ランニング50:そして最後のダンジョンへ
ドースデン帝国へ着くと、待ちかねていたという感じで、選定侯と皇帝との間のリモート会議にそのまま参加することになりました。
「でも、ドースデン選定侯はまだ帝都に到着してないのでは?」
「あれは、こちらの言いつけに従わずに飛び出したのが悪いのです。それに、あなたが彼に会いたいのであれば、即座に連れてこれるのでは?」
「すみません。出来る限り、会いたく無いですね」
「・・・率直な物言いは、貴族社会でももっと尊ばれるべきですね」
とかプロティアさんがぼやいてる間に、リモート会議用の一室に到着しました。円卓の周りに6枚の大鏡が据えられてて、その内の1枚はひび割れてる様に見えました。
プロティアさんと、隣り合った一席には、ビデオカメラとマイクが融合したような魔道具が設置されてて、あれが多分大鏡へ映像と音声を流す仕組みなのでしょう。
プロティアさんの隣の席にはピージャが座っていて、ぼくに会釈してきたので、小さく手を振っておきました。
「カケル様の今回の役割はほぼ顔見せのみですが、普段のこの会議がどんな流れで行われているのか見ておくのは、今後の統治の為に役立つことでしょう」
とかプロティアさんに言われたら頷くしか無くて、プロティアさんとピージャの中間の席に座ってしばらくすると、それぞれの大鏡に、選定侯達の姿が映り始めました。
五つの大鏡に姿が映ると、プロティアさんが会議を進行し始めました。
その内、四人の姿までは会った事のある人達でした。
ソルティック選定侯のルグルスさん。
イヴィ・ゾヌ選定侯のヨネッゲさん。
ナンブ選定侯のパルトさん。
コ・チョー選定侯のジーナさん。
残る一人、ぼくがまだ直接会った事の無い老人男性の選定侯が、ハシャール選定侯なのでしょう。
「今日の会議では、カケル殿と、カケル殿に嫁ぎ、その所領とされる予定の旧ジョーヌ大公領と旧デモント教国領の代官を任される予定のピージャを先ず紹介します。
その後は、カケル殿がもたらして下さった土地枯れを癒す手段や、食糧をどう配布していくかの方針を検討しましょう。
それでは、カケル殿、お願いします」
プロティアさんに促されて、ぼくはピージャの目の前のカメラに映り込む様にピージャの前に立ち、軽い挨拶をしておきました。
「ほとんどの選定侯の皆さんにはちょっとぶりですが、ハシャール選定侯には初めまして。カケルです。これからよろしくお願いします」
ハシャール選定侯は、長い白髭を生やしたドワーフっぽい初老の男性で、厳つい外見とは裏腹な穏やかな感じで挨拶してくれました。
「初めましてじゃの。天轟のカケルよ。儂の名前は、イーカト・ビヨース・ハシャール。数日前に上空を駆け抜けていったらしいが、その時に立ち寄ってくれても良かったのじゃがな」
「すみませんね、いつも忙しくあちこちを走り回ってるもので。いずれきちんとご挨拶には伺おうと思ってますので、その時はよろしくお願いします」
「プロティア殿、いや陛下からも事情はいくらか聞いておる。儂も家族も、デモントの奴を大聖堂ごと潰してくれたと聞いた時には胸がスカッとしたわい。礼を言う」
「何か因縁でもあったのですか?」
「あるなんてものじゃ無いわい。土地枯れは、当時のデモント東部、ハシャールの北方から始まり、広まっていったのじゃが、当然、こちらの方にも難民は多く流れてきての。たまたま、儂はそのきっかけを当事者に近い者から聞いておったのよ。もう数十年前、まだ儂が若かった頃の話じゃが」
「イークト、私もその話は聞いてない様に思うのですが」
「おや、そうじゃったかの、プロティア・・・陛下よ。これまではマクラエの野郎がおったからの。デモント領とこれ以上不仲になって、またどんな嫌がらせをされるかわかったものでは無かったしのぅ」
