ランニング48:前種と、剣のダンジョン
スフィンクスのいる墳墓のダンジョンにはワープでサクッと移動しました。今更戦闘になるとは思えなかったので。でも、その先入観は少しだけ見込みが甘かった様でした。
「こんにちは。ダンジョンマスターと会えるかな?」
「会いたくば、私の課す試練を乗り越えるが良い!」
「・・・どうしたんですか?数日でいきなりぼくに勝てるくらいパワーアップした様には見えませんが」
「それでも、守られるべき約定や、果たされるべき思いはある。それに、試練と言った筈だ。別に私が其方を倒す必要性は無い」
「あなたが守ろうとしているのは、ダンジョンマスターですよね。その人は、自分で自分を守る手段を持たない。だからあなたは誰かとの約束に従って、その誰かを守ろうとしている。でも、ぼくがあなたを倒してしまえば、結局はダンジョン・コアへの小部屋への道は開いてしまうのでは?」
「私が課す試練を受けるか、受けないのか、どちらだ!?」
「決めようが無いし、受ける必要性がそもそも無いと思います。ぼくはもう五個以上のダンジョンを制覇しました。今更、あなたに怯む事はありませんが、だからと言って無辜の誰かを理由も聞かずに惨殺したがるとは限りませんよ。さあ、あなたはどちらの選択肢を選ぶんですか?」
「・・・私は、前のダンジョン・マスターから、その者を守ると、出来る限りの事をすると誓った。だから」
「それで今のあなたが死んでしまったら、ダンジョンの法則に従って蘇ったとしても、その約束を覚えていられるんですか?そのダンジョン・マスターが存命ならともかく。ぼくが新たなダンジョン・マスターとなったら尚更、あなたが守ろうとしている誰かは守れなくなるんじゃないんですか?」
「・・・・・」
「選んで下さい。あなたが、前のダンジョン・マスターから頼まれた誰かなんですから」
「・・・では、頼む。私をどうしようと構わない。だが、私が託された誰かを助けて欲しい」
「それは、説明してもらわないと、はいともいいえとも言えないと思うんですが」
「私が託されたのは、数千年前に栄えた種族の最後の生き残りだ」
うわお、とは内心で呟きました。
「・・・緑の魔境とか呼ばれてる大陸で、かなり高度に発展した種族なり人達がいたけど、戦争か何かで滅びたとかは聞いてますが」
「人類以外の知性に縋ろうとして、その力と存在を信じ切れずに滅びた人々に警句を与えたのが、このダンジョンの前のマスターだ。そして人々が彼女の警句を聞き入れず、彼女を滅ぼそうと動き出したのを見て諦め、彼女の縁者をこのダンジョンと私に託したのだ」
「それが数千年前の出来事だとして、託した方も、あなたに託されたって方も、相当な長生きな種だったって事?」
「其方のような普通の人類種よりは相当な長命種だな。だがその長命をもってしても、結局は種としての滅びを免れなかった。悲しい事だ」
「いきなり殺そうとしないのは約束できるので、その誰かに会わせてもらう事は出来ますか?」
「誓えるか?」
「誓えます」
「ならば良かろう。複数のダンジョンを制覇できるような誰かに託される方が、ここでただ時を過ごすしか無い私に託されるよりも将来へ望みを繋げられるだろうしな」
そうして、スフィンクスの背面の壁にダンジョン・コアの小部屋への通路が開き、その通路から、まるで乳母車の様な何かに載せられた赤子が運ばれてきました。
「それが託された誰かって事?」
「そうだ。簡略化された名前は、オードリー・ヌナ・エフェンデという。託されて以降は時を止められた状態で数千年を過ごしてきたが、このダンジョンから離れ、乳母車から出せば、普通の赤子と同じ様に時を刻み始めるはずだ。彼女を引き受けてくれるだろうか?」
「このダンジョンを制覇する代償として、引き受けましょう」
「それで構わない」
