ランニング51:デモント教についてと、新領地の地均し
夜、ガシャーラさんを連れて帰った事で、ポーラとの間で一悶着起きかけました。
「たくさんのお嫁さん候補がいるんだから、今更新しい女が一人増えた事くらいでとやかく言うつもりは無かったけど、幽霊を、それもダンジョンのラスボスだった大怨霊を連れて帰ってくるのはどうなの?」
「未練というか、執着のいくつかは断ち切ってあるし、ダンジョン・コアもぼくがマスターとして登録して、彼女には悪さ出来ないようにしてあるから、心配する必要は無いと思うけど」
「初めまして。ガシャーラ・ラクロサンヌよ。私は神の巫女として引き立てられたけどその後のいろいろで呪いのダンジョンなんてものを
「・・・それ自体は私は構わないわ。無理も無い願いだと思うし。でも、ずっとカケルに憑いて回るっていうのは」
「言いにくいのだけど、あなたのしている事と同じでしょう?」
「うんまあ、それはそうだよね。一人が二人に増えるだけかなって」
「カケルもそこ、素直に認めないで!」
「でも、お嫁さん達とかと仲良くしてる時のプライバシーは尊重してくれるみたいだし、大丈夫じゃないかな?」
「どうやって、尊重してくれてるか確認できるの?私に対してみたいに、リーディアが張ってるような結界でも張ってもらうの?」
「私も元々は光系統の魔法使いだったから、今でも使おうと思えば使えるわ。呪いのダンジョンに紐付けられた事で、闇系統の魔法も使えるようになって、だからあなたの覗き見にも気付けたのだけど。結構あからさまというか、隠す気も無かったみたいだけど」
「私のは、カケル公認だもの!」
「リーディアと仲良くしてる時の結界はまだ欠かせないだろうし、一緒に住み始めるまでの間、他の誰かと仲良くする時はガシャーラさんに見張り役になってもらえればいいかな」
「それもどうかと思うけどね」
「でも、ポーラみたく、覗き見したい訳では無いんでしょう?」
「それは、そうだけど・・・」
「ま、どっちにしろ、これからの詳しい話は寝て起きてからにしよ。流石に、ずっと動き続けてて疲れたし」
という訳でポーラとも仲良くしてから、すっと眠りに落ちた翌朝。
ガシャーラさんは約束通り、付近に結界を張って見張り役を務めてたくれたようです。マッキーからの報告では。二人には、いろんな意味で協力関係を結んでいって欲しいですね。
昨日の首尾をポーラのご両親や宰相さんにも伝えたら、西岸諸国の動きを早める必要があるかも知れないと言われたので、輸送ならいつでも請け負いますと伝えておきました。レベル250になって使えるようになったサブスキルがちょうど送迎向きだったので。
「それで今日の予定は?」
「んー、ダンジョンもクリアし終えたし、一応の領地になる予定の旧ジョーヌ大公国の領地で、下準備しておこうかなと」
「下準備って何を?」
「ガシャーラさんで執着を切る剣の効果は確かめられたからね。似たような事をやっておこうかと思ってるんだ」
「・・・信仰を断ち切るのですか?」
朝の光の中でも、ガシャーラさんには問題無い様です。そんな心配は欠片ほどもしていませんでしたが、ガシャーラさんの声には非難する様な響きが込められてました。
「そこは、何に対してどう切ろうかまだ考えてるところ。教会に対する信頼性とか断ち切れたら一番良いんじゃ無いかと思ってるけど、ガシャーラさんはどう思う?」
「・・・そこは、教会の教えに対する執着を切る、でどうでしょうか?」
「ぼくはそもそもが異世界から連れて来られたのもあって、この世界の宗教に疎いんだけど、ミル・キハ公国とかで広められてる教えとも違うんだよね?デモント教国の頃の教えってどんな内容なの?」
「私の生前の頃のものになるけど、根本の教えとしては、デモントでもミル・キハでも変わらない筈。ミル・キハの方は、遥か昔に、捻じ曲がり始めたデモント教会とは訣別する為に離れた者達を当地の領主が保護する事で始まったので、あちらの方が正統派を自認していると思うけど、一旦その話は脇に置くわ。
神は全てを創造されました。そして基本的に介入される事を良しとはされず、被造物達の自意識に任されたそうです。長い長い時を経て、被造物は星々に満ち、星々の集合体のさらにまたその集合体でさえ支配下に置いていたそうです。そこまでは神も概ね満足されていたとか」
「そこから、何か歯車が狂っていったの?ぼくが元居た世界、まあ星と言った方が良いんだろうけど、まだ星の外に出れるのなんて限られたごく少人数が限界だったよ」
「それでも、今の私達からすれば想像の埒外なのでしょうけど、かつてのこの世界で隆盛を誇った人類は増長してしまったそうです。自分達は宇宙の謎を全て解き明かし、この世界を支配下に置いた。神は死んだ、と」
「・・・・・まあ、わかりやすいね。それで、いろんなお痛をやらかし始めたの?」
