ランニング21:ミル・キハ到着と、イドル姫救出
出発するにしても、誰が行くかを先ず決める必要がありました。
「私は行くわよ、当然」
「ま、ポーラはそうだね。他はどうしようか?」
「アンデッドの眷属は全員連れて行くとして」
「私は、一緒に参りたいです」
「リーディアは、確かに連れて行った方が色々保険になりそうなのは確かなんだけど」
「そうね。あなたの一族をここに呼び寄せて統治基盤を急いで固めないといけない時期だから、留守番してもらってた方が助かるかな」
それでもぼくをじっと見つめてきたリーディアに言いました。
「今回は急いで行って、助けて戻ってくるだけだと思うから、待っててもらえるかな?」
「はい。カケル様がそうおっしゃられるのであれば」
リーディアはにっこりと微笑みましたが、ポーラは逆に面白くなさそうでした。
「他は、どうしよう?」
「私めを連れて行って頂けませぬか?」
アガラさんか。悩むけど、多分それなりに顔は効くだろうし、揉め事を避ける役に立つかも?
陰謀か何かだったとしても、最悪でチェックポイントからやり直しになるだけだしね。
他は、イ・フィーとその両親などの特例を除いたアンデッドの眷属だけを連れて行く事にして、水や食料とかの物資だけ補給したら、早速出発です。
列車ごっこ、今回は三人ですが、最後尾のアガラさんが賑やかでした。
「空を駆けるとは、これまた得難い体験ですな!」
「楽しんでもらえて何よりなんだけど、そろそろ口を閉じておかないと舌を噛むかもなので気を付けて下さい」
「承知しました」
超加速、時速2312㎞なら一秒間で約642mも進めるんだよね。
で、レベル数の1/10秒使える。秒数のリセットは、日を跨ぐか、死ぬか、レベルアップするか。
レベル34の今なら、3.4秒。お城崩したりなんだかんだで半分くらい使ってたから、残りは1.4秒ちょい。
普通に走っても一日半くらいで到着可能なんだけど、なるたけ急げって話だったしね。
次のレベルまでは残り28kmくらいだったから、1時間近くかけて残り1km切るくらいまで走った後、超加速してレベルは35に。
ほぼ同様に、レベルアップへのラストスパート部分だけ超加速で潰して行く感じで、512kmあった目的地までの道程の半分近くを消化した頃には日がだんだんと傾いてきたので、一旦人気の無い森の際に降りて、食事等の休憩をする事にしました。
レベルも40に到達し、新しいサブスキルも習得したので、その内容と効果を確認しないといけません。説明書きはもう読んだのだけど、これからの旅路をかなり圧縮してくれそうな物でした。
ポーラがお花摘みに離れて行ったので、ポーラが出しておいてくれてた椅子やテーブルなんかをセットして、しばしアガラさんと雑談タイムです。
「いやはや。空をあの高速で駆け抜けるとは。馬車なら十日から二週間ほどはかかってしまう道程が、すでに半分ほど消化されてしまったとは驚きですな」
「まあ、神様から授かったユニークスキルですからね。ぼくはほんと、走れてるだけでも満足なんですが、神様はそうはいかないから」
「しかしあなたも楽しんで走れて、それが神のお喜びにもつながるのであれば、申し分無いのでは」
「自分と違って、神様が面倒見ないといけない範囲なんて、考えたくもないですからね」
「神の思慮も苦慮も神のみぞ知る、ですな」
そんな雑談してたらポーラが戻ってきて、用意してあったスープを温めてパンと頂いて食後休みを挟んだら、だんだんと暮れなずむ空を旅する時間、なのですが。再出発前に、新しく得たサブスキルについて、同行者達にも説明しておかないといけません。
レベル40になって、ステータス画面に新たに現れたサブスキルは、ショートワープでした!