「それで、当時何があったか教えて頂けますか?」
「おおさ。あれは、およそ50年くらい前、まだ儂が十五くらいの事じゃった。だんだん、北のデモント教国から農民達が逃げてくるようになっての。その数と頻度が増え続けた頃のある日、難民の集団に紛れた貴族の一団がおって、その内の一人から聞いた話じゃ。
聖なる巫女の呪い。そう呼ばれておった」
イーカトさんが語ってくれた話によると。
この大陸への避難民を運んでくれた龍の話と大筋でも一致していて。
ガシャーラ・ラクロサンヌという下級貴族出身の尼僧がある日神託を授かり、このままだと滅びが待ち受けていると警句を発する様になったそうです。それまでよりも強い奇跡の力を発揮する様になった事もあって、信者を徐々に味方に付けていったのですが、当然、デモントの教会組織には敵視され、迫害され、誹謗中傷を嵐の様に浴びせられ仲間を減らされた挙句、家族や仲間ごと皆殺しにされたそうです。
「見せしめの為、その故郷の村で惨殺されたそうだ。マクラエの奴は、ガシャーラを異端として糾弾し、その仲間や家族ごと一派を殲滅した事で功績を稼いで出世したそうだ」
「随分詳しい話まで聞かれてたんですね」
「そのガシャーラと顔見知りの下級貴族の娘から聞いたからの。処罰にギリギリ巻き込まれなかったものの、後が怖くて逃げてきたと言っていた」
「土地枯れは、ガシャーラさんが惨殺された土地から始まったんですか?」
「合間は数年空いたがの。だんだん農作物の育ちが悪くなり、流行病も度々起きる様になり、人が暮らせる土地では無くなっていった。デモント教の僧侶達がこぞって浄化を試みたが、ただの一度として成功したことは無かったそうだ。
そして土地枯れは周辺へと広まっていき、ジョーヌ大公の独立の判断と、その後の波乱の日々の結末として、デモント教国は実質的にジョーヌ大公領を横取りした。元からの所領の半分近くが呪いに侵されてしまったからな。
戦乱を結果的に勝ち抜いたドースデン王国も、そのデモントの横暴を咎められる力をまだ持たなかった。ジョーヌ大公領の大半の支配権をデモント選定侯の所領として認める代わりに、ドースデン帝国の支配下に入る事を認めさせたようだからの」
「あれは、夫としても苦渋の判断でした。戦乱を完全に終結させる事が至上命題でしたから。でも、土地枯れの原因がデモントにあったと知っていれば・・・。いえ、それでも咎める事は難しかったでしょうね」
「しかし、マクラエとその勢力基盤の中心であった大聖堂と領都と領民が丸ごと消し飛び、カケル殿の様な存在が出てきたのなら話は全く違ってくる。ダンジョンを制覇して回ってるとも聞いておるからの。きっと、呪いの中心地にも行かれるのだろう?」
「そうですね。そのつもりでいましたし、その準備の為に、他の九つのダンジョンは制覇しましたしね」
「日々の統治といった雑事は、儂や陛下や、カケル殿に嫁ぐというそこのピージャという小娘達に任せれば良い。其方には其方にしか出来ぬ役回りがある様だからの」
「はい。それじゃ、面通しも済んだので、ぼくはそろそろ行ってきますね」
「では、私もお見送りを」
「この場でいいよ。終わったら多分また戻ってくるから」
ピージャはちょっと不満そうでしたが、抱き締めてチュッと口付けしたら、その場を後にしました。
たぶん、今までで一番厳しそうなダンジョンになる事が想像できてたので、気持ちもスッパリ切り替えました。
先日、ドースデン帝国の所領をぐるっと回って下見しておいたので、現地上空まではあっという間に着きました。レベル上げの為に走ってでもすぐでしたが。
