ランニング45:ダンジョンはしご

 お嫁さん候補会議を終えて合流したポーラと過ごした二度目の夜は、一度目の夜よりは刺激的では無かったというか、ポーラが鼻息荒くガツガツは来なかったので、もっと淑やかに穏やかなものになりました。互いに少しずつ慣れ始めたという事もあるのでしょうけど、誰かからの物言いでもあったのでしょうかね。詮索はしませんが。


 何回か果てた後に眠りに落ちて、朝を共に迎えました。

 ぼくの肩に頭を乗せて眠るポーラは可愛らしいのですが、目を覚ました後で少し話しました。ピロートークというには少し真面目で固い内容ですが。


「ドースデンからの申し入れは受ける方向でいいとして、そこに住むのは無しの方針でというのが私達が話し合った結論よ」

「みんながそれでいいのなら、ぼくも構わないよ」

「それでね、私もその時は思い付きで話したんだけど、緑の魔境みたいな別の大陸に本拠地を構えてしまった方が、安全じゃない?少なくとも、こちらの大陸の政治や歴史や宗教とかのゴタゴタには巻き込まれないで済むし、そこまで行き来できるのもカケルの関係者だけに限られるしね」

「悪くは無いけど、リーディアみたく統治を任されてる誰かは行き来が不便になるし、家族にも会い難くなるのも少し考えないといけないかもね」

「そこは彼女も気にしていたわ。まあ、これからどんなスキルを覚えるかでも、だいぶ条件は変わるでしょうしね」

「それは確かに」


 もうすぐレベルは175に届きます。そして200に到達すれば、またワープくらいに大きなスキルが与えられるのではとも期待してました。


「それで、ピージャはどうだった?特に、エフィシェナと」

「思うところが無い訳では無いけど、それはエフィシェナじゃなくてアルフラックに対してであって、あなたの妻として共に生きていく事自体は問題無さそうよ。どちらもあなたの決定には従うんだし」

「みんなで一緒の場所で住むかどうかでも、かなり話は違ってきそうだしね」

「この後の朝食の席でお父様達から話があると思うけど、一ヶ月後くらいには婚儀の式を執り行うから、早ければそれまでに本拠地を用意するのが望ましいわね。もちろん、キゥオラならこの王城が滞在場所になる訳だけど」

「緑の魔境は、オ・ゴーさんの目が行き届いてるし、ポーラの眷属も入り浸ってるし、そこに仮住まいを設けるくらいなら十分間に合いそうだね」

「それでね、私とリーディアとは一ヶ月後に式を挙げるとして、他の子達とはどうするの?」

「イドルはまだ無理だから、順番的には、エフィシェナ、それからピージャさんか。リルは成人してからって話だし。ポーラやリーディアとの式を一番先にするくらいで、そこから少し間を開けた方がいいのかな?ピージャさんに関しては、いろいろ手続きが事前に必要そうで時間かかりそうだけど」

「あなたが我慢できないなら手を出すのも仕方ないかもだけど、そうでないなら、私とリーディアを優先して欲しいわ」

「イドルが一年後くらいだとして、一月後にポーラとリーディアと挙式するなら、その中間くらいにでもする?」

「まあ、そこら辺が妥協点かな。エフィシェナとか、かなり気が逸ってるみたいだし。リルは成人まで一年半以上残ってても待てそうだったけど」

「ワルギリィさんとか含めて、どうするのが良いかみんなで話し合っておいて。ぼくは、本拠地に良さそうなところを見て回っておくから」

「分かったわ。死に戻れるとはいえ、気を付けてね」

「ありがと」


 朝食はポーラのご両親や宰相さんとご一緒して、進捗状況などを共有したら、さっそく今日のダンジョン探索です。


 せっかく氷の腕輪をゲットしたので、それが活かせるダンジョンという事で、ドースデンから東南の方角の遠方の大海にある火山島へと向かいました。


 火山というか、噴火してる火口や煙を吐いてる火口がいくつもある、複数の火山で構成された小島というには大きすぎる火山島でした。イルキハと同じくらいの広さはありそうです。


 ぼくはサーチスキルの検索結果に表示されたダンジョンの入り口へと向かいました。幸い、火山の溶岩の中ではなく、火口側に、地下へと続く洞窟の入り口がありました。

 入り口に立っただけで、物凄い熱気が伝わってきました。ぼくは入ったことが無いのですが、サウナとかの暑さを何倍かにした感じでしょうか。まあ、歩き出してしまえば、ぼくには関係無いのですが。


 極北のダンジョンもそうでしたが、環境そのものが最大の敵です。普通なら呼吸すら出来ない高温の空気がダンジョン内を満たしているようです。ダンジョン内の通路や部屋のあちこちにマグマ溜まりがあって、敵がマグマの中から襲いかかってくるのですから、普通の鉄の鎧や剣で武装していたとしてもイチコロでやられてしまうでしょう。マグマそのものを吐き出してくる敵もいるので、普通の盾などの防具では防げないでしょうし。


 ぼくは、マグマから敵が出て来るのを待ったり、引き出したりするのが面倒だったので、ほぼ全ての順路を素通りしました。彼らがぼくを察知したとしてもその時にはすでに遥か先にいるのですから、隠れてくれててありがとうって感じです。

 とはいえ、順路の筈の部屋の出口と入口両方が岩で閉ざされて天井の穴から溶岩が降り注いでくるトラップ部屋とか、殺意が高過ぎるでしょう。ぼくは出口の大岩をシフトして先の通路へと抜けましたが、あんな部屋をまともに抜けられる人がそうそういるとは思えませんでした。


 道中に出てきたファイアバットみたいな雑魚敵で、数が多くて小さくても火の玉を吐いてくる魔物は、衝撃波でまとめて轢き殺しました。それがファイアリザードみたいのでも同じです。最初のボス部屋にいたサラマンダーというのも精霊ではなく、火蜥蜴の大きい版で、衝撃波ですぐに細微塵になり魔石とドロップアイテムに姿を変えました。


 途中のボス部屋の一つでは、ファイアサーペントという、溶岩の中に棲まう大蛇が出てきて、足場は申し訳程度に大部屋の所々にしか無くて、相変わらずクリアさせる気が欠片も窺えませんでした。

 ボス部屋は基本的にボスを倒せないと先に進めない構造になっているので、ぼくはここでバッシュに頼んで作ってもらった新武器を試す事にしました。あまりバッシュの体躯を削りたくもなかったので、ほとんど単なるアダマンタイト製の長い糸です。先端に小石サイズの塊がついていて、長さは15メートルほど。細さは強度に関係無いとバッシュに確認できたので、0.01ミリ。


 ファイアサーペントは、部屋の中ほどに進もうとしないこちらの様子を窺っていて、溶岩の中で待ち構えているようです。氷の腕輪の力を使えばマグマをそのまま固めて倒す事も出来るでしょうけど、それだとドロップ品を取り出すのが大変です。衝撃波でマグマの中をかき混ぜても倒せるでしょうけど、やはりマグマの中からドロップ品を拾い出すのに手間がかかりそうでした。

 水中呼吸のスキル、マグマの中でも通用しそうなんですけど、あまり試す気にはなれませんしね。


 という訳で、先ずは部屋の中央辺りまで、マグマ池の表面50センチくらい上を歩いて向かうと、こちらの動きをどうやってだかファイアサーペントは感じ取って、大部屋中央の小島を取り囲むようにぐるぐると周り始めました。

 何をするつもりなのか様子見してたら、小島に向けて全方位から溶岩の津波が襲いかかってきました。高さは3メートル以上あったかな。そのまま受けても大ダメージ。押し流されて溶岩に落とされてもおしまい。初手からなかなかエグい攻撃です。


「ま、それもぼくが相手じゃなかったら、だね」


 ぼくは部屋の中空に駆け上がって溶岩を躱し、サーチスキルで察知してるファイアサーペントの頭のある辺りの空間へ、圧縮と開放のサブスキルで溜めておいた衝撃波を展開。展開する方向と範囲を指定できるので、溶岩がごっそりと弾け飛び、部屋の床に打ち付けられてほとんど絶命しかけのファイアサーペントの首にアダマンタイト製の糸を巻き付けたら、ぐいっとひっぱり上げて部屋の天井へと打ち上げて叩きつけ、トドメを刺しました。


