ランニング46:二種の魔物の創生の余波
イドルその他マーシナの皆さんの喜び様は相当な物で、即座に宴会が開かれて、ぼくも参加を強制され、それはいいのですが、イドルの熱烈なアプローチに身(自制心)が持ちそうに無かったので逃げました。
リーディアと合流し、お風呂を一緒したりムフフな時間を過ごしてベッドの上で休んでる時、リーディアがぼくの肌に指先を遊ばせながら言いました。
「私のところに約束通り来て頂いたのはもちろん嬉しいのですが、イドル様もマーシナ王国も、昨夜は特にあなたを放したくは無かったのでは?」
「うん、まあ、それはすごい強く伝わってきてたよ。すぐに夜を徹した宴会が開かれる事になって、イドルにも泊まっていって欲しいとお願いされたんだけどね。歯止めも効きそうに無かったし、逃げてきたのもある」
リーディアに怒られるかと思ったら、くすくすと笑いながら、脇とかくすぐられるお仕置きで済ませてくれました。
「でも、その方がよろしかったでしょうね。体を通じるのはすぐにでも出来てしまいますが、イドル様や王家の皆様が喪に服す事を決めて守っていたのは、その、イドル様の身の上に起きた事から、生まれてきた子供の時期によっては、カローザ王国から難癖を付けられてしまったり、物心着いた後も誹謗中傷に晒され続けてしまう恐れがあるのを避ける為と聞いておりましたから」
「まあ、そしたら我慢するしか無いよね」
「イドル様も、この大陸の行末を大きく変えるだろう慶事に気が逸ってしまったのでしょう。無理もありませんが」
まあ、確かに、イドルの瞳に今までに無かった、少なくともぼくにもわかるくらいには焦っている様子が窺えました。
「大丈夫だよって伝えてはおいたんだけどね。これから一体どれくらいの土地を癒して回らないといけないのか、ドースデン皇帝とかとも良く話し合って計画立てていかないといけないし、物事が進み始めて結果がはっきり出て、癒された土地で収穫ができるようになるまでには、イドルもぼくのお嫁さんになってるだろうし」
「イドル様が嫁がれてくるまでの間は、私やポーラ様や、エフィシェナやピージャ達で我慢して下さいませ」
「十分過ぎるよ。ポーラとリーディアだけでも過分なのに、イドルや他のみんなもなんだから」
「では、今宵は私をお愉しみ下さい」
もう存分に楽しませてもらってるとは言いませんでした。この後は、ちょっとギアを上げた感じでアグレッシブになったリーディアに美味しく頂かれてしまいました。まあ、ぼくもそれなりな反撃はしておきましたが。
そんな甘い夜を過ごした翌朝。
二人きりの時とは打って変わってキリッとしたリーディアと今後について話し合い、西岸諸国領主会議というのが開かれる流れになったと報告を受けて、開催される時には参加者を指定された場所へ運ぶ事になりました。
その中で、ガルソナ以外は代表である出席者が決まっているけれども、ガルソナ前領主の庶子という人にまだ会ってなかったので、今日ドースデン皇帝に会いに行くついでに顔合わせも終えておく事にしました。
ガルソナ騎士侯爵家の城に着くと、前領主の息子の奥さんと、もう一人の若めの男性が出迎えてくれました。
「カケル様。こちらが前領主ヘンドリックの庶子である、オルガリアです」
「ご紹介に預かりましたオルガリアと申します。庶子として育てられたので、名乗るべき家名は持ちません」
「カケルです。家名に拘らないのは別に構わないのですが、状況はどの程度聞かれてますか?」
オルガリアさんを一言で表現するなら、普通の人、です。身だしなみは小綺麗に保っていますが、見た目はパッとせず、この機会に成り上がってやろうという気概や野心の様なものも見えず、唐突に降って湧いた話に当然ながら困惑している。そんな普通の人に見えました。
「父と、一応の兄がやらかしてお咎めを受け、マーシナの決定次第でもありますが、死刑になり、旧ラグランデ王国領はそちらの末裔という方が姉の引き継ぎを受けて領主となられ、今のガルソナ騎士侯爵領のおよそ北半分の代官として引き立てて頂くと伺っております」
「ええと、見た感じ別の仕事も持たれていて、当惑されてて当然だとは思います。どうしても嫌なら、別の方を見繕いますが?」
「いえ。勤め先だった商会もちょうど代替わりして、そこでもそれなりの役割を期待されていたのですが、今回の話をお受けした方が、自分を拾って育てて頂いた前商会長の御恩に報いれるかと、お受けする事にしました」
