ランニング37:カローザとガルソナの処置

 この三人、混ぜるな危険というか、面倒臭い存在で。


 エリックは誰に対しても謎の上から目線で、イドルに片想いしてるレーゲダットにあれは俺の物だマウントを取り、ぼくに対しても俺の女を返せとか、もし手を付けたのならぼくの婚約者達を全員寄越せだの、キゥオラにもマーシナにもイルキハにも損害賠償を請求するとか真顔で言ってたので、率直に、その頭の中身を疑いました。


「それ、本気で言ってる?」

「黒髪黒目の忌み子が俺に対等な立場で口をきこうなど思い上がりが過ぎるぞ、この下民が!貴様と与している国には、今回カローザが得る筈だった利益の数倍の賠償を請求して奪い取ってやる!」

「そのたった一人の下民に軍勢を蹴散らされたばかりか、囚われの身になってる理由を説明してみて?」

「くっ、一対一の正々堂々とした立ち会いの下であれば、貴様なぞ相手にならん!さっさと奪った装備を返せ!そしてお前が得ている全てを寄越せ!」

「えーと、それはカローザ王国全体の意思ということでいいのかな?」

「当たり前だ!俺を誰だと心得る?カローザ王国第一王子ぞ!国の全権を預かってこの大戦に臨んだのに貴様如きに台無しにされたのだ!この恨み、如何様に晴らしてくれようか!」


 まあ、とっくに、まともな話し合いにはならないだろうなと見切りをつけ、ハーボ達をポーラから貸してもらって、身ぐるみ全部剥いで、肩肘膝足首全部砕いてもらって、それでもこの威勢の良さって、ある意味感心してしまうよね。苦痛耐性があってカンストしてたりするのかな?

 そんな風に脇道に逸れようとする思考を本筋に向け直して、話を進めました。


「さて。レーゲダットさんとザイナさんにはもう少し理性的な話し合いをしてもらう為に、あなたとカローザには生贄になってもらいましょうか」

「俺を殺す気か!?俺を害すれば、カローザ最後の一人に至るまで、お前とその輩を死ぬまで追い詰め、決して許さないだろう!」

「それが本当か、国王に確認して、本当なら、カローザには全員死んでもらいます。あなたの奥さんや愛人や子供とかもたくさんいるらしいですが、一人残らず」

「なっ、何だとぉ!貴様には人の情というものが無いのか!?」

「無いですよ。特に、あなたみたいな人で無しに対しては。

 ハーボ。ちょっと汚い役になるけどお願いしていい?」

「なんでも言っでくれ」

「ポーラから呪いの短剣借りてきて」

 ハーボはすぐに呪いの短剣を手に戻ってきたので、早速お願いしました。

「それでエリックの一物イチモツとタマタマを切り落として。どうせ喚いて暴れるだろうから、他の人達に抑え付けさせて」

「お安いご用だで」


 ハーボとその仲間達みたいな眷属が影から次々に現れて、エリックを地面に押さえ付けて、その性器を切り落とさせて、切除したモノはきちゃないので地面ですり潰しておいてもらいました。


 呪いの短剣の切り傷からは血が止まらないので、失血死する前に、サクッとカローザ王国の王城にまで移動。ちょうど食堂らしき一室で皆さんお食事中だったので、王城の本丸?とも言える建物ごと上空へと拉致。

 マッキー他の眷属に、魔法的な防御装置ぽい仕組みも全部壊してもらってから、そのお話し合い?の場に乱入させてもらいました。


 食堂の上の構造物とか要らないので、衝撃波でその大半を吹き飛ばし、空から直接乗り込み、王様らしき人の目の前のテーブルに、エリックの体を放り投げました。

 そしてテーブルの上に降り立ち、王様らしき人に問いかけました。


「一度しか言わないので、良く考えて答えて下さい。

 ぼくの妻になるだろうイドル姫を蹂躙したエリックはその咎により死刑です。彼は先ほど言いました。彼を殺せば、カローザは最後の一人になるまでぼくの敵として立ちはだかり、エリックの仇を討とうとするだろうと。それがあやまたずカローザ王国の意思だと。