 ドロップアイテムは、そこそこ大きな赤い魔石と、溶岩剣というなかなか面白そうな武器がドロップしました。そのまま高温を発するヒートソードとしても使えるし、刀身を溶岩に変えて相手にダメージを与える事も出来るようですが、消費魔力はそこそこ高そうでした。ハリエッタに持たせたら鬼に金棒かも知れませんが、むしろ魔法が使えない誰かに持たせた方が戦力は上がるかも知れませんね。


 その他にも、レッドドラゴンも途中のボスとして出てきたりしましたが、アダマンタイトの糸を巻きつけて首チョンパして終わったり。こちらのドロップアイテムの、緋龍の盾は完全耐熱を謳っていて、その性能が信用できるのなら、使いではありそうでした。


 そんな風に道中の敵の大半をスルーしてボスだけ倒す感じで3時間ほど進み続けた先に、大ボスの部屋らしき扉に突き当たりました。


「さてと、今度はどんな初見殺しが用意されてるんだかね」

「魔力的に封じられていて、部屋の中の様子は窺えませんでした」

「ありがとね、マッキー。何があるか分からないから、みんなは部屋の外で待機で」

「・・・ご武運を」

「んじゃ、行きますか」


 身代わり人形はこれまで最高の十二個。さらに氷の腕輪も身につけて保険を積み重ねた状態で、大きく重厚な扉を押し開けました。緋龍の盾で体の大部分を隠しながら。

 最悪、極北のダンジョンと同様に、炎の精霊とやらがいて、初手から致死攻撃を連打してくるのかなと思ったら、大扉の先は数百メートルの深い大穴になっていて、底には完全な溶岩の海が広がっていました。見下ろしていると、そこの底から炎というか溶岩の巨人が姿を現してきていましたが、上半身だけで軽く100メートル以上はありそうです。

 大穴の壁面には螺旋状に階段が刻まれてましたが、悠長に降りてる間は待ってくれるなんて優しさは無いでしょう。階段の降り口には、わずかばかりの地面が広がってましたが、あれでどうしろというのでしょうか?巨人が身じろぎして起こる溶岩の津波に飲まれたらそれでおしまいです。そもそも溶岩に半身浸してる限りどんなダメージを与えたとしても回復されてしまいそうですし。


 普段からまともに戦う気が全く無いぼくでないと相手する気も起きない存在でしょう。

 ぼくは、ボスとその足元の溶岩の海ごと重力を操作して、入口付近にまで浮かべると、アダマンタイトの糸を溶岩の海に触れさせた状態で、適当な海の上空へとワープ。そこで糸を溶岩から引き抜いて落ちるに任せました。

 高度千メートルくらいから落としたのですが、海面辺りでは激しい水蒸気爆発が起きていました。大きな炎の玉をいくつも浮かべていた溶岩の巨人はそのまま海の底へと沈んでいきました。ぼくに放たれたのは余裕で躱せたし、海中に没してからはぼくに構う余裕は無くなったようです。

 環境依存型のボスは、環境から引き離さないと倒せないという典型ですね。しばらく間を置いてから海中へと走り入っていくと、海水に圧倒されて冷え固まっていくマグマの巨人の姿がありました。万一その中身が生き残ってたら面倒なので、超加速して蹴り砕いておきました。その破片が海底へと辿り着く頃には、魔石とドロップアイテムが出ていたので拾っておきました。


 そしてまた再使用条件を満たしながら、火山ダンジョンのラスボス部屋へ。

 ぼくがワープで持ち出したマグマの量は再補充されていました。壁面の階段を降りた先の地面の対岸の壁には、ダンジョンコアの小部屋への通路入り口が開いていたのでマスターとしての登録を済ませ、一通りの設定をざっと確かめた後はそのままにしておきました。ここまで来れる人がぼく以外にいると思えないしね。


