ランニング20:第三チェックポイント
いつも通り、白球電灯の様な光、この世界の唯一神らしき存在が現れて、問いかけてきました。
「第三チェックポイント到達おめでとう。それで、何が聞きたい?」
隣に立っていたポーラと視線を交わしましたが、彼女も混乱していました。ちなみにリーディアはいませんでした。
「リーディアは話をややこしくしそうだったからここには呼び入れなかったんだよ。カケルが私について話すことは構わないが、チェックポイントで私が話したことを彼らに伝えないことをお勧めするよ。面倒なんて言葉じゃ済まない事態になるからね」
まあ、いろんな異世界物とかでいろんな神様出てくるけど、地球上で信仰されてる神様そのものが出てくるのは少数派だったと記憶してます。絶対神や唯一神を信仰してる信者にしてみたら、神様と直接会えて言葉を交わせるなんて・・・。
「えっと、預言者とか神子とか言われてる存在らしいんですが、そうなんですか?」
「あの者が私を信仰し、教えをできるだけ守ろうとし、預言者や神子と称されるに至るほど未来の出来事を言い当て、ミル・キハの国としての方針にも影響を与えてきたのは事実だ」
「なら、兄様達が死んだのは、殺されたのは・・・」
自分の家族を殺したのが神様の命令だったりしたら。
想像するだに恐ろしいよね。
ポーラが自分の腕に縋りついてきましたが、顔色は真っ青になっていました。
「私は命じていない。彼に神託と呼ばれる様な何かを下した事は一度たりとて無い」
「それでも彼は未来を言い当てられているのであれば」
「彼は予知能力者ではある。それを神の意思として周囲を説得できるだけの影響力を持った人物だが、言ってしまえばそれだけだ」
「えーと、それこそ、その教会の別のお偉いさんとかに、神託を下してあげたりすれば決着はついたんじゃ無いんですか?」
はあ、と口は無いのだけど、神様がため息をつきました。
「そういうの試してこなかったと思う?」
「ああ・・・」
神様の口調から、とてもとても苦労してきたのだなと伝わってきました。
「シングリッド唯神教の教義や組織、ミル・キハ内部の派閥については、彼らから話を聞くといい」
面倒臭いんですね、と思ったら、神様が頷いてくれました。
いや白球電灯が頷くってとか思うかもだけど、上下に小さく揺れることで表現してくれたので。
「とすると、次のチェックポイントはどうなるんですか?」
「カケルはテキトーに走り回ってれば満足できるから脇に置いとくとして、ポーラはどうしたい?」
「どう、とは?」
「殺された兄達の仇を討ちたいと思うかい?今のカケルなら簡単に捻り潰せるだろうさ。ミル・キハも、シングリッド唯神教の総本山でさえも」
ポーラは面を伏せてしばし考え込みました。
それでも答えが出なかった様なので、尋ねてきました。
「カケルはどうしたらいいと思う?」
「ポーラはどうしたらいいか、迷って決められないって事でいいのかな?」
「うん。カケルに頼れば大抵の国とかには勝てちゃうのかも知れなくとも、それは私の力じゃないし、頼り切るのもいけないと思うから」
「まあお兄さん達の仇を討つ為に力を貸して!って頼まれれば、出来る事はしてあげようとは思うけど」
「最初は、ただ走るだけのユニークスキルなんてと思っていた。でも、今は、それがとんでもない力になってしまってる。リーディアもそこをよく分かっているわ。あなたを取り込めさえすれば、イルキハの未来もどうにでもなるって。今の王族とかを全員切り捨てたとしてもね」
「でも、そんな事を言うかな?」
「私には相談してきたわ。あなたを使い倒そうとするなって警告しておいたけどね。あなたも、あの外見に目が眩んで気を迷わせないでね。見目が良いのは確かだから、迷うのは仕方ない部分もあるだろうけど」