グラウンドゼロというのが爆心地なら、ダンジョンの入り口がある地点がそれに該当するのでしょうけど、おおよそ200kmくらいは枯れたというより、腐れ爛れた土地が広がり、完全に人が住めなくなっていたというか、あらゆる動植物が死滅して何も生き残っていない、正に死の土地でした。
ポーラの眷属に下見も依頼してあったのですが、影伝いにダンジョンの入り口までは行けるものの、外に一瞬出ただけでアンデッドの体でさえだんだん腐り始めるそうなので、探索は諦めてもらってました。ダンジョンの呪いで腐敗した体がポーラにも修復できるかどうか分からなかったからです。
そんな所に無策で飛び込むほど、ぼくも無謀ではありませんでした。これからもっとお嫁さん達とイチャイチャする日々を楽しみかったですしね。
このダンジョンに挑む鍵は、これまでに挑んでクリアしたダンジョンのコアから生み出せる魔物やクリア報酬などにありました。
先ずは、普通に枯れている土地と、呪われた土地の境界辺りに降りて、再生ワームをばら撒いてみました。普通に枯れただけの土地、この言い方もどうかとも思うのですが事実なので、そちらでは再生ワームは活動し始めたものの、呪われた土地の方からなるべく離れようとしてましたし、呪われた土地の方に撒かれた再生ワームの大半は、枯れただけの土地へと辿り着こうとするも間に合わずに死んでしまいました。
次に試すのは、蟲系ダンジョンで作ってきた新作です。畑を広げて作物を育てるようになってたお陰か、植物系魔物も設計・創造・配置できる様になってたので、カビとか苔系の魔物を創ってみました。
カビの方は、呪いをその成長源として摂取して自らの数を胞子をばら撒いて増殖する様に設計してみました。密閉した容器に入れて持ってきたのを、枯れた土地と呪われた土地の境界線の辺りに撒いてみると、菌類がプレートの上で増殖する動画を早回しで再生されるのと同じ様な光景が目の前で展開され始めました。
黒というよりはどんよりとした暗い紫色の土地に、緑の斑点が斑状に広がっていき、点は点と結び付いて、あっという間に薄い緑の領域を拡大していきました。その速度は驚異的で、およそ一平方メートルが十秒も経たずに薄い緑に覆われ、その隣接地にも緑が飛び飛びに広がっていくのです。
紫色の呪われた土地がある程度濃い緑色に覆われたら、苔の方の投入です。こちらはカビと腐敗とを主成分として育ち、やはり胞子を撒いて増殖。成長する為のカビや腐敗成分が無くなれば死滅する様設計しました。根付いた土地は刻々と癒される素敵仕様です。
カビの方は育っても1ミリも無いくらいですが、苔の方はすぐに1センチ以上に育って、3センチ以上になると胞子を撒いて増殖し始めました。カビの方が育った辺りでなら、再生ワームも活動できる様でした。
先行試験が上手く行ったので、次の段階に進みました。
先行試験で広がり始めた緑の領域から、ダンジョンの入り口周辺まで、カビを撒き、しばらくして地面の色が変わってきたら苔の方も撒いていきました。表面上、緑の小道が出来上がったら、次に、ダンジョンの中にもカビ、そして苔を振り入れてみて、変化を見守りました。
カビも苔も頑張ってくれてはいる様ですが、ダンジョンの外と比べればその成長速度は倍以上遅く、追加手段が無いとダンジョンの奥底までの繁殖までには相当の時間がかかりそうでした。
ダンジョン・コアで創造してきた魔物第三弾は、スフィンクスのいた墳墓ダンジョンで創ってきたアンデッド、それもレイス系の魔物です。腐敗という、よく分からない現象を起こさせる要因がこのダンジョンの空気だか空間だかに満ち溢れているとして、それを物理的に生み出してるのは、この呪いのダンジョンのコアです。ぼくが創造した浄化レイスは、その腐敗要素を養分として自らの耐性を上げつつ、一定程度まで育てば分体を増やしていきます。