ぼくは、耳の先がちょっと細長く尖った赤ちゃんを傍に、スフィンクスの体のあちこちにアダマンタイトの糸を巻きつけてバラバラにして倒しました。スフィンクスを倒しておかないとダンジョン・マスターにはなれず、ダンジョン・マスターにならないとこのオードリーは助けられず、全てのダンジョンを制覇しないと最終的な滅びも避けられないのが何となくわかっていたから、そうしました。
ダンジョン・コアに触れてマスターの登録をすると、オードリーがぱっちりと目を覚まし、ぼくと目を合わせ、おぎゃああああああと派手な音量で泣き叫んだので、彼だか彼女だかの体に触れて、キゥオラへワープ。アザーディアさんには白眼視されましたが、身の潔白を説明しました。
「この世界に神様から連れて来られてまだ二か月経ってないんだよ?制覇したダンジョンで事情があって匿われてた子供だから、ここで育ててあげてもらえないかな?」
「・・・これまでにカケル様にキゥオラ王国が受けた恩義の高を考えれば受けざるを得ませんが、隠し子と誤解されかねない存在は、これきりにして下さいませ」
「ぼくのせいじゃないんだってば」
「ええ、ええ、もちろん信じますとも」
「それ、信じてない誰かのセリフだよね!?」
「私はカケル様の人となりや、この世界に召喚されてからの経緯もある程度伺ってますから、事情は理解できます。しかし、そうでない一般大衆や、他国の貴族達からすればどうでしょうか?あなたは異世界から呼ばれた者と公言しております。であるなら、この赤子もまた、あなたの縁者として異世界から呼び寄せられたと受け取る者がいてもおかしくありません」
「言ってることは分からないでもないけど、そんなの触れて回らないと知られないで済むような事でしょ?この子はダンジョンの拾い子。数千年前の滅びた人種の遺児なんてのも、関係者が言いふらさなければ広まらない。今更、そんな些事を心配しなければいけないほど、ぼくとこの国の関係が浅いとも思えないんだけど?」
「承知しました。この赤子は、あなたとの関連性を一切疑われない者に託して育てさせます」
「んー。その外見から、普通の孤児として育てるのも無理があるでしょ。誰でもない誰かとして、キゥオラ王室で匿って育ててもらえないかな?」
「これまでに受けた莫大な御恩から、出来るとお答えしたいのは山々ですが、秘密はどうにかして漏れてしまうのが世の定めでございます。今すぐにではなくとも。あなたは、その弱点を味方以外の誰からも探られる立場にあるのですし」
「じゃあ、ポーラからも提案されてた通り、この大陸ではないどこかで育てた方が良いだろうね。それでも乳母さんとか必要になるだろうし、そっちの手配は頼めるかな」
「かしこまりました。しかし、この赤子の取り扱いについては、くれぐれも慎重になって下さいませ」
「力関係を乱しちゃうから?」
「はい。あなたの代わりになる存在はいない。あなたの持つ能力が次代に引き継がれないのだとしても、どのお妃様が長子を、後継を産まれるのかで、諸国間の力関係は容易く逆転されてしまう。カケル様がポーラ姫やリーディア女王と最初に挙式し、次のお妃候補を娶るまでの期間を空ける配慮を台無しにする存在だと、お心得下さいませ」
「・・・わかったよ。それでも、たぶん、彼女は、最終的にこの世界を救うのに不可欠な存在になる気がするから、最大限の配慮を払ってね」
「かしこまりました。ポーラ姫にとって、ポーラ姫以外からあなたの子が産まれた時の予行演習としてはちょうど良い存在となるでしょう。しかし、この赤子の存在に関して、ドースデンなどには伝えるのですか?」
「隠しておいて後からバレるよりは騒ぎにならないでしょう?だから伝えておくよ。ぼくに後ろ暗いところは無いんだし、そもそもの計算とかも合わないし、種族とかも違うんだし」
