ランニング36:さて、北のをどうするかなんだけど
イヴィ・ゾヌ選定侯の領地に達していた中央方面軍も、パルトさんの奮闘もあって、無事引き返してもらえる事になりました。
この軍の司令官というのが、過去の経緯からカローザ王国にだいぶ恨みを持ってる人だったので、引き返せというなら我と立ち会え!みたいな無茶振りを受けて、最大限に加減したデコピンで沈んでもらい。(衝撃波を生み出す程度や範囲についてはずっと練習してきたので、その集大成みたいなものです)
自分のお嫁さん候補の一人も酷い目に遭わされたので、いずれ報いを受けさせるつもりだと言って、ようやく納得して頂けました。
この土地でも、クラーケン・フライを作ってもらって大盤振る舞いしたのですが、パルトさん曰く、元イヴィ・ゾヌ王国は、北にソルティック王国、南にナンブ共和国、東にラルクロッハ帝国という強国に囲まれた小国で、常に国際情勢に翻弄され、長い戦乱の間に何度も支配国が入れ替わり、その中には一時的にしろカローザがやってきた事もあり、それは辛い目に遭わされたそうで。彼らが敗者として引き上げる時には、報復を受けない為に、船も港もみんな壊されてしまって、その後復旧するまでにだいぶ苦労されたとか。
ん〜、やっぱり、カローザ王国は問答無用で潰しちゃっていいんじゃないでしょうか?
そんなことを考えつつ、パルトさんやそのご家族とクラーケン・フライをぱくつきながら東岸諸国について、いろいろと教えてもらいました。
「でも、ドースデンじゃなくてラルクロッハって別の帝国があったのですね」
「はい。ドースデン王国は、東岸諸国の中でも古めの国ではありますが、東南角にある小国でした。
逆に、ラルクロッハ帝国は、東岸諸国を代表する国で、千年以上の歴史を持つと言われておりました。東岸諸国の中央に大領土を持ち、諸国間の揉め事の仲裁などもしておりましたが・・・」
「土地枯れで、バランスが狂っていったのですか?」
「後継者争いの内紛なども悪いタイミングで重なりましてな。北東のデモント教国から流入し始めていた難民や、北西のソルティック王国の野心なども絡まって火種は育っていき、土地枯れの広まりと共に争乱は起き始め、数十年の長きに渡り戦乱は続いたのです」
「それで、ようやく戦乱が収まったと思ったら、土地枯れがどうにもならないくらい広まってしまってたと」
「お恥ずかしながら。ドースデンが紆余曲折の末に統一を成し遂げ、一度は王位を退いていた老王が復位してまで遺業を達成はしたのですが、ほんの三年前に燃え尽きたように崩御されました。
子供世代は全滅してしまっていたので、孫のほぼ唯一の生き残りであるヴィヴラ様が育たれるまでの中継ぎとして、先帝の奥方であったプロティア様が第二代の皇帝として立たれたのです。
かように不安定な政情もあり、ドースデンが帝国となって百年後には選定侯は選帝侯として皇帝を選ぶ票を投じる権限を持たされますが、それまでは国政に参与する権限を持つに留められております」
ふ〜む。いろいろ教えてもらって勉強にはなるんだけど、今は結局、北方面軍をどうするかなんだよねぇ。
「皇帝、プロティアさんからの司令書は預かってきましたが、かといって北方面軍や、ソルティックが止まるかは微妙なんですよね?」
「私が同行したとしても、押し切られる可能性がありますな」
「国の大きさや、歴史的経緯なんかも絡むと難しいでしょうけど、本当に放っておくかどうかが微妙なんですよねぇ」
「カケル殿の場合、事態をどうしておきたいかという意志次第ではありませんか?」
「まあ、そうかも知れないのは確かなんですけど。
ナンブ選帝侯と、南方面軍指揮官からも手紙もらってきたから、中央方面軍の指揮官なりに手紙もらうかついてきて貰えば、言うこと聞いてもらえませんかね?」
「北方面軍は止まるかも知れませんが、ソルティック選定侯の軍は止まらないかも知れません」
「・・・むしろ、その方が今後にとって美味しい展開じゃないですか?」
「その心は?」