 ドロップアイテムは、炎の腕輪。

 任意の空間の温度を指定した温度まで上げるか、任意の温度の炎の玉を生じて操作可能。まあ何かにぶつけたりとかですね。ちなみに、大陸全土とか、太陽くらいの大きさとかのは無理みたいです。

 氷の腕輪の対みたいな性能ですが、どちらも、その動力源?はダンジョンそのものから得ているので、そこのリソースで賄えない何かは出来ないという事の様です。


 午前中で火山ダンジョンをクリア出来てしまったので、そこから一番近い別のダンジョンも見ておく事にしました。

 そこは荒れ果てた大地が砕けて群島になったような、草一本生えていない異様な島々でした。その中心には、大きな亀裂が刻まれていて、幅数キロ、深さも千メートルくらいはありそうでした。大昔に文明が栄えた場所を一掃するような大規模破壊兵器でも使われたのでしょうか?


 大地の断裂の底は地底湖になっていて、そのさらに湖底にダンジョンへの入り口はありました。相変わらず、見つけさせる気が皆無です。少なくとも客商売をやりたくて開くタイプの施設では無さそうですね。


 ここが、唯一残った食糧の当てとなるダンジョンで、思惑が外れるとかなり困った状況になりそうなので後回しにしていましたが、半数のダンジョンを制覇したし、そろそろ後回しも限界なので、覚悟を決めて攻略する事にしました。


 入り口の門を潜ると、そこには大草原が広がっていました。頭上には青い大空が広がっていて、太陽まで輝いています。前世のラノベ知識が無ければ大いに混乱したかも知れません。

 ぼくはとりあえずどこまで上がれるのか試してみましたが、驚いたことに千メートルくらいまで上がれました。その先は見えない壁があって、シフトでもさらに先へ移動できず、その遥か彼方に仮初の太陽が見えるので、このダンジョンで構築できる限界ってことですかね。


 入り口が、おそらくは中央付近になるようです。というのも、三百六十度見渡してみて、どの方角にも果てが見えませんでした。つまり、この階層だけで直径200km以上あるということになるので、ここは降りて行ったり登って行く構造ではなく、果てから果てまでを探索する感じのダンジョンなのでしょう。

 という訳で、ぼくは適当な方角を決めてそちらへと高度を下げながら真っ直ぐ飛んで行きましたが、一レベル上がる以上の距離を移動できました。192だったのが193になれたのにまだ突き当たらず、中央から端へ向かって斜めに飛んでいたとしても、250km以上でようやく壁に突き当たりました。

 時速200km近くで壁に激突とか洒落にならなそうなので慎重には進みましたが、上空はともかく、地上では途中から円周の淵が見えていて、そこから先は奈落の底というか真っ暗な空間が広がっている様に見えました。上空は大空が広がっているように見えたので不思議でしたが、これもおそらくはダンジョンとしてのリソースの節約術でしょう。

 だったらこんな広くする必要があったのかという話ですが、そもそもダンジョンがなぜ生まれたのか、成長させておいたのか、神様しか知らなそうです。というか、次のチェックポイントがどんなタイミングになるのか、そろそろ気掛かりにはなってきてますが、一つの目安はありました。


 上空100メートルくらいの高さから、円周の縁沿いに、ダンジョンをぐるっと一周してみました。地上にどんなモンスターがいるのかの偵察を兼ねて。

 ダンジョン全体は、前世の世界で言えばサバンナの草原地帯って感じなのですが、森が濃い辺りとか、大きな水辺というか湖があったり、丘陵地帯があったり、それぞれでモンスターの配置も区分されてる感じに見えました。

 前世では、有名自然系報道番組を動画サイトで見るのがせいぜいで、動物園には行ったことが無かったのでワクワクしました。それが、動物ではなく、何らかの魔法属性は持ってそうな魔物であったとしても。


「でっかい牛みたいな獣の群れが狙い目かなぁ。数も多いし、体も大きいし。角が四本生えてたり、土塊浮かべて襲ってきた相手に投げつけたり、岩の鎧纏ったりしてるのは土魔法なんだろうか。あれらは後でポーやハーボ達で狩れるか試しておいてもらおう。