「・・・・・・」
アザーディアさんは、何のかの言いながら、最終的には面倒を引き受けてくれました。ぼくに向ける視線がジトッとしたもののままであったとしても。
その夜はポーラと過ごす日で、その赤子、オードリーについても当然話題に出たのですが、
「まあ、遅かれ早かれ、私以外から産まれたあなたの子供に会う定めにはあるのだから、良い練習にはなると思うわ」
「いやだから、ぼくの子供じゃないからね!」
「もちろん、分かっているわ」
まあ、アザーディアさんよりは余程軽く受け流してくれたのは助かりました。ぼくの外見的特徴を一切受け継いでる様に見えないのも、好材料ではあったのでしょう。まだ赤ちゃんなので顔立ちの特徴は耳先以外は標準的なのかも知れませんが、瞳は虹色、髪は淡い緑と水色の光彩を湛えていて、一目見て普通の赤ちゃんでは無いことが伝わってきます。
その夜はいつも通り仲良く過ごし、オードリーにも特に邪魔されるような事は無かったのですが。
翌朝。アザーディアさんに抱えられたオードリーは、わずか一晩にしては異常に成長していました。自分はろくに赤ちゃんと接する機会も無かったのでどの程度と表現するのは難しかったのですが、アザーディアさん曰く、生後一か月くらいにはなってるそうで、首や関節や指先などもしっかりしてきて、彫りの深い顔立ちになりそうな片鱗がすでに窺えました。
彼女?は、ぼくに抱っこをせがんできたので、落とさないように気をつけながら抱っこしてあげましたが、素朴にきゃっきゃと喜んでくれました。
「ぼくの元の世界の物語だと、長命種は、育つのも遅いってのが
「寿命が長ければ長いほど、成長が遅いのは合理的帰結でもある筈です。それでも、この赤子がその定説を覆してきてるのには、それなりの理由があるのでしょう。それが何かはまだわかりませんが」
ぼくにも分かるわけは無かったので、いったんスルーする事にして、残り4つのダンジョンの攻略を進める事にしました。
次に行くダンジョンは、極北のから行った方が早い位置、つまり完全に星の裏側の方にある物で、こちらは廃墟となった古城がその入り口になっているようでした。
崩壊しかけてる建物の立派だったのだろう正門らしき残骸を通り過ぎ、真っ直ぐ進んでいくと、大広間に突き当たり、そこに地下に続く大きな階段が存在感を誇張していました。
階段を降りてすぐの小部屋の中央の床には、何の変哲も無さそうな剣が突き立てられていました。
「まさかね。抜けたら英雄王とかじゃ無いよね?」
ドキドキしながら近付くと、その剣の手前の床に一文が彫り込まれてました。
キゥオラとかのある大陸で使われてる文字とは大分違う物でしたが、神様ギフトの自動翻訳スキルのお陰か、ぼくには読めました。
「汝、剣のダンジョンに挑もうとするものよ、心せよ。このダンジョンにて通ずるは汝の剣技のみ。
・・・って、まさかの縛りプレイなダンジョンが来たか」
剣かぁ・・・。とぼやいてると、マッキーが声をかけてきました。
「如何しますか?様子見の眷属を回す事は可能ですが」
「うーん。要はさ、剣を使った攻撃が通じるかどうか次第だから、そこだけ確認してからかな」
「かしこまりました。準備はさせておきます」
「よろしくね」
ちなみにですが、これ見よがしに床に刺さってた剣は普通に抜けて使えそうだったので、とりあえずはこの剣を使って進んでみる事にしました。
順路は迷わせるつもりが皆無の一本道。罠の類も仕掛けられていない様でした。
一分も進まない内に次の小部屋に着き、そこには一体の剣士?がいました。
鎧兜や盾などの防具も身に付けていない、マネキン人形が西洋剣を構えて立っているというシュールな姿でしたが、相手が動き出した瞬間に、剣を振るって衝撃波を浴びせてみました。