ショートワープ
・自分の視界に映るどこかに次の一歩で移動する
・地平線の彼方や空の果てに移動しようとしても、直線距離はレベル数x kmまでしか移動不可。上空には、レベル数x10mの高さまでしか到達不可
・ショートワープで移動した距離は、レベル上げに必要な走行距離にはカウントされない
・一時間に一回しか使えない(一度使うと、次に使うまでに60分のクールタイムが発生する)
・クールタイムがリセットされるのは、レベルが上がるか、日を跨ぐか、死亡時、あるいはチェックポイント到達時
・注意点:次の一歩を踏み出せる状況でないと使えないので、超加速使用直後の移動不可な状態からは使用不可
超加速以上の緊急移動手段、かつ、今回みたく急いでる時のショートカット手段が用意された様です。
使い勝手を確かめるには、使ってみるしかなくて。
ポーラとアガラさんにショートワープについて説明しました。
「あのさ。新しいサブスキルのショートワープを覚えたから使ってみるけど、驚かないでね」
「試すのはいいんだけど、どんなことが起きるのかは伝えておいて」
「左様ですな。あの音速を越えるというのでも、心臓が止まるかと思いましたぞ」
「あはは。ごめんね。今度のは、視界に映ってるどこかに次の一歩で移動するって感じのものなんだ。地表からよりは、今の高度400mの方が高く見通せるから、多分限度いっぱいまで移動できると思う」
「またとんでもないスキルを」
「正に神の所業ですな」
「とりあえず今の上限高度にまで走って登ってから、ショートワープ試してみるから」
昼間よりはずっと静かな森の上をひたひたと走り続け、夜空の上へと昇り。地球にはない青と緑の二つの月以外にも、星座の模様もまるで違っているのだろうけど、幼い頃の記憶しかないので、比較できないのが惜しかったです。
今の上限高度に達したら、視野内に表示される、総走行距離と、次のチェックポイントまでの残り距離を確かめ、同行人二人にも一声かけてから、矢印が示す方角の上空へと、えいやとショートワープを起動してみました。
効果としては、起動時の一歩と、次の一歩の足元に魔法陣ぽい何かが浮かび上がるエフェクトがついて、気が付いたら視野がさっき見てた空のどこかにそのまま移動してる感じでした。
視野内の表示としては、総走行距離が、ほぼ820kmとちょびっとで変わらなかったのに対して、次のチェックポイントまでの残り距離が、258kmくらいあったのが218kmに一気に縮まってました!
「はは、左手に見える山脈を目印にしてみましたが、一瞬でかなり進まれたようですな」
「40kmきっかり。レベルが上がればまた一度に進める距離は伸びるだろうけど、これで到着までの時間をかなり巻いていけるよ」
「残りはどれくらい?」
「218とちょっとだから、普通に走り続けても5時間くらいだけど、超加速やショートワープを使えば・・・」
神様特典でいつの間にか、速度や距離とかに関する計算はそれなりに出来るようになってたので、頭の中で試算してみました。
一時間に一回ショートワープが使えるので、一度に40km稼げます。
さらに、レベル40になった事で、超加速が、40x40x2で時速3,200km。これをレベルx1 /10秒使えるので、4秒まで。一秒ずつ小分けに使う(上空で使ってると、移動不可の間は自由落下していくので、恐怖を長く味わわない為の対策です。一秒でも、聞かされてなかったアガラさんがパニックに陥りかけましたので反省しました)から、神様ギフトの計算だと、時速3,200kmで一秒起動すると、約888m進めるようです。4回使うと、約3.5kmちょっと進む計算になりますね。
つまり、ショートワープのクールタイムの間に、超加速を4回挟む事で、実質40+3.5kmくらい進むというか、レベルアップに必要な走行距離を超加速で圧縮して、ショートワープの再使用制限をクリアする事が可能です。レベル40になるまでも、1レベル上げるのに1時間ではなく55分くらいで必要な走行距離を稼げていました。
レベル40なら、55分未満でレベル41に到達し、41になったらまたショートワープ。
超加速を交えつつ進む事で、40x2、41x2、43x2、わずか3時間で246㎞!
早くないです?これ人間が生身で進んでいい速さじゃない感じですよね?
いや便利で助かってるから必要ですけど!