「程度は違うだろうけど、カローザもミル・キハも、西岸諸国統一の旗頭というか中心になろうとしていました。マーシナのイドル姫を巡って、カローザとミル・キハの対立感情は最高潮でしょう。
野心に逸るソルティックなら、カローザとミル・キハがぶつかっているところに横合いから打撃を与え、さらに北から別の軍勢が迂回して後背をを突けば勝ちは動かないと踏んでいるのでは?」
「その可能性は低くありませんな」
「さて。そしたら、ヨネッゲさんにも手伝ってもらいますよ?」
「やれやれ。仕方ありませんが、中央方面軍の指揮官級にも同行させて下さい。説得力が増しますから」
ということで、自分とヨネッゲさんと他二名で北へと急行。
もう夜半過ぎの時間帯でしたが、大河の源流の一つで、容易に渡河できる地点に向かっていた軍勢を捕捉。その進行方向に1トンくらいはある岩を上空からそれなりの速度で投げ下ろしたら行軍は止まったので、後はヨネッゲさん達の手助けも借りて説得しました。
皇帝陛下の司令書ももちろん効果を発揮したでしょうけど、クラーケン・フライや、他の食料を当面支給されることで進軍を断念して頂きました。やはり、北の方が土地枯れは厳しいようで、食料不足も深刻との事でした。
それからヨネッゲさん達をイヴィ・ゾヌの領都に送り届けた後は、ミル・キハとカローザと、それからソルティックの衝突予定地点に向かってみましたが、ミル・キハとカローザの国境地帯にある平野にて、両国の一万以上の兵隊が間隔を空けて対陣して野営していたけど、周辺を見回ってもすぐにどちらかが仕掛けそうな動きはありませんでした。
少し引き返し、ソルティック選定侯領からほど近い対岸付近に、ミル・キハとカローザを合わせたくらいの軍勢がひっそりと渡河しているのを見つけました。全体が渡河しきるまでにはまだまだかかりそうでしたし、ミル・キハとカローザの軍に異変が伝わると動きが変わってしまうかも知れないので、ポーラの眷属に三つの軍の監視を頼んで、自分は少し外れた山の中で仮眠しておきました。どうせ明日も忙しくなりそうでしたし、止まったり話してたりする間に疲れは出てきたりするので。
翌朝、早い時間から、ミル・キハとカローザの軍勢はぶつかり合い始めたようですが、ぼくはゆっくりと差し入れの朝食を食べながら高見の見物を決めていました。開始二時間後くらいまで、双方五分の戦いが展開していましたが、両軍の東、およそ1時間ほどの距離にまで、ソルティック選定侯の軍が接近していたので、ぼくが動き出す時が来たようです。
さて、どうしようかなと、しばし考えてみました。
全ての軍勢を壊滅させる。まあ出来るでしょうけど、たぶん神様から赤点をもらいそうです。何も考えて無さ過ぎで、面白くないと。
ソルティック選定侯の兵は、ミル・キハとカローザの軍勢を合わせたくらいはいますので、今から戦闘を止めて共闘しようとしても、防ぎ切れなそうです。どこかが独り勝ちするのが、後々の展開を考えると一番面倒臭くなりそうです。
なので、単純に考えて、三者が三者とも動けなくするのが、それぞれの枷となり、今後の展開に幅を持たせる感じになって、かつ面白そうだったので、実行する事にしました。
最初に、三つの軍勢の司令官の位置をサーチして把握しておきます。次に、それぞれの輜重部隊、補給物資を運んでる兵士達の所在を確認したら、ぼくが撹乱した後に、全部没収してもらいます。
腹が減っては戦は出来ぬ、ってね。まあソルティックの軍からは武器も没収してもらいますが。
マッキーからポーラにも話を通してもらい、30分くらいかけて下準備を終えた頃には、カローザの軍勢が攻勢を強めました。おそらくですが、ソルティックの軍と密約でも結んでいるのかも知れません。
それなりに接近してきたソルティックの軍をミル・キハでも認識したのか、動揺して浮き足立ち始めたようです。陣形を変えようとしても、敵とぶつかってる最中ですので、うまくいってるようには見えません。
介入というか乱入して、怨?恩?どっちかを売るなら今がベストというタイミングで、先ずはソルティックの軍勢の先鋒の鼻先に、大岩を投げ込みました。轟音と衝撃波は、全ての軍の末端にまで届いた事でしょう。
それからさらに、衝撃波は浴びせるけれども、せいぜい吹き飛ばされてしばらく動けなくなる程度の速度と高度で、三つの軍勢の上空を駆け回りました。
全ての戦闘行動が止まったら、瞬足スキルを起動。それぞれの軍から指揮官級の存在をごぼう抜きで拉致していきます。あまり多すぎても運ぶのが面倒になるので、それぞれの軍から十人未満に抑えておきましたが、鑑定メガネで名前や素性も確認してあるので、それなりの豊作は保証されてます。
通りすがりのお駄賃と保険として、まだ元気とやる気に満ち溢れて戦闘を継続しそうな、その他現場指揮官の皆さんの武器も奪っておきました。その中で、ミル・キハのワルギリィさんも見つけたので、適当に書いた手紙をその胸の谷間、ではなく、鎧の首元の隙間に挟み込んでおきました。
瞬足スキルがタイムアップしたら、ポーラの眷属の出番です。
輜重部隊を襲い、戦闘継続に必要な物資を根こそぎ奪った後に、ソルティック軍の兵士から武器を没収していってもらいました。
抵抗する気概を見せた集団には追加で衝撃波を強めにプレゼントしていったので、指揮官不在、武器も食料も失ったソルティック軍は立ち往生しました。
彼らの行手に追加で幾つか大石を落としたたら、退却して行ってくれました。ちなみに、ドースデン帝国皇帝からの司令書は、北方面軍の司令部の人から、ソルティック選定侯の屋敷にまで届けるよう依頼してありました。ぼくが持っていくよりは説得力あるでしょうから。
ソルティックの軍勢が退却していった後、ミル・キハとカローザの軍は戦闘を止めたまま互いの距離を空け、負傷者を回収している最中に、最高指揮官達がいなくなり、補給物資も消えてしまっている事に気付いたようです。
空から戦場全体に話しかけられるスキルみたいのがあれば良かったかも知れませんが、ぼくのメッセージは明確に伝わったみたいなので十分でしょう。
さて、問題は指揮官たちをどうするかです。
面倒臭かったので、ミル・キハとカローザのは、それぞれの軍勢の後方10kmくらいの位置に、10mくらいの高さから振りまいておきました。首や腰の骨とかに致命傷は負わないように。でも、足を挫いたり、どこかの骨の一本か二本くらいは折って、すぐには戦闘できないくらいの怪我はするように。
それぞれの軍勢が後退してきてくれれば拾って治療もしてもらえるでしょう。たぶん。
問題は、それぞれの軍の総司令官的なポジションの計三名です。
ミル・キハ公国の第二公子、レーゲダット・オル・ミル・キハ。
カローザ王国の第一王子、エリック・モンターナ・カローザ。
ソルティック選定侯の甥、次代の選定侯らしい、ザイナ・ターテ・ソルティック。
みんな貴公子と言って良い外見なんだけど、それぞれ違ってて。
レーゲダットが二十代前半くらい? 背は三人の中では一番高いけど、ヒョロ長い感じの、優男というか、あまり戦場には向いてなさそうな外見の人。重そうな鎧も身につけて無かったし。
エリックは、三十代半ばくらい?背は三人の中では二番目に高くて、体つきもそれなりに鍛えてる感じ。先端がくるっと巻いてる長い口髭がチャームポイント?らしくて、縛られてる間もそこを頻繁に気にしてました。ただし、マッキーやドロヌーブ達曰く、エリックは剣も魔法も相当な達人レベルらしいので、油断しないよう、くどいほど警告受けてました。まあこいつはイドルに酷い事した当人なので、どう償わせるのが良いのか、考えないといけません。
ザイナは、二十歳くらい?背は三人の中で一番低いけど、体付きは一番逞しくて、髪や髭ももじゃもじゃ系。あと、瞳がギラついてて怖かったです。
まあ、ぼくがイドルを攫った(取り戻した)という情報はミル・キハからカローザにも伝わってるようなので、レーゲダットやエリックからの視線や罵倒も酷いものだったけれど。
さて。
大河の中程に放り込む程度だと生温いか。人の生存圏から隔絶した山脈のどこかに置き去りにしてみるのも一興なのだけど、この三人、どうしようかな?
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