「あはは。なるたけ気をつけるよ。それで、どうしたら良いか、か。ミル・キハが何を狙って動いてるかが分かれば、ぼく達がどう動けば良いかも決められるんじゃないかな」
「そうね、確かに」
「じゃあそうしようか。あの者達と話して、次の行動指針を立てれば、行き先も決まる。カケルの視野にもそれが表示されるようにしておくよ」
「ありがとうございます」
「それじゃ、この場を解除してもいいかな?」
「あ、じゃあ一つだけ」
「言ってみるといい、カケル」
「神様は、この世界を終わらせるかどうか、決めきれなくて自分をこの世界に呼んだんですよね?」
「ああ、そうだね」
「ぼくがあきらめない限り、この世界は終わらないとも」
「そんな様なことも言ったかな」
「多分言ったと思います。それで、そうだとすると、神様はまだあきらめていない、ってことでいいんですか?」
「あきらめ切ってたら、君を呼ばずに終わりにしてたと思うよ」
「まあ、そうなんでしょうけど」
「カケルは好きなようにしていいからね」
そんな、ある意味責任放棄して丸投げな一言と共に、ぼくとポーラは元の空間?に戻りました。
ミル・キハの預言者だか神子だかって人は、ぼくをじっと見つめたままです。
「アガラと申します。今日ここに至れば、あなたにお会い出来ると確信しておりました」
「それは、予知して?」
「はい。唯一神より授かった御力です」
神様も予知能力者であることは認めてたから、嘘は言ってないのか。
「どうしてぼくに会おうと?ミル・キハにぼくの存在とか知られてなかったと思いますけど」
「そうですね。私がイルキハに来たのは半年近くも前になります」
予知能力、やばいな、と思わずにはいられませんでした。
「ぼくがこちらに来たのは、ほんの十日くらい前なのに」
「私には見えただけの事です。世相の波があちこちでぶつかり合い、影響し合い、物事が帰結する潮目となる存在。
国元を離れ、こちらに滞在すれば、いずれ邂逅する事が叶うと」
「一つ、聞かせて欲しいのだけど」
黙って対話を聞いていたポーラが割って入りました。
「何なりと。ポーラ姫様」
「あなたが指図して、ミル・キハは今回動いたの?」
「指図というのは事実と異なりますね」
ポーラの詰問にも、アガラさんはまるで動じません。
その落ち着いた佇まいからも、いわゆるテンプレな狂信者である様には感じられませんでした。
「どう違うのか、教えてもらえるのかしら?」
「多少長い話になっても?」
「構わない、けど、別のお客様も来たようね」
一人の少女、ただし王冠を頭に乗せているので、あれが女王となったイ・フィーなのでしょう。その後ろにいるのは両親かな。
背後に重臣らしき貴族の姿も見えたので、多分間違い無いでしょう。護衛の兵士はその周囲を申し訳程度に囲っていて、ミル・キハの二人か、ぼくやポーラを恐れてか、イ・フィーとその両親しか傍に寄ってきませんでした。
イ・フィーは毅然とした態度でポーラと対面しましたが、背後にいるリーディアにきつい一瞥を投げてから、問いかけてきました。
「キゥオラ王国第二王女ポーラ姫様とお見受けしますが」
「合ってるわ。あなたが、女王となったイ・フィーね」
「はい。王都も王城もその守りを破り崩され、ミル・キハから付けて頂いていたお二方まで敗れては為す術がございません」
イ・フィーは震える指先で頭に乗せていた王冠を外し、足元の地面に置きながらポーラに対して平伏し、懇願しました。
「イルキハ王国は、キゥオラ王国のポーラ姫様に降伏致します」
「そう。それであなたはいいの?」
「はい。我が夫となったタミルにもイルキハ陥落は伝えました。まだ存命であられる先王と王妃を解放し、王権を返上せよと」