高度がどれだけ上がっても、速度がどれだけ上がっても、空気抵抗も摩擦も温度も、全ての科学に喧嘩売っても無事でいられるユニークスキルには感謝しかありません。超加速使用する時には自分の意識内の時間の流れはゆっくりになる特別措置もそうでしたが、ショートワープで遠距離を一気に移動する際も同様、移動先の視認と識別はくっきりばっちり確保されています。じゃないと何かに衝突死する運命しか待ってなかったでしょう。
神様、ありがとうございます!これからもよろしくお願いします!
そんな感謝を心中で捧げてから、計算結果を同行者二人に伝えました。
「・・・という訳で、たぶんあと三時間くらいで到着できそうだよ」
「出発前の、一日半という見立ては何だったのかって感じね」
「神の御技の為せる事とはいえ、気が遠くなりそうですな。超加速の際の爆音については、勘弁してもらうしかありませんが」
「安眠妨害もいいところだろうけど、とりあえず往復する今日明日くらいだろうから、我慢してもらおう」
高度限界の上空400mを走ってるから、衝撃波とかの影響は・・・、これも向きや範囲とか制御できるように練習してるので、わざと向けてない限りは、届いてない筈だしね!たぶん。
残り三時間くらいかけて、夜遅くなる前には、目的地周辺に到着しました。ミル・キハ公国の首都ではなく、馬車で一日半ほど離れた所にある貴族向けの静養地との事で、畑と森とお屋敷とその庭園が、清閑な風景を構成していました。
現地を驚かさない為に、最後の辺りは超加速を自粛して、ショートワープのクールタイムが終わってから本格的に行動を起こすことにして、アガラさん曰くミル・キハ公爵家の離宮という建物にイドル姫のカーソルは表示されていたので、一先ずはポーラの眷属による偵察が行われる事になり、その間ぼくは休養するよう言われました。
一国の当主の離宮なのだから、それなり以上な魔法的な防御も固められてるのでは?とポーラに言ってはみたものの、
「レベルが上がってるのはあなただけじゃないわ。私にも少しは任せて」
とのことなので任せました。
騒ぎが起きれば起きたで、混乱に乗じてつつきやすくなるから、その時に備えておいてと。
ポーラのアンデッド眷属化した、『無尽のハリエッタ』が魔法的な防御手段を無効化するのにも有用で、物理的な攻撃や防御手段としては、ラザロが当てられ、特に彼はこの離宮に関しても知識があるとかで潜入に重用されるとのことでした。
そうして待つ事およそ30分ほど。
ちょっと困り顔のポーラが、ハリエッタとラザロを連れて戻ってきました。
「警備が思ったよりも固かった?」
「まあ、警備なんかも厄介そうだったけど、それ以上に、その警備を施してる人が厄介でね。どこまで警戒されて準備されてるか分からなかったから、いったん相談に戻ってきたの」
「四聖の一人、ワルギリィが居て、イドル姫の身辺警護と離宮の警備を管轄してるらしい」
「その人も二つ名持ちで、なんか凄かったりするんですか?」
「『光と闇のワルギリィ』。黒髪黒目の忌み子よりさらに希少な、相反する筈の光と闇の両属性を使いこなす」
「私にとって天敵みたいな存在よ。アンデッドの眷属は下手に近付けたら即座に浄化消滅されちゃうし、彼女も闇属性魔法を使うから、影潜りや影渡りの類も気付かれやすいの。光属性魔法の警戒や結界魔法なんかもあちこちに仕掛けられてて、私にとって相性が悪過ぎる所ね」
「俺なら力押しで罠だの結界だのは破れるが、周囲への被害が尋常では無くなるだろうな」
「止めておけ、ハリエッタ。今回の目的はイドル姫の救出だ」
「うーん、そしたら、ぼくの出番?」
「それも良いですが、一つ提案しても?」
アガラさんが一通の手紙を差し出していました。
「それは、もしかしなくてもワルギリィ宛の?」
「そうです。少なくとも、彼女の関心と位置を救助対象からある程度引き離すことが出来るでしょう」
「むしろ警戒レベルを引き上げられてしまう恐れは無いの?」
「今は特別な時でしてな。ラザロ、ハリエッタ、レーケダッド殿下も離宮に滞在されていたのでは?」
「さすがだな、アガラ殿」
