間章5:第x回お嫁さん候補会議と、その後のピージャとアマリの会話

ポーラ:えーと、そろそろみんな揃ったかな?それじゃ始めるね。今日は新顔の紹介もあるからサクサク進めるわよ。


リーディア:それは構わないのですが、カケル様は無事あなたの所に到着されたのですよね?


ポーラ:もちろんよ。今日の動きは、リーディアの所を出発した後は、ミル・キハにワルギリィを届けて、ドースデン帝国で皇帝その他と会って新顔とも引き合わされて、クラーケンフライの材料を4つの選定侯領に届けたり、残り3つの選定侯領の様子も見てから私の所に戻ってきた感じね。


イドル:相変わらず、呆れた距離を移動されてますが、ドースデン帝国からカケル様への提案については、父や重臣達にも伝えておきました。


ポーラ:私もお父様達に伝えておいたわ。


リル:私や、他にもその提案内容を聞いてない人はいるでしょうから、そちらを先ず教えて頂けませんか?


ポーラ:ドースデン皇帝から提案されたのは、旧ジョーヌ大公の領地。今のデモント選定侯の領地の西半分と、ソルティック選定侯の東1/3の広さで、かなり歴史のある土地でもあるけど、土地枯れと戦乱に苦しめられた土地でもあるわ。新顔の子も指摘してくれてたみたいだけど、デモント教信者の多さからも、カケルの領地として統治するのは難しそうな土地よね。

 それで、ドースデン皇帝からカケルのお嫁さん候補として引き合わされたのは、旧ラルクロッハ帝国皇室直系の最後の末裔のピージャ。カケルと会った時の一幕については触れても触れなくてもいいけど、自己紹介をどうぞ。


ピージャ:あの、ご紹介に預かりました、ピージャです。ピージャ・エル・ラルクロッハという名は授かってはいますが、血と名しか持たない無力な娘の一人です。カケル様に失礼な態度を取ってしまいましたが、輿入れする事をご承諾頂きました。皆様、新参者となりますが、これからよろしくお願い致します。


イドル:マーシナ王国第一王女のイドルです。こちらこそよろしくお願いしますわ。私が輿入れするのは一年後くらいになる予定です。


リル:リル・ビイベ・ラグランデ、カローザとガルソナに滅ぼされたラグランデ王国の末裔です。ピージャさんの立場に近しいかも知れませんね。私は成人後にカケル様に嫁ぐ予定なので、この中では一番遅くになりそうですが、可能な限り早期に旧ラグランデ王国の領土の統治を任して頂けるよう準備を進めています。


エフィシェナ:エフィシェナと申します。あなたにとっては祖国の仇敵でもあろう梟雄アルフラックの三女です。私の存在について、カケル様は何か仰られていましたか?


ピージャ:みんな仲良くと。それが無理ならこの話も無かった事にと言われて、私はもちろん受け入れました。


エフィシェナ:心の底からですか?


ピージャ:何のわだかまりも無く、というのは無理です。祖国は私が生まれた時にはすでに滅んでいたとはいえ、何がどう移ろい、誰がどう動いてその事態に至ったか聞かされて育ってきたのですから。だから、カケル様には正直に申し上げました。あなたが気にされないのであれば、私も気にしないよう努めますと。


エフィシェナ:私は気にしません。父が人としてあまり褒められないであろう行動を積み重ねたのは事実ですし、ラルクロッハ帝国の皇室は一番被害を受けた側でしたでしょう。大成しかけていた英雄だったかも知れませんが積み重ねた歪みが破局を呼び、失意の内に敗れ暗殺されて終わった父親です。

 私はまだ幼い頃に死に別れ、その後の政局に翻弄されながら、カローザを経てガルソナ騎士侯爵家へと下賜され、次期当主の第二夫人とされましたが、当主他の慰み物にされる日々が続き、脱走を繰り返す内に両目を潰され隷属の首輪を嵌められておりました。その境遇を完全に覆して解放して頂いたのが、カケル様です。私は、カケル様の決定には従います。


ピージャ:では、私もカケル様の決定には従うので問題は無さそうですね。


エフィシェナ:そうなりますね。あと、私の姉のラガージャナはカローザの第一王子に嫁がされていましたが、やはりカケル様に解放して頂いたご恩から、カケル様にお仕えする予定です。今のところ、嫁ぐつもりは無いので、この会議には参加しておりません。


ポーラ:で、そんな二人に訊いておきたかったんだけど、旧ジョーヌ大公の領地、それと望めば旧デモント教国の領地ももらえるみたいだけど、住民感情とかから考えると、名目上はカケルの領地になったとして、そこにみんなで住む候補地にはなり得そう?