「そちらはそれでいいでしょう。タミル兄様をどうするかは、お父様達が決めるでしょうし。あなた達はどうするつもり?」
「私めと、両親の首とで、イルキハの罪を許して頂けたらと」
はあ、と重い溜息を吐きつつ、ポーラは言いました。
「国と国の間の落とし前については、父様達に決めてもらうけど、キゥオラ一国だけで決められないしこりも残るでしょう。
だから、リーディア。イルキハ王家の血を引くあなたが、身内の咎を自ら裁きなさい。出来るわね?」
ぼくなんかが口を挟む隙間がありません。
ポーラが取り出した呪いの短剣を、リーディアは蒼白になりながら受け取りました。
「その短剣で斬られた傷からの出血は止まる事が無い。あなたの回復魔法でもね。自ら罪人を処刑することで、あなたの立場を少しでも強化しなさい。あなたの一族が、今後のイルキハの統治を預かる事になるでしょうから」
リーディアは受け取った短剣をイ・フィーの方に向けながら、ポーラに尋ねました。
「イ・フィー姉様とそのご両親は、眷属とされるのですか?」
「するわ。速やかなる死を恩寵として捉え、生ぬるい罰として糾弾してくる連中もいるでしょうからね。マーシナとか」
「・・・・・」
「そこまで心配しなくていいわ。イルキハ統治に協力し、周辺諸国、この場合はキゥオラとマーシナの王家の了承が得られた暁には、あなたの手で解放してあげることを許すから」
「お慈悲に、感謝致します」
すでに覚悟は決まり、別れの挨拶も済ませているのか、イ・フィーとその両親は軽い抱擁を交わすと、イ・フィーからリーディアの前に立ち、短剣を構えたリーディアの両肩に手を置いて、とても優しい笑みを浮かべ、別れの挨拶を述べました。
「イルキハをよろしくね、リーディア」
「はい、イ・フィー姉様」
そしてまるで抱擁を交わすようにして、イ・フィーの胸に短剣は突き入れられ、やがてその体は地面に頽れ落ちました。
似たような場面がもう2回ほど繰り返された後、情緒が無いと言えば無いのですが、ポーラは死んだ三人をアンデッド化して眷属に加え、イルキハ貴族をまとめ、リーディアの一族を仮の統治者として協力するよう命じました。
ウルリアとリカードとアルドルはそんな彼らのお目付役というかリーディアとの間の連絡役ともされたのですが、一旦お城の、なんとか無事というかマシな方の一室にて、ミル・キハからの三人とのお話し合いの続きです。
今後の為にも話を聞いておいた方が良いという事で、リーディアとイ・フィーも一緒です。イ・フィーの方は服が血塗れになってしまったので、着替えて戻ってきましたが、死んだのにまた生きてるように動いてることに戸惑っている様にも見えました。
本来なら王家御用達のお茶とかが準備されて振舞われるのでしょうけど、こんな非常事態では毒殺騒ぎが起きることの方が怖いので無しだそうです。即死でなければリーディアが解毒できる様ですけど、また処刑しなきゃいけない人が増えるのも確かに面倒ですよね。
一番立派そうなソファにポーラと自分とリーディアが並んで座り、対面するソファにミル・キハからの三人が。その脇の一人掛けソファにイ・フィーが座って、お話し合いの開始です。
王都やお城をズタボロにして、ミル・キハ最強と謳われる魔法使いを倒した誰かとして、イ・フィーにはだいぶ怖がられてしまってるみたいですが、それはさておき。
イルキハ女王と先王夫妻の処刑場面には一切口出しをせず静観したアガラさんは、全く動じた様子も無く、落ち着いた語り口で説明してくれました。
ミル・キハ公国は、一千年前頃にあった大国から、シングリッド唯神教を保護する為に分離独立して始まったそうです。
シングリッド唯神教の基本教義は、神の御意志の尊重。だからこそ、数十年前から始まった東岸諸国の戦乱に関しても不干渉を貫けたんだとか。