 ゾウさんぽいのも、元の世界の二倍か三倍は大きそうだったし、大きな水球浮かべて水浴びしたり、鼻先からジェット水流噴出したりしてて、かなり別物そうだったけど。

 風に溶けるような速度で走り回ってた馬の群れとか、パリパリ黄金の光放ってた羊さん達とか、普通に捕まえようとしても大変そうだな・・・」


 中ボスの位置やその様子もついでに確認して回ったのですが、ラスボスのみサーチにかかりませんでした。


「何かのギミックを解かないと現れないとかかな?中ボス全部倒したら現れるくらいならいいんだけど」


 とはいえ、これまでの他のダンジョンの仕組みと比較すれば、広さという難点はあるにせよ、だいぶ攻略しやすそうに見えなくもないのが、トラップでもありそうでした。全部の中ボスを倒して回ってる間に、最初に倒したボスがリポップしてしまってるとか。数キロから十数キロの範囲でランダムポップされるだけでも、かなり探索と移動で時間取られそうでしたし。リポップ地点が決まってたとしても、そこから広範囲にうろつかれる設定になってれば、リポップ地点を割り出すだけでも大変そうですよね・・・。


 という訳で、久々に(?)、イプシロン達の出番です。中ボス達の数がちょうど7体だったので、サーチして姿隠しのマントを羽織った状態で遠くから見つけたら、その影に潜んでストーキングして行動範囲とかを掴んでもらう事にしました。

 草原地帯の主人らしい小山の様な大きさの象、その名もマウント・エレファント。

 草むらに姿をくらませ敵対者をかまいたちか何かで切り刻んで捕食してしまう、ステルス・ラビット。

 泥濘地帯でどっしりと構えている恐竜の様な、ギガント・アリゲーター。

 荒地の辺りで最強格らしい、マンティコア。

 丘陵地帯に巣を構え方々を狩りして回っているグリフォン達の主人、キング・グリフォン。

 森林地帯で最大数を誇るヒヒ達のボス、クリムゾン・バブーンは、知性があって複数種類の魔法を使いこなす様でした。

 琵琶湖以上には大きそうな湖の主は、ヒュージ・タートル。湖の底をのっそりと移動してましたが、これも普通の冒険者ならまず遭遇するまでが大変だし、甲羅とかの大きさだけで高さ30メートル、縦50メートル、横40メートルくらいあって、体重がどのくらいなのか想像もつきませんでした。

 水中呼吸をどうにかするマジックアイテムがあったとしても、こいつ一体を倒すのに普通なら何時間かかるんでしょうね。無抵抗でいてくれる保証も全く無いのですし。


 ぼくが中ボスを探したり、小ボスっぽい大きめの個体を倒してドロップ品を確かめてみたり(小ボスっぽいのは数十種類いました。まさに魔物のサファリパーク!)、レベル上げの為にダンジョン内を走り回ってる間に、イプシロン達には、ポーラから呪いの短剣を借りて、倒しやすそうな中ボスから傷を付けて、その出血だけで倒せそうか試してもらいました。

 結果から言うと、ステルス・ラビットはものの十分もしない内に倒れて魔石とドロップアイテムへと姿を変え、クリムゾン・バブーンもその倍くらいの時間で後を追いました。

 ギガント・アリゲーターには呪いの短剣で足裏でも傷を付けられず断念。

 マウント・エレファントは歩いてたのもあり、その体重もかかって四つ足の裏に傷を付けられたものの、数時間経っても少しも弱った様子が見受けられず、呪いの短剣による出血だけでは倒せないのがわかりました。ヒュージ・タートルは試すまでもありませんね。

 マンティコアは一応傷は付けられたものの、こちらも時間がかかりそうで、キング・グリフォンは風の鎧を纏っているせいかやはり傷を付けられず。この二体に関してはぼくが衝撃波であっさりと倒しました。ドロップ品は、うん、食糧に出来る様な類では無かったので、ダンジョンに来た目的から言えば外れ系でしょう。小さめな体躯の中ボスとかと同じく、有用な物ではありましたが。


