ランニング22:第四チェックポイント通過と、マーシナ電撃戦
いつもの真っ暗な空間で、白球電灯ぽい神様は言いました。
「お疲れ様。無事に助け出せたようで何より。さて、ここからどうしたい?」
「どうって、マーシナにイドル姫を送り届けて、それからどうするか決めようかと思ってました」
「他に何か、起きてるんですか?」
「カローザ王国は、イドル姫を奪還せんと、ミル・キハ侵攻の準備を進めてるよ。当然、マーシナに対しても備えつつね。
その南にあるガルソナ騎士侯国は、マーシナ王国を牽制する為もあって、ならず者達というには戦の経験があり過ぎる元傭兵達を密入国させて、マーシナ国内を荒らさせてる。
カケルの故郷の言葉で言い換えるなら青田刈りかな。収穫前の穀物を奪い取って、戦争の兵糧にしたり、ドースデンに高値で売って軍資金にするつもりなのだろうね」
「つまり、彼らを蹴散らせと?」
「先にイドル姫を帰してからにするかどうかは彼女と話し合って決めたらいいよ」
「なんかもうその話し合いの結果が見えてるのは置いといて、アミアンの領都みたいにピンチに陥ってるところはあるんですか?」
「小さい農村とかも狙われてるから、マーシナ兵も手が回り切ってないようだね」
「もしかして、皆殺しにされてたり・・・?」
「そういうケースもあるだろうね」
「・・・分かりました。イドル姫と話し合ってみます」
そんな訳で、今回のチェックポイントはあっさりと抜けて、いったん地表に降りて休憩がてらのお話し合いです。
先ずは、情報連携と、秘匿のお願いからですね。
「・・・という訳で、自分は異世界から呼ばれて、神様からの試練というほどじゃないけど、いろいろとやってきたというかで。
その直近のでイドル姫を助け出してきた訳です。神様から先程教えてもらったのですが、ガルソナ騎士侯国から密入国してきた連中にマーシナの農村とかが襲われてるそうです」
「そちらを優先しましょう。どうせ、私が帰国というか里帰りしても、修道院かどこかに引きこもって余生を過ごすくらいの予定しか無いのですから」
「でも、これから巡るのは、戦場というか、人がたくさん殺されてたりもする場所ですよ?」
「あら、カケル様が一緒にいて危ない事なんてあるんですか?ポーラ姫も一緒なのですから、雑兵など相手にならないのでは?」
「まあ、そうかもだけど」
「この際だから、眷属を大幅増員して、ガルソナに逆襲しておいても良いかも」
「そんなことが出来るの?」
「イルキハの地で一千近く眷属を増やせたから。それにカケルがいれば、どんな砦や城でもそう時間をかけずに瓦礫の山に出来るし」
「はあ、改めて、とんでもないお方ですよね」
分かってます。ここで鼻を高くして自惚れちゃいけない事くらいは。
「まあ、神様のユニークスキルがすごいって事にしておいて下さい。それじゃ、ここから南下していけばいいのかな?」
「おおよそ、そうですね。ガルソナとマーシナの国境線は南北に伸びてますから」
「了解です。そしたら、近いところからガルソナの兵を潰していくって事で」
そう決めたら、これまでよりだいぶ広い広域マップが視野内に表示されました。
黄緑がマーシナの民、緑がマーシナの兵。薄いオレンジがガルソナの傭兵、濃いオレンジがガルソナの正規兵のようです。
ざっと見た感じ、とても広い区域に渡って、少ないので十人未満、中くらいので数十人、多いので百人以上の集団がバラバラに展開、侵入して、あちこちで緑や黄緑のカーソルを灰色にして行ってました。
深夜なのに、いや深夜だからこそ、なのかな。
一番近い北端の集団まで450kmくらい。
状況を伝えたら、みんな顔つきが変わりました。アガラさんはあまり変わらなかったけど、目つきがキリッとした感じ。
なるべく急いで南下していくと、だんだんと東の空が白み始めてきました。時折ソニックブームの爆音を響かせるのもお約束です。横断してるキゥオラの皆様の安眠妨害すみませんなのですが、将来の安全を確保する為でもあるので我慢して下さい。
足掛け五時間ほど駆けて、レベルは49に上がった頃に、最北端の現地着。そこからはほぼ電撃戦でした。
野営地とかで寝静まっているなら、魔毒で一斉にポーラが毒殺してすぐに眷属化して影に収納。それが占拠された村とかなら、イドル姫が生き残りに慰撫の声をかけ、それからポーラ姫とぼくの名前を広めるようにと仰せつけてました。なんでも、これからの動きで必要になってくると言い張ったので、スルーしておく事にしました。
朝早くから襲撃してるような連中は、ポーラの眷属が影から不意打ちしたりして、やはり眷属化から収納のコンボ。奪われた物資とかは返却し、やはりイドル姫の声掛けは継続されていきました。
何か、選挙カーのうぐいす嬢みたいな感じで、名前を連呼されてる身としては気恥ずかしかったです。
北から、五、六箇所くらいの襲撃部隊を潰した後、ちょっとした町が襲われてるのを助けました。襲ってきてるのは200くらいの傭兵達で、守備側が劣勢でしたが、ポーラや眷属の活躍であっという間に形勢は逆転。
イドル姫は、そこの領主のなんとか男爵って貴族に、自分がカローザからミル・キハに囚われの身となったが、
現地のお貴族様としては、姫自らが前線に赴くなどとんでもないと引き留めようとしましたが、構ってられません。
イドル姫からも急き立てられて、次から次へと襲撃現場や、移動途中や休憩中のガルソナ傭兵達を襲い、死体から眷属コンボを重ねていきました。
いくつかの村や街で貴族や指揮官や村長や町長が生き残ってたりした場合は、イドル姫がまた伝言を重ねて依頼していき、一体何頭の早馬が立てられる事になるんだろう?と思ったりもしたけど、気にしても仕方ないね!
この掃討戦では、自分はほぼポーラ達の運搬役に徹し、せいぜいが少し大きな集団の上空を音速(レベル50に達した今ではマッハ4を超えました!)で通過してソニックブームを浴びせて制圧を容易にしたりとか。
それからまた三時間ほど南下して行った辺りで、大きめな街というか小さめな都市の周囲で、幾つもの大きめなガルソナの傭兵集団が暴れ回ってる地域にさしかかりました。
おりしもというか、レベル50を越えて、新たに得たサブスキルの使い道が微妙というか少し難しいというか。
いや強い事は強いんだけど、明確にやり過ぎちゃうだろうなって分かるというか。
なので新スキルの検証は後回し。
さっきの小都市を中心に半径10kmほどの範囲で十近くの集団が暴れてたので、それらの上空から時速数百kmで飛ぶただの小石をばら撒いて手傷を負わせたら、ポーラが彼らの影から眷属達に奇襲をかけさせるというコンボで一気に制圧していきました。
おそらくは小都市攻略部隊の司令塔がいるガルソナ正規兵の部隊は、外側からハーボやドロヌーブ達に牽制させた後、自分が敵上空から空襲。注意力を散逸させた後、足下の影からアンデッド眷属の奇襲コンボが決まり、二百人以上いた部隊は一人残らず討ち取り、指揮官らしき貴族とその集団はポーラが魔毒で殺して、すぐさま眷属化。
ルエルという指揮官にその場で事情聴取すると、マーシナの力を削り、農作物を奪い、兵糧や軍資金にする為に攻め入ったとの事でした。神様から聞いた通りですね。
また、傭兵達の多くは東岸諸国の戦乱で働いていたけど、ドースデンの統一で働き口が無くなってしまっていたところに、ガルソナが彼らに声をかけ、略奪成果報酬という形で雇用し投入していたとのことでした。
まだまだ略奪されてる地域は多いものの、この小都市を預かる貴族にも情報は連携しておきたいというイドル姫の希望で、小都市の外で会合する事になりました。
滞在するとなると貴族的なあれこれで非常に面倒な事になると。
「イドル姫、再びお会いできて光栄の極みでございます!マッジナ・マバールです。学園で同窓でございました。あの頃よりさらにお美しく」
「マッジナ、覚えてはいますが、今は危急の時です。なぜ城壁内に篭って敵兵に暴れさせていたのですか?」
「お言葉を返すようで申し訳ございませんが、周辺の村落などからの避難民を抱え、敵兵の方が数が多かった為、周辺領主や王都に救援を求める伝令を送り、助けを待っていたところでございます」
「そう。それでは追ってそれら領主や王都に伝えなさい。ガルソナから投入された傭兵や兵士は全て、カケル様とポーラ姫により残らず討ち取られ、近日中にガルソナに対しても反抗の狼煙を上げると」
「カケルとは、何者でございますか?それに、ポーラ姫とは、まさかキゥオラの忌み子でしょうか?いけませぬ、その厄がイドル姫様に及んではいけませぬ!手狭ではございますが、ぜひ我が街にご滞在頂きたく」
「無礼者。カケル様とポーラ姫様がいなければ私はミル・キハに囚われたままでした。私を助け出して頂いたのもつい昨晩の事。そこから数百里を数時間で駆け抜け、北部からガルソナの兵を虱潰しにしてきたのがお二人なのですよ」
「まさか、そんな。ミル・キハからここリーギスの地までどれほど離れていると」
「だから、その長躯を可能にするだけの力がカケル様にあるのです。ポーラ姫様は敵兵を次々に討ち取り配下に加えられました。逆襲の先兵とされる為です」
「そのようなお伽話が」
「あなたが認めたくないのであれば下がりなさい。あなたの両親をここに呼びなさい。すぐに」
それでも何とかイドル姫に食い下がろうとしたお貴族様だったけど、ポーラが潜ませていた眷属を一斉に周囲に展開して囲むとその場にへたり込んで股間を濡らしたので、お付きの者達に引き取らせ、やがて30分も待たずに父親という貴族がやってきて同じような説明を繰り返して、やはりイドルを何とかして引き取ろうとしたけど彼女は断固として断りました。
「あなた方親子のせいで一時間近く無駄に費やしました。この失態は私自らお父様達によくよく伝えておきます。さあ、カケル様、お待たせしました。次に参りましょう」
その小都市を発ってからは、なるべく声掛けは形式的なものに済ませて問答は省く事で、何とか夕方までに最南端の地域までの掃討は終えました。
マーシナ最南端のガルソナ国境沿いにある都市では、まとまった兵数による攻囲戦まで行われていたので、自分のレベル50(今は54まで上がったけど)のサブスキルの試運転を兼ねてガルソナの兵集団の陣形を無茶苦茶に荒らしたり、攻城兵器を破壊したり、石つぶてをそこら中にばら撒いたり、好き放題に暴れた後は、二千以上に膨れ上がったポーラの眷属が逆包囲網を敷いて、さらに陣容を増しつつ、先ほど眷属にした指揮官よりも偉そうな貴族を隷属化したりしました。
流石に昨晩からずっと動き続けて疲れていたのもあり、この都市には貴族学園時代の女性の学友がいるということもあって、その貴族一家の邸宅に一晩お世話になりました。
まあ、ポーラとぼくのキゥオラ王都以降の活躍については、イドル姫の証言が無ければとても信じてもらえなかったでしょう。この都市を攻囲していた兵士が根こそぎ倒されて、ポーラの眷属にされてしまったのを目の前で見ていたとしても。
捕らえた敵将の尋問などを含めて、これからの行動は明日以降に相談しよう、という流れになったものの、一旦解散した後に、ポーラとぼくと三人で話したいとイドルに頼まれて、ぼくとポーラに割り当てられた部屋で話すことになりました。(ちゃんと寝室が中で分かれてるタイプですよ!)
「お疲れのところすみません。どうしても、明日以降の指針を決める前にお二人には話しておきたいことがありまして」
「二人に、というよりはカケルにではなく?私は、カケルが後から面倒事にならないよう、付き添いの形で同席させられてるだけでは?」
イドルは全く悪びれずに頷いてから、懐かしそうに言いました。
「ポーラのことは昔から妹のように思っておりました。この様に賢い妹がいれば、どれほど将来に心強いだろうと。まあ、たまにキゥオラを訪れた時にしか接する機会はありませんでしたが」
「よく覚えてますよ。アルクス兄に会いに来たのに、必ず、私にも会う機会と時間を与えてくれたことを」
「あなたは面倒臭そうにしていましたけどね」
「まだ幼かったもので。お許し下さい」
「いえ、そんなあなただからこそ、私も助けてもらえた訳で。
それでは、本題を話す前に、一言伝えておきますね」
イドルはその美貌を真剣な面持ちに変えて、そのキリリとした眼差しでぼくを見据えて言いました。
「私のこれからについて、アガラ様に相談しました。
私の将来について、修道院で神に仕える日々を過ごすだけで良いのだろうかと。それで安寧は訪れるのだろうかと。
アガラ様は、喜ばれないであろう内容でも構わないかと仰られたので、当然と答えました。そこで呈された予言では、私は一生を終えるまでに複数回、複数人との関係を強要され、望まぬ子を宿され、堕ろされ、失意の内に一生を自殺で終える事になるだろうと」
いきなりヘヴィーな話来たんだけど、と思ったら、さらに重みが増しました。
「私は、アルクス様との婚儀の場から攫われた後、カローザの第一王子エリックの虜囚となり、カローザへと連れ去られる道中で、何度も陵辱されました。
美丈夫として有名な方でもあり、複数の妻や愛人がいても、私を連れ去り第一夫人として据えるのであれば、何の不満がある?体を重ねればいずれ子も宿り其方も別れられなくなると思い上がった輩でした。
私は当然自害を試みました。何度も。それを防ぐ為という口実もあり、隷属の首輪を嵌められ、抵抗も出来なくなりました。それからはもっと無遠慮に犯されるようになり、内心殺されることだけを願う様になりましたが、ミル・キハの手勢に救出されました。
ワルギリィ様には確かにお世話にもなりましたが、第二公子のレーゲダット殿下は私に強く懸想し、何度断っても私を口説き続けました。いずれ一線を越えてきたのは間違い無いでしょう。
そんな希望の見えない日々から救い出して下さったのは、あなたです。カケル様」
そう言われて嬉しくない筈も無いのだけど、話の重さと眼差しの真剣さから、浮かれる様な余地は欠片もありませんでした。
「えーと、成り行きというか、良く言えば神様のお導き?なので、あまり気にされないで下さい」
「いいえ。あなたに外に連れ出され、夜空を駆け抜け、音の速さを越え、一度に数十里を踏み越え、風と共に空を駆ける楽しさに、胸が弾みました」
うん、物理的に弾んでたね、とは言いませんでした。
想像しただけです。列車ごっこしてる時の自分のすぐ後ろはポーラだし、視線は物理的に遮断されていたけど、あの大きさのものが、と想像するだけで、ポーラからの冷ややかな視線を感じたので、絶対に視線はイドル姫の胸元には移しませんでした。
そんな会話の合間に、なぜか冷や汗をかいてるぼくの様子をくすりと微笑んで見つめたイドル姫は、また語り始めました。
「そしてあなたは苦境に陥っていたマーシナの民を救い続けながらも、決して感謝を、崇拝を、対価を、求めようとはしませんでした」
「いや、元々のぼくの願いは好きなように走り回りたいってだけで、何も偉くないし、ぶっちゃけて言えばそのついでで助けてるだけみたいなものだし、対価は走行距離に応じたユニークスキルのサブスキルの追加で神様からもらっているようなものだから」
「そんなところが良いのですよ」
「良い、というのは?」
はあ、とポーラが呆れたようなため息を吐き、イドル姫がくすくすと笑い、先を続けました。
「だからこそ私は、あなたとポーラ姫の活躍を広めるよう、助けられた者達に言いつけました。多くの村や町で私の様に暴行を受けた女性も少なからずいました。そんな彼女たちを前に、私は王女としての自分の役割を思い出しました。
確かに、長年連れ沿うことを誓い合った婚約者を殺されました。
その後望まぬ相手に関係を強いられ、犯され、隷従させられもしました。そこから助けられた様に見えて、絶望の日々は続いていました。
だからと言って、このガルソナからの暴虐を跳ね返した後、私は引き籠り、何も見えず聞こえないふりをして日々を過ごすべきなのか、考えました。
アガラ様の予言は確たる未来と思えました。教会関係者にも貴族にも良からぬ者達はおります。そして一度修道院に入ってしまえば、そこは閉ざされた社会ともなります。醜聞を起こされても、逆に汚された名をさらに汚すのかと脅迫されれば、私の立場はさらに弱められ、予言された様な終末を迎える可能性は決して低くありません。
だから、私はアガラ様に問いました」
「な、何をでしょう?」
言わされた質問ですね。即答されました。
「カケル様と共に在れば、その暗い将来は避けられるのかと。私が私という存在のままでいられるのかと」
「あのー、お気持ち?は嬉しいかもなんですが、ぼくも、男の子です。正直、イドル姫はものすごーく綺麗だし、ぼくのいた世界であれば高嶺の花っていう絶対自分には手の届かない存在として、この後別れれば、綺麗な人だったなー、と思い出すだけで済んだでしょう。でも、ずっと一緒にいれば、惹かれないでいられる訳がありません。あなたを無理矢理にしてでも関係を持とうとした男達と違う存在でいられるか、自信が、全く、ありません」
イドル姫はそっと手を差し出して、ぼくの両手を握り込んできました。
「私は、アルクス様の妻として生涯を終えるつもりでした。他の誰も眼中に入ることはありませんでしたし、その気持ちを裏切るつもりは今の私にもありません。
しかし、喪に服す期間を空ける必要はあるだろうにせよ、再び立ち上がるきっかけを与えて下さったカケル様をお慕いする気持ちが生まれているのも事実です。
カケル様には、私は迷惑な存在でしょうか?」
「いえ、そんなことは、全く、ありません」
「良かった。ポーラ。あなたにも、許してもらえるかしら?」
「私は許すも許さないもどちらでも無い立場にいるかな。アルクス兄をマルグ兄が殺したと思ったら、そのマルグ兄までタミル兄に殺され、そんなキゥオラの政治騒動のせいで、まあ他のカローザやガルソナやミル・キハやイルキハの思惑や動向も絡んではいたけど、姉の様に思っていたイドル姉が一番辛い目に遭ってしまった。
そう考えると、お詫びする立場にしか居ないのかも。申し訳ございませんでした」
「あなたは、私に何も謝る立場には無いわ。マルグに慕われていたのもずっと前から分かっていて、何度諦めるよう諭しても、結局うまく諦めさせることは出来なかった。全てはその気持ちを利用された為に起きた一幕で、私もその咎を受けたと言えるのだから。
それに、私はあなた達に助けられた身です。
だからこそ、その一連の騒動云々を除いて、あなたの気持ちを私は問うているのです。私は、あなたにとって、邪魔な存在ですか?」
「邪魔に決まってます。私は、私が、一番先に!カケルを、好きになったんです!リーディアにだって、イドル姉にだって、カケルの気持ちを奪われたくはありません!
でも、アマリ姉様はドースデンを頼ると身を隠されたから、次代のキゥオラ王家を担う王位継承権を持つ子供は私しかいなくなった。
だから、王女としての私の立場と気持ちとを整理をつける必要がある事も承知はしてます。ただ、妥協するのが難しいだけで」
「リーディアは、イルキハの王籍から外されていたのが現王家の処刑に伴い王籍を復され、次の女王とされるのでしたね。彼女もカケルを?」
「そうですね。イルキハにとって、最も都合が良い存在である事は確かだし、カケルを使い倒そうとするなと警告しました。私も似たような立場だとは言われましたけど」
「私も似た様な立場ですね。これからもカケルは立ち止まらないでしょうし、その足跡はきっと良い方にしか向かわないと思えるもの。
でもね、だからこそ、カケル。私や、ポーラや、多分そのリーディアも、あなたを利用しようとしているだけの存在と思われるのは心苦しいの」
「そう言われても。別に、ぼくを奴隷にして使い倒そうとか言うので無い限り、ぼくに出来ることを出来る範囲でお願いされるくらいなら、あまり気にしませんけど」
「あなたが私達にしてくれた事に比べれば、私達があなたに差し出せる物事はとても少ないの。あなたは地位や財産や名誉とかを求めていないので尚更ね。ポーラだけはまあ特別な位置をある程度あなたの中に占めているとしても。
だから、聞かせて、カケル。私は、まだ、この生を諦めで閉ざしたくは無い。カケル以外の誰かと添い遂げたいとは思わない。アルクスを殺されたばかりで、他の誰かに汚されてしまった身ではあるけど、あなたを慕い、あなたと結ばれたいと思っている。
あなたには、この私の想いは、迷惑かしら?」
「そんなことは無い、けど、考えさせて下さい。ポーラとも、きちんと話し合わないといけないだろうし。
ぼくはまだ、誰かと相思相愛になるってのが想像ついていないんです。ある意味お子ちゃまなんです。物語とかを読みまくって想像してるだけで、自分がそういう立場に立って、誰かと想い想われる存在になるって、想像できてないままなんです。
ずっとベッドの上で動けない状態が何年も何年も苦痛の中続いて、ようやく死ねて苦痛から解放されたと思ったら、ここの神様に次の生と、走り回れる健康な体と特別なスキルをもらえて、走り回ってるだけの誰かなんです。
ポーラがなんとなく慕ってくれてるのも分かるけど、もう少し、時間をもらえないかな。まだ、気持ちが追いついてきてないんだ・・・」
「分かった。待つ。だけど、断るつもりなら許さないから」
「それ、ぼくに選択肢与えてなくない?待ってくれてる意味も無くなってない?」
「認めたくは無いけど、リーディアも、それからイドル姉も、女性としては、私より上な存在だと思う。多分、人格的にもね。だから、あなたが二人も選ぶと言うのは、なんとか、受け入れる。だけど、私があなたの一番なの。そう認めて。今はまだ、難しいとしても・・・」
「ぼくの伴走者としてなら、もちろん、今でもそうだよ。ただ、色恋とかはぼくに経験が無いから、どうしたら良いかわかってないだけで」
「分かった、今はそれで我慢しておく」
「うん。ごめんね」
「カケル様、私は?」
「やっぱり、そう言う関係としては待ってもらえたら、嬉しいです」
「構わないわ。私はまだマーシナ王国第一王女の身だし、婚約者を殺されたばかりだし、他にも色々あったし、マーシナ王国自体がこれから戦争を避けられそうにないし、しばらく喪に服さないといけない身でもあるし。
でも、私も、あなたを諦めないでいいのよね?」
「それは、はい。むしろ、喜んで。ぼくなんかでいいのかってのが、全く信じられないだけなので」
「そんなあなただから良いのよ。これからよろしくね、カケル」
そしてイドル姫は、ぼくを軽く抱擁して、頬にチュッとしてくれました。すぐに身を離されてしまったのだけど、ポーラはもっとぎゅっと抱きついて、反対の頬にぶちゅーと強く唇を押しつけられました。
まあ、それでもぼくには一杯一杯だったので、お二人には引き取って頂いて、ぼくはぼくに与えられた寝室に戻ってドアに鍵をかけて、ベッドに倒れ込んで、そのまま気絶するように眠りに落ちました。
な筈なんだけど、いつもの神様との空間に、ぼくと、神様だけがいました。
第五のチェックポイントみたいです。
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