「でも、そんなミル・キハが今回動いたのは何故なのです?」
ポーラが、ぼくも気になった点を質問してくれました。
こちらをチラッと見てドヤ顔したポーラが少し可愛かったです。
対面に座ってるアガラさんは、そんなぼく達の様子を微笑ましく見守っててくれて、少し気恥ずかしかったです。
アガラさんは、そんなぼくの心情が落ち着くまで間を空けてくれてから問いに答えました。
「その質問にお答えするには、多少話が遠回りになることをご容赦ください。
私は幼い頃から、未来が見えましてな。その内の大きめなものの一つが、ドースデン王国の勝ち上がりでした。当時はまだ小国で、理詰めな理由では誰も勝者になるとは考えていなかったので、私は嘘吐き扱いされましたが、他にもいくつも言い当てていくことで周囲の関心と信頼を勝ち取っていき、シングリッド唯神教にも認知されていきました。
ミル・キハでは政教分離が徹底されていますが、互いに深く連携し、相談した上で行動に移します。そしていかに神の崇高なる御意志に従うとしても、全て流れに任せきりにするのが本当に正しいのか、自分達に与えられた境遇や力を活かす事もまた神の御意志に沿うものでは無いのか、といった風に、教会内部でも派閥が分かれております。
一つが聖典派。別名を非介入派とも、庶民には放置派と呼ばれることがありますが、これは全てを神の御意志に委ねようという一派となります。
一つが世俗派。別名を介入派とも、庶民には行使派と呼ばれもする通り、自分達に与えられた境遇と能力を活かす事こそが神の御意志に適うものという一派となります。
さらにもう一つが中立派。ご想像通り、聖典も重視するが、出来る範囲で出来る事はすべきという、聖典派と世俗派の良いとこ取りですな。
東岸地域の戦乱が収まるまでは聖典派が最大派閥で、世俗派を完全に上回っていましたが、戦乱が収束してくると、いずれ自分達の国も侵略されてしまうのではと不安に思った者が増え、勢力差は逆転しました」
「あなたはどの派閥に属していたの?」
「どの派閥にも与していませんでした。神子とされた存在は派閥争いに加わることは禁忌とされる慣習のおかげもありましたが、そうは言っても、誰も予言していなかったドースデンの勝利を言い当てた私を味方につけようとする者は多かったです。
それが煩わしくもあって、私は国を離れたのですが。
ああ、ドースデンは戦乱を勝ち抜き、東岸諸国を統べる帝国と成り上がりましたが、食糧難に陥るだろう事は、それが実際に起きる数年前から国政や教団の行動を左右する者達には告げておりました。
東岸諸国を統一したドースデンは西岸諸国に助けを求めました。特に、ドースデンの敵に肩入れしていなかったキゥオラとマーシナ、そしてミル・キハに。
キゥオラもその救援要請を即座に断らなかった事でカローザとガルソナの反感を買いましたが、ミル・キハにとっても難しい判断でした。そして教団派閥間の論争もまた激しくなりました。
ミル・キハの政治を司る者達が、世俗派と中立派の支持を取り込んだ事で、能動的に動くことが決まりました。ドースデンに対しては不介入を餌に間接的な援助を釣り出し、西岸諸国を統一する方向で動いていくと」
「えっと、でも、マーシナのお姫様を掻っ攫って、キゥオラの第二王子と自分のところの王女と結婚させたカローザも、同じ様な目的の為に動いてたんじゃないの?」
「カローザとドースデンの間で和議は成立しません。これが一番大きな違いです。カローザとその属国と言えるガルソナは、ドースデンの宿敵に与して苦労させてきましたからね。恨みもそれだけ買っているわけで。