結果、剣を使って出した技であれば何でもOKなようで、粉微塵に破壊されたマネキンは、その武器を残して消えました。鑑定メガネで見てみると、最初の部屋にあった武器、ノーマルソードを強化する素材として使える様でした。
「使い方は、って、ただ翳せば良いだけか」
最初の部屋から抜いて持ってきたノーマルソードは、+1という表示になりました。何がどう強化されたかはわかりませんが、ノーマルにちょっぴり+が付いただけとスルーしました。
次の部屋までも真っ直ぐな順路で、今度の部屋には二体のマネキン剣士がいました。ぼくはその部屋の手前で止まり、マッキーに頼んで、ハーボとドロヌーブに出てきてもらいました。
「二人とも、ナックルと大斧使って相手にダメージ与えられそうか、相手の攻撃を防げそうか試してみて。試すのが目的だから、無理して倒そうとして怪我とかしないでね」
「分かっただ」
「承知」
結果、予想通りとはいえ、ハーボが装備したアダマンタイトのナックルでも、相手の何の変哲も無い剣もマネキンの様な体も傷一つ付きませんでした。刃が付いてるドロヌーブの大斧の攻撃でも同様。ただし、相手の攻撃は問題無く受け止められる事も確認できたら、ぼくがまた剣を振るった衝撃波で倒しました。
ハーボとドロヌーブには影の中で待機してもらい、各部屋で一体ずつ増えていくマネキン剣士の部屋を順調にクリアしていきました。
9体までの部屋をクリアして、ノーマルソードは+45になったので、これはきっと上限が100とかでは済みそうに無い事は何となく分かりました。
そして10部屋目には、10体のマネキン剣士ではなく、ちょっと複雑な装飾?か何かが彫り込まれたマネキン剣士が待ち構えていました。そしてこれまでと違い、もう片手には盾を持っていました。
何となく嫌な予感がして、いつもと同じ様に衝撃波を放ってみると、盾で防がれてしまいました。影の中からは微かな動揺が伝わってきましたが、ある意味予想通りだったので、ぼくに動揺はありませんでした。何と無く勝ち誇った様に進んできたマネキン剣士に向かって、今度は距離をちょうど潰せるくらいに体ごと超加速して突きを放ち、マネキン剣士の眉間にノーマルソード+45を突き刺すと、ちょっとだけ装飾の入った剣だけを残して小ボスらしきマネキン剣士は姿を消しました。
吸収すると+10されたのはいいのですが、
「これ、上限が1000超えたりしてこないよね・・・?」
というのが気になりました。これまでのダンジョンのキツさというか、クリアさせる気の無さからいうと、チュートリアル的な序盤の構成の優しさが逆に怪しく感じられたからです。
次の9部屋は、剣と盾のマネキン剣士と、ダガーだけで素早い盗賊風マネキン剣士、斧のパワータイプ、弓矢を装備したマネキン剣士といった、前衛タンクとアタッカーというコンビ構成が続き、20部屋目は、10部屋目のよりも装飾を施されたマネキン剣士と、魔法使いぽいマネキンのコンビでした。
ぼくはまたちょっとだけ超加速して魔法使いの方から首を刎ね、剣士タイプを背後から縦に真っ二つにしました。これでノーマルソード+55から+135まで育ってたのが、+155になりました。とはいえ、ぼくは剣の性能で戦ってる訳では無いので、剣の成長がどれほど貢献してるのか全くわかりませんでした。
この次の部屋を覗いてみると、予想通り三人組になってました。
ただの人数増でも無く、雑魚敵でも、体のあちこちに僅かずつでも装飾が施されてるのが気になりました。
「うーん、ちょっと用心しておいた方が良さそうかな」
追加戦力を連れてくればおそらく安全にクリアできそうではありますが、それで本当にクリアしたと認めてくれるのかどうか怪しいのが、成長させる剣の仕組みでした。トドメだけぼくが刺せば認められるのかどうか、線引きは先に確かめておいた方が良さそうなので、そうすることにしました。