「贔屓の店とかはどうしても出来るだろうし、前領主にもそういうのはあったんだろうけど、あまり阿漕な事とかしなければ大丈夫だと思うよ。ポーラの眷属による監視も付くだろうし」
「それは天恵の代償と諦めているので大丈夫です」
「じゃあ問題無さそうだね。ぼくは名ばかりの領主になって、実際の業務はほぼ完全にお任せしてしまうことになるから、よろしくお願いします」
「こちらこそです」
それから西岸諸国領主会議についても話をしたら、代官として話を出来るまでに一週間から二週間くらいの猶予は欲しいと言われたので、ポーラ達に伝えておく(というかもう伝わってるだろうけど)と言って、ガルソナを発ち、ドースデンの帝都へと向かいました。
前回出迎えてくれたのと大体同じ人が揃っていましたが、アマリさんは不在でした。
それも、前回来た時に提案された事が関わっているようでした。
「前回提案して頂いた、旧ジョーヌ大公領と、旧デモント教国の領地を引き受けるお話ですが、そこに本拠地を構えて常駐しなくても良いのなら、お受けしても構いません。西岸のカローザやガルソナ、ラグランデ同様に、領地には代官の方を置いて統治をお任せするのと同じ感じで良ければ」
「かしこまりました。統治に必要な代官も官僚もこちらで用意して、不都合があればいつでも誰でも差し替えますので、お申し付け下さい」
「よっぽどのことが無い限りは大丈夫だと思うけど、デモント選定侯領とかは誰に任せても難しいだろうし」
「それは仰られる通りなのですが、だからと言って放置もしておけませんので」
「まあ、良い知らせもあるから、それでうまく相殺していってもらえると助かるかな」
「良い知らせとは、まさか」
「うん。あれからまたダンジョンをいくつか制覇したのもあって、完全に枯れた土地でも癒せる手段を得られました」
詳細な説明は省いたけど、土地を癒すミミズとモグラみたいな魔物を創造して、マーシナで効果がある事を確認したと伝えられたドースデンの皆さんは、喜びと期待を隠し切れない様子でした。皇帝陛下でもあるプロティアさんは大きく開けた口を両手で塞いでぼろぼろと大粒の涙を流し、他の重臣の人達も胸を叩いたり床に叩頭したりして神様に感謝を捧げたり、まあ、感極まった感じですね。ヴィヴラ君はあっけに取られながらもはしゃぎ、ピージャさんは瞳の端からこぼれ落ちてくる涙を静かに拭っていました。
そんな人々の歓喜の渦とぼくへの感謝の嵐が一通り静まってから、ぼくは話を続けました。問題を解決する手段を見つけました、では終わらない話だからです。
「マーシナ王家とかの皆さんとも話したんですが、一般に広めてしまうと収拾がつかなくなってしまう恐れが強いので、どこから始めるのか、どう管理していくのか、ドースデン帝国皇室と各選定侯の皆さんとで協議して決めて頂きたいです。ぼくが一方的に決めて押し付けても揉め事にしかならないでしょうし」
「確かに難題ですね。しかしそれも、どの程度の数を同時に用意可能なのかで話は変わってきそうですが」
「そうですね。100匹の100倍を毎日提供する事も問題無く行えるでしょう」
「毎日一万匹とは。それでどのくらいの土地を癒せるのですか?」
「100メートル四方の畑なら、数十匹の再生ワームで一日もあれば十分癒し切れます。癒した土地の量に応じてですが、約30分で分裂して数を増やしていきますから、百匹程度を一つの村の畑に配っていくだけで、季節一つ分でもかなりの面積の土地を癒せるでしょう。
ただし、癒せた土地で育てた作物がどの程度収穫を見込めるかとかは、これはもうやってみるしか無いとマーシナの皆さんも言ってたので、最初から過剰な期待は抱かせないように念を押しておいて下さい」
「その再生ワームが増え過ぎた事による弊害は起きないのですか?枯れてない土地や作物まで食べられてしまうとか」
「その為の再生モグラでもあります。再生ワームは枯れた土地が無くなれば死にますし、再生ワームが増え過ぎないよう用意した再生モグラの主食もまた再生ワームだけに設定してますから、再生ワームがいなくなれば死滅します。どちらも死ねばその土地の養分となるよう設計されてますから、害にはならず益にしかならないでしょう」
「いやはや。とてつもない福音をもたらす益虫と益獣ですな」
「ドースデンのどこかの畑で試させて頂くことは出来ますか?」