「あちらはまだ警戒が薄めだったから少し探りを入れてみたが、どうやらイドル姫に惚れて言い寄ってるらしい。断られてるそうだが」
「ワルギリィがいなければと呟いてもいたから、かなり邪魔にも思ってるらしい」
「カローザのエリック王子からイドル姫を救出する時にも活躍して、レーケダッド殿下に対する防壁にもなっているから、イドル姫からも信頼されているようだな」
「そこら辺をうまく突きたいわね。だからこその手紙なの?」
「そうですな。ほんの僅かな間だけでも引き離せれば、カケル殿には十分でしょう。おそらく誰も傷付ける事なく目的を果たせる筈です」
「まあ、場所さえはっきりしてれば、多分ね」
それからイドル姫の居室を確定させたり、侵入や妨害や逃走の下準備を終えるまでに一時間ほどを費やし、アガラさん自ら手紙を届けに向かいました。
「何ら魔法的な制約も受けていない私が適任でしょう。それなりに顔も名も知られておりますし、ミル・キハ公国当主の第二子を動かし、ワルギリィまで誘い込んで見せましょう」
ちなみに、手紙の内容も見せてもらいましたが、非常にシンプルでした。イルキハで一大事が起き、ラザロとハリエッタが討ち死に。アガラさんは予知で九死に一生を得て脱出に成功し、今後のミル・キハの命運を左右するイドル姫の居場所に急行してきた。
国の一大事に関わる重要事項なので、ワルギリィも呼び出して至急話し合いたい、と。
うん、嘘は書いてないね。むしろ正直に伝え過ぎかも?と心配になるくらい。
その懸念を伝えたら、ワルギリィさんは嘘を看破する魔法も使えるそうで。いや厄介だね、確かに。
アガラさんが離宮の正門から堂々と中へと招き入れられたのを確認したら、自分はマッキーとイプシロン達と、目的の部屋の上空で待機です。
マッキーは魔力探知が出来るので、ワルギリィの位置もおおよそで掴めるというか、かなり強く感じるので造作も無いそうです。むしろ、ぼくの影に潜んでても近付けば気付かれるかもしれない、いや気付かれるだろうとのことでした。
夜も遅めの時間になってきましたが、アガラさんが動いてから30分後くらいには、ワルギリィさんも動き始めてくれたようです。
寝ていたのを起こされたとすればかなり苛立ってるかも知れませんね。彼女がアガラさん達のいる場所に到着したら、こちらも行動開始です。
離宮の奥まった一室のベランダへと着地。
光魔法の結界に覆われてるらしいのですが、シフトなら関係ありません。内側に歩いて入ってから、ベランダの大窓を開けておきました。
大きな天蓋付き寝台に寝ているのがお姫様なのでしょう。
マッキーに寝台とかに何か魔法がかけられて無いか確認してもらってる間に、アガラさんから預かってきた手紙をサイドテーブルの上に置いておきました。
これはワルギリィさん宛の事情説明メールだそうです。
「カケル殿。どうやら、この天蓋を開けられるのは、イドル姫か、術者であるワルギリィのみという守りの魔法がかけられているようです」
「無理して開けたらどうなりそう?」
「おそらく天蓋や布の内側に術式が書き込まれてるので詳細はわかりませぬが、相手を無力化するか、動けなくするものでは無いかと」
「そうしてワルギリィさんが戻ってきて片付けられちゃう仕組みかな」
「相性もあり、私が手を出した瞬間に存在を滅消されてしまうでしょうな」
「分かった。ぼくも魔法とかは使えないし、いったん話しかけて起きてみてもらおうか?」
まあ、悠長に会話してて、その声は聞こえてておかしくありませんでしたが、天蓋の内側で誰かが起き出したような気配はありませんでした。
「あのー、イドル姫様。起きて頂けませんか?キゥオラ王国の第二王女ポーラ姫と共にあなたをマーシナ王国を送り届ける為に来た者です」
呼びかけてみても反応は無く、寝ているのか、起きてて無視されてるかの判別がつきませんでした。
こうなったら少し賭けでもちょっと実力?行使しちゃおうかなと考え始めた時でした。
アガラさん達がいる方から、文字通りの爆音が聞こえてきました。おそらくはハリエッタさんが何かしたのでしょうけど。
「な、なんですか今の音は?!」
天蓋のカーテンを少し開けて、イドル姫が顔を出してくれました。
