ランニング38:ラグランデの措置と、ミル・キハへのお願いとスカウトとか
それからラグランデへと南下。
いろいろ面倒になってたので、都のお城に直接乗り込み、縛り上げられた父親と兄と対面してもらい、今後について相談しました。床にはカローザ王と第一王子の死体も転がしてあります。
娘さん、シャローザさんは、旦那さん含めた家族会議を手早く取りまとめると、ぼくに提案してきました。
「ガルソナは、そもそもがカローザの属国として生み出され、このラグランデを含む南方の土地を支配する為に利用されてきました。しかしカローザの国力は落ち、ドースデンからの要請も断り切れない立場に置かれ、今後マーシナからどんな賠償請求が来ても受け入れるしかないのが私達でしょう。
父が申し入れた通り、ガルソナは降伏。望まれるなら、父だけでなく、兄の首もどうぞ。私のは、ご容赦頂ければ嬉しいですが、マーシナの決定に従います。
このラグランデとその周辺の土地も、カケル殿に対してお渡しします。マーシナに賠償の手形として渡されるなり、お好きにされて下さい。
ガルソナは、その北半分にまで領土を縮小し、私や夫や子供達はその領都から出ない軟禁という処置でいかがでしょうか?」
「詳細はマーシナとの間で詰めるとして、このラグランデをとりあえず任せられる誰かはいる?」
「官僚達はそのままお使い頂けます。不都合があれば入れ替えて頂ければ。それと、ガルソナがこの地を奪う前に統治していた前王家の末裔が生き残っております」
「ここにすぐ呼べる?」
という訳で会ってみました。
都市国家ラグランデと周辺を治めていたという旧王家の末裔、リル・ビイベ・ラグランデという、13歳の少女でした。自分よりも年下だけど、名乗り方や、その立ち姿や目力は、王家の末裔と言われて納得させるだけの何かがありました。
「リル・ビイベ・ラグランデと申します。先日、ガルソナからマーシナへ侵入した兵を一蹴されたカケル様でいっしゃいますか?」
「蹴散らしはしたけど、ポーラの眷属の力もあっての結果だよ」
「謙虚ですのね。床に転がされてる死体はカローザの王と第一王子、生きているのはガルソナ現当主とその長子。これからのガルソナとラグランデの統治をどうするかで呼ばれたと聞いておりますが」
「最終的にどうなるかわからないけど、この土地に所縁がある誰かに、ここを任せたいかなと思って」
「そういうお話であればぜひ、お受けしたく。
そのお話と引き換えという訳ではございませんが、不躾な質問をお許し頂けますでしょうか?」
年相応とも不相応とも言える小悪魔的な微笑を見て、質問の内容に見当は付きましたが、とりあえず頷いておきました。
「リルは、ああ、私めは、15の成人を迎え次第、どこの誰とも知れぬ輩に嫁がされる予定の身の上でした。カローザやガルソナの複数の貴族だけではなく、先日駆逐された傭兵団の間で一番活躍した者にも獲得競争に名乗りを上げる事を許されていました」
「そうなの、ヘンドリック?」
「ははっ!ドースデンからの圧力で押し込まれた傭兵団どもでしたが、その成果報酬についてごねられまして、苦肉の策として・・・」
「まあ、そういう事にしておこうか。それで、リルは何を要求したいの?ヘンドリックもその息子も多分死ぬ事にはなると思うけど」
エフィシェナさんのヘンドリックを見る目がヤバかったです。というかまだ布を当ててるので見えてはいない筈ですが、凍えるほど冷たい空気が伝わってきてるような。。
リルは、エフィシェナさんとラガージャナさん姉妹の様子を見て、おそらくガルソナ当主親子の被害者なのだろうと見当を付けたのか、軽く会釈してから、両手を合わせ、ぼくの目の前に跪き、上目遣いで願い出ました。
「カケル様は、キゥオラのポーラ姫、マーシナのイドル姫、イルキハのリーディア女王といった錚々たる方々だけでなく、ドースデンからもどなたかを娶られるのでしょうけど、この私めもその末席に加えて頂けますでしょうか?」
