ランニング25:根回しからの、キゥオラ王都への帰還

 さて。身内で相談してから、昨晩も泊めてもらったイドルの旧友令嬢の実家クレーナル侯爵家に移動してこれからの動きを伝えました。

 マーシナとカローザの前線の様子を見てくると言ったら、そこに集結してる軍勢の指揮官に見せるといいと、その旧友の父親、つまり侯爵家当主が手紙をしたためるだけでなく、マーシナの軍関係者に少しは名を知られているらしいご老人を一人つけてくれる事になりました。

 現当主よりも顔が広いという前当主で、ぼくやポーラが防衛戦で何をどうしたかという生き証人がいた方が良いだろうと。老人の戯言と言われない為に現役の武官の人も一人つけられる事になりましたが、お二人はマーシナの前線基地で下車予定です。


 翌朝。列車ごっこの注意点をお二人に伝えたら、早速出発!

 レベル60で得たサブスキルのサーチを起動して、ワールドマップ上で、マーシナのカローザ国境近くにある要塞の位置を確認。方角は、ほぼ真北。距離は、560kmくらい。

 先ずは現在のレベル61上限高度610メートルの上空まで超加速で到達。1秒だけで約2km。列車ごっこ初体験の乗客二人が賑やかですが、気にせず目的の方角を見つめたら、ショートワープを起動!

 これで一気に93.5km短縮だぜ!と思ったら、61+2kmで63kmほどしか減ってませんでした。


 もしかしてとステータス画面のショートワープの説明文を読み直したら、一度の移動上限距離は、レベル数x kmまででした。つまり、レベル61なら61kmまで!


 1万キロの旅程の計算もやり直さないといけませんが、空の上では無理です。ま、まあ、一秒とちょっとで63km移動した訳で、出発直後で500kmを切りました。

 少し恥ずかしかったけれど、自分の計算違いを走りながら申告しておきました。まあ、話のネタとして笑い飛ばして貰えば儲け物くらいに思っておきましょう!


 超加速は終わった直後は移動不能。つまり空中にいれば自由落下する訳で、一度に一秒ずつ、端数が残るのはレベルアップへのラストスパート時に使い切る感じで回していきました。

 空の旅は邪魔が入る事も無く、一時間にレベル数のほぼ倍の距離を移動していく訳で、122km、124km、126km、128kmと、レベル65に上がった直後のショートワープを使ったら、目的の城塞近辺の上空に到達しました。超加速で1レベル上がる時間が13分ほど短縮されてるので、わずか3時間ちょっとしかかかってません。


 まあ、最後ショートワープで城塞上空にいきなり怪しい人影が現れたせいか、何やら騒ぎは起きてましたが、一応城塞の正門(マーシナ側)に向かいました。

 壁とか乗り越えて上空から入るのは侵入者と間違えられて戦闘になってしまう恐れもあったしで。


 同行してもらってた、マーシナ王国南部のガルソナ騎士侯国との国境沿いにあるクレーナル侯爵前当主と、守備隊の副隊長の一人を前に立ってもらい、自分とポーラとイドルは姿も顔も隠した状態で後ろに従い、貴族用の門に並びました。


 お爺さんは、門番の兵士に堂々と近付くと名乗りました。

「クレーナル侯爵家前頭主ワーガマである。最優先でここの司令官に取り次げ。おおよそ、キスケーナ公爵その人が詰めている筈だろう。クレーナル侯爵家現当主からの書状も預かっておる」


 門番の平兵士では相手にならず、下級貴族らしい責任者が出てきて顔を青くして取り次ぎを指示。その隊長さん自らの案内で城塞内に案内されていったのですが、


「そのお連れの方々は?」

 と尋ねられても、

「キスカーナ公爵の面前で明らかにするが、今のマーシナ王国にとって最重要なお三方である。丁重におもてなしするように」

 まあ、そんな感じで押し通していきました。ぼく達三人は、あの怪しいマスクや仮面を着けたままだったんですけどね。


 10分ほどで賓客を迎えるのだろう客室に通され、上座とされる長椅子に、イドルとぼくとポーラが並んで座りました。

 いや、こういう場合はイドルが真ん中の方がと言ったけど、笑顔で流されてしまいました。


 アポ無しで正面突撃してきた訳ですが、ワーガマさんのネームバリューは軽くなかったようです。部屋に着いて10分待たずに、ドヤドヤと貴族の集団がやってきました。

 バアアンとドアが豪快に開けられて現れたのは、渋くてカッコいい貴族が老人になったらという理想像みたいな人でした。城塞のトップですから、まだまだ現役で剣とかも振り回しそうです。


「ワーガマ!久しいな!引退してる場合ではないと戦列に加わりに来たか!?それにしては供回りが寂しいようだが」

「グレアディス。元気そうなのは何よりだが、いい加減家督を息子に譲ってやれ。それはともかくだ。これでもまだ供回りが寂しいなどと言えぬぞ。予め言っておくが、三人が三人とも、このマーシナ王国にとっての最重要人物だ。くれぐれも失礼の無いよう振る舞え。三人全員に対してだ。いいな?」

「おいおい、一体どこの誰を連れてきたというのだ?」


 そしてワーガマさんはニヤリと笑ってから床に跪き、副隊長も続くと、イドルが仮面を外しローブのフードもゆっくりと外して、部屋に入ってきたグレアディスさん他に声をかけました。


「イドルです。皆には心配をかけてしまい申し訳ありませんでした。しかしここにおられるカケル様とポーラ姫様に私は助けられました。その後すぐにマーシナとガルソナの国境沿いで展開していたガルソナから送り込まれた略奪兵たちを撃滅もして下さいました。

 マーシナ王国にとって、これ以上無い賓客です。失礼はこの私が許しませんので、重々承知するように」


 まるで、あの、往年の時代劇で印籠を掲げるおじいちゃん、いや掲げるのはお供の人か。そんな場面ぽく、部屋に入ってきた貴族の人達がイドルに向けて跪きました。

 そしてポーラが仮面とフードを外したので、ぼくも倣いましたが、キゥオラの忌み、まで誰かの呟きが聞こえた途端、


「無礼者!今口走った者の首をねよ!」


 イドルが激昂して命じました。

 多分、口にしてしまった誰かは真っ青になって震えてましたが、グレアディスさんが擁護しようとしました。


「イドル姫様。発言をお許し頂けますか?」

「発言は許しますが、無礼はあなたとて許しません。いいですね」

「心得ましてございます。何度もワーガマから、そしてイドル姫様からも注意を受けていたにも関わらず失態を晒した者は、確かに処罰されるべきでございます。

 しかしながら、これからカローザやガルソナを相手にどれほどの犠牲が出るかわからぬ戦が待ち受けている中、この者とその家とに不遇と思われる刑を処すのであれば、それなりの理由を説明していただきたく」

「では、グレディアスのみ私の前に座るように。他の者はそのまま謹聴なさい。聞き終わるまで質問は許しません。

 先ずはワーガマ、グルカンス。僅か数日前に起きた事を語りなさい」

「それでは私めから」


 ワーガマさんは、領都が囲まれるまでと攻囲戦が始まってからを淡々と語り、グルカンスさんは城壁の上から見た事、起きた事を最前線の兵士目線で語ってくれました。けれど、目撃者の証言付きでも疑われるのはもう仕方ないね。

 という事で、ポーラがアンデッドにして眷属化したガルソナの元傭兵隊長やら貴族やらも影の中から呼び出して証言に加える事で、更に信憑性は増したものの、ぼくとポーラを見る目には明らかな怯えが加わりました。


 そういった一連の話の後に、イドルが、キゥオラでの婚儀の場でカローザに攫われ、さらにミル・キハに奪取され、ぼくに助けられるまでの悲惨な日々を切々と語りました。ダイジェスト版ではあったものの、カローザ許すまじ!というような呟きがあちこちから漏れてました。

 助けられてからのぼくやポーラの活躍は、それはもう盛大に盛りに盛ったような感じでしたが、先にワーガマさん達に語らせた内容の範疇からはギリギリ逸脱してない感じで収まってました。

 続いてポーラが、やはりキゥオラ王都で起きたクーデターで追われる身となってから、アミアンの地やイルキハ王都でぼくらがやった事を華々しく語ってくれたものだから、一部の貴族さんたちがぼくを見る目がとても怖かったです。こいつ以上の危険人物がいるのだろうか、と疑う目付きで。

 ポーラとセットで2倍ヤバいって感じですね!