ピージャ:皇帝陛下にも申し上げましたが、私は難しいと思っています。


イドル:その理由は?


ピージャ:ジョーヌ大公はラルクロッハ帝国の中でも格別な扱いを受けてきた存在でした。歴史もあり、住民も愛着と誇りを持っていたと聞いております。

 今後カケル様の活躍が浸透して、食糧不足や土地枯れの問題が解消していけば受け入れられていく可能性もありますが、ジョーヌ大公家が悲運に倒れ消滅する切っ掛けを作ったのはラルクロッハ帝国皇帝本家の迷走でもあったので、私への風当たりも強くて当前でしょう。

 それから、巷では英雄と持て囃される事の多いアルフラックも、ジョーヌ大公の領地では当然ながら大公の信頼を裏切った梟雄として恨まれていると聞き及んでいますので、エフィシェナさんへもそういった感情が向けられます。

 また、カケル様がデモント教の象徴でもある大聖堂をその領都ごと滅した事から、デモント教の信徒達から神敵とみなされているでしょう。今のドースデン帝国からどのようなとりなしなどがあったとしても。

 以上の3つの理由から、私としては、領地の一つとして持つのはありかも知れませんが、そこを本拠地として根を下ろし、家族を育むには、かなり障害が多い環境かと考えます。


エフィシェナ:私もピージャさんに同感です。カケル様がどれだけの援助を施し、土地枯れを最終的に解決したとしても、それはそれ、これはこれと、判断を変えない人達は一定数残ってしまうでしょう。本拠地として構えるのなら、やはりポーラ姫の母国キゥオラの地が望ましいのでは?


リーディア:カケル様との婚姻に伴って、女王として擁立される話も出ていると聞きましたが?


ポーラ:打診されているのは事実というか、アマリ姉様も帰国するつもりは無いみたいだから、私しか後継者はいない訳で、いずれはそうなる可能性はある。けど、イルキハとカローザとガルソナとラグランデだと領地が分断された形になってしまっているから、キゥオラがそこに入れば地続きに出来るって話も出てて、どうするのが一番良さそうなのか、お父様が宰相や有力貴族達とも連日話し合っているわ。


イドル:マーシナは、私の兄がこれまでの予定通り継ぎますから、変更が入る余地はありません。カケル様への恩義は、カローザとガルソナへの賠償金の請求と相殺する形で調整が進んでおります。私の輿入れは、その象徴の慶事として扱われる予定です。


リル:これまでのお話をまとめると、西岸諸国のどこか、特にキゥオラかマーシナのどこかに本拠地を構えるのが一番良さそうに思いますが。ラグランデも、ガルソナから解放されるという噂が流れていて、それがカケル様という新たな英雄により為されたという話が広まっていて、住民感情はとても良い方向に向いていると言えます。


リーディア:イルキハは、つい先日も狙われたばかりで、殉教派の住民もそれなりにいるようですから、悔しいですが、やはり皆で住む本拠地には向いてなさそうですね。


ポーラ:まあ、ぶっちゃけて言っちゃうと、カケルはワープなんて距離を無視するスキルも使えるから、シングリッド唯神教もデモント教も東岸諸国の争乱の過去とかとも一切関係の無い、それこそ緑の魔境のある大陸とかに本拠地を構えてしまう方が、絶対安全な気もするんだけどね。


イドル:それは、子育てという意味では理想的に安全な環境になりそうね。


リーディア:私も心惹かれます。とはいえ、普段の職場でもある統治を任された土地との行き来をどうするか、カケル様に負担をかけ過ぎない形を実現できるかにかかってきそうですが。