いくら死に戻れるとはいえ、前回のチェックポイントからかなり時間も経過してるので、
先ずは、マッキーを通じて、リーディアとバッシュを連れ出せそうか確認してもらい、行けそうとの事でした。
バッシュとリーディアは最後の保険としたかったので、道中の保険はまた別に用意しました。
考えないといけなかった事の一つに、あの小ボスが衝撃波を防げたのは、あの小ボスが速度についてこれたり、耐えるだけの強度を備えていたのではなく、ダンジョンとしての特性にかき消されたのだと思える事でした。
実際、倒した後の盾の表面には傷一つ付いてませんでした。なのに、同じ速度で突っ込んでいったぼくの突きは躱せなかったというより、無効化されなかった。剣そのものを使った攻撃だったからでしょう。小ボスまでの雑魚敵を倒した、剣を振って発生させた衝撃波は見逃してもらったというか、その次の小ボスで対応されたとも考えられます。だとすると、あまり早く真打と言えるバッシュを投入してしまうと、それだけ早く対応されて、後で苦労する可能性も考えられました。
対応型なのか。もしそうだとして、対応速度は小ボスもしくは中ボスになるのか。これまでのダンジョンの難易度からして、ラスボスが楽な相手になるとも思えませんでした。墳墓ダンジョンのスフィンクスは特殊な例でしたでしょう。
鉱山ダンジョンで準備を終えたらリーディア達を迎えに行き、剣のダンジョンへと戻りましたが、すでに倒した部屋の雑魚敵も小ボスもリポップしていませんでした。
そして先ほど一時撤退した二十一部屋目の手前で、ぼくは道中の安全策その一をアイテムボックスから取り出して、部屋の中へと転がしました。
それは、ロックゴーレムの体を簡略化した、見た目はただの丸い岩で、ぼくの思う様に転がるという、ものすごく単純な存在でした。歩くくらいの早さで転がってきた見た目単なる岩を、マネキン剣士達は避けもしませんでした。足元にぶつかってきて、ちょっと体が揺らいだだけ。でも、その瞬間だけでぼくには十分でした。
今回は、剣と盾持ちが2、槍持ちが1という構成でしたが、超加速で三体の首を落とすのに瞬き一回分の時間もかかりませんでした。そして、剣持ちが2体以上いても、落とす剣素材は一個分なのは相変わらずで、ちゃんと+21されました。
ダンジョンという摩訶不識な存在が何をもとにどういう判断をして変更を加えるのかわからなかったので、バッシュにもリーディアにも何もせず何も話さずに、ただ後ろをついてきてもらってました。バフすらかけてもらっていません。ボスというかダンジョンに解析されて、ボス級にその内容が反映される事が怖かったからです。意味があるかはわかりませんでしたが、二人にはフード付きローブを着込んで外見から能力を推察させないようにしてみました。
それらの保険が効いたのかどうかはわかりませんが、30部屋目。剣と盾持ちが2体に、魔法使いタイプが1体で、装飾はこれまでのマネキン達よりも多め。そして今回は、ロックゴーレム達が転がってきた瞬間に攻撃を仕掛けられました。ぼくは攻撃を受ける直前にそれぞれのロックゴーレムを加速。直径50cm。重さ数十kgはある岩の球がボーリングで投げられる数倍の速さにいきなり加速すれば、マネキン達の攻撃はそれぞれ外れ、足にぶつかられたマネキン達は大きく体勢を崩し、超加速したぼくの剣に首を刎ねられていきました。
31部屋目は、大盾と大剣のマネキン剣士が3体に、岩でも砕けそうな大槌のマネキンが1体。大盾は、上半身から足元まで隠せるくらいに大きく分厚くて、しかも地面に突き刺して衝撃に耐えられる仕組みさえ兼ね備えてました。
「対応速度を上げてきたつもりなんだろうけど、ついて来れるかな?」