普段は浄化されれば消えてしまうレイスが浄化する側に立つのは皮肉ですが、腐る為の体を持たない彼らならではのお仕事です。こちらはポーラの影の空間を通じて転送が可能だったので、うっすらと見えるくらいの小さなオレンジ色のレイス達が次々と出現し、嬉々としてダンジョンの奥深くへと向かっていきました。
鑑定メガネをかけながらダンジョン内の通路の様子を注視していると、レイス達が放たれて時間が経つほどに、カビや苔の増殖速度が上がっていて、鑑定メガネに表示される呪い濃度や腐敗空気濃度が薄れて、外気と差が無くなっていきました。
さらに突入前のダメ押し準備として、剣や魔法のダンジョンでも大活躍したゴーレム球の小型版も、随時投入していきました。一番耐性が低くて環境の影響も受けそうなロック・ゴーレム球から入れていきましたが、浄化レイスやカビや苔の勢力範囲外に入り込むと、ものの数分も保たずに呪われた土地の色になって腐れ果ててしまいました。
ブロンズやアイアン、シルバーやゴールドと位階が上がっていくに連れてより遠くまで到達できましたが、やはりここでもクリスタル・ゴーレム球は別格の耐久性を誇りました。モニタリングの結果を踏まえて、ロックとシルバーとクリスタルのゴーレムのボスの分体に現地指揮とマッピングを任せました。浄化レイスとの連携は、リポップさせたスフィンクスの小型分体の担当です。浄化レイスのアイディアは、スフィンクスからもらいました。腐敗への対処はミイラ作成時の一大テーマでもあるそうで、長い話はほとんど聞き流しましたが。
ぼくはぼくで待つ間は外を走り回ってなるべくレベルを上げておきました。設置できるゲートの数も増やしたかったし、新たなサブスキルが今後の生命線になる可能性もあったからです。
ダンジョン入り口にカビや苔を蒔き、浄化レイスやゴーレム球の群れを突入させてから10時間経過した頃に、ダンジョン全体のマッピングが終わったと報告がありました。ラスボスの部屋に浄化レイスは入り込めはするもののラスボスには倒されてしまうと報告があったので、ダンジョン内の浄化を優先するように頼んでおきました。
それから更に6時間が経過する頃までに、ラスボス部屋手前までカビや苔が到達し、ぼくのレベルも250に達したので、自分が突入する前のダメ押し最終段階を遂行し始めました。
名付けて、一寸法師作戦。
実際には、一寸よりもだいぶ小さい、ダンジョン・コアで設定可能なほぼ最小単位の大きさの、アダマンタイト・ゴーレムをバッシュの分体として創造。ぼくの使えるスキルを全て使えるようにして、リーディアの最高位のバフも諸々かけてもらったら、瞬足を発動。
文字通りのタイムアタックを開始。途中の小ボスや中ボスなどを貫通して連続浄化し消滅させていき、ラスボス部屋の扉までまとめて消滅させるまで一秒も経っていませんでした。
一瞬の百分の一どころか億分の一も経たない、コンピューターで言うクロック数とかの速さに例えるのが良いのでしょうか。1cmも無い大きさのアダマンタイト製ゴーレムが光速以上の速度で突っ込んでくるのです。アンデッドには天敵と言えるバフをてんこ盛りに受けた状態で。
幽霊にしろ、その思考や判断速度は生前の物に準ずるでしょう。僅か1cm以下の大きさの物体が光以上の速さで突っ込んでくればそもそも認識できる筈もありません。突撃を受けたラスボスは、瞬殺されましたが、即座にリポップされました。
バッシュの中継によれば、死に至る呪いを連発して受けているそうですが、そもそもゴーレムは生物の様には死にません。ここからは呪いのダンジョンとぼくの制覇した他のダンジョンとのリソース競争の様にもなりましたが、勝負になる筈もありません。このダンジョンがどれほど強い呪怨で生じたにせよ、一番若いという事は、それだけリソースに乏しい事を意味します。周辺の土地の呪いの総量もガリガリと秒速で削り続けていましたし、ラスボスを即座にリポップさせ続けるのも負担として軽い筈もありません。