ミル・キハはその間国力を蓄え続けてきた事もあり、カローザの動きも読んでいました。そこで、イルキハを通じてその動きに協力するふりをしながら、そのクーデター劇を上書きして、こちらの思う方向に将来を寄せていくことにしました」
「将来を、寄せる?」
「はい。神がこの世界を諦めないで済む将来を」
アガラさんの言葉に皆が動揺し、アガラさんがぼくをじっと見つめている事で、自然と注目を浴びてしまいました。嬉しくない注目ですね。
「どういう事ですか?神がこの世界を諦めるなどと」
リーディアがアガラさんに掴みかからんばかりに身を乗り出して尋ねましたが、事情をある程度神様自身から聞いているポーラがリーディアの体を引き戻しました。
注目が自身に移っても、アガラさんは全く動揺していませんでした。
「なんでもないただの一人の男の妄想と断じるのであればお好きな様に。私にも証明する術など無いのですから。
私には、将来が見えると言いましたね。数十年前、東岸諸国で起きた戦乱がドースデンの勝利で決着するとも。そしてそれはその通りになりました。
しかし、それで私は自身を誇る気には到底なれませんでした。何故なら、その戦乱が起きる前から、私には神の悲しみが、諦めが、伝わってきていたのです。この大陸に限らず、この星で、この星よりもずっとずっと広大な宇宙、星の海にても、何度も、何度も、期待を裏切られ続け、縮小を続けてきたこの世界に。
そうして神の御心に叶うごく一部だけが残されてきて、もはやその関心が残る領域は、ほぼこの星に関わる宙域と、主にこの大陸に限られるようになりました。
ドースデンの勝利に終わった後、その援助要請を恐れから断った西岸諸国に対し、ドースデンは捨て身とも言える侵略戦争に打ってでます。食糧が足りないという切実な理由ですから、避けようもなく始まり、それは西岸諸国との間の泥沼の戦いとなり、一国また一国と滅ぼされ、最後にマーシナは無傷で手に入れようとしたものの、怨恨から全ての食糧を焼き払い農地を呪いによって数十年は使い物にならなくされ、大陸全土を統一した筈のドースデンも内部崩壊し、救いようも無い混沌の時が訪れ、嘆き悲しんだ神によってこの世界は閉じられました。終焉を迎えたとも、愛想を尽かされたとも言えますな」
部屋の中はしんと静まり返り、マジックバッグだかポーチから水筒を取り出してコップにお茶を注ぎ、アガラさんが口と喉を湿らせる音だけが室内に響きました。
「でも、この世界は、まだ続いてますよね?」
ぼくの口の中も空々に乾いてましたが、お茶をぼくにも下さいと言える雰囲気でも無かったので、そこは我慢しました。あなたもどうです?、って仕草はしてくれてたけど、傍を見たらポーラが首を左右に振って、アガラさんが肩をすくめていたので。
「ええ、神にも、この世界にはそれなりの愛着があり、惜しく思われたのかも知れません。神の御心は被造物に過ぎない人間には推し量れませんが、どうせ畳んでしまうのならと、別のどこかから、この世界に全く関わりも拘りも無かった誰かを、そう、あなたを呼び寄せ、言葉通り、余興とされた。
あなたには、何も強制されてはいない。けれど、あなたは訪れてから半月もかけずに、数々の盤面を覆して見せたし、私が過去に見た将来とは結び付かない現状となっているでしょう」
マジですか。神子と呼ばれ敬われるだけあって、神様の心情とかダダ漏れ過ぎじゃ無いですかね?神様にはそうしたつもりはなくても、いわゆるパッシブなユニークスキルに近い感じなのかな。
ほら、事情を熟知してるポーラでさえ、リーディアやイ・フィー他の皆さんも、口をぽかんと開けて絶句してるじゃないですか。ミル・キハからのお目付役二人というのも。
そんな中、ぼくは思い当たった事を深く考えずに尋ねました。いやあ、モノホンの預言者を相手に、考えても無駄でしょ?