ピージャ:別の大陸までも一瞬で移動ですか。改めて、とんでもないお方ですね。そうなのであればこそ、やはり、必要以上に旧ジョーヌ大公領や旧デモント教国領などで苦労される必要性は無さそうに思います。というか、苦労されるべきではありません。


リル:私も同感です。デモント選定侯の領地では確かに盛大にやらかしましたが、土地枯れというこの大陸の辛苦の根源を生み出した張本人がのうのうと生き残り、何不自由無い地位も確保していたら、同情の余地はありません。生活がどれだけ苦しくなってもデモント教団に奉仕し続ける住民など、転向する者もほとんどいなかったでしょうし。


ポーラ:それじゃ、旧ジョーヌ大公領や旧デモント教国領をくれるというのならもらうけど、そこに本拠地は構えないし、私達がまとまって住んだり子育てする土地としても選ばないって事でいい?


イドル:はい。


リーディア:そうですね。


エフィシェナ:問題ありません。


リル:当然の判断ですね。


ピージャ:同感です。では、皇帝陛下には私から伝えましょうか?


ポーラ:これからカケルと会って、私達の結論を伝えてみるから、明日の朝まで待って。眷属を通じてどうなったかは伝えるから。


ピージャ:承知しました。


ポーラ:じゃ、今夜はこれで解散!みんな、集まってくれてありがとね!アザーディア、議事録は後でみんなに配っておいて。


アザーディア:かしこまりました。


ーーーーー

 ドースデン帝国の帝城の一室。

 初めてカケルの嫁候補の会議に参加した終えたピージャは、後ろに控えていたアマリに声をかけた。


「眷属を通じて影の空間をつなげて、離れた大陸との間で物資の輸送まで実現しているのも昼間に見てきましたが、遠隔地にいる誰かとの間で声だけでも届けて対話を成立させるのも、支配者なら垂涎の能力ですね」

「まあ、どこでも隠れて覗けて出現できて、という相手を制御しきれるのか?という難題はついて回るけれどね」

「そこは、カケル様やポーラ姫以外の配偶者候補の皆様に期待ですね。今のところ、暴走する気配が無さそうなのは僥倖です」

「女にしてもらったばかりだしね。他の女性たちとシェアしなくてはいけない事情は不服だろうけど、王女という立場をあの子も理解している筈だし、イドル姉も、リーディア女王も、それなりに抑え役として機能するでしょう。彼女達と話してみてどうだった?」

「想像していたより皆さん友好的なのは良かったのですが・・・」

「何か想定外だった?」

「話には事前に聞いていたにしろ、ポーラ姫が、カケル様の全ての行動を追跡・把握されている事を皆さんが看過している事に違和感を覚えました」

「ポーラの眷属を付けられるという事の代償だからね。そこはみんな諦めているみたいよ。止めても無駄だし、カケルの行動範囲があまりにも広すぎるから、ポーラくらいでないと、どこで何してるのかも把握できないからね」

「唯一神から与えられたというユニークスキルも良し悪しという事ですかね」

「走行距離を稼げば稼ぐほどにレベルが上がって、これまでに出来なかった事も出来るようになるらしいから、あなたも嫁ぐなら覚悟しておいた方が良いでしょうね」


 ピージャは、アマリについて気になっていた事を尋ねてみた。


「あの、カケル様は、来る者は拒まずという姿勢らしいですから、アマリ様も望めば」

「それはポーラからも、そうしたいのかどうか訊かれたけど、無いって答えておいたわ。その答えは今でも変わっていない」

「それはポーラ姫の立場を慮っての判断でしょうか?」

「逆よ、逆。私は、言ってしまえばキゥオラ王国の第一王女という立場以外は何の取り柄も能力も無い存在だもの。カケルという特別な存在にキゥオラから輿入れするのは、ポーラだけでいいの。ポーラには彼女しか出来ない特別な能力も備わっているし、カケルとの縁も深めているし。私が今からカケルのお嫁さん候補に名乗りを上げて、もしもカケルが受け入れてくれたとしても、たぶんそう判断しないとは思うけど、私は邪魔者になるだけだしね」