 さて。食用に向いてるかはさておき、体は大きな三種類に関しては、まとめて処理する事にしました。

 先ずは湖底で水草か何かをはむはむしてたヒュージ・タートルの尻尾の先にアダマンタイトの糸を結び付けて、マウント・エレファントの上空へと超加速で移動。対象が固定されてないなら重量を無視して動かせるの、改めてやばい能力なんだなと実感しました。重力操作で上下を反転して甲羅を地面に向け、結んでた糸を解いたら、マウント・エレファントに向けて蹴り下ろしました。

 レベル197の今だと、197x197x2=時速77,618km。マッハ換算で63。秒速約21.5km。光の速さにはまだまだ遠いですが、それでもまあダンジョン全体が揺らぐ様な振動と爆発が地上で起きました。

 ぼくはすぐにギガント・アリゲーターの元へと超加速で移動。尻尾の先を軽く摘んでそのままヒュージ・タートルの上空へ。マウント・エレファントはその群れごと消滅した様ですが、ヒュージ・タートルはまだ存命とポーラの眷属達から報告を受けました。

 マウント・エレファントとその群れのドロップアイテムなどを回収し終えたと報告を受けたら、さっきと同様に重力操作でギガント・アリゲーターの頭を地面に向けて、その肘先に手を添える感じで、地上に向けて投げ落としました。

 さっきよりはだいぶ控えめな衝撃が地面を揺るがした様ですが、ヒュージ・タートルもギガント・アリゲーターのどちらも無事に魔石とドロップアイテムになってくれました。


 収穫について調べるのは後回しで。ぼくは早速このダンジョンのラスボスのサーチをかけてみて、今度こそ、反応がありました。


 そいつは、ダンジョンへの入口というか出口近くに出現していました。

 つまり、中ボス全部をどうにかして倒し、ラスボスをようやく出現させたと思ったら、そいつを倒さないとダンジョンからも逃さないという意図が伺えました。絶対生かして返さないマンというか。

 ラスボスの名前は、キマイラ。それもただのキマイラではなく、倒した中ボスの特徴を、最後に倒した物の方から強く受け継ぎ、その他にも倒した小ボスの特徴や能力も受け継いでる様でした。

 今回で言うと、姿全体はギガント・アリゲーターという中ボスでほぼ最硬の体を持ち、背中はヒュージ・タートルの甲羅に覆われ、マウント・エレファントの鼻の様な器官と牙、グリフォンやマンティコアの翼、クリムゾン・バブーンらしき腕がたくさん、ステルス・ラビットの透明化能力などなど、まあどうやって倒せというようなラスボスが出現していました。


 ステルスしてる相手をどうやって見破ったとかは簡単です。

 サーチスキルで相手のいる場所はバッチリわかって、鑑定メガネでも見えるし、マッキーの魔力探知でも、イプシロン達の嗅覚でも、様々な手段でまる分かりでした。


 いろんな手段で倒せたでしょうけど、今回はアリゲーターみが強いという事もあり、衝撃波を浴びせてステルスを破った直後にショートワープでその体に触れたら、ワープで極北のダンジョンのラスボス部屋へと連行。予め待機させていた氷の精霊に、最大出力でその冷気を放ってもらったら、キマイラはあっという間に凍りついて行きました。炎のブレスでも吐こうとした口は、開いたその口の内側から凍りついて呼吸そのものも止まり、身体中のあちこちから生えていた腕がたくさんの火球を発生させてなんとか対抗しようとしましたが、氷の精霊に辿り着くまでに全ての火球は消失。足の爪先から背中の翼の端々から尻尾の先まで、全身が完全に凍りついたら、ぼくが衝撃波でバラバラに砕いて倒し、跡にはドロップ品が山と積まれるように出現。

 その多くが大量の食糧品でもあったのは嬉しい誤算?でした。中ボスのドロップアイテムのアップグレード版という感じで、お肉の類は食べてみないと味は分からないものの楽しみが増えました。イカフライならぬクラーケンフライだけじゃみんな飽きるでしょうしね。