リーディア以上の美貌がちら見えしてびっくりしましたが、今は急がないといけませんでした。
「おそらく、ポーラ姫配下の者が何かしたのだと思います。せいぜい足止めな筈ですけど、それはさておき、さっきの聞こえてました?」
まあこちらは完全な不審者で侵入者なんですが、
「ポーラ姫の供の者と言いましたね。私をマーシナに連れ帰ってくれるとも。その身を何か証立てられますか?」
「えーと、このマッキーもポーラの使い魔というか、アンデッドの眷属です。アンデッドかどうかはわかりづらいかもですが、影潜りや渡りが出来ますよ?」
マッキーは、ぼくの肩の上から丁寧にお辞儀してから、肩から足元の影へと、そんな感じで部屋中の影を何度か渡ってみせて戻ってきました。
「カケル殿。そろそろ急いだ方が良さそうですぞ」
「ネズミが喋った!?」
「はい。眷属を名づけまですると知性が向上したりするのですが、このマッキーも元はオークのシャーマンだったりで。まあ細かい話は追々。今はぼくの手を取って頂けますか?」
「あの、身一つで助けに来て下さったのは勇敢かも知れませんが、どのように逃げ、追手を撒きつつ、マーシナまで辿り着くのでしょう?それに私は寝着で、着替えないと」
「身の回りの物はポーラ姫が準備して下さってますから、いったんここから出ますよ。お手をよろしいですか?」
イドル姫は、迷いつつも、寝台から出て、ぼくの手を取ってくれました。
うん。リーディアとかで免疫が出来てなかったら、ヤバかったかも。リーディアが例えばアイドル並みな美貌だとするでしょ?イドル姫は、正に傾国の美女って感じなの。おっとりした儚げな雰囲気の容貌なのに、ハーボの相棒のポワゾよりもメリハリな体で、そんな体のラインが顕わになる薄手の
「え、ワルギリィの結界は?」
「ぼくのユニークスキルのサブスキルの一つです。これから、一気に移動するので、手を離さないで下さいね」
恐る恐るという感じで握られていたので、こちらから少し強めに握ったら、予め決めていた辺りの上空へとショートワープしました。
「ひえええ、落ち、落ちるぅぅぅっ?!、って、落ちない?」
「はい。ぼくと一緒に移動してる限りは大丈夫です。ほら離宮もあんな遠くに」
何か大きな火柱が立ってるのでかなり目立ってましたが、軽く20kmくらいは離れました。
マッキーに、あちらの首尾も聞いて、ポーラ達もこちらに向かってると確認したら、合流地点へと移動。
そこにはハーボやドロヌーブ達が待機して警戒してくれてて、ポーラのマジックバッグから出されて用意されてた天幕が張られてました。
その簡易寝台には着替えも置かれてたので、寝巻きから着替えてもらうよう言って、外で待ってたら、中から呼ばれて入りました。
魔法のランプの灯りに照らされた彼女の容貌は、何かもうヤバい。本当に、語彙が仕事してないんだけど、優しげで儚げな面持ちなんだけど、瞳とかはつぶらでまつ毛は長く、薄い茶色の巻毛はふわふわに長くて柔らかそうで。
美的ディテールはいくらでも列挙できそうなんだけど、ザ・理想の女性と思わせてくる雰囲気が一番ヤバい。
見つめてたらドキドキしてしまったので、急いで目を逸らしました。
「助け出して下さいまして、ありがとうございました。あの、お名前を伺っても?」
「カケルです」
「カケル様ですのね。ポーラ姫とは、どのようなご関係ですの?あなたも、その、黒髪黒目の方ですが・・・」
「ええと、どこまで話せばいいのかな。
あ、様ってのは付けないでいいですよ」
「いえ、私は助けられた身の上なので。これから国に連れて帰って頂けるのなら、私の救い主ですし、それに婚約者だったアルクス様の妹御の関係者でもあるなら」
「じゃあ、それはそのままでもいいです。それでポーラとの関係ですが、ちょっと信じられないかも知れないですけど」
そうして、自分が神様によってこの世界に呼ばれて、その最初のミッションでポーラを助け出し、その後も基本的には彼女の手助けをしている関係と伝えておきました。
まあかなり端折ったのですが、
「イルキハから一日もかからずにミル・キハのあの離宮まで?