「うん、まあ、たぶん、いいよ」
「ありがとう存じます。しかし、今一つ乗り気でないようにも見える理由を伺っても?」
ぼくは、一つため息を挟んでから答えてあげました。
「君もぼくのお嫁さんの一人になるなら、事情の説明はその内受けるだろうけど、まだ誰とも結婚してないのに、婚約者だけが増えていってるんだよ?しかもまだどれくらい増えていくかもわからない。お嫁さんや愛人とかが多ければ幸せかって、もしかして当人はそうだったかも知れないけど、周囲はそうでもなかったらしいとか、ここに身を持って示してる実例がいるしね。あまり幻想を持てないんだ」
エリックの死体を軽く足蹴にすると、リルも、然もありなんと頷いて同意してくれました。
「私も、滅亡した王家の末裔ですからね。栄華を極めていた筈の立場から真逆の環境へと蹴落とされた者の子供として育ちました。そちらのお二人も、おそらく、似たようなお立場なのかと」
ラガージャナさんとエフィシェナさんは苦々しく頷きました。
被害者の会?みたいな話は盛り上がるかも知れませんが、それはまた別の機会にしてもらいましょう。
「えーと、そしたらリルへの引き継ぎや、ラグランデ周辺の貴族とかへの周知は、一週間から十日くらいでひとまず済ませて。国境線の引き直しとかをどうするかとか、マーシナからの要求が出てこないと定まらない事も多いだろうしね」
「かしこまりました。夫と協力して進めて参ります。しかしガルソナ領都の方も並行して進めねばなりませんが」
「そちらは、今の当主と息子さんにしばらくは任せよう。行動の制約に関しては、ポーラに隷属しておいて貰えば大丈夫かな」
「でしたら、それを一つの儀式にしては頂けませんか?ガルソナがラグランデの支配から手を引き、統治についてはカケル様から旧ラグランデ王家末裔のこの私めに任されたことを、周辺領主や貴族たちを集めて周知した方が手っ取り早く済むかと」
「細かい手続きとかについては任せるよ。だけど、周知してから来てもらうまでにも時間は必要だよね?五日とか七日とか?」
「ガルソナが最終的にどうなるかについては、マーシナ王国との折衝にて定まるでしょうから、正式な物は後日にて構わないでしょう。主家に従う者も従わない者も出てくるでしょうし」
「でもさ、マーシナとの折衝で決まるのなら、ここラグランデの統治からリルが外される可能性も出てこない?」
「そこは心配しておりません」
リルは、その細長い指先で、ぼくの胸に触れながら言いました。
「恐れながら申し上げます。カケル様のご活躍を私が耳にした範囲に限定しただけでも、マーシナのみならずキゥオラもイルキハも、そのご判断を覆そうとはされないでしょう。僅か数刻の間にカローザ王家をほぼ滅ぼし、ガルソナ騎士侯爵家も支配下に置かれた方ですのよ?」
「その数時間前には、ミル・キハとカローザの決戦に介入。ソルティックの横入りを防ぎ、三国の計四万の軍を退却せしめ、それぞれの総司令官も拉致。
カローザ王国軍の指揮を執っていたエリック王子と我々をカローザ王城へと連行。カローザ王家を、第二王子のコルフェンと、エリック殿の妻とされていたラガージャナ殿を除き、王城ごとまとめて廃された。
その足でガルソナ当主達をも捕らえて、ここまで来たのだ」
レーゲダットさんがまとめてくれたので、ついでに補足しておきました。リル向けですね。
「北方方面軍だけでなく、中央と南方にも向かっていたドースデンの軍勢を、皇帝や選定侯達に直接掛け合って止めたりもしてきたかな。さらにその前はデモント選定侯の領都を、その大聖堂を高い空まで持ち上げて音速の数十倍の勢いで落として、崩壊させたりもしてきたけどね。まあそこら辺の話もいずれね」
さらにその前にぼくが会ってきた存在の事も、聞いた話の事も、何かの記念碑としてどこかに残しておいた方が良いかも知れないと思いつきました。
デモント領都の大聖堂跡地とかが場所的には良いのかな?