 ラスボスとしての本当のドロップアイテムは、その他ドロップアイテムの山の上にちょこんと現れていました。

 その名前は、ビースト・クリエーション・オーブ。自分の望む能力や姿を持たせたビースト系魔物を、ダンジョン・コアのリソースが続く限り創造できるという物でした。


 以前クリアした、蟲系ダンジョンのラスボスのドロップアイテムも改めて確認してみました。

 ワーム・クリエーション・オーブ。自分の望む能力や姿を持たせたワーム系魔物を、ダンジョン・コアのリソースが続く限り創造できるという物。最初に見た時は、そのダンジョンを満たしていた魔物の気色悪さから敬遠してずっとストックしたままにしてたのですが、ビーストの方と組み合わせて、面白い事が出来るかも知れません。


 ぼくはワープの再利用条件を満たし、獣系ダンジョンへとワープで戻り、ダンジョン・コアのある小部屋をサーチしてみると、入り口近辺に地下へと降りる階段が出現していて、そこでダンジョン・マスターとして登録を済ませ、獣系魔物創造宝珠で、想像してみた魔物が創造可能か試してみたら出来そうだったので、数体だけ作ってみました。

 その後、レベル200に到達して得た新たなサブスキル、ゲートを設置してからダンジョンから出て、入り口を大岩とかで物理的に塞いでおいてから、ワープの再使用条件を満たして、緑の魔境に設置した新生虫系ダンジョンへと移動。

 そこでも自分が想像した能力を持つ魔物が創造可能か確認してみて、お試しで百匹くらい創造。かなり特殊な能力持ちですが、体の小ささもあってか、ダンジョンのラスボスの大芋虫の取り巻き芋虫一匹の1/10もかかってませんでした。


 早速試したくなったので、一番土地枯れが酷いデモントの地域も候補に考えたのですが、そちらで変化をもたらしてしまうと影響が大きくなり過ぎそうだったので候補から外し、すでにオ・キーフさんに試してもらってる辺りで試す事にしました。そういう試みをしていると知る人は知っているし、マーシナ王国としても王宮などを除けば最重要警戒地域として組み込まれてもいましたし。


 その辺りへとワープすると、オ・キーフさんがいたので事情を説明し、付近で一番土地枯れが激しい畑に新たに創造したワーム達をばら撒いていきました。

 彼らに持たせた能力は、たった二つ。枯れた土地を枯れてない土地へと変えていける能力と、枯れた土地を食していく事で、その数を増やしていける能力。要は普通のミミズの、枯れてしまった土地特攻能力持ちですね。

 彼らが放たれた土地をオ・キーフさんに地中までを含めてモニタリングしてもらいましたが、僅かずつであれ、完全に枯れていた土壌が再生されていってるのが確認されました。さらには、設計した通りに、食べた土の量にも拠りますが、大体20−30分に一度分裂して数を増やせている様です。

 オ・キーフさん曰く、再生ワーム(仮称)が撒かれた土地ならもっと容易く癒せそうとの事でしたが、今は控えてもらいました。再生ワーム(仮称)の数も増やさないといけませんし、獣系魔物創造宝珠で生み出した再生モグラ(仮称)の働き具合も試しておきたかったからです。


 再生ワームの大きさ長さが5cmほどだとしたら、再生モグラの大きさは15cmほどです。再生モグラに持たせた機能能力は、再生ワームを餌として育ち、その数を増やし、自身が移動した跡の枯れた土地を再生させる事で、その範囲は再生ワームよりも大きめに設定しました。

 食べ過ぎて再生ワームを絶滅させないよう食欲は抑えめにして、再生ワームも枯れた土地が無くなれば死んで土地の肥料となり、再生モグラも再生ワームがいなくなれば飢えて死にやはり肥料となるように設定しておきました。

 3面の畑に一匹ずつの再生モグラを放っておいてみましたが、のそのそという感じで地中を移動していってくれてます。これなら再生ワームが絶滅する事も爆発的に増加する事も無いまま枯れた土地だけが無くなっていってくれそうなので、オ・キーフさんや周辺を警護する兵士さんやその責任者さんにも監視と警戒を頼んだら、マーシナの王宮によってイドルとその両親他家族や重臣の皆さんにも情報を伝えた後、約束していた通りに、イルキハのリーディアの元へと向かいました。

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