マネキン達の狙いとしては、盾持ちがロックゴーレムの球を防いでる内に、槌持ちで破壊していくといったもので、与えられた条件からはおそらく最適解の一つでしたでしょう。
今度も最初はゆっくりと転がし入れたロックゴーレム三体に向かって、盾持ちの三体がダッシュ。背後に庇われるように槌持ちが後に続いてましたが、盾持ち三体の大剣の間合いにロックゴーレムが入るか入らないかくらいに達した時に、ぼくは四体目となるブロンズゴーレムの球を集団を迂回する軌跡で投げ入れ、それは槌持ちの背後からぶつかって地面に倒れさせ、動揺した他のマネキン剣士達も次々に打ち倒していってくれたので、ぼくは倒れた相手にトドメを刺すだけといった楽をさせてもらいました。
そこから39部屋目までは同じ構成でいきましたが、最初に入れるロックゴーレムの数や早さ。ブロンズゴーレムを入れるタイミングや狙う標的や速度など、迎撃するマネキン剣士というかダンジョンの思考を乱すように心がけました。
40部屋目は、それなりに装飾を増やした大盾と大剣持ちのマネキン剣士が三体と、魔法使いマネキンが一体の構成で、こちらがゴーレムを投げ入れる前から、部屋の中央部を泥濘に変えました。魔法使いタイプの仕業で、敵方は泥濘地帯の向こう側、奥へと続く通路の前を固めるように布陣していました。
確かに、これまでと同じ手は使えなさそうでしたが、転がっていけないなら、投げつければいいじゃない?の精神でいきました。
具体的には、球体の底に手を添えて、超加速しながら投げつけるだけ。レベル220を超えてきた今では、時速10万km、秒速27km以上。そんな勢いで重量物ぶつけられたら、まあどんな杭を地面に刺してても無駄な抵抗ですよね。ロックゴーレム三体をそれぞれの大盾にぶち当てて破壊。その背後にいたマネキン剣士ごとです。ロックゴーレムも壊れてしまいましたが、お役目御免でしょう。唖然とした魔法使いタイプは自分でトドメを刺し、無事に剣の素材もドロップしたので、これはまだダンジョンにギリギリセーフとして認められたのでしょう。ゴーレムだけを投げつけて終えてたら怪しそうでしたが。
さて、次からは五体編成になるけど、戦術的にどうするのかなと思ったら、とりあえず泥濘戦法は諦めた様で、剣と盾持ちが2に、弓矢持ちが3でした。
ぼくが部屋に入る手前でも、ゴーレムを投げ入れた瞬間に攻撃してきそうな雰囲気がひしひしと感じられたので、ここはプランBで行く事にしました。
プランBとは、通路の高さと幅ギリギリの大きさのゴーレム球を、その後ろから押してあげるだけです。
今回はブロンズゴーレムの大玉にしてみました。速さも、自分の今の素の上限で。それでも時速220km以上の速度、プロ野球選手の投手が投げる球の数割増しで数トンはありそうな金属製の球が転がってくるのは、恐怖でしかないですよね。
そのまま大球に押し潰させるとクリア条件が怪しかったので、大球が接触する直前に超加速して、大球に攻撃しようとしていた五体を仕留めました。
シンプルイズベスト?なやり方は、49部屋目まで通じました。途中何度か泥濘地が形成されもしたのですが、通路ギリギリの大きさの金属球が、天井の高さで迫ってくるだけの違いでしたから、意味はありませんでした。
そして多分一つの大きめな区切り、扱いとしても中ボスになるだろう50部屋目は、五体ではなく、一体のマネキン剣士しかいませんでしたが、これまでのどんなマネキンよりも複雑な装飾を全身に施され、一振の長剣を脇に構えていました。
その佇まいからは、部屋に何が入って来ようが全て断ち切ってみせるという気迫の様なものまで感じられました。これまでの相手と段違いの強さを感じたのか、バッシュが声をかけてきました。
「カケル様。あれの相手は私が」
「その方が安全かもなんだけどね。中ボスでこれなら、ラスボスは多分もっとヤバいよ。アダマンタイトだろうと何だろうと、斬れる何かである限りなんでも斬ってしまうって無茶苦茶な性能な可能性が高い。だから、バッシュの出番は一番最後。ラスボスまで倒し切ってダンジョンマスターにならない限り、学習して対処された状態が続いてしまうと詰んじゃう可能性があるからね」
「では、どうやって倒されるおつもりか?」
「まあ、見てて」
やりようはいくらでもあったけど、要は手持ちのカードをどの順番と頻度で切っていくかでした。
この難易度の敵がこれからどれくらいの頻度で出現するかも賭けの要素になりますが、今回は重力操作でいってみる事にしました。
通路と部屋の入り口の境に立ち、お守りの様に育てた剣を体の前に立てながら、足を踏み入れ、その足の裏が床につくかどうかというタイミングで、相手の軸足にかかっている重力を反転。当然ながら体勢が天井へ向かって崩れ、それでも放たれた斬撃はぼくの頭上の遥か上を通り過ぎていきましたが、その斬撃が壁に届くまでには、部屋に踏み込んだぼくが中ボスの体をバラバラに切り刻み終えていました。
尋常な勝負を望んでたかも知れない中ボスやこのダンジョンさんには申し訳無いけど、魔法使いが魔法を使って倒すのと同じと受け止めてもらうしかありませんね。リーディアは何か言いたげでしたが、唇の前に指を立てて口をつぐんでおいたままでいてもらいました。
51−59部屋目めまでは、中ボスと同じくらいの個体はいないのを確かめた上で、ブロンズゴーレムの大球との組み合わせで押し通ったのですが、60部屋目。槍の穂先の反対側を床に固定した槍持ちが6体と、中ボスと同程度には強そうな剣士タイプがその集団の背後に控える二段構えでした。大球絶対に通さないシフトですね。衝撃波が殺された様に重さもどうにかされてしまいそうです。槍士達も特に足元や腕周りに念入りに装飾が施されていて、重力操作にも抗って見せようという気概?に溢れてそうでした。
まあ、あまりにも対策が特化し過ぎてたので、その対策もまた簡単でした。槍は床に固定してて動かせないんですから、普通に歩み入ってから槍士ごとバラバラに切り刻みました。
その間に、背後に控えてた剣士タイプから、槍士達諸共に切り裂かんという斬撃も放たれてましたが、ぼくは天井へと駆け上がりつつ、上方向ではなく、剣士タイプの頭上から下へと押し潰す方向へと重力を操作していたので、斬撃は床へと外れ、ぼくは天井からすれ違い様に剣士タイプの首を刎ねて倒しました。
そこから先は、対応に迷いが見られるダンジョンの方針がまた固まるまでの間に出来るだけ先を急ぎ、61−69部屋までは大金属球ゴーレムや重力操作の合わせ技を使ったり使わなかったりでサクサク倒して進みました。
70部屋目には、盾士タイプが天井の床と、天井にも逆さに立つ形で、それぞれ三体ずつ。部屋の奥へと続く通路前には中ボス並みに装飾を施された剣士タイプと、その背後に魔法使いタイプも控えていました。
重力操作は効かないぞ!と全力でアピールしてきてくれたので、ぼくはこれまで活躍の機会の無かった溶岩剣をアイテムボックスから取り出して、これ見よがしにマネキンたちに振り回してから、部屋の中に踏み入りつつ、その刀身を剣士タイプの頭部へと投げつけ、貫き、溶かしつつ焼き焦がして倒しました。
便利な事に、溶岩の刀身はダンジョンが生きてる限り再補填できるようで、以下同順で盾士タイプも盾ごと貫いて倒していき、溶岩の刃をなんとかしようとしていたらしい魔法使いタイプの首をまたノーマルソードで刎ねて倒しました。
幸い、飛び散った溶岩も溶岩剣は吸収できたので、溶岩に気をつけながら進まないといけない事も無く、71−79部屋目までは、大金属球と溶岩剣を全面に押し出すパワープレイで突破。80部屋目は、魔法使いタイプの数を増やし、溶岩の刀身を飛ばしても即座に冷やして固まらせて剣士タイプに斬って落とさせようという意図が窺えました。部屋の気温もキンキンに冷やしてあったし。
では、という感じで、今度は炎の腕輪をして、部屋の中の空間の温度を上げていき、魔法使いタイプが懸命に対処しようと冷却魔法か何かを使っているのを一体ずつ溶岩の刃で跳ね飛ばしていきました。剣士タイプは真っ先に炎上して溶けるくらいに加熱して倒してありました。最後の一体だけノーマルソードで倒して、無事クリア。
高くなってしまった気温は氷の腕輪で冷却。
という事で、81ー89部屋目までも炎上コンボで早々に突破。90部屋目の小ボスは、開き直った様に一体のみで、これまでよりもだいぶ複雑な装飾を施されてました。たぶん、重力操作にも、気温操作にも対応しようとしたのでしょう。
まあ、こちらは取ってつけたような、なんちゃって科学知識の応用で対抗しました。
先ずは部屋の中を何もかもが炎上して溶け出すくらいの温度に加熱。燃え上がってはいるものの、90部屋目の小ボスはしっかりと耐えている様です。そしたら今度は急激に冷却。体の部分によってはさらに加熱。別の部分は絶対零度へと、均一な加熱にも冷却にもならないように加熱と冷却を繰り返すと、体がひび割れてきたので、超加速で踏み入ってノーマルソードで打ち砕き、クリアしました。
後始末の気温調節は氷と炎の腕輪で余裕でした。
気温操作に合わせ技に対抗するのは困難だったのか(両方とも別のダンジョンのラスボスクリア報酬品だし)、ダンジョン側が根本解決策を見出せないまま、99部屋目までをクリア。(91−99部屋目までのボスは中ボス級でしたが、戦わずして倒した手順は同じ)
最後と思われれる百部屋目には、長剣を床に突き刺して待つ、一人の剣士がこちらを睨みつけていました。
騎士って雰囲気はあるけど、全身をフルプレートアーマーに身を包んでる訳ではなく、要所だけを最低限の防具で覆ってるだけな感じの、マネキンて感じはしない不思議な存在でした。
そのラスボスは、イライラとした口調で、声をかけてきました。
「其方、名は何と申す?」
「カケルですけど」
「カケルか。其方、とてつもない俊敏さがありながら、なぜ外法な手段にばかり頼ろうとする?」
「なんでって言われても、剣士じゃないから?」
「・・・それは見て取れもしたが。しかしここは剣のダンジョンぞ。衝撃波や、奇妙な岩や金属の球や、重力や気温を操作したりとかは無しじゃ!
最後くらいは正面からどーんとぶつかってこんかい!」
「・・・そんな事言って、正面からぶつかっていったら、控えめに言っても真っ二つ以上にはされるでしょう?」
「其方の速度なら余裕で躱せるだろうに。ほれほれ、かかってこい!」
「あなたなら、斬る事に特化してそうなんですよね。これまでの小ボス以上の存在は特に、あなたの劣化コピーですよね?だから、ぼくも、今回は特に手加減せずに、全身全霊をかけて臨みますが、恨まないで下さいね?」
「おおよ!相手が魔法使いだろうがなんだろうが、剣一本で抗うのが剣士の定めであり、誉」
まだ何か言いかけてましたが、ぼくはあっさりとラスボスらしきおじさん?を縦横四つに分断しました。ちゃんと、ノーマルソードを使って。
「な!?一体、どんな手管を・・!?」
「真っ二つに以上にされながら話せるって、さすがラスボスだよね。いったんは普通に倒されて下さい。後で種明かしはしてあげますから」
「くっ!約束、じゃぞ・・・」
光の粒子になりながら、ドロップ品となる最後の素材を跡に残し、ラスボス剣士さんは姿を消したので、ノーマルソードに吸収させると、ダンジョン・コアへの通路が開き、ぼくはマスターとしての登録を済ませました。
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