まあ色々忙しいので余裕ができたら考えましょう。
始終盗み聞きしてただろうポーラを呼び出して、ガルソナ当主一家を隷属させて保険をかけてから、ガルソナ領都にヘンドリックと息子夫婦を送り届けるついでに幾つかの有力貴族の領地を経由して戻り、ガルソナに関しては一旦お任せ。
ポーラには、マーシナ王家にガルソナをどうするのか決めておいてほしいと言伝もお願いしておきました。
ぼくはそこからさらにソルティック選定侯の領都でザイナさんの父親、エルガラン・ドル・ソルティック選定侯にも挨拶しておきました。ぼくの動きの詳細については甥御さんから聞いて下さいと任せておきましたが、去り際にその甥御当人であるザイナから質問されました。
「なあ、カケル様。あんた、いや、あなたは、英雄になろうとしているのか?」
「全く、これっぽっちも、興味無いけど?」
「そうか。いや、変なことを聞いて悪かったな」
「別にいいけど」
それからようやくミル・キハ公国の首都へ移動です。
この国の南部で行われていた戦を止めてから、大河沿いにぐるっと一周してきたとか、ぼく、働き過ぎじゃないでしょうか?その前は、龍の心臓とも言える場所から、デモント選定侯の領都、ドースデン帝国皇都、ナンブ選定侯領、イヴィ・ゾヌ選定侯領も回ってきてたのですから。
公国首都にある公爵本家の館の正門にまでレーゲダットさんを送り、何が起きたのかを公爵に伝えてもらう役と、ラガージャナさん達のお姉さんがいるらしいので、呼んでもらうよう頼みました。
来客滞在用という別館で待っていると、水色の髪をした妙齢の女性がやってきました。
「カケル様。お初にお目にかかります。東岸諸国の争乱で梟雄として名を馳せたアルフラックの娘が一人、マーガーシナでございます。妹達を辛い立場から救い出して連れてきて下さった事、感謝の言葉しかございません。
さらには、挟撃されかかっていたミル・キハ軍の窮地も救って頂いたと聞いております」
「ソルティックの軍を止めて、カローザの処分を決めるついででやったことなので、そこまで気にしないでくれていいですよ。頼みたい事はあったりしますが」
「まさかとは思いますが・・・」
「想像してる方の事じゃないよ。詳しくはラガージャナさんやエフィシェナさんに聞いて。今でさえ誰とも結婚しない内に、お嫁さん候補達公認で、婚約者だけが増えていくんだ。はぁ・・・」
「だとすれば、一体どんな?」
「ワルギリィさんにも戦場で見かけたから伝えてお願いしてあるけど、イルキハにいるリーディアの一族が、爆発物のテロで族滅されかけた。
たまたまぼくが立ち寄ったから防げて、下手人たちはみんな捕まえたんだけど、その規模とかから、ミル・キハの勢力が絡んでたんじゃないかと推測されてる。
何か恩返しをというなら、それを頼みたいんだ。この国の当首にも、レッゲダートさんから伝えてもらってあるけど」
「公爵殿に伝わっているのであれば、なぜ私やワルギリィにも?」
「公爵家と、シングリッド唯神教の教会は協力関係にはあるけど、同体では無いんでしょ? で、四聖と呼ばれるこの国の最高戦力は、厳密には教会の方に所属してるって聞いたからさ」
「・・・わかりました。ワルギリィとも相談して、受けた御恩には報いれるよう動きたいと存じます」
「そうしてもらえると嬉しいです。さて、ラガージャナさんとエフィシェナさんはどうします?イドル姫が軟禁状態にされてたことがあるから、この国も信用し切れないけど、レーゲダットさんを通じてたっぷり脅しは効いてる筈だし、マーガーシナさんも強いなら守ってもらえそうだし、ここにしばらく滞在させて貰えば?」
「私が普段使いしている館が別にありますので、そちらを使えば。しかし、ラガージャナ、エフィシェナ、二人の希望としてはどうなのだ?」
「そうね。しばらくは姉さんと過ごせたらと思うけど、その後はカケル様の下女にでもして貰えたらと」
「下女って」
「エリックやカローザ王家への復讐の願いを、これ以上無い形で果たさせてくれたから。これからたくさん縁組されてくらしいから、召使はいくらいても足りないでしょうし」