 間違いありませんか?」


 カローザの王様は、恰幅が良くてもほど良く鍛えてそうで、そこらの兵士なら相手にならなそうな貫禄も備えていました。

 ぼくを睨みつけ、その背後にいるレーゲダットやザイナの姿に注目しつつも、考えを巡らせているようでした。まあ、ガルソナがカローザの属国なら、先日マーシナに侵入させた連中の末路も、それを誰がやったのかも、当然、知っている筈ですしね。


「この忌み子風情が!ここをどこだと、我らを誰だと知っての狼藉か!?一族諸共」

「ドロヌーブ」

「はっ!」


  影から現れたドロヌーブが大斧を一閃。喚き立てた女性の首を綺麗に刎ね、それは宙に孤を描いて床に落ちて転がり、頭部を失った体と共に、赤い血溜まりを形成していきました。


「このエリックも、一族諸共とか、キゥオラもマーシナもイルキハにも何倍にもして償わせるとか言ってたけど、皆さん同じ意見なら、王族だけでなく、国民全員後を追ってもらいますけど?

 食糧とかドースデンに優先的に分け与えないといけないですからね。頭数を減らせば少しは楽になるでしょうし」


 王様らしき人物はまだ迷っていましたが、何故か床に倒れていた誰か、顔にも殴られたような痣があり、体中に蹴られたような痕跡も見受けられる若者が、王様に声をかけました。(若者って言ってもぼくよりは明らかに年上で、この場にいるほとんどの人より若めの人ってことです)


「父上!もはや迷っていられる時ではありませぬ!兄上がこうして囚われの身として連れてこられたのなら、ミル・キハ侵攻軍もまた敗れ、ドースデンとの共謀もうまくいかなかったのでしょう」


 王様を父と呼んで、エリックを兄と呼ぶなら、この人も王子の一人なのでしょう。この人だけ残せばいいかなと思いかけた時、部屋の端にいた女性が声を上げました。


「恐れ入りますが、カケル殿でいらっしゃいますか?」

「そうだよ。あなたは?」

「東岸地域の戦乱で名を馳せた英雄アルフラックの次女でラガージャナと申します。私はやむを得ぬ状況からカローザに亡命させられ、エリックの妻の一人となることを強要された者で、カローザ王家ともこの国とも殉ずる意思はございません。

 それと不躾なお願いですが、エリックに私がトドメを刺してもよろしいでしょうか?」

「構わないよ。このまま放っておいても失血死するだけだしね」

「そんな生温い殺し方では私の恨みは晴れませぬ。すでに性器は切り落とされているようですが」

「好きにしていいよ」

「お待ちなさい、ラガージャナ!あなたとてエリック様と情を通じてきた筈ではありませんか!」


 他の奥さん連中に囲まれたラガージャナさんは、


「武器を」


 と所望したので、眷属の誰かに渡してもらい、彼女は嬉々としてエリックの妻や愛人達を屠っていきました。

 そしてもう息も絶え絶えなエリックのお尻に剣を突き立て、中でグリグリした後、背中に乗って数え切れないくらいの回数剣を突き立て、血塗れになりながらエリックの首を切り落とし、それを父である王へと投げつけました。


 そして、とてもスッキリした良い笑顔をぼくに向けて、尋ねてきました。


「私もエリックの妻であったことは確かな一人です。死ねと言われれば死に、侍れと言われれば侍りましょう」

「好きにしていいよ」

「では、今しばらくは生かしておいて頂ければ、この上ない幸いです。この憎きカローザ王国が滅びる様を見届けられれば、もはやそれ以上の望みはございませんから」

「国全体はどうなるか知らないけど、とりあえず王家の大半は滅びる事になりそうだね。さっき声を上げた一人と、あなたは、この場を生き延びる権利を勝ち取った。

 さて、時間切れです。さようなら、カローザの王様」

「待て!話を聞いてくれ!頼む!カローザは、我が国は、こんなことで滅んではならんのだ!」


 タイムアップ、つまりは死刑宣告されて、ようやく、カローザの王様は慌てて声を上げました。

 こういう人達って、他人を好きに出来ると思い込んでる癖に、他人に好きな様にされるのは受け入れられないんですよね。

 そんな事が起こるとも信じられないみたいで。ほんと、信じられませんね。

 ぼく? ぼくはほら、例外だから。もう何度も殺されてもいるしね。


「いいえ。あなた達は、イドルを好きに利用しようとした。その身も心も踏み躙り、彼女の人としての願いを顧みようとはしなかった。その罰をどの範囲まで適用するか迷っていましたが、少なくとも、あなた達には残らず適用します」