先ほどの一瞬の移動を体験していなければ、とても信じられませんでした」
「でも、よろしかったのですか?ワルギリィという方にも随分助けられたとも聞きましたけど」
「それでも、ワルギリィ様もシングリッド唯神教の教団組織に属し、ミル・キハ公国の意向に逆らえない方でした。レーゲダット殿下の執心からはこの身を守って頂きましたが、それも教団や国許の意向が変われば変わってしまう物。私をマーシナ王国まで帰して下さいと何度もお願いはしましたが、聞き入れられませんでしたしね」
まあ、うん。大人になれば立場に縛られる物とは聞いたりするけどさ。大変だね。
「わかりました。マーシナへと送り届けはしますが、経路をどうするかとかは、ポーラとも相談させて下さい。っと、ちょうど着いたみたいですね」
バサバサと、多分ワイバーン達が舞い降りる音がして、ポーラの声が天幕の外から聞こえて来ました。眷属達を労ってから天幕に入ってきたポーラを見て、イドルは歩み寄り、ポーラを抱擁しました。
「ポーラ姫様。あなたも大変な目に遭わされたというのに、国難を救い、イルキハを平定して駆けつけてくれたとカケル様から聞きました。ありがとうございます」
「いいえ。私は最初にカケルに助けてもらえましたから。それに、イドル姫こそ・・・」
「詳しい話は抜きにしてもらえると助かるかしら」
「承知しました。それでは早速、これからのお話をさせて頂く前に、その首輪を外させて頂いても?」
「そうですね。国許に帰れるのであれば不要になりますから。でも、外せるのですか?」
「外さないと、ワルギリィにこちらの所在をずっと追われてしまうので。ハリエッタ、マッキー頼めるかしら?」
そうして頼まれた二人が色々調べて爆発とかしないよう魔法的な工夫とかをした後、ハリエッタがその尋常でない魔力をぶつけて壊して外すという力技で解決(?)しました。
その後は、迅速に天幕とかを畳んだりアイテムボックスに物資を収納したりして、いったん列車ごっこで移動です。
「細かい話は走りながら空の上でもできますので」
「いったんミル・キハの国境から出てキゥオラに入っちゃおうか。そしたら向こうも簡単には追ってこれないだろうし」
「そこまで急がなくても、おそらくは大丈夫だとは思いますが」
「アガラさんの書いてくれた置き手紙ですか?」
「はい。ワルギリィもイドル姫を助けたくても根本的には助けられない存在でしたからね。自分の手が届かないところに逃げられたのであれば、一息つけるのではないかと」
アガラさんの事は、出発前に、イドル姫に軽く説明しておきました。物凄い預言者で、アガラさんの言葉があったからこそ急いで来れて助け出せたとも伝えると、深く感謝されてました。
アガラさんはいつもの平常な様子で、気にされないで下さいとだけ返してたけど、あれが大人の余裕なのでしょうか。
ミル・キハから南西にあるのがキゥオラとのことで、雑談を挟みつつ、二時間ちょっと走ったりしてたら、国境線を越えたようです。
どうして分かったかというと、いつもの神様チェックポイントの空間が展開されたからです。
さて、チェックポイントも四つ目ですか。
これから先、マーシナへイドル姫を送り届けたら、後はお任せ、みたいなことにはならなそうな事だけは、何となく分りました。
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