「下女というか、普通に召使というかお手伝いしてもらえるだけでも助かります」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。あなたはどうするの、エフィシェナ?」
「私は・・・、結局、一人ではいられない。どこで暮らしても、どこからか噂を聞きつけた良からぬ輩がまとわりついて来ようとするから。だから、カケル様・・・」
「無理に敬称とか使わないでいいですよ。ぼくは本当に平民ていうか、ただ神様にユニークスキルをもらっただけの存在なんで。
でも、エフィシェナさんが今後どうするにせよ、その目は治療しておきませんか?」
「それは、はい。お願いできるのでしたら、お願いしたいです」
「ミル・キハにも凄腕の治療師はいるだろうけど、そこで借りも作りたく無いから、イルキハのリーディアにいったん頼ってみよう。彼女も、それなりな光魔法の使い手のはずだから」
長居すればするだけ、また面倒な何かが転がり込んできそうなので、三姉妹をマーガーシナさんの館へと送り届けたらお別れしようと思ってたのに、正にベランダから外に出たタイミングでやってきた人達がいました。
無視して上空に駆け上がってしまうのも、三姉妹の事とか、逃げたように見えてしまうのが嫌だったりで、大袈裟にため息をついて迎えることで、精一杯の不満を伝えてみました。
「レッゲダートさんには、今日は会わないと伝えてもらった筈なんですが」
「申し訳ございません。息子から、あなたが今日一日で成し遂げた事を羅列されただけで、これは無理を推してでもお目にかかり、言葉を交わしておくべきと、まかりこしました。ミル・キハ公国第二十七代当主、エル・チ・トセ・ミル・キハでございます」
「カケルだよ。ま、いいか。ぼくも、マーガーシナさんにもお願いしたけど、あなたが来たなら聞いておきたい事もあったんだ。そっちから先にどうぞ」
「ありがとうございます。私の質問は単純でございます。あなたは、かつてアルフラックが目指していた様な、英雄王になられることを望んでおられるのか?」
「えーと、今日初めてラガージャナさんたちに出会って、それで初めてアルフラックって人がいて、東岸地域の戦乱で活躍してたらしいって聞いたけど、詳しくは知らないし、そもそもぼくは、英雄や王になりたくていろんなことをやってる訳じゃないよ」
「ならば、何の為に?」
「あなたのこの国と仲が良いらしいシングリッド唯神教からは邪教だ異端だと決めつけられそうだけど、ぼくは元々この世界の人じゃない。別の世界で死んで、この世界の神様に拾われたの。神様には神様なりの目的があってね。ぼくはその神様の目的と、ぼく自身がやりたい事の為に走り回ってるだけだよ。文字通りね」
「つまり、神の目的の為に、奔走されていると?」
「ぼくはね。前世、前にいた世界では、病人だったんだ。ベッドから一歩も動けず、体で動かせる部分が日に日に少なくなっていって、何とか動かせるのが眼球と指先くらいで。
いろんな治療や薬を試して、でも効かなくて、苦痛に苛まれながら十年くらい過ごしてごらんよ?
自分の動きたいように動ける。歩きたいように歩ける。走りたいように走れる。行きたいどこかへ行ける。この世界の神様は、それができる体と能力をぼくにくれた。神様の目的は、ここでは言わないでおくよ。
それじゃ、ぼくの番だね。心して答えて」
「何なりと」
「つい先日、イルキハの新女王リーディアとその一族が、爆発物テロで殺されかけた。ミル・キハが絡んでるぽいんだけど、あなたも関わってるのかな?」
「いいえ。関わっておりませぬ」
清々しいほどの即答でした。
「じゃあ、心当たりはある?イルキハの、ミル・キハ国境近くの中堅貴族とかが動かされたらしいんだけど」
「確証はございませぬが、心当たり程度であれば」
「教えてもらえるかな?」
「はい。ミル・キハにおける、シングリッド唯神教の教派は、聖典派、世俗派、中立派の三つでした。つい最近までは」
「別の一派が力を付けてきて、そいつらの仕業って事?」
「おそらくは。それらの者は、殉教派を名乗っております。長く続いた戦乱も、土地枯れも、この世界を終わらせようとしている神のご意志である。ならば、その意思に沿うよう動く事が、信徒としての務めでは無いかと主張し、急速に支持を広げているとか」
まあ、そんな解釈も、有り得るっちゃ、有り得るのか。
「じゃあ、その線で、誰がどう動いたのか、動こうとしているのか、調べておいてもらえるかな?」
「かしこまりました」
「あと、これは本人の希望次第でもあるのだけど、もう一つお願いしておいていい?まあ二つになるかもだけど」
「先のカローザとの戦において、ソルティックとの挟撃を防いで頂いた御恩も、ドースデンからの派兵を止めて頂いた御恩もございます。仰られてみて下さい。応えられる限りは応えます」
「ワルギリィさんを貰えるかな?ヘッドハンティング的な意味で」
「当人が希望するなら断る理由もございませぬ。もう一つは?」
「マーガーシナさんの妹さん二人と今日会って、連れてきたんだけどね。しばらくミル・キハに滞在してお姉さんと過ごしたいみたいだから、変な連中が寄ってたかってこないようにしておいてもらえる?」
「お安い御用です。詳細は、マーガーシナと詰めておきます」
「よろしくね。それじゃ、マーガーシナさん、行きましょうか」
「え、あ、はい。しかし」
マーガーシナさんの視線の先には、ワルギリィさんもいたので、列車ごっこの列に加わってもらうことにしました。
詳しい話を聞かせてもらえるかしら?、と何か怖かったので。
文字通り、胸の谷間から、ぼくが渡した(?)手紙を取り出しながら。
「まあ、そう難しい話でも無いので、移動しながらで」
マーガーシナさんのそれなりに立派な邸宅までは、徒歩レベルでも五分も掛からなかったので、その庭でワルギリィさんに、彼女をスカウトしたい理由を伝えました。
「ポーラ姫から、他の奥方候補を守って欲しい、だと?」
「はい。さっき駆け足で説明した通り、今後、お嫁さんかその候補は多分増えていく一方です。リーディアはまだ対抗手段を持ってますが、他の人達には無理でしょう。いつでもどこでも潜伏できて、誰でも襲いたい放題。これで幸せな結婚生活が待ってるとか、いくら何でも思えません」
「しかし、私が手伝ったとしても、守れるのはせいぜいが数人。付きっきりなら一人が限界だろう」
「リーディアは、多分ぼくと最初に一緒になる一人です。彼女自身がポーラに対する抑止力になりますが、彼女に万が一のことがあれば、タガが外れてもおかしく有りません」
「黒髪黒目の闇魔法の使い手。今の私が正面切って立ち向かったとして、果たして闘いになるかどうか」
「ポーラは、ぼくを隷属させる事も、眷属にする事も、殺す事もできません。神様に止められているから。だから、何らかの手段でぼくに知らせてもらえれば、一瞬でぼくは駆けつけられます。そうすれば何とかなるでしょう」
「つまりその数秒を贖える存在になって欲しいと?命懸けではないか。私が、リーディア女王よりも真っ先に狙われる存在になるのは明白だ」
「そこはほら、今日拾ってきたというか、ぼくのお手伝い志望らしいラガージャナさんとエフィシェナさんとかに補助してもらえれば何とかなりませんかね?お二人ともそれなりに魔法も使えるみたいだし」
「それなら、まあ、何とか、なるかも知れないが。これから何人奥方が増えていくか知れないなら、都度補充は必要だぞ?」
「大丈夫ですよ。ぼくに親身なポーラの眷属もいますし、それから、ポーラの眷属ではないぼくの眷属?もいたりしますし。それなりに強力な存在なので、ここには呼ばないでおきますが」
「分かったわ。基本的に、あなたの申し出を受けて、この国を離れられるよう動く。カローザもソルティックもドースデンも抑えてくれたのであれば、しばらくはどこからも攻められない筈だしね」
「報酬は、それなりにお支払い出来ると思います。キゥオラにもマーシナにもイルキハにも、ドースデンにも、お金に換算できない貢献をしてきたしこれからもするつもりですし、カローザからもガルソナからも搾り取ろうと思えばいくらでも、って感じですからね。やりませんけど」
「ふむ。じゃあ、私もあなたと、って言ったらどうするのかしら?」
「止めはしませんよ。リルとかも止めませんでしたし。でも、ポーラは、いつでも、どこでも、覗き放題で、盗み聞き放題なんです。何ならそれ以上の実力介入すら可能で。それでもよろしければぜひ」
ぼくはせいぜい朗らかな笑顔を浮かべるよう努力してみましたが、勧誘は保留されました。
「それは、実際の勤め先の雰囲気とかをもっとよく知ってみてからにするわ」
マーガーシナさん達三姉妹も、ぼくらの会話を立ち聞きしてましたが、何やら小声で、それも真剣な様子で、相談していました。何を話していたかぼくは知りません。
ぼくがそろそろ出発しようかという頃合いになって、ラガージャナさんに付き添われたエフィシェナさんがやってきて、尋ねられました。
「あの、次は、いつお会いできますか?」
「お姉さん達としばしゆっくりもされたいでしょうから、一週間から十日くらいは空けますか?」
「それは、長過ぎます。もっと短く、その、早く、来て頂けないでしょうか?」
「ああ、そういえば、目の治療を試みるお約束でしたね。気が回らなくてすみません。お姉さんたちの顔も久々に見たいですよね」
「それも、少しは無くもないですが、私は、あなたのお顔を、この目で見てみたいのです」
「黒髪黒目の、のっぺりした、冴えない少年の顔を思い浮かべて頂ければ、大外れはしないかと」
「・・・言葉の意味が正しく伝わらなかったようなので言い直しますが、私は、私が嫁ぎたいかも知れない誰かのお顔を、きちんと拝見してから、お嫁に参りたいのです!」
「へっ!?」
「あなたがラグランデでリルという少女に語っていた言葉からすれば、私が諦めなくてはいけない理由は無さそうです。
私がカローザからガルソナに下賜されてしまったのも、彼女と同じくらいの年頃で、私にはその運命を拒むだけの力はありませんでした。できれば清い体で嫁ぎたかったとは思いますが、イドル姫を娶られるというあなたからすれば、そこも問題にはなら無いですよね?」
「あ、ああ、うん。君が望むのなら」
「良かった!ポーラ姫の覗き見盗み聞きも気になりませんから、お気遣い無用です。あなたに守ってもらえればそれはそれで嬉しいでしょうけど、あのガルソナの狸ジジイは、家臣に私を犯させる時もあったのですよ。それを横で見て楽しむとか、何度殺してやろうかと思ったものです・・・」
うわぁ、その過去は知りとうなかった・・・。
とはいえ、もしかしたらイドルにも似たような状況はあったのかも知りません。聞きはしませんけど。
「まあ、ガルソナをどうするかはマーシナの意見を聞かないといけないので、ちょっと我慢してもらえると嬉しいかな」
「はい。私は助け出された身です。この身も心も、助け出して頂いたあなた様にお捧げ致します」
助けて、って感じでラガージャナさんに視線を送ると、諦めて、って感じで首を左右に振られました。
マーガーシナさんは同僚でもあるワルギリィさんと話し込んでいましたが、クラーケン・フライの元となる切り身100kgくらいをお裾分けしておきました。当主様一家にも振る舞っておいて欲しいとお願いして。
そうしてぼくはエフィシェナさんに、二日後に迎えに来る約束をしてようやく解放され、這々の体で上空へ逃げ出し、クラーケンのいるダンジョンへと向かい、八つ当たり的にその触腕を刈り散らかしてから、行き先は迷ったけど、イルキハのリーディアのところへ行って長い一日を終えたのでした。
なぜリーディアかって、エフィシェナさんの治療や、ワルギリィさんとの護衛シフトとかについて相談する必要があったからです。
早ければ一ヶ月後か遅くとも二ヶ月後までにポーラやリーディアと結婚したり、そういう
ドースデンの食糧不足を解消する為に方々を走り回らないといけないのとは別に、もう一つの大きな気掛かりがあったからです。
先のチェックポイントから、幾つもの大きな分岐点があった筈ですが、神様からはどこがどうなったらとか、何をしたらとか、次のチェックポイントに関して、示唆がありませんでした。
つまり、それだけ大きく巻き戻さなくてはいけないかも知れない。そんな判断もあって結構場当たり的に動いてきたのですが、なんかもうそれも限界に来てるような。
いやまあ、普通の人生なら、一度たりとてやり直しが効かないことは重々承知しているのですけどね。
はい。
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