 さっき失言しちゃった貴族さん(若めな美男な人)もガタガタと震え出して、気絶寸前て感じで。殺されてもアンデッド眷属にすれば戦力は減らないよね?と気付いてしまったのでしょう。


 グレアディスさんもそちらをチラリと見てから、イドル、いえ、ぼくとポーラに向けて頭を下げて感謝と嘆願の言葉を口にしました。


「カケル殿。そしてポーラ姫様。イドル姫を救出して頂いたばかりか、カローザ相手の戦に備える最中に側背を突かれる事になった窮地をお救い頂いた事、感謝の念に堪えません。

 まさに国難を救った英雄と讃えられるべき行いでしょう。

 そんなお二人にさらにお願いすることは心苦しいのですが、先ほどの者も軽率な発言を悔いている様です。どうか、減刑をお願い出来ませぬでしょうか?」

「私は構わないわ。繰り返されないのなら。カケルは?」


 ポーラが、何か言おうとしたイドルの機先を制して言ってくれたので、当然、ぼくも乗っかっておきました。


「もちろん、構わないよ。これからも大変な時はしばらく続くだろうからね。この城塞にいる人達にも頑張ってもらわないと」


 グレアディスさんがイドルに視線を向けると、イドルは仕方ありませんね、という感じで肩を竦めると、


「二度目の慈悲はありませんから、お二人の温情に感謝する様に」


 とまあ、あれ、これってイドルがわざとアドリブで仕組んだ?、って気付かされました。もちろんこの場では口にしませんでしたけど。当事者の誰かさんは安堵で気を失ってしまったらしく、静かに室外へと運び出されて行きました。


 それからは、神様からの云々てのは置いておいて、東岸地域やラグランデの視察レポートも伝えて、かなり活発な議論になりかけましたが、これから先も急ぐ必要があるということで、昼食を一緒にしたら、三人に戻って出発です。ワーガマさんは友人としばし語らうとか言って残るそうですが、副官さんは陸路で戻っていくそうです。送ってあげられなくてすみませんと言ったら、被害にあった地域の視察などを兼ねているから無駄にはならないとお詫びは固辞されました。


 それからは、一応キゥオラのカローザ国境沿い大領主の一人に情報を伝えた後、キゥオラ王都へと凱旋?です。

 キゥオラ東部の大領主に挨拶した時点でレベルは67に。キゥオラ王都に着いた時には69に上がっていました。



 少し懐かしさを覚えたりもしましたが、街はもうすっかりと落ち着いた佇まいを取り戻していました。ポーラの場合は、直接両親のところに会いに行った方が早いだろうと、ちょうど玉座の間でお仕事中だったので、そこにお邪魔する事にしました。


 キゥオラ王城の上空から玉座の間の大窓の一つのすぐ外にまで近付くと、なんか物凄くお取り込み中な様子。拘束された若者が跪き、王様に対して申し開きをしていました。


「タミル兄様・・・」


 ポーラの一言で若者が誰かは判明しました。今がどんな場面なのかも。


「どうする?出直す?」

「いいえ。ちょうど良い機会だし、割って入りましょ」

「んじゃ、入るよ」


 みんなで手を繋いだ状態で、謁見の間の内部へと、王様とタミルの中間位置へとシフトで移動しました。


「何者!」


 と誰何してくる声も上がりましたが、すぐに静まりました。

 今日のぼく達は、顔も姿も隠して無かったからです。


「しばらくぶりです、お父様、お母様、ご無事なようで何より。そしてタミル兄様も。これからどうなるかはわかりませんが」

「ポーラ! くそっ、お前さえ抑えられていれば!」


 拘束されているタミルが暴れ出そうとしましたが、両脇を兵士に固められてるので、無駄な足掻きでした。


「ポーラ。久しいな。お前にはだいぶ世話になったようだ。そして、そこにおられるのは、イドル姫か?」

「はい。婚儀の場でカローザの者に引き渡され、連れ去られた後、辛苦の日々を味わいましたが、カケル様と、それからポーラ姫に救い出して頂きました。その後も、マーシナ王国に侵入していたガルソナが放った略奪の傭兵などを撃滅して、国難から救って頂きました」


 イドルの持つ容貌と佇まいは、王女という生まれついての何か以上を兼ね備えていて、彼女の名と人物を疑う人は誰もいませんでした。


「イドル、あなたには大変申し訳無い事を、償い切れない悲しみと苦しみとを与えてしまいました。許そうとしても許せないものでしょう。今はただ、あなたに、私と夫からも、心からのお詫びを」

「エーネルデ王妃様。そしてルスガング王様。お二人からのお詫びも償いも不要でございます。幾重もの意味で、私はポーラ姫にも、そして誰よりもカケル様に救われましたから」


 並んで立っていたイドルが、ほんの半歩、ぼくに歩み寄るだけで、謁見の間にはざわめきが満ち、タミルが罵声を浴びせて来ました。


「この悪女めが!アルクス兄だけでは飽き足らず、マルグ兄までたらし込み、カローザのエリック王子まで咥え込んだと思ったら、忌み子まで側に置くのか!どれだけ節操が、ゲフゥッ!?」


 ドロヌーブが影の中から出現し、その大斧の柄でタミルの顎を殴り倒しました。

 タミルは顎が砕かれて何も言えない状態なのを確かめた後、ドロヌーブは玉座に向かって跪き、頭を垂れて述べました。


「王よ。お久しぶりでございます。一度死んだ我が身でございますが、またご無事な姿を見れた事を幸いに思います」

「ドロヌーブよ。王都の騒動がそちらにも迷惑をかけてしまった様ですまなかったな」

「私どもアミアンの一族も、イルキハに扇動された盗賊団に領都を落とされかけ、私もその首領に倒されてしまったところを、カケル様とポーラ姫様にお救い頂きました。

 それだけでなく、アミアンの地を我が物にせんと侵入してきていたイルキハ一千の兵を、カケル様ただお一人で撃退せしめたのでございます」

「アミアンの地やイルキハ王都で起きた事は、イ・フィー元女王から話を聞いておる。カケル殿ただ一人で、イルキハ王都と王城の守りを崩し、ミル・キハの高名な術師と剣士をも打ち倒したと」


 謁見の間のざわめきが一段と大きくなり、ぼくはもうたまらなくなって訂正させてもらいました。


「いえ、あの、ポーラもイドルもドロヌーブも、ぼくを盛り立て過ぎです。アミアンの領都の時も、イルキハの一千の兵を撃退する時も、イルキハ王都での攻防でも、ポーラやその眷属の助けが無ければ厳しいものがありました。今はイルキハの新たな女王となったリーディアにも助けられましたし」

「カケル殿。其方がいなければ、ポーラは王都より脱出する事も難しかったと聞く。もし脱出出来ていなかったとすれば、その後の状況は今のようになっていたかどうかわからない。何より、娘の命を救われて嬉しくない親がいようものか。イドル姫とを合わせて、最大限の感謝を」


 王様と王妃様が揃って頭を下げて来たので、ぼくはパニックに陥りかけましたが、ポーラが軽く背中を叩いて声をかけてくれたので落ち着けました。

 しゃんとしなさい、これからもっと大切な話をするのだから、と。

 確かにそうでした。

 自分も、どういたしまして、という感じで王様と王妃様に頭を下げたところで、お二人も頭を上げてくれたので、ポーラがこの場の話を進めました。


「それで、ここで何をしていたのかだいたい分かったけど、お父様達はタミル兄様をどうするつもりだったの?」


 王様と王妃様はチラリと互いに視線を交わしてから、王様がポーラに答えました。


「国法では、国王に叛逆した者は基本的に死刑だ。王族を手にかけた者もな。国体を転覆せしめんとした者は族滅とされた事もある。ただし王族同士の争いは度々起こるものでな。温情をかけられ終身刑とされた事もあった。

 だが、今回の裁きとしては、ポーラ、そしてイドル姫に裁量を決めてもらおうと思うが、どうだろう?」


「イドル姉、どうします?」

「アルクスを殺し、私をカローザへと引き渡したのはマルグだったし、そのマルグはタミルによって殺されてしまっています。その意味で私は直接裁量を決める立場には無いかも知れませんが、マルグとその妻を殺したタミルが即座に私をカローザから取り戻そうとする事も、選択肢としてはあり得た筈です。ミル・キハやイルキハとの密約でそう動かないことが決められていた為とは思いますが、その意味では、私が味わった艱難辛苦の幾らかはタミルにも責が有るとも言えると思います」


 イドルから視線と発言順を受け取ったポーラは、顎を砕かれて床でもがいてるタミルの側へと歩み寄って声をかけました。


「タミル兄。私ね。イルキハ王家を裁き、イドル姉をミル・キハから救い出した時に、神子とも称される預言者のアガラさんに出会って、訊いてみたんだ。

 私がカケルに出会って救われて無かったら、どういう将来が待っていたのか。タミル兄が私をどう扱うつもりだったのか。

 タミル兄は、私を隷属させて、忌み子として使い倒すつもりだったんだよね?たくさん殺させて、たくさん眷属を作らせて、タミル兄に従わない貴族なんかも全部殺していくつもりだった。アミアン領もまかり間違えば、領主一族はみんな殺されて、イルキハから来た貴族が治める事になっていたしね。そんな事がキゥオラ中で起きようとしていた」


 ドロヌーブだけでなく、謁見の間にいた他の貴族達からも、厳しい眼差しがタミルに向けられました。

 そうしてようやく、自分に待ち受けている未来が垣間見えたのか、タミルは、違う、そうじゃない!そんなつもりは無かった!という感じの言葉を言おうとしました。

 でも顎が砕かれてるから、意味不明なアウワウワウみたいな言葉の連なりにしかならなかったけど。


「あなたの言い訳なんていらない。イドル姉に対する暴言も許せるものじゃ無かったし、カケルに対する誹謗はもっと許せない。

 だけど、あなたを一番許せない立場にいるのは、たぶん、族滅されかけて自身も殺されてしまったアミアン一族の前当主であるドロヌーブよ。タミルの首を刎ね、領都ポーヴェに晒しなさい。それで故郷を荒らされた領民達の溜飲が少しでも下がれば良いのだけど」

「御意。お心遣い、感謝致します」


 もうほんの少しでも早く着ければ、ドロヌーブは死なずに済んでいたかも知れません。それでも、あの時は急いでもあれが最速でした。レベルも上げておかないといけなかったし、それはその後で決定的な違いにもつながったし。


 ドロヌーブは、王と王妃にも一礼し、二人にも頷かれたので、踵を返して、タミルの傍に立つと、彼を拘束していた兵士達が、その体を床に押さえつけました。それでも死に物狂いで暴れたので、下手に大斧を振るえば兵士さん達も危ない場面で、タミルの体の下の影から伸びてきたいくつもの手が、タミルの体を床にがっちりと固定しました。


 ドロヌーブが手を振ると兵士さん達は離れ、大斧は静かに振り上げられ、ヒュッ、と振り下ろされて、タミルの首は切り落とされ、首から上を失った死体と共に影の中へと沈んでいって見えなくなりました。


 流石に重くなった雰囲気を前に、ポーラが言いました。


「お父様。イルキハやミル・キハ、マーシナや、ガルソナのラグランデなどで見聞きしてきた事などをお伝えしておく必要がございます。イドル姫も、この後カケルにマーシナまで送り届けてもらわないといけませんので、お父様とお母様と宰相と、私達だけでお話できませんか?」

「わかった。皆の者、叛逆を企てた我が子タミルは裁かれた。この場で見聞きした事を、決して忘れるでないぞ」


 そしてお貴族様達が一斉に跪くと、側にいた宰相と思しき人に部屋の準備を頼み、謁見の間から王妃様と退出していきました。


 ポーラも宰相とは顔見知りらしく(当たり前か)、部屋で待ってるから、準備が出来たら呼んで、と声をかけ、頭を下げられたので、ぼくとイドルも、王様達が退出して行ったのと同じところから退出し、ポーラの自室へと向かったのでした。

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