「でも、こういった盤面になるように、あなたは状況を誘導した?」
「そうなるかも知れない将来に状況を寄せる為に、私に出来る事をしたまでです。予めお断りしておきますが、ミル・キハ国政を司る者達は彼らなりの判断を下していますし、唯神教教団内においてさえ、聖典派からは人心を惑わす悪魔の類、世俗派からも胡散臭い偽預言者として影響力を希求する偽善者、中立派からも扱い難い神子として白眼視されておりました。
それこそ、身の危険を感じるほどに空気が変わってきておりましたので、私は難を避ける為もあって、こちらに赴いていたのです。あなたと国許の誰よりも先にお会いする為にも」
だいたいの事情は分かったと思う。
ミル・キハに行ってそちらの細かい事情はまた当事者の皆さんに聞かないと分からないとしても、それぼくの仕事なの?と思わないではいられませんでした。
ぼくの好きな様にして良い、って神様も言ってくれてたから、そうしようと決めました。難しいことは、ポーラやそのご両親とかにお任せって感じで。
「ご説明ありがとうございました。状況は大体掴めたと思うんですけど、なんでミル・キハの誰よりも先にぼくに会う必要があったんですか?」
「そうですな。将来の行く末を揺らがせる一つの小さからぬ分岐点がございまして」
「このイルキハではなく?」
「イルキハが重要でないとは言いませぬが序幕に過ぎません。勢力の大きさから言えば、本命はカローザとガルソナの同盟と、それからミル・キハ、さらにキゥオラやマーシナです。
キゥオラの王太子に輿入れする筈だったイドル姫がカローザ王国に攫われ、マーシナを屈服させる為の人質として使われる予定でした。
彼女はミル・キハに攫われておりました。私の見た将来の中では」
「えっと。ぼくもキゥオラの王都で、マーシナの兵がカローザやガルソナの兵と争ってるのは見ました。イドル姫を取り戻せって。でも、彼女がミル・キハに攫われてるって」
「予知ですから。今本当にどうなっているかは確かめて頂くしか」
「ミル・キハが横取りするとしたら、マーシナを味方に引き込むため?」
「左様です、ポーラ姫。さて、どうされますか、カケル殿?」
「どうするって、居場所は分かってるんですか?」
「はい。私の予知した場所であれば、ですが」
まあ、ぶっちゃけ、そこは神様補正のマップ表示とかであまり心配はしてないんだけど、むしろ他に心配事はあって。
「えっと、もしも、イドル姫を助け出して、マーシナにお返し出来たとしましょう。だとしても、カローザとガルソナ対ミル・キハの構図は変わらないのでは?また酷い戦いになるんじゃ?」
「あなたという存在がいなければ、そうなっていたでしょうね」
「ぼくがいると、どう違うんでしょうか?」
「キゥオラも今回の騒動では一番の被害者と言えるでしょう。カローザとガルソナに対し報復する権利は一番持ち合わせています。
イルキハはすでに屈服せしめた。マーシナは、その王女が戻ればひとまず落ち着き、次にはカローザとガルソナに対しやはり報復に動きます。そうせざるを得ませんから。
とすれば、全体の流れとして、やはりミル・キハの当初の狙いはほぼ達成されたと言えます」
「えええと・・・?もしその大同盟が出来上がったとしても、ミル・キハがイルキハを動かしたのなら、ミル・キハも報復の対象になりませんか?唯神教のトップとかも含めて」
「責任を取らせればよろしいだけです。今日のこのイルキハの地でなされた様に」
「それは、あなた自身の事を含めているのかしら?」
「私は一連の政策決定判断を下した内には含まれておりませんでしたが、何らかの影響を与えたと言われれば否定は出来ませんな。せめて殺されるなら、あなたの眷属として加えて頂きたい。私が見た将来がどうなるのか、その結末まで見届けたいですからな」
穏やかな面持ちで、まるで死を恐れてないのは、覚悟が決まり過ぎでしょう。いくら何でも。まあ、秤のもう片方に乗っているのが、世界の終焉だとしたら、何でも差し出す心境になるのかもだけど。
「どうする、カケル?あなた次第よ」
「まあうん、そうなんだろうけど」
攫われたお姫様を助けるなんて、いかにもファンタジーな展開の筈が、ちっともテンションが上がりそうな展開が予測できなくて鬱になりそうです。
その上で。
「より早く助け出された方が、よりマシな状況が待っているかも知れませんな」
そんな風にガチの預言者から言われたら、選択肢なんて無いようなものだよね。
「仕方ないか。助け出して、後のことはそれから考えようか」
そう決心した途端、視野に次のチェックポイントまでの距離や、ゴールとなる対象への方角を示す矢印が表示されたのでした。
レベル:34
ユニークスキル:ランニング
サブスキル1:加速
サブスキル2:超加速
サブスキル3:シフト
総走行距離:602.1km
死亡回数:12回
チェックポイント:第三までを通過
次のチェックポイントまで:512km
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます