根を拾ったら、いつもこれで調べているのだ。
けれど、該当するような種は見つけられなかった。
図書室を出たところで、人の気配を感じた。
そりゃ、まだ就寝時間ではないのだから、誰が歩いていてもおかしくはない。
でも、なんとなく、気にかかった。
燭台を掲げ、相手の顔を照らす。
「木多嶋先輩?」
こちらも燭台を掲げた姿勢でいる木多嶋は、上島を見据えたまま動かない。
上島に、用があるらしい。
暗くひと気のない廊下で、大柄な仏頂面に見つめられるのは、あまり気分のいいものではない。
「……なんですか?」
「あいつの世話してんのおまえなんだろ」
「あいつ?」
「絵をぶちまけてたやつ。さっき俺がぶつかったやつ」
綾彦のことか。
「世話っていうか……」
上島は慎重になった。
木多嶋が何を言おうとしているのか、わからないので。
ラウンジでもそうだったが、彼のキレるポイントがわからないので、慎重にならざるを得ない。
「……綾彦が、また、何か?」
「あいつの描いてる絵ってなんなの」
「はい?」
「だからあ」と、木多嶋はあきらかにイラつきかけた。
が、すぐさま抑えて、努めて理性的に訊いた。
「あの絵はなんなの」
あの絵、というのが何を意味しているかは、すぐわかった。
綾彦が落とし、上島が拾い上げた、あの一枚。走り書きのような、黒いかたまり。
目にした木多嶋が漏らした「ひッ」という声が思い出される。
見るなり「怖い」とか思えるような絵ではないのに、木多嶋は、あの絵を、恐れていた。
もやもやした、黒い、煙、もしくは、影、のような――
「……わかりません」
「おまえが世話してんだろ」
「世話してるっていうほどの世話はしてません。たまに様子見てるだけで」
なぜなら、いとこだから――というのは、ここでわざわざ言うことでもなかろう、と思ったので、伏せておく。
「あいつがいつも何を描いてるか、とか、僕にもわかりません。さっきは絵をぶちまけたからたまたま絵を見れたけど、普段は隠そうとするし、全然しゃべってくれないし」
ふーん、と木多嶋は生返事みたいな返事をした。
納得したのだろうか。
「あいつは」
と切り出してから、木多嶋は口ごもった。
ずいぶん言葉を選んでいるようだった。
やがて、ぼそりと続ける。
「あいつは、なんであんなふうになったの」
「あんなふう、って?」
「なんで、しゃべらないの。なんで、心を閉ざしちゃったの」
「わかりません」
なんでそんなこと訊くのだろう。
何がそんなに気になっているのだろう。
わからない。
蝋燭を持たないまま真っ暗な廊下を手さぐりで歩いてるみたいだ。
「……でも、別に、珍しくもないでしょ。ああいうふうになっちゃったのは、綾彦だけじゃない、他にも何人もいるじゃないですか。性格が変わっちゃったやつもいる、考え方が変わっちゃったやつもいる、いろいろですよ……そりゃ、綾彦は、ちょっと重症なほうかもしれないけど」
「あいつ、なんかしたんじゃねえの」
なんか「した」?
なんか「あった」とかじゃなくて?
上島は眉をひそめた。
「どういう意味ですか」
「歌を聞くようなことをしたんじゃねえの」
「うた、を?」
「渡部みたいに」
「渡部?」
「だって、あれを見たってことは……そういうことだろ」
そう呟いて、木多嶋は暗く俯いた。
顔の陰影が蝋燭の明かりで歪んで、一瞬、泣きそうに見えた。
「……じゃあ、やっぱり、あの歌は、やばいのか? だから渡部も消えたし、あいつも、あんなふうに……」
「あの、木多嶋先輩」
「……いや、いい……もう、いい」
そう言って木多嶋は一方的に会話を終わらせ、さっさと立ち去ってしまった。
なんとも据わりが悪い。
でもこれを気にし続けるのも無駄な気がした。
上島も、足早に1210号室に戻った。
これが、上島が木多嶋を見た最後だった。
・
試験から解放された土日をダラダラと過ごし、月曜日。
採点の早い教師だともう答案用紙が返され始める。
上島は、ほとんどの教科で平均点以上だった。その代わり何かが飛びぬけて好成績ということはなかったが、まあ、こんなもんだ。
小吉は、逆に、ほとんどの教科で平均点以下だったらしい。赤点もいくつか取っていた。試験勉強などほとんどしていなかったのだから、当然といえば当然なのだが。でも本人はまったく気にしていないようで、そういうのんきなところは、羨ましいような、そうでもないよな。
追試はなかった。
さすがにそこまでする必要はない、ということなのだろう。
そんなこんなであっと言う間に土曜日。
ミナ高は、大きな試験のたび、各学年成績上位二十名の名前を、職員室前の廊下に貼り出す。
こんな世の中になってしまって、成績や学歴が意味をなすのかどうかさえ曖昧になったけれど、優劣をハッキリさせる、順位をつける、というのは、本能に近いところにあるものを刺激するらしい。順位表が職員室前に貼り出されると、これを見ようとする人だかりができるのは、以前と変わりなかった。
移動教室の際、クラスメイトの何人かでまとまって職員室前の廊下を通ったとき、誰かが「これ、ちょっと見たい」と足を止めたから、みんなもつられて足を止めた。上島としては特段見たいということはなかったのだが、だからと言ってひとりだけ先に行く理由もなかったので同調して足を止め、二年生の順位表を見上げた。
すぐさま百合田の名前が目に入った。
上島のクラスで名前が載っているのは、百合田と轟のふたり。
百合田、十四位。轟、五位。
その轟が、たまたま上島のすぐ隣に立っていた。
「轟、すげーな。五位だって」
「順位は落としたけどね」
轟は自嘲気味に言った。
その険しい横顔に、上島はフンと鼻を鳴らしてみせた。
「おまえの前の順位なんか知らねえし」
すると轟は、ふ、と笑った。刺々しい雰囲気が消えた。
順位にこだわる人間だからこそ、順位にこだらない人間と話すのは気が楽なのかもしれない。
順位の昇降に関していちいち慰められるのも腹をさぐられるのも疲れるのだろう。
上島はそういう相手ではないとわかったせいか、幾分くだけた口調で会話をつなぐ。
「百合田のやつ、急に成績あげてきたよね」
「そうだな」
二年生になってすぐの頃、百合田は特筆するほど成績のいい生徒ではなかった。
二十位以内に入るようになったのは、本当にここ最近のことだ。
成績上位者が何人か抜けたから繰り上がってランキング入りできた、という事情も、なきにしもあらずだろうが、それを差し引いたって、二十位以内というのはすごいことだ。
「勉強、頑張ってるんじゃねえの。いつも休み時間でも机に齧りついてんじゃん」
「なんで頑張り始めたんだろう」
轟はわざわざ口にはしなかったけれど、その疑問の言葉には「今さら頑張ったって仕方ないのに」というニュアンスが隠しきれずあった。
上島もそう思う。
思うが、「さあ、知らね」と軽く首をかしげるだけに留めた。
本当に知らなかったし、興味もなかった。
・
洗浄した羽根を、蒸気を当てながら筆で整えて、また乾かしたら、防虫剤と共にジップ付きのビニール袋に入れておく。
綾彦は、鳥の羽根を拾ったらいつもそうしていた。
何度か見ているうちに上島もやり方を覚えてしまって――あと、鳥の羽根は見た目キレイだけれどその実かなり汚いものであるということを知ったため――鳥の羽根を拾ったら、綾彦に渡す前に洗うようになった。
だからといって、綾彦は、別に、羽根集めが趣味というわけではない。
羽根に限らず、いろんなものを集めていたので。
いつか何かに使えるかもしれない、と、心に留まったものはなんでも集めていた。
てきとうに集めたものを使って、小道具めいたものを作るのが、綾彦の趣味だった。
化学室から銅板や鉛の欠片をちょろまかし、これをペンチで捻ったり鉄鎚で叩いたりしてペン先っぽいものを作りあげ、「羽根ペンもどき」にしていたことがある。「もどき」だからもちろんそれで字は書けない。まっすぐな線を引くことさえ困難だ。でもそれっぽく作ることができていて、なかなか立派なものだった。
地味で使いどころのなさそうな羽根を、彩色したり数枚重ねて盛ったりして、架空の鳥を想定し、創作していたこともあった。一本ずつだとインパクトは小さいが、きちんとした木の箱に、カタログ撮影するみたいにバランスよく並べ、キャプションなんかも添えると、ちょっとした鳥類標本みたいでなかなか壮観だった。時間も手間もカネもほとんどかけていないわりに、あれも、いい出来だったと思う。
綾彦は、そういう、細々としたものを作るのが、子供の頃から好きだった。
そして上島は、そんな綾彦の工作を見るのが、好きだった。
「今は何を作ってんの?」
静まり返る土曜の夜。
1111号室。
綾彦は、大体いつもそうしているように、蝋燭の明かりの下、床に座りこみベッドに背を預け、隠すように抱えこんだクロッキー帳に何かを描いていた。
「なあ」
返事はない、わかっているけれど、呼びかける。
鉛筆の走る音だけがさらさら返ってくる。
何を描いているのだろう。
また、あの、黒いもやもやを描いているのだろうか。
わからない。
「木多嶋先輩、どこ行ったか知らない? ……よな」
木多嶋は、いつの間にか、消えていた。
そういえば最近姿を見てないな、と思ったら、居室にも戻っていないようで、食堂にも現れていないのだから、この寮内にいないことは間違いないと思われた。寮自治会が各所に確認を取っているようだけれど、これまで多くのケースがそうだったように、きっと、何もわからないままうやむやになって終わるだろう。
でも、僕には関係ない、どうでもいいことだ……と上島は心の距離を置く。
木多嶋と最後に会話した夜、暗い廊下で、なんだかいろいろ訊かれたけれど。
気にするだけ無駄だ。たぶん、答えらしい答えは、ない。
「おやすみ、綾彦」
返事はない。
上島は1111号室を出た。
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