 ぼくは、さっきの若者とラガージャナと、レーゲダットとザイナだけを連れて上空へと移動。

 レベル90のサブスキルの指定対象となって、ぼくの代わりに王城の下から支える形で歩き回ってくれてた熊のポーには、影の中へと退避してもらいました。

 レベル90のサブスキルは、『共用』。ぼくが使えるユニークスキルやサブスキルを、対象として選んだ他の誰かにも、スキル発動後24時間使わせることが出来るという物です。一度使うと、再使用まで24時間空けないといけません。

 使用制限がある物は、どちらかが使えば、再び使えるようになる条件を満たすまで使えなくなってしまうので、ポーには、重さを感じずにどんな対象でも運び動かせるという、ランニングの一番地味な効果で頑張ってもらってました。まあ当からすれば、背中に重さを感じない何かを載せて動き回っていただけなのですが。(お城の大きさを熊一頭の小ささでバランスを崩さずに運んでいられた理由については、音速の何倍の速さだろうと、列車ごっこで連結されていればバランスを崩さず絶対に転ばないとかいう、神様由来のご都合主義万歳調整が存分に発揮されていた結果でしょう)


 自由落下し始めたお城の本丸?を、ぼくは上から軽く加速させました。どこかの大聖堂を落とした時の1/10くらいの勢いで。まあそれでも元の王城があった辺りは軒並み崩壊しましたが、王都の大半はまだ無事とも言えるでしょう。


「さて、これからどうするか、話し合いましょうか」


 ラガージャナさんは血塗れのままで迫力あり過ぎなので、血を洗い落として着替えて欲しいのですが。


「カケル殿。カローザ王家の生き残りとして、意見を具申してもよろしいでしょうか?」

「どうぞ」

「名乗り遅れましたが、カローザ王国第二王子のコルフェン・オープフ・カローザと申します。カローザ王城を崩壊したままに任せれば、王都住民全員が盗人になり、城の残骸から得られる物を着服しようとするでしょう。

 カケル殿がこの地をどうされるのかわかりませんが、誰かしら統治の者を置かれるのであれば、その時に必要となる原資は抑えておくべきかと」

「コルフェンが治めたいならそうしていいよ。確保しておきたいものがあるのなら取っておけばいいし」

「それでは、王都中央にある衛兵詰所に降ろして頂けますでしょうか?」


 大きめな砦兼避難所みたいな建物はわかりやすかったので、すぐに降ろしてあげました。そこで王城に何が起きたのかをコルフェンが説明したのですが、いわゆる警備隊の上官にも貴族達が多い訳で、コルフェンの制止も聞かずに襲いかかってくるのが何人もいて、全員返り討ちにされました。一人残らず即時に影収納されて、ポーラのアンデッド眷属化処置をされた後、コルフェンの護衛として付けられた後は、みんな言う事を素直に聞くようになりました。


 ポーラの眷属には、崩壊した王城の見張りをすでに依頼してありました。もしかして生き残ってる王族がいたら間違い無く殺しておいてもらう為にも。生き残られて逃亡されて反乱企てられても面倒ですからね。


 警備隊でお風呂を借りて、ラガージャナさんは体を洗い、着替えも見繕ってもらって、ようやく普通の綺麗なお姉さんぽい外見に戻りました。エリックをザクザク刺してた姿は夢に見そうなくらい怖かったですけどね。


 コルフェンが忙しそうにしてる間、ぼくとラガージャナさんは暇だったので、これからどうするかについて相談してました。


「第一王子だったエリックを殺したとなれば、もうこの国にはいられませんよね?どこか行く宛はあるんですか?」

「英雄だった父の国も無くなってしまってますからね。特に無いと言えば無いのですが、姉のマガーシナがミル・キハに。妹のエフィシェナがガルソナに身を寄せております」

「ラガージャナさんと同じ様な境遇で?」

「姉は優れた水属性の魔法使いだったので、ミル・キハの四聖として遇されていると聞いております。そちらについてはあまり心配しておりませんが、今回の戦を生き延びていれば幸いです。

 妹はそれなりの風属性の魔法使いで、カローザを通じてガルソナに下賜されました。便りの交換もほとんど許されず、当たり障りの無い事しか書き送ってきていないので、こちらの方が心配です」


 やはり暇してるザイナが、ラガージャナさんの姉妹の話には関心を示して話に加わりたそうにしてましたが、今は無視しておきました。話を振ると面倒そうなので。


「ん〜、そしたら、ガルソナに行ってみる?」

「しかし、私は先ほど生涯の願いを叶えて頂いたばかりで」

「カローザ王家潰して、一番路頭に迷いそうなの、ガルソナだよね。マーシナからの損害賠償請求は、カローザに対してもされるだろうけど、本命はガルソナになるだろうし」

「払えるでしょうか?マーシナからの農作物の輸出を止められたら、それだけでも国として立ち行かなくなりそうですが」

「そこら辺含めて、脅しておこうか。そしたら、カローザの王様の首でも持って行こう。それと分かる状態だったらいいけど」


 流石に、コルフェンとその指示を受けてた人がギョッとしてこちらを見ていましたが、理由を説明しました。


「ついでだから、ガルソナのトップの人にも、カローザ王家を潰したから、ガルソナはどうするつもりなのかも聞いてくるよ。マーシナからの賠償請求もすごいことになるだろうしね」

「ガルソナの現在の元首は、ヘンドリック・ラ・マー・ガルソナ騎士侯爵殿となります。私も何度かお会いした事がありますから、カケル殿に同行した方がよろしいでしょうか?」

「コルフェンには、カローザの掌握をしっかりしておいて欲しいかな。ミル・キハ侵攻に失敗した軍が帰ってきてコルフェンが倒されたりしたら、今度こそ国ごと潰すだろうから」

「決してそのような事にはならないよう、懸命に務めさせて頂きます!」


 コルフェンがぼくの前に跪いたので、他の人も倣ってしまい、いちいち止めるのも面倒なので、他のことも頼んでおきました。


「マーシナからの謝罪と賠償請求をどうするかも考えておいて。それから、ガルソナのトップの人への降伏勧告みたいな手紙も書いておいてもらえる?カローザの王様の首と一緒に持っていくから」

「かしこまりました。最優先で取り掛かります」

「よろしくね」


 そしてラガージャナさん他と一緒に、崩壊した王城跡へと移動。気が効くポーラの眷属が、王様の死体だけでなく、エリックやその妻や愛人達他、その子供達のも集めておいてくれました。

 まあ、王城に暮らしてれば巻き添えになってて不思議は無いよね。謝る意味は無いので、心の中でも謝りません。自己満足でしか無いでしょうし、謝るくらいなら最初から殺すなって事です。子供ならってのも、何歳までなら子供なの?とかあるし。物心着いた後なら、恨みや復讐心も一生抱えておかしくないし。

 あのエリックと父親の在り方からして、カローザが辿る運命は変わらなかったでしょう。コルフェンやラガージャナさんが特殊で命拾いしただけ儲け物です。


 ポーラの眷属には、王城跡だけでなく、王都全体の見張りもそれとなく頼んでおく事になりました。頼れる熊のポーもいれば、大抵の相手に遅れは取らないでしょう。まだ『共有』スキルの効果が23時間くらい残ってるしね。 


 カローザの元王様とエリックの死体だけ影空間に収納してもらってから、コルフェンの所に戻って手紙を受け取ったら、ガルソナ騎士侯国へと出発です。


 サーチスキルで見たら、250kmほど南。すぐに着いてしまいそうです、っていうか、ショートワープと1時間未満走ればすぐでした。


 その首都で、カローザの王都でやったのと同じ事をするか迷いましたが、先ずは脅しから入ってみる事にしました。


 空から何度か衝撃波を轟かせるだけでも領都はパニック状態になったせいか、ポーラの眷属を付き添わせたラガージャナさんに使者になってもらって、すんなりとヘンドリックさんに会えました。ヘンドリックさんを始めとした首脳部も行き詰まって、どうしたら良いかわからなくなってたらしいです。


「カローザ王家は王城ごと潰しました。恭順を誓った第二王子のコルフェンさんにとりあえずの統治を任せてきましたが、ガルソナはどうされますか?」


 カローザの王様と第一王子の死体を床に並べ、コルフェンからの降伏勧告の手紙を渡すとか、酷い圧迫面接ですよね。ぼく、寝たきりのまま死んじゃったから、面接受けた事無いんですけど。


「ガルソナも降伏しまする」

「マーシナへの賠償はどうするつもり?」

「賄い切れますまい。この首と、領土の割譲で、何とか収めて頂けませぬか?」

「この国の王族というか、騎士侯爵家って、どれくらいいるの?」

「主家は、私と、息子と娘が一人ずつ、庶子が一人。息子には妻が二人で、その片方が、そちらに居られるラガージャナ殿の妹御になります。娘は嫁ぎ先の夫と、南にあるラグランデの代官を務めております」

「ドースデンからの南方面軍も引き返させたし、キゥオラにもマーシナにもカローザにも当面攻められる事は無いだろうから、とりあえずその娘さん夫婦に手紙を書いて。ぼくらに逆らわないように」

「承知しました。他に、ご希望は無いのでしょうか?」

「ガルソナに何を求めるかは、多分マーシナに決めてもらう事になるから、何を求められても応えられるよう準備を進めておいて。

 それから、ラガージャナさんの妹さんのエフィシェナさんを連れてきてもらえる?」


 かしこまりました、とヘンドリックさんが承諾して、そう待たずに、30歳くらいの男性とほぼ同年代の女性、それから10歳くらいは年下の女性がやってきました。


 夫婦だろうと一目で分かる二人はともかく、一際若いのがエフィシェナさんでしょうけど、


「エフィシェナ、私よ、ラガージャナよ!あなたのその目はどうしたの?それに、その首輪は・・・?」


 エリックを惨殺した時と同じくらい、ラガージャナさんの殺気が高まりました。エフィシェナさんの両目は、はちまきみたいな、細くて長い布で覆われていて、首輪は、相手を隷従させる為の物でしょうか。


 ヘンドリックさんの息子さんが、弁解しようとしました。

「彼女は、ここで馴染めなかった。私との夫婦生活もうまく行かず、何度も逃亡を図り、その際に何人もの兵士を死傷させたので、仕方なく」


「本当の事なの、エフィシェナ?」


 エフィシェナさんは、隷属させられてる相手に不利益な言動は出来ないのでしょう。押し黙ったまま、ただひたすらに、ヘンドリックさんの方を見つめていました。布で目を覆っていても、ある程度、人の気配とかで、そこにいるのが誰かは分かるのでしょう。


 動き出しそうになったラガージャナさんの肩を掴んで引き留め、ぼくから尋ねました。


「そうなんですか?」と。


 ヘンドリックさんは真っ青になって小刻みに震え、俯いたまま、何も言えませんでした。

 次にぼくは、その息子さんに尋ねました。確認の為です。


「あなたも知ってて止めなかったと」

「・・・・・親父には、逆らえなかった」

「国対国の処置は、追って定められるでしょう。でも、あなた達二人の処罰は、エフィシェナさんに決めてもらいましょうか」


 そう言った途端に、ヘンドリックさんとその息子さんが、懐に隠し持っていたらしい短剣を抜いて襲ってきました。

 サブスキルの『同調』使って動きを止めた後は、とりあえずハーボ達に全身の関節を砕いて身包み剥いでおいてもらいました。

 このまま殺しても良かったんだけど、一応、その奥さんに尋ねました。


「あなたもこの二人と一緒に死にたいです?」

「いいえ。平民に落とされても構いませぬ。我が子ともども見逃して頂けないでしょうか?」

「確か、もう一人庶子がいるんですよね。その人をここに呼び出しておいて下さい。ラグランデにいるという娘さん夫婦も連れてきますので。

 ああ、その庶子って人に危害を加えないよう見張りもつけたりしておきましょうか」


 エフィシェナさんに着けさせられていた隷属の首輪は、ポーラに影空間から触って外してもらい、それを奥さんの首に嵌めなおしておきました。命令には素直に従うようにと。顔色を失って頷いたので、大丈夫でしょう、たぶん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る