「カケル様は、ほとんどの事にはこだわりを持たない方という印象を受けておりますが、失礼ながら、アマリ様の輿入れについては拒絶されるだろうという推察について、私も同感です」

「あなたの考えた理由を聞いても?」

「カケル様の配偶者となる予定の方々は、それぞれに王族かそれに類似した立場にあった境遇の方が多いです。しかし、それぞれの後ろ盾となる存在は異なっているので、重複という懸念はありません。カケル様は、みんな仲良くという信念を持たれていますので、アマリ様が入る事でその和が壊れる事を懸念されて断るでしょう」

「私も同感よ。だから、ドースデン皇帝からの申し入れを受けようとも思うの」

「危険ではありませんか?旧ジョーヌ大公領の有力貴族との縁組など」

「それでも、カケルやポーラに近しい誰かは、あそこに赴任する必要がある。さっきの話し合いであなたが言ってた通り、あなたやエフィシェナは、現地住民の感情を刺激し過ぎるかも知れない。私なら、その懸念を1/3程度にまで減らせる。ドースデン帝国に対しても、私自身の重要性をアピール出来る一手になる」

「あなたも、それからイドル様やリーディア様、他の方々もですけど、それぞれ王族など各自の立場に応じて判断を下されているのですね。私も見習わなければならないと分かっているのですが」

「あら、あなたもそういった判断を既に下したんじゃなかったの?」

「カケル様に嫁ぐという判断は、私にとって最善の選択肢である事は間違いありません。それがドースデン帝国からカケル様への人身御供の役割であろうと、その他の有象無象に嫁ぐよりはよほどマシな将来が待ち受けている事は確かそうですから」

「それは、間違い無く、そうでしょうね」

「カケル様には、野心というものが無いようにも見受けられました。幾人もの配偶者を充てがわれている事に浮かれた様子もありません。それでいて、まだ通じた・・・のはポーラ姫とリーディア女王のお二人の様ですが、どちらとも良好な関係を維持できているようなのも、好印象です」

「あなたは彼を見て失望したようだったけど?」

「そこは私の幼さと至らなさとしてお許し下さい。カケル様の偉業の数々を聞くあまりに期待が高まり過ぎていたせいもあるのですから。言い訳をさせていただけるなら」

「まあ、彼はあの程度の外見で却って良かったと思うわ。自惚れはしないだろうから」

「異世界から、この世界の唯一神に選ばれ呼ばれ、他の誰も持たぬ特別な力を与えられたお方。それだけで、増長するには十分ですからね」

「包み隠さず言えば、私はそんな相手の寵愛を妹と競い合いたくも無かったの。危なすぎるもの。だから、あなたがその戦いに参入する覚悟を決めたというのは、ある意味尊敬に値すると思っているわ」

「ポーラ姫と一対一であれば、私も辞退したでしょう。しかし、他に五六人もいて、これからも増えていきそうなら、私もそこに紛れ込めるでしょうからね」

「だとしても、あまり迂闊な言動は慎む事ね。ポーラの目耳は、ほとんどどこにでも及んでいるから」

「それこそ、今から気にしていたらやっていけません。幸い、カケル様もリーディア様も他の候補者達も、ポーラ姫の自制心に期待し過ぎていないようですし」

「そうかもね。でも、カケルはあなたを一人の女性として見る。ラルクロッハ帝国皇室直系の最後の生き残り云々は気にしない。そこをはき違えない限り、あなたはやっていけると思うわ」

「それこそが、私が彼に輿入れする事を決めた最大の理由です。他の縁談の相手は全て、私の血筋と銘のみを欲していたのですから。それが彼の最大の長所とすら言えるかと。彼以外にとっては、私の年齢や外見や人格などは余禄に過ぎませんでしたし」

「頑張りなさい。あなたが彼に輿入れするのがいつになるかは分からないけれど」

「ありがとうございます。アマリ様にも、唯一神様の御加護が常に有らん事を」

「ありがと。ポーラやカケルに背くような動きをしない限りは、神様の逆鱗に触れる事も無さそうだけれどね」

「それは、私も同感です」


 そうして二人は、それぞれの寝室へと引き取って、その一日を終えたのだった。

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