小ボスや中ボスが全滅した事でダンジョン内の浄化は進み、ラスボス部屋への扉が壊され、内部にカビや苔や浄化レイスが入り込んで繁殖を始めた事で、ラスボスのリポップは即時では無くなり、だんだんと間が空くようになりました。
バッシュの分体には、ラスボスが降伏して戦闘の意思を無くしたら殲滅行為を停止するように伝えてありました。
それでも足掛け4時間ほど、倒された回数は数百を超えて、ようやく、ラスボスは抵抗の意思だけ示すようになり、リポップ間隔も1時間を越える頃になって、歯向かう事を止め、ただその場で泣き続けていると報告を受けて、ぼくはラスボスに会いに行きました。
ダンジョンは地下へと降りていくタイプでしたが、牧歌的な農村、小さな町、中くらいの町、大きめな町、そしてぼくが潰したデモントの大聖堂と似た建物が中心に据えられた都市とステージは広さと複雑さを増していき、モブ魔物は人が腐って捩れてぐちゃぐちゃにされた成れ果ての何か。
小ボスや中ボスは、ラスボスと関わりのあった誰かがデザインの大元ではあったみたいですが、人型の何かというよりは、人型の何かであった筈の
蟲系とは違う意味と手段で攻略しようとする誰かの意思を挫くダンジョンですね。呪われた土地に囲まれていて普通の人にはまず近付けないし、ダンジョンに入り込めば腐敗の呪いが更に追加されてきます。リーディアなら身辺を結界で完全に守り切る事は出来たかも知れませんが、ダンジョンの総力を傾けられればおそらく魔力が保ちませんし、ダンジョン全体の浄化なんて普通の人間には無理です。浄化して回ったとしても、呪いと腐敗の根源を絶たない限り、再び呪われ腐れ果てていってしまうのですから。
ぼくが大聖堂に到着すると、そこには泣き崩れているシスター服姿のゴースト?が居ました。
生者であるぼくを見て、彼女のテリトリーとダンジョンを無茶苦茶に荒らしたのが誰か分かったのでしょう。呪詛の言葉でも吐きかけたのですが、待ってあげる理由はありませんでした。
剣のダンジョンのクリア報酬であるノーマルソード改、魔法のダンジョンをクリアした時とは設定を変えて、何でも斬って消滅できる対象を『執着』にしてありました。
何に対する執着を斬るのかは、斬る度に発声するか念じながら決めます。こんな風に。
「あなたの生者に対する執着を斬ります」
何の変哲もない外見のノーマルソードが、シスターさんの透明な体を通り過ぎただけですが、彼女がぼくに伸ばしていた手がだらんと垂れ下がりました。どうして手を伸ばそうとしていたのか、必死になって思い出そうとして、思い出せた様なので再び迫ろうとしてきましたが、今度は連続して斬っていきました。
「あなたのこの土地に対する執着を斬ります」
「ぐっ!?」
「あなたのデモント教に対する執着を斬ります」
「えっ!?」
「そして、すみません。あなたの、あなたの身の上に起きた悲劇への執着を、斬ります」
「ちょっ、待っ!」
待ちませんでした。
執着を一つずつ斬り離し消滅させていく毎に、恨み辛み悲しみ憤りなどが混ぜ合わさって呪怨というタイトルにしかならなそうだったシスターさんの表情は、憑き物が落ちていく様に、平穏さを取り戻していきました。
「全ての執着を断ち切ってしまうと消滅されてしまいそうなので、その前にお話を伺えますか?」
完全消滅させてリポップ狙いでも良かったのかも知れませんが、呪いのダンジョンという性質上、ラスボス倒したらダンジョンごと自壊して消滅なんて展開も想像できたので、一旦は控えておきました。普通に倒すだけなら後何回でも出来ましたけど、いわゆる成仏だと違う結末を迎えそうだったので。
