ランニング19:イルキハ王都と王城を巡る戦い
翌朝、朝食の席で、ポーラから眷属達による偵察の様子を聞くと、全面降伏するような様子は見えないとの事でした。
「まあ、お城の天辺と正門をぶち壊されて、国のトップの寝室に侵入されたくらいじゃ、全面降伏しないか」
「リーディアもだけど、ウルリアやリカードやアルドル達も、自分達を使者に立ててイ・フィーを説得させてくれと言ってきてるけど、どうする?」
「警告が効いてれば話し合いは成立するかもだけど、自分達の過ちを認められるのかな?認めたら死ぬしかないってわかってたら、死に物狂いで抵抗するんじゃない?」
「これまでに増やした眷属を動員すれば、より圧力をかけられるんじゃないかって、彼らは言ってるけど」
「今、五百くらいだっけ?」
「元イルキハの兵士達なら五百五十くらい。盗賊団だの、ポー達を加えて六百近くってところかな」
「もし向こうに何らかの隠し球がいて一掃されちゃったりしたら勿体なさ過ぎるから、もう少し慎重にいきたいかな」
その慎重さを具体的にどうするかをポーラ達と詰めてから、今日の行動開始です。
最初はアルドルに十人の護衛を付けて王城への使者として派遣しましたが、王都は厳戒態勢になっていたこともあり、門前払いを食らってしまいました。
それでも、降伏勧告を受け入れない限り、一時間に一回以上、更なる警告が与えられるだろう、という伝言は相手側に伝わったらしいので、最低限の役割は果たせたと言って良いでしょう。
待ってる間は暇なので、空襲に必要な素材を収集したり、走行距離を稼いだり、シフトと超加速の組み合わせの練習をしたりして暇を潰しました。
さて、相手方に動きが無い訳ではありませんでしたが、大門近くに兵を集めてるとの事でした。
実際、上空からも報告通りの様子を確かめられたので、イルキハ王都の大門に向けて、昨晩の王城の正門にやったのと同じ手順で、立て続けに大岩を超加速状態で落下させました。
レベルは32に上がっていたので、32x32x2で、時速2048km。マッハ2ももうすぐですね!
時間としては午前早めの時間なので、昨晩睡眠妨害されて二度寝を決め込んでた人には再び特大の目覚ましになった事でしょう。
上空から見てると、三つある大門が全部潰されて、その内側に集結していた兵隊さん達も無事では済まなかったみたいですね。
王都内ではパニックが起きてるみたいですが、そんな状況にかこつけて、ポーラは眷属を増やしてます。範囲効果の魔毒を展開して、負傷した兵士達を、まあ無事だったのも含めて次々と死体にしていき、彼らはポーラの影の空間へと収納されていきました。
うん。今回の警告分だけで、千の単位が見えてきそうです。
ぼくの爆撃から少し間を空けたら、リカードが第二の使者として派遣され、崩壊した大門を通過し、王城、こっちも正門が崩壊してますが、お堀をどうにか渡れる程度の仮の橋は架けられてたので、イ・フィー宛ての親書ではない、降伏勧告文書は届けられたようです。
お城の中は、昨晩も身代わりが準備されてなかったらヤバかったし、まだどれだけ隠し球があるかわからないので、王都から出て、こちらの指定したところまでイ・フィーを始めとした王族が来いと要請しておきました。従わなければ、王城にも王都にも、更なる攻撃を加えるとも伝えました。
流石に今回は、検討するのでしばらく待たれよとか留め置かれそうになったけど、即決判断以外は拒絶すると決めてありましたので、リカードと五十の護衛の兵は無事戻ってきました。
ああ、彼らはイルキハの鎧とか着てるけど茶色のマントは外し、黒い布をマントとして纏い、キゥオラの旗を掲げてもらいました。
それらを見て、タミルの遣いとは思わないよね。
さらに一時間後までに、王都内などの偵察をポーラの眷属に進めてもらってるのと並行して、自分はさっきと同様に暇を潰してました。
どうやら、こちらが指定した地点に使者は来たけど、時間稼ぎしか口にしなかったようです。すぐには決められないと。
「まあ、ミル・キハからの指示を仰がないと判断できないってのが実情なんだろうけど、待ってたら返事来るまで何日かかるかわからないしね」
「タミル兄様と意思疎通できるような魔道具は持ち合わせているでしょうけどね。ミル・キハとの間でも同様な物は持たされていたとしても、あちらもすぐには判断できないでしょうし」
すでにイルキハ王家からの使者にはお帰り頂いてるので、警告第三弾に取り掛かります。
こちらの手筈もそろそろ解析されてておかしく無いので、ちょっと警戒レベルを上げました。
具体的には、リーディアに同行してもらってます。魔法的な結界を張ってもらったり、何らかの反撃手段で怪我をした時すぐに治療してもらえるように。
王都上空から地上の酷い有様を見たリーディアは、すぐにでも治療に参加したかったかも知れませんが、今はまだ堪えてくれてます。
これからのやり取りで、さらにどれくらいの人数が死傷するのか、とても大きな違いが生じてしまうから。このイルキハ王都だけでなく、イルキハ全土において、です。
「さて、リーディア、何かあった時の守りは、よろしくね」
「はい。お任せ下さい、カケル」
王城そのものを物理的に更地にしてしまう方が簡単なのだけど、なるべくなら避ける方針になったので、大岩を超加速でぶち当て続けるプランはとりあえずお預けです。
その代わり、イプシロン達に影の空間から渡された剣や槍なんかの武器を、加速状態で、王城へと投げつけていきました。
