間章3:ドースデン南方面軍従軍兵士の一コマ
オラの名前はデロイト。デモント選定侯領の農村で小作農やってただが、年々土地枯れが酷くなってなぁ。今じゃ村の畑の四割以上が何も育たなくなっちまって、残りの一割も実るのは半分くらいになっちまっただ。
これじゃ暮らしていけねぇって、領主様にも訴えてただが、税もあんまし減らしてくれねえもんだから、他領にどんどん人が逃げちまってただ。
オラは三男だから土地も継げねぇし、西岸諸国のまだまだ農地がたくさん生きてるらしい、マーシナ王国ってとこに土地さ奪いに行くって、オラと似たような境遇の連中がたくさん集められて、あちこちに送られただ。
ろくな訓練もせず、鎧も盾も無し。武器は木の棒に鉄の穂先がついた槍が支給されただけ。進軍中の一日二回の食事も、粗末な麦粥が支給されるだけで、たまあに狩れた動物の肉の欠片が一つか二つ混じるかどうかくらいだっただ。
北から南西の方に行くに連れて、道中で見る枯れた土地の割合は減ってくように見えただ。デモントの生臭坊主どもが言う、神の教えに従わねぇのが土地が枯れる理由なら、逆でねぇとおかしくねぇが?
それでもなんとか、大河の方へ、対岸にラグランデちゅう大きな港町がある地域に差し掛かった頃だっただ。
空から、どごおおおおおおんてな音が轟いたら、みんなびっくりこいて怯えたり立ちすくんだりその場にしゃがんで頭抱えたりしただ。
なんでかって?
オラ達よりも前に、職にあぶれた傭兵連中がかき集められて、マーシナに送られたんだが、たった一日で全員殺されちまって、その時にも空で何度も轟く音があちこちで響いたらしいだ。
そんで殺された死体はみーんな影に引き摺り込まれちまったから、だあーれも帰ってこなかったってな噂があちこちで立ってたもんだから、みんな自分らも襲われっちまうんじゃねえかとビビってただ。
お貴族様達は、みんな落ちづけって怒鳴り声上げてたけんど、怖いもんは怖いべな。でも相手は一日に数百里を軽々と駆けるとかって噂もあって、逃げても無駄だべなと思って空を見上げたら、誰かが駆け降りてきただ。
先頭にいるのは奇天烈な格好した黒髪の少年?
輪っかにした縄の内側に貴族様が二人続いてて、軍の指揮執ってた別のお貴族様に手紙を渡して、話し合いになって、ナンプ選定侯の領都の港町にまでは行くけんど、マーシナ王国攻めるって話は一旦無くなったらしいだ。
んじゃ食糧どうすっだ?
土地はどうすんだ?
そんな声があちこちから上がって、オラも、んだんだー!っつて
オラだって嘘こくなって思ったべ。
だけんど、この国で一番お偉い皇帝陛下と選定侯の三人が、お城の食糧庫二つを満杯にしてくれたのを確認して、さらにこれから食べ物をオラ達に振る舞ってくれるらしいだ。
港町で、大物を解体する時に使う場所で、なんだかエレぇ長くて太い何かをぶつぶつに切っていって、さらに細かく切って、そいつらをどんどん油で揚げていっただ。
それを好きなだけ食えって振る舞われただから、最初はみんな怖がってたけんど、お貴族様から食べ始めて平気そうだったから、みんな我先にと群がったんだべ。オラも食べてみたけど、川魚とかとも全然違って、サクサクふわふわしてあっさりしてて、いくらでも食べられそうだったっぺ。
その夜は好きなだけ食べて、明日また揚げられて、何日かは保つっていうから、途中の糧食にされる事になっただ。
あの少年は、一緒に駆け降りてきてたもう一人のお貴族様と、また空を駆けて北の方へと行っちまっただ。
あんなのがガルソナから送られた傭兵を全員やっつけたとか冗談にしか聞こえねえだろ?でも、あの百メートルはあるタコだかの腕を、あと四十本だか持ってるらしいだ。それを一人だけで狩ってきたっつうから、もう疑うだけ無駄だんべ。
これからどうなるかはわがんねぇけんど、人殺しに行かずに済んだのは良かったべ。しばらくは食べ物にも恵まれることになっだし、心配するのは腹が減って食べ物が無くなってからにすることにしただ。
まあでも村のみんなは、あのタコの腕の長さとか、黒髪黒目の少年の話とか、信じてくれねぇだベなぁ。
ま、仕方ねっが!
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