突然体が軽く感じられるようになったのか戸惑いの表情を浮かべていましたが、
「ガシャーラ・ラクロサンヌさんですよね?」
という問いかけには、驚きの表情を浮かべました。
「久しぶりに名前を呼ばれた気がする」
「そうですか。このダンジョンの中も外も大変な状況になってたので、仕方ありませんね」
「私だって、こうなりたくて、なった訳じゃないわ」
「お話を伺えますか?」
「ええ。もちろんよ。久しぶりに頭がスッキリした感じだし」
サバサバした口調で語ってくれた大筋は、あの龍やハシャール選定侯のお爺さんから聞いたのと合致してましたが、まあ当人の語り口調からすると、恨んで当然だよね、という出来事なオンパレードな訳で。執着を切り離してなければまた怨霊に戻りそうになる雰囲気すらありました。執着が断ち切れているので、第三者視線で振り返る事ができて、またタイトル呪怨な表情への揺り戻しは起きずに済みました。
まあ、その中でも特に酷かったパートがあってですね。
「え、マクラエって、ガシャーラさんのいた修道院を監督する立場に居たんですか?」
「そうよ。しかも私に言い寄ってたのを私が振ったから、修道院の下男をしていた他に仲の良い人に嫉妬して、私に協力する振りをして協力者達の繋がりを把握しつつ、裏切るのに最適なタイミングを測っていたのよ」
「滅して良かったです」
「大聖堂ごとどころか、領都ごとぶっ潰したっていうあなたの思い切りの良さには私でも引いてしまうところが無いではないけれど、良くやってくれたわ!こんな境遇に陥ってから、これほど痛快に思った出来事は無いくらいに!」
「まあ、ぼくは、神様から好きなようにしていい、この世界を楽しんでね、と言われてましたから、好きにさせてもらいました」
「それよ!私が一番納得がいかなかったのは!」
「そう言われましても。神様もいろんな試行錯誤を試し尽くした後に、異世界人であるぼくを呼び寄せる事を試してみる気になったみたいですし」
「・・・私はね。託宣を授かった巫女となった事を誇りに思っていたのよ。どんな苦難が待ち受けていても、受け入れるだけの覚悟はしていたつもりだった。でも、無理だったわ」
「この大陸に難民を連れきた星龍に、あなたに起きた出来事は見せてもらいましたが、酷かったですね。ぼくでも、耐えられなかったと思います。あれは、殺され続けるのよりも、辛かったでしょう」
「・・・・・っ!」
幽霊が泣くとか涙腺どうなってるんだろう?というのは無粋な疑問なので口にはしませんでしたが、ガシャーラさんの頬を一筋の涙が零れ落ちていきました。
当時の悲しみや苦しみなどを噛み締めるような沈黙の時がしばし続いた後。
「私は、マクラエとかデモント教の教会組織そのものも恨んだけれど、誰よりも恨んだのは、私に託宣を与えた神様そのものだった。失敗する未来が見えてなかったとは言わせない。言わせたくない。それでも救う為に私を遣わした、使ったのだとしても、納得はできなかった。今でも、納得できるとは、言えそうにない」
「まあ、ぼくも、自分やお嫁さん候補達が酷い目に遭ったりして避けようが無い未来として確定されてしまってたら、そうなるかも知れませんね。ならないなんて、誰にも言えないと思いますよ」
「神様には、神様にしか見えない未来が、時の流れが見えている。あなたを呼ばなかった場合の未来を何通り試してきたか、あなたが言う通り、人間には考えが及ばない単位に届くのでしょうけどね」
「このダンジョンをクリアできれば、当面の問題は片付きそうではあります。土地枯れも、このダンジョンが消失すれば、呪いの根源地が消失する事で、これ以上の広がりは見せなくなるでしょうし」
「あなたに後始末を押し付けたみたいでごめんなさい。なんだけど、謝りたくもない気持ちも分かってもらえると嬉しいわ」
「それは仕方ないです。それで、どうしますか?」
「どうするか、とは?」
「ぼくは、ここのダンジョン・コアを初期化したら台座から取り外して、消滅させるつもりです。その前に、あなたに残っている執着を全て切り離して、成仏?神の御元へ向かう事も可能になるでしょうけど、そうします?」
「あなたの話によると、神様はこの世界を諦めかけていたのよね?」
「はい。そうでなければ、土地枯れとかも起きていなかったそうです」
「だとするなら、私にも見届けさせて欲しい。あなたがどんな一生を辿り、結局、神様がこの世界を諦めたのか、諦めなかったのか、それだけは見届けてから、消滅したいから」
「当然の願望ですね。ぼくは構わないですよ。という訳で、ダンジョン・コアの小部屋への通路を開いていただけますか?」
「えーと、私はあなたに憑いて回ると言ってるようなものなのだけど、そこは大丈夫なのかしら?」
「まあ、最低限のプライバシーは尊重してもらえるなら?リーディアとかだいぶ光魔法が得意になってきてますし、ダンジョン・コアから切り離されたあなたなら多分敵わない存在になりますし、他のお嫁さんやお嫁さん候補達とイチャイチャする日々が続く予定ですが、それでもよろしければ」
「どうしてかしら。とてつもなくイラッとさせられて、あなたを呪い殺したくもなったのだけれど?」
「内心そう思ってたとしても、恨みを発露しない限りは大丈夫ですよ。アンデッド仲間ならポーラの眷属にたんまりといますし。ぼくも、あなたがぼくやぼくの大切な人達に害を及ぼさない限りは、浄化したり消滅させようとはしないでしょう」
「・・・・・納得いかない部分も残るけど、とりあえずはそれでいいわ。私も託宣だけでなく、あなたみたいな能力を授かってたら、また別の結末が待っていたのかしらね」
「それは、神のみぞ知るって奴です。ぼくを呼び寄せる前に、神様としては、試せる事は一通り以上試してきてたみたいですけどね」
「神様も、私なんかの為に心を痛めてくれて、結果的にあなたによって救済されたのだとしたら、そう納得しておくしかなさそうね」
そうしてダンジョン・コアへの小部屋への通路を開いてくれたのでマスター登録をして、ラスボスでもあるガシャーラさんの設定をどうするかで少し悩みました。
今後リポップしない様にする事も出来ました。すぐに消滅させる事も出来ました。いつまでという時限を設定する事も出来ました。けれど、それじゃ納得がいかないだろうなと思ったので、彼女が納得した時に、自らを消滅出来る様に設定しました。まあ、ぼくとお嫁さん達の生活の為に、本当に邪魔だと思った時にはデポップ(ポップ待機状態に戻す)させる事も出来るように設定しておきましたけど。
もちろん、呪うだの腐れさすだのといった能力は、ぼくやお嫁さんとか関係者を一切対象と出来ず、ぼくとかの許可が無いとその能力は振るえない様に制限はかけておきました。
このダンジョンの使い道も無い訳では無かったのですが、残す益よりも害の方がずっと大きそうだったので、スッパリとコアを台座から外して消滅させました。ガシャーラさんの霊はそれでも憑いてきてましたが、理屈については一旦気にしない事にしました。流石に長丁場で疲れてたのもあって、約束通りドースデンの帝城によってプロティアさんとピージャに首尾を伝えた後、順番通りポーラのところに行って休みました。
さてと。ダンジョンを全部クリアしたら次のチェックポイントが来ると思ってたけど、来ませんでした。
これ、明日からはどう動くのが最善なのか少し悩みながら、眠りに落ちました。
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