「星々の海の渦の様な集合体、さらにはその集合体まで滅ぼせるような手段を開発し、互いの覇権を競い合い、世界はとても酷い有様になってしまったそうです。もちろん、神としても警句を発しましたが、受け入れられなかったそうで」
ぼくは思わず天を仰ぎました。そりゃあ、絶望しそうにもなるよね。そこまで発展しても、いや発展したからこその増長ぶりとやらかしなのだろうと。
「ぼくも軽く聞いてるけど、その争いとかに関わらずまだ神様の言う事に耳を傾けるだけの分別を保ってた人達を星系に移植というか避難させたとか」
「そうね。その後もやはり紆余曲折を辿りつつ、似たような結末を辿りながらも、最後に残されたのがこの星の人々。ここでもまた発展に伴い人は増長し、互いを滅ぼし合い、その時現存していた大陸のほとんどは誰も住めない状態となり、新たなる大陸へと最後の人々が星龍によって隔離され、星龍はこの大陸の礎とも防壁ともなった。
デモント教、本来は異なっていた筈の教えを、教会の存在を絶対化する為に長い歴史の中で名前も変えられてしまったのだけど、教義はそう難しく無いわ。神の教えを守れ。殺すな盗むな犯すなといった基本的な教えの他に、互いに相争う事があるとしても、滅ぼそうとするな。そんな誰にでも守れそうな教えに教会は少しずつ改変を加えていった。
神の教えを司っているのは教会である。教会の教えを守る事こそが何よりも優先されなければならない。神の教えに逆らう者は死後に至ってさえ永遠の苦痛と滅びをもたらされるであろう。教会の教えに逆らう者に対しては何をしても罪には当たらない」
「異端者からは全てを奪い、殺し尽くせ、って事?」
「概ねそんな感じ。隷属させて収奪するも犯すも何をするも自由で、それは神の教えに沿った行動だと」
「ぼくの世界の宗教とかでもそういうのは良くあった事みたいだけどね。教会の教えに従った者にはどんな特典が与えられるの?」
「生前の罪が全て許されて、神の国に迎えられるであろう。そこでは全ての苦難から解放され、永遠の喜びにのみ満たされると」
「まあ、良くある天国像だね。ガシャーラさんはどんな啓示を授かって、どんな警句を広めてたの?」
「教会の教えは神の教えを歪めていると。このまま歪みを放置しておけば、神は今度こそこの世界を見捨て、終わりを迎え、教会が伝えるような神の国には誰も迎え入れられないだろう、と」
教会が巧妙だったのは、完全に歴史を歪めるのではなく、部分的には真実を伝えつつ、全ての旨みだけを自分達で独占しようとしていた点でした。デモント教の教祖は、当然というか、別の大陸で選別し救済され避難させられてきた人々を導いた預言者だったそうです。彼とその支持者達は、やはり当時最大の国家組織などから危険分子として監視対象に置かれ、根絶されかかっていた所を星龍に救われた事で、直接の救い主であり、神の御使として、星龍も信仰の対象になったそうです。
かつて別の星々の海を支配していた人々の末裔という記憶や記録はほとんど失われていましたが、人の愚かさに呆れながらも救われた者の末裔という部分は伝わっていて、それでも愚行は繰り返されてしまったのですが、自分達の教えが歪められ、その組織が欲望に支配された時は、今度こそ神は全てを滅ぼされるという絶対であった筈の教義は、教会の教えを守る者はその滅びを逃れられる、という教えにすり替えられていきました。
まあ、これまでもなんだかんだほとんど全体を滅ぼしながらも、ほんの一部でも救い出して次の機会を与えてきたのだから、今度も、という可能性はあったかも知れませんが、そのデモント教の教祖様の警句の方が正しかったのでしょう。ぼくが神様と話した時もそんな感じでしたし。
「デモント教の歴史とかはさておき、ガシャーラさんが提案してくれた通り、教会の教えに対する執着を切っていってみようか。全部一斉にというのは大変そうだから、統治の中心になるところから部分的に切っていってその影響を見守りつつ、大丈夫そうなら、徐々に広めていく感じで」
「旧ジョーヌ大公国時代からの住民たちは、デモント教国に侵略された側とも言えるから、かなり信仰の濃度に違いはありそうね」
そんなアドバイスをポーラからもらったら、旧ジョーヌ大公領の最大の都で一番目立つ教会を上空から見下ろしつつ、一番の障害というかテロ行為をやらかしてきそうな、暗殺組織の本部をサーチスキルで探し出し、その組織構成員の洗い出しが終わったら、レベル225のサブスキル、サイレントモードで移動しつつ標的の教会の教えへの執着心を切って、ついでに暗殺組織への執着心も切っておきました。
物理的な剣の刃が肉体には全く影響を及ぼさず、防具とか魔道具とかの守りも全部すり抜けて、その心にだけ深刻な作用を及ぼすとか、控えめに言っても激ヤバなマジックアイテムというか、心理操作で言えば最終兵器ですね。用法用量には気をつけましょう!でしたっけ?
その暗殺組織の筆頭という、普段は単なる雑貨屋の店主のおじさんという表の顔を持つ人は、全くの無音で気配も完全に絶って周囲への空気の流れとかにも影響を与えてないぼくの接近に気づきかけましたが、純粋な速度で勝てたので斬れました。
斬られた相手。ログゴギーという名前の人は、一度目で呆然としながらも次の剣筋を防ごうとしつつも、二度目に斬られて完全に停止しました。優しそうな見た目からは有り得ないヤバみを感じたので、三度目で殺人に対する執着を、四度目で教会から与えられた任務に対する執着も切っておきました。
廃人になってしまったかどうか少しだけ心配しましたが、お店にやってきた(暗殺組織関係者ではない)お客さんと普通にやり取りしてたので、外見上は大丈夫そうでした。ポーラの眷属に経過観察と家探しを頼んでおいて、次の標的の元へと向かい、そうやって十五人ほど同様に処理していきました。
その次は教会のお偉いさん達の、教会の教えへの執着心と、ついでに社会的地位、そして財産への執着心を切っておいてみました。こちらも上の方から二十人ほど。
それから、ぼくという存在やその周辺の誰かへの殺意や害意を持っている人をサーチスキルで探し出し、一人ずつ、教会の教えへの執着と、ぼくへの殺意や害意への執着を切っておきました。こちらは時間をかけて数百人ほど。一日じゃ終わりそうな量じゃ無かったですが、あれだけ多くの人達が心中に殺意や害意を隠し持ってる中、領主やその代官でござい、と着任していたら、えらい目に遭っていたでしょうね。
切った対象の内、周囲への影響力が大きそうな人には特に、ポーラの眷属の監視下に置いてもらいました。
それから、自分が緑化を始めた土地についてまだ誰かに入り込まれたくなかったので、こちらはポーラの眷属最古参の狼さん達に見回りを頼んでおきました。誰か入り込もうとしたら追い払ってくれればいいと。ダンジョンがあった場所も呪いや腐敗をばら撒く場所では無くなってましたが、こちらは特にポーに頼んでおきました。あれから時間もそれなりに経っていたので、再生ワームや再生モグラもある程度追加でばら撒いておきました。
それからクラーケンの触腕や、獣系ダンジョンのボスドロップの一部を補充したりレベルも少し上げてから、今夜はリーディアのところに帰り、また存分にイチャイチャしました。
翌日は、旧デモント選定侯領で二番目に大きな都、聖都とされていた大聖堂に次ぐ聖堂が建てられていて、領都が潰された後、急遽次のデモント教の中心地として定められたネベオージーにやってきたのですが、ざっとサーチしただけでも、ぼくへの殺意のメッカというか、一致団結してぼくという大災厄を打ち払おう!という決意に満ち満ちているようで、暗殺者の数だけでも数百人、ぼくや関係者に天罰を与えんと固く決意している聖職者も軽く千人以上、それらの指示の下何でもしそうな信徒達は、住人の大半で、こちらは万の単位でしたね。
流石にこの数を一人ずつは切ってられないので、剣のダンジョンへ行って、ノーマルソード改の仕様を改変。物理的な剣の刃を無くし、不可視な刃を望むだけの数に分裂可能にさせ、建物も防具なども透過して対象に接触すれば斬った時と同様の効果をもたらせるようにしました。
準備を終えたらネベオージー上空へ戻り、握り手と柄だけになったノーマルソード改を握り、万の単位の極小の刃を生成。それらを、ぼくへの殺意に執着する人々に上空から降らしてみたら、生成して降らした数の分だけ、サーチスキルにかかる数がごっそりと減りました。
独裁者御用達なスキルだなぁとは思いつつ、彼らの命か信仰心のどちらかを諦めてもらうしかないので仕方ないよねと心の中で言い訳しながら、続けて、教会への教えに対する執着心も切っておきました。暗殺者集団と教会上層部に対しては、昨日同様に念入りに処理しておきました。
翌日以降も似たような都市や町々を処理していき、村々に関しては面倒臭くなってたので、教会の教えへの執着心だけ処理しておきました。
あ、一応念の為に書いておくと、次に神様に会った時の言い訳にする為に、ぼくに殺意や害意を抱いてない人は処置の対象外にしておきました。ガラーシャさんみたいな人が、稀に混じってたりするかもだから。デモント領都にもいただろうそんな一部の例外な人達にはごめんなさいするしか無いんだけど、謝らないって決めてるしね。
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