待ち時間に走行距離稼いだおかげで、レベルは34に上がり、34x34=1156kmで、音速に近くなったんだよね。
超加速しなくとも。
大岩ほどの破壊力は無くとも、鉄製の武器が音速近い速さで城の天井や室内や壁や床を突き抜けていく訳で。王城はみるみる内にボロボロになっていきました。
武器を十本以上投下して、二十本に届こうかという頃。
次の武器を投下しようとしたタイミングで、王城の一角から火線が走りました。
「カケルっ!」
リーディアが叫んで魔法的な結界の強度を上げてくれたおかげで、気付いた次の瞬間には、結界を赤く染めていた火線は、その数瞬後には結界を貫通して、ぼくとリーディアが居た位置を貫いていきました。
まあ、結界がほんの僅かにでももってくれたから、シフトで直撃を避けられたんですけどね。
シフトした状態のまま王城上空から一秒もかからずに離脱。
王都から2kmほど離れた上空で息を整え、マッキー達ポーラの眷属によるさっきの相手のマーキングが完了するのを待ちました。
ただ黙ってるのも何なので、ちゃんとお礼を言いました。
「さっきはありがとうね」
「いえ、結界を強めたのに破られてしまい、申し訳ございませんでした」
「高度340mの高さをそれなりの速度で移動してる相手を狙撃して見せるって、そんなすごい魔法の使い手がイルキハにいたの?」
「私が知る限りは誰も。可能性があるとしたら、ミル・キハから送られてきていたお目付役とかでしょうか」
「イルキハ王家が日和ったり裏切ったりしないようにする監視役か。確かにそんなのが送られてきててもおかしく無いよね」
「はい。正式な使者と違い、そういう役割の者は表向きは別の役を担ってるように振る舞っていたでしょうし」
「スパイってか、秘密工作員、ないし暗殺者って感じかな」
そんなことをリーディアと話してる間に、ポーラの眷属達が標的のマーキングを終えてくれました。
ポーラやその眷属たちは、影の空間を通じて、互いの位置関係を厳密に把握できます。
イプシロンのガイドに従って、指定された向きと角度で 時速34x34x2kmの超加速を起動。1秒で約642mを移動。
目的地まで半分近くの距離を駆け抜けた先で伸ばした手の影から待機してたワイバーンに出現してもらい、触れた瞬間に超加速を停止。マッハ2近くに加速されたワイバーンは、両足で二つの鉄球を掴んだ状態です。
一秒もかからずにワイバーンの姿は点となり、そのほぼ直後には王城の方から立て続けに爆音が響いたと思ったら、大きな火柱まで見えました。
「1kmくらい離れてても見えるってヤバくない?」
ポーラ達は標的のそれなりに近くに居た筈で、影の空間に退避してれば影響は受けなかった筈ですが、自分の影に潜んでるイプシロンも取り乱してるって程じゃないけど、なんだか落ち着かない様子が伝わってきて少し心配になりました。
炎の柱が立ち上がったのはほんの1、2秒くらいだったかな。
加速して王城上空に戻ってみると、王城の1/3が崩壊してて、その断面とか地表とかが真っ黒に焼け焦げてました。
その爆心地の中心には、人が一人倒れていて、ポーラがその上に屈み込んでいました。
ぼくはリーディアを連れてポーラの側に降り立ち、声をかけました。
「大丈夫なの、ポーラ?」
「まあケガはしてないわ。予想以上に相手の魔力が大きくて、ある程度離れて監視してたのに強制的に影潜りが解除されて、炎に炙られたけど、マッキーの身代わり人形のお陰で、ちょっと服が焼け焦げたりしただけで済んだから」
「そっか。無事なら何よりだよ。それでその男は?」
「ミル・キハから、イルキハの監視役として送られてきてたらしい凄腕の魔法使いね。剣士タイプのもいたけど、そっちは先に始末して眷属にしてあるわ。詳しくはこの男にも語ってもらいましょ」
ポーラが体を引いてぼくの傍に寄り添うと、その男に命じました。
「起き上がって名乗りなさい」
赤いフード付きコートを纏い、全身も赤い装束で誂えた男はむくりと起き上がると名乗りました。まあ衣類も含めて全身ズタボロな状態でしたが。
「ハリエッタ・イエラ」
「あなたの所属は?」
「ミル・キハ、シングリッド唯神教総本山の『神の手』の一人にして、四聖の一人」
リーディアが、息を呑んで呟きました。
『無尽のハリエッタ』と。
なにそのかっこいい二つ名?
「『滅却のハリエッタ』とも言われてる有名人ね。ミル・キハの最高戦力の一人だった筈」
「死んだ今となっては過去の話だ。黒姫の噂は聞いてはいたが、王家や周囲の怖れを煽らない為に制限をかけられていたなら、あまり警戒する必要は無いと想定していた。その想定よりはだいぶ上だった様だが、この俺を負かしたのは別の誰かだ。そこのもう一人の忌み子か?」
「普通の忌み子ではないけど、ここでは説明しません。元の質問に戻るわ。
あなたともう一人、ラザロがイルキハの監視役だったの?」
「俺とラザロがイルキハの裏切りを抑えつける役割だったのは確かだ。ただし、代表は別にいた」
「それは誰?」
「預言者であり、神子でもある者。本人から詳しい話は聞きな」
誰でどこにいるの?、とポーラは問いかけましたが、その必要はありませんでした。
一人の壮年の男性が横合いから現われ、ぼくを見上げて目が合った瞬間に、周囲が真っ暗な空間に切り替わりました。
彼が第三のチェックポイントだったようです。
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