ランニング40:蟲系ダンジョン
人により好き嫌いは分かれるのが普通と言います。
犬猫とか、海山とか、きのこたけのことかならまだ好きの向きだけが違うだけかも知れませんが、虫は好きか嫌いかはっきりと分かれ、好かれる虫かそうでないかでもさらに分かれるでしょう。
ぼくは幸いあまり接する機会はありませんでしたが、物語中の登場人物達に好かれてるのを見た事が無い黒いGとか、その他嫌われてる昆虫の類の方が世の中には多そうです。
ぼく?
ぼくはほら、カブトムシー!とか騒げるようになる前にはもう病気になってしまってたのもあって。
だから特に好きも嫌いも無い、筈だったんですが。
虫、いや蟲のダンジョン舐めてました。
視界が小さな虫の大群で埋め尽くされるの、それだけですごい圧力になるんだと学びました。
数が多い分、ドロップする確率も高いのだけど、虫の卵とかさ、もう食べて大丈夫なの?って心配になるレベルで。鑑定で確かめると、一応、食べても大丈夫な何かではあって栄養もあるらしいんだけど、ダンジョンの外にまで持ち出していいのか迷うくらいのレベルの外見で。。
イプシロン達アンデッドでも近づくのを躊躇うのって、相当だと思うよ?
勇気を振り絞って近付こうとしたイプシロンは偉かったけど止めました。虫達の体液まみれになった彼を誰が洗うのか、そちらの方が深刻な問題になりそうだったので。
まあ、死骸はともかく、ドロップ品の影への収納と、必要なら洗浄までをみんなには依頼しておいたんだけど、これまでのどんな戦闘よりも苦行だったと思う。
しかもファンタジー要素が入った昆虫って、一部には需要があるかも知れないけど、血管?が足に浮き出てて背中からは菌糸みたいな何かが生えてる大きくてカラフルなバッタとか、ダメでしょもう。
脚や羽がたくさん生えてて死神みたいなマスク付けてるように見える羽虫が群れてやってくるだけでもホラーだったし。
ボスみたいなのは一層グロくて、カタツムリっぽい殻を被って、足元には節足や節腕みたいのがごちゃごちゃと付いてて、頭部は鋭い牙が生えた大きな口とたくさんの小さな目を備えてるとかね。
もう、このダンジョンごと焼却した方が世界の為になるんじゃ無いかと。ポーラから、無尽のハリエッタを借り受けようかと何度も考えては我慢しました。
ここの他に、クラーケンのいる所以外は、もう一箇所しか食糧の当ては無いのだからと。
吐き気とか怖気とかいろいろなものを我慢しながら、これまでの最高速度で突き進んでいきました。衝撃波で全ての蟲をドロップアイテムへと変換させていく為です。
ボスとかも見るだけで精神にダメージを受けそうなのばかりだったので、碌にディテールを見ずに撃破していきました。
そして辿り着いたラスボス部屋らしき空間には、何も居ないように見えました。そこでたまたま鑑定メガネをかけてみたのが、運命の別れ目になりました。良い意味での。
ワールグ:スナノミ系の魔物。全長1mm以下で、ほぼどんな生き物の皮膚下にでも潜り込み、血や魔力を吸い、卵を産みつけ・・・
ダメです。
流石にぼくの精神が許容できる範囲を踏み越えました。
このダンジョンは存在していてはいけません。
このボス部屋のどこに視線を向けても、同じ解説文が鑑定メガネに浮かんでくるのです。
これはもう、レベル150で与えられたサブスキルの出番でしょう。
『圧縮及び開放』
自分が移動する時に生じる衝撃波を圧縮して封じ、任意の空間を指定して放つことが出来る。
普段使うには難しそうですが、こういった場面では超有用でしょう。このダンジョンに入る前に、超加速で貯めておいた衝撃波を、ラスボスの部屋全体、ちょっと床や壁や天井に食い込むくらいまでの範囲を指定してから、開放しました。
マッハ36.5。秒速12.5kmの衝撃波を五秒分。
自分は自分の速度とか衝撃波の影響を受けないのでノーダメージですが、ラスボス部屋の空間内はエラい事になってたみたいで、微少な大きさな何かの大群が吹き荒れ、粉砕され、さらに細かい粒子となって消えていき、最後に一つのドロップ品を床に残しました。
大部屋の奥に、ダンジョンコアのある部屋への通路も開かれました。
ぼくは入念にあちこちに鑑定メガネを向けてみて、どこにもワールグとかいう反応が返ってこないのを確かめた後、ショートワープでドロップ品を確保したら、瞬足でダンジョンコアのある部屋へ移動。マスターとして登録後、全てのモンスターの登録を、ボスも含めて、抹消させた後、コアを台座から外して、マーシナへとワープしました。
樹精霊というかAIというか微妙に神様の手も入った人工精霊なオ・ゴーさんの分体のオ・キーフさんを先日休養の為に運んできた場所なのですが、今はいなくなってました。
まあここで、ラノベあるあるの、アイテムボックスやマジックバッグの類に生物は入れられない・入らないというお約束ルールを使って、着てるモノを全て脱いでいったん収容して取り出し、鑑定メガネで、ワールグやその他良くない何かが衣服や装備にも付いておらず、マッキーにぼく自身の体のどこかにも潜んでないのを確かめてもらったら、マーシナ王城に行って、荒んだぼくの心をイドルに癒してもらいました。
最近リーディアといる事が増えて、その話も聞いていたらしいイドルはぼくを大変甘やかしてくれたので、蟲のダンジョンで負った精神的ダメージは速やかに回復していきました。
まあ、近況説明という意味では、なぜそんなに落ち込んでるように見えたのか、説明しないといけなかった訳で。
大変気色悪い虫、いや蟲達に満ち満ちていたダンジョンを攻略し、そのコアを外して持ってきたという、ダイジェスト未満の解説に留めました。イドルの精神をあんな悍ましい何かで穢したくは無いですしね。
「それで、そのダンジョン・コアはどうしますの?」
「どこでダンジョンを展開するかで内容もある程度制御できるみたいだし、どんなモンスターを配置するかとかも環境に左右されるみたいだから、マーシナか、緑の魔境で試してみようかなと考えてるんだ」
「マーシナにダンジョンの恵みがもたらされるのは、確かに喜ばしい事の筈が、カケル様の様子を見る限り、歓迎できるような存在になるかどうかは微妙そうですね」
「食糧を確保できそうなダンジョンは後一つしか無いらしいから、このダンジョン・コアはどうにかして有効活用したいというか、しないといけないんだけどね」
それから話題は方々に飛び、リルやエフィシェナなどの新たなお嫁さん候補や、ワルギリィやバッシュといった護衛についてや、マーシナ王国のカローザとガルソナへの対応についても話が及びましたが、その中で一つ、先日も聞かされていたにせよ、より具体的に提案されたことがありました。
「カローザやガルソナ、もしかしたらイルキハも併せて、カケル様の治める領土にするのが一番自然で、今後に争いも生みにくいのでは?という意見を、王家から貴族の間に提案してみています」
「でもぼくは、統治のこととか何もわかってないし、マーシナへのガルソナからの賠償とかはどうするの?」
「そこで受け取れる賠償など、たかが知れているでしょう。カケル様がリーディアと探検してきたという様々な鉱石がドロップするというダンジョンでは金銀まで採れるのですから、カケル様が金銭的に困窮するという未来は、尚更無くなりました。
マーシナ王国としても、カローザやガルソナから受けた損害を、カケル様から受けたご恩で相殺するのが一番良いのでは?と考えております」
「でも、それだと、実際に被害に遭った人や地域への見舞金や復旧にかかるお金とかに困らない?」
「それこそ、カローザやガルソナの後継として置かれた者達から長い年月をかけて搾り取れば良いのです。カケル様には、ドースデンから向かってきていた大軍も戦わずして撤退させて頂きましたし、ラグランデの支配権だけでなく、カローザやガルソナ全体の支配権を認めてしまうのが、マーシナとの友好関係を対外的にアピールするのに良いのでは無いかという方針で固まりつつあります。
もちろん、その際には、私のあなたへの輿入れも発表されることになりますが、問題無いですよね?」
「無いよ。だけど、リルが提案してたイベントについてはどうするのがいいと思う?」
「カケル様は、今後も食糧確保や土地枯れへの対策など、世界中を飛び回り続けることになるでしょう。少なくとも、当面の間は。
ですから、その支配領域をそれぞれの代官に治めさせるというのは、無理の無い、自然な統治方法で、現地住民にとっても受け入れやすい形になるでしょう。カローザ、ガルソナ、旧ラグランデ、そしてイルキハ。少なくともこの四つの地域を統べる方に、あなたはなられるのですよ。カケル様」
「柄じゃないと思うんだけどなぁ」
「私や他の者達が力を合わせてお支えしますから、何も心配は要りませんよ?」
「本当に?後から、こいつもう役に立たないとか追い出されないかな?まあそしたらまた好きに方々をほっつきまわればいいだけか」
「カケル様なら、この大陸の国々を残らず平らげる事も、滅ぼす事も、そう時間をかけずに出来るでしょう。でも、あなたはそうされていない。そうするつもりも無い。そういうあなただからこそ、私は共に人生を歩んでいきたいのです。
愛しておりますよ、カケル様。あなたがどのような境遇に陥ろうと、私はあなたと共に在り続けます」
「ぼくも、たぶん、そうだよ。まだ、愛が何かとか、愛するってどういう事かとか、分かってはいないけど」
「それでは、二人して確かめ、育んでいきましょう」
・・・・。うん、ちょっと危なかった。
雰囲気に流されかけたけど、二人の着衣がいろいろ乱れかけたりもしたけど、なんとか、ギリギリで、踏み留まれました。
この日は夜までマーシナ王家の人たちと交流を持ち、夕食も共にしたけど、泊まっていく事は避けました。イドルは公的には喪に服しているという立場だしね。ぼくはこれ以上一緒にいたら次は自分を止められるか分からなかったし。
影から不穏な雰囲気を感じなくも無い危うい状況だったので、ぼくはマーシナを辞してから、キゥオラ王国のポーラの部屋へと向かったのでした。
ポーラの所在なんて、いつでも、どこにでも、って感じなんだけどね。
でもやっぱり、区切りを付けるのなら、彼女の部屋がそれに相応しいでしょう。
たぶん。
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