「ぼくの方の準備はすぐにでも出来ますが、噂が広まった時の為の準備を終えられてからの方が安全じゃないかな。一旦広まってしまえば、それは取り消せない状態となるでしょうし」
「むう、それは確かに・・・」
「皇室直轄の研究所の畑がありますから、そこでなら情報流出もしにくいかと。帝国中枢が効果を確かめられていないと、選定侯達も計画を立てようが無いでしょうし」
「具体的な場所や進め方についてはお任せしますよ」
それからドースデン帝国の帝都にいるお偉いさん達があれこれ熱の入った話し合いを交わして、2時間後には帝都の郊外にある皇室直轄の畑と併設された研究所にそのみなさんを列車ごっこでお連れしました。
本来、ダンジョンに紐付いた魔物を創造して配置するには、ダンジョン・コアに触れながら設定を決め、ダンジョン内にしか配置できません。蟲系魔物創造宝珠や獣系魔物創造宝珠は、一度ダンジョン・コアに触れて設定内容を決めた魔物なら、遠隔地にいても、その宝珠を通じて魔物を好きな時に好きな場所に創造できる、まあ良く言ってぶっ壊れアイテムですね。超一級の危険マジックアイテムでもあります。
研究所所属の魔術師とか研究者の皆さんはすぐにでも再生ワームや再生モグラを解剖したがりましたが、それは後回しにしてもらい、敷地内にある完全に枯れたままの畑に50匹の再生ワームをばら撒き、30分後くらいに一匹の再生モグラを放って、研究所の皆さんが何年取り組んでも改善できなかった枯れた土地は、一時間も経たずに黒い肥えた土地へと変貌していました。
昨日のマーシナの皆さんの喜びようが霞むような狂喜、いえ歓喜が再度爆発していましたが、少なからぬ研究者の皆さんとかは納得がいって無いようでした。文句があるなら神様に言って下さいと、まともには相手にしませんでしたけど。
研究所では引き続き経過観察と、癒した土地での作物の育成の試験を頼んでおきました。
ああ、もちろん、再生ワームも再生モグラも最重要機密事項として、研究所外に持ち出そうとしたら即拷問の上死刑にしてもらい、監視の為のポーラの眷属も潜ませておく事になりました。故郷が苦境に陥ってる研究者の人も多いだろうけど、帝国中枢と選定侯達が今後の展開計画を練ってから広めていくと説明して納得してもらいました。
それから帝国中枢の方々を帝城に連れ帰って、ちょうどお昼時になっていたので、獣系ダンジョンでドロップした食材を調理したものを提供したら、こちらも大反響でした。ハーボ達に狩ってもらってたバイソンみたいな雑魚モンスターのお肉でも、皇室御用達の最高級品に迫る品質で、ボスモンスターのお肉は、少なからぬ人達が、こんなのを食べたらこれまで食べていたお肉を食べられなくなると泣きながら食べていました。ラスボスからのドロップ食材はさらにグレードが上になるみたいなので、こちらは今回出すのは控えておきました。
これからもそれなりの量を提供できるけど、マーシナの大臣さん達にも言われた警告を、ドースデン帝国の皆さんにも忘れずに伝えておきました。
「普通の農家で家畜を育ててる人とかの暮らしが立ちいかなくなってしまうかも知れないので、どの程度の量をどの程度の範囲に流通させるのか、価格はどうするのか、こちらもかなり慎重に検討しないといけないそうです」
それは確かに、と呟きながらも、皆さんお代わりを奪い合う手と食べる口は止まっていませんでした。
クラーケンフライの材料になるクラーケンの触腕にしても、緑の魔境で採集してドースデンの帝城の食糧庫に納めてる作物にしても、対価を今のところ受け取っていません。クラーケンフライは一時的な振る舞い品としてやり過ごせるでしょうけど、農作物を長い期間かけて育てて生活の糧にしてる農家の皆さんからすれば、無料の食料品が大量に市場に出回れば生活が立ち行かなくなります。
皇帝と各選定侯が遠隔地にいながら連絡を取り合う手段はあるそうなので、癒す土地の選定と順序をどう決めるのか、ダンジョン産の食糧をどう市場に提供していくのかといった難題を検討してもらう事になりました。
ぼくも本来ならそこに加わるべき一人になるのかも知れませんが、ほら、ダンジョンの攻略とか、他にやらないといけない事も多いし、設置するゲートの数も増やしていきたかったし、その為にはレベルも継続的に上げないといけなかったしね。
当面のぼくの代理はピージャに頼んでおきましたが、まだ顔見